※この作品はR-18です。

陸仁王物語―異伝―   作:fire-cat

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 照仁の妹、恵梨子が、持ち帰り未遂を報告した数日後の朝、寛奈の5人の友人に送ったメッセージ




外伝 第5.5話(時系列では1.5話あたり)

 

 ねえ、貴女達、少し前の夜、寛奈のお持ち帰り未遂事件を兄様に話したわね? 兄様の表情は見たのかしら? 

 報告はとってもありがたかったわ。ありがたかったのだけど……どう言えばいいかしらね。

 ……まあいいわ、今日の朝食後、寛いでいるところに兄様から投げ込まれた爆弾よ。録音したものを文章にしたから送るわね。

 

「以前こんな報告を寛奈の友人達から受けてな。気になって出席していた連中の評判を家令にそれとなく聞いたりして調べてみたが、かなりの危険人物だった。家令にこの者どもが如何しましたかと尋ねられてな。言葉を濁しておいたが、あれは疑っているな。そのうち潰されるかもしれんな」

 

 そんなこと言って、

 

「まあそんな些細なことは良いとしてだ。奴らの言動や行動、評判等を鑑みるに、寛奈の友人達は気が付いているのかわからぬが、彼女らの容姿と立場を思えば、寛奈だけではなく彼女らも危なかった筈だ。それを考えていたら寛奈の身に振りかかったかもしれない光景を思い浮かべてしまってな。脳内とは言え、大切な寛奈を汚してしまった。まあ、1時間で浮かんだ妄想故かなり雑なものだがな、聞くか?」

 

 という妄想だか反省だかを逐一聞かされたのよ。私はてっきりまたいつもの寛奈が危機に陥って兄様がそれを助ける甘ったるい妄想だと思い込んで気軽に聞くって言っちゃったのよ。まさかあんなホラーだったなんて思わなかったわよ。

 ええ、話を聞く前の時間に戻れたら自分を即刻その場から退避させるか、間に合わなかったら殴って意識を失わせたていたわね。

 貴女達から事情を聴いて、その男どもを調べた兄様の脳裏をよぎったのは、もし貴女たちのガードが間に合っていなかった場合の、最悪の惨劇だったらしいわ。

 

「……あの無防備な胸元を晒したまま、その様な知性のなさそうな男どもに囲まれ、連れ去られていたら……」

 

 って思い浮かんじゃったらしいのね。

 私も兄様から聞かされた惨劇が具体的過ぎて、兄様から聞かされている最中にうっかり寛奈の立場に自分を置き換えちゃって……私が襲われたみたいな恐怖を感じたわ。貴女達も寛奈を我が身に置き換えてゆっくりじっくりと味わいなさい。

 

 貴女達に意中の人がいたら、寛奈が呼ぶ兄様の名前をその方のお名前に変えてもいいと思うわ。

 

 惨劇の場面、味わったら、あとで感想聞かせてね。

 私、今日は体調不良で休むから。

 

 ずるいなんて言わないでよね。

 その後も逃げ出せずに

 

「それが起きたらと、こんなことまで考えてしまった」

 

 という兄様の『寛奈を壊した一族の社会的・歴史的存在抹殺計画』を、

 

「我ながら情けない事だ。そうはならなかったのだからな。守り切ってくれた者たちには感謝をせねばな」

 

 と苦笑い混じりで朝から聞かされた私の身にもなって頂戴。

 法仁? 慌てて弟妹達を連れて逃げ出していたわ。あの子、昔から要領良いんだから。

 

 事件と、その参加者達の素性と評判を報告されてから、静かに切れていた兄さまの脳裏に浮かんでいた、もし惨劇が実行されていた場合の、『社会的・歴史的存在抹殺』の全貌よ。

 

 ……ところでこれって龍珠破砕・逆鱗蝕犯よね。誰か知ってたら教えてね。 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 薄暗いマンションの一室、安物の照明に照らされる中で、何も知らずにのこのこと付いてきてしまった寛奈が怯えた目で周囲を見回している。

 

「ね、ねえ……その具合の悪い友達ってどこにいるの……?」

「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいだろ?」

 

 そう尋ねる寛奈の華奢な肩を、男たちが品定めするように強引に抱き寄せる。

 

「ち、ちょっと。触らないでよ。嘘だったのね? 帰るわ」

「ここまで来てそりゃないよ」

 

 逃げようとする彼女の手首を荒々しく掴み上げ、ソファーへと押し倒す男たち。

 

「くっ。このっ」

「おっと、あっぶな。こんな癖の悪い脚はこうしてやるよ」

 

 蹴りを出そうにも足首を掴まれ、そのままゆっくりと見せつけるように足を広げられ、スカートをめくりあげられていく恐怖にひきつる寛奈。

 

「や、やめなさいよ。こんなことしたらどうなるかわかってるの?」

「どうなるんだろ~な。お~っと、御開帳だぁ」

 

 スカートを完全に捲り上げられる寛奈。

 

 

「ひゅう~。白のレースじゃん。大人しい顔してやるねぇ」

「助けて……照仁様……っ!」

 

 恐怖に引きつった声で、一番に自分の名を叫び、泣き叫ぶ寛奈。しかし、その必死の悲鳴すらも、荒い息を吐き散らす男たちの卑しい嘲笑にかき消されていく。 

 

「照仁様ぁ? 誰だよそれ、格好つけたってここまで助けに来るわけねえだろ!」

 

 ブラウスは容赦ない手つきで引き裂かれ、スカートもショーツごと剥ぎ取られていく。

 

「や、やめて!」

「うるせぇ!」

 

 身をよじらせて激しく抵抗する寛奈の身体を複数の男たちが押さえつけ、身動きができぬ様にのし掛かる。

 

 伸し掛かった男が上半身を脱ぎ、ズボンのベルトを緩める様子を見て何をされるか察した寛奈が悲鳴を上げ哀願する。

 

「い、いや。それだけはお願い、やめて。初めてなの。初めては照仁様に」

「へ~処女か。じゃあ初物頂き」

 

 寛奈の悲痛な悲鳴と共にその白く柔らかな肌と純潔が無残にも踏みにじられる。

 

「おい、そのままその女を抱きかかえてひっくり返れよ。このまま俺が後ろを頂くからよ。華族のお嬢様は後ろでなんて経験ないだろ、まして今まで処女だったんだしよ。こっちの初物は俺が頂くぜ」

「なんだ、なんだ、こいつの照仁様とやらは何も食えずじまいかよ。おっ気の毒~」

「おいおい、初めてでサンドイッチか? この子壊れちまうぜ」

 

 男に深く貫かれたまま、ひっくり返され男の上に抱きかかえられ固定される寛奈が、更に別の男に背後から伸し掛かられ臀部を貫かれて悲鳴を上げる。

 

「お〜い。カメラの準備できたぜ。うわ、血まみれじゃんか。順番変わったけどインタビュー始めるぜ」

「お前ら、それ抜けよ。せっかくの処女喪失記念の単独インタビューなんだからな」

「へいへい。わかったよ。ど~せ、まだ出なかったしな」

 

 カメラの前に引きずり出される寛奈。

 

「お嬢さん、お名前を教えて」

「ひっ。いや……」

「言えよ!」

 

 こぶしを振り上げる男。

 

「顔はやめろよな。映りが悪くなるだろ」

 

 制止する他の男の声に

 

「そうだったな。じゃあ、素直に言うこと聞くまで、この血まみれの尻にもう一度俺のこれ突っ込んで抉るか、このでけえ乳を痣が付くまで揉みしだいてやるか」

「お前のそれで二度も三度も抉られたら、この子、一生大便垂れ流しになるんじゃね?」

 

 その言葉に怯えた表情を浮かべる寛奈の頬をぺちぺちと軽く叩く男。

 その寛奈の表情を見て他の男たちが小声で声を交わす。

 

(ハッタリでもコイツなら信じそうだ)

(暫く尻に突っ込む代わりだって脅して色々させようぜ)

 

「そうなるのが嫌なら直に応えろよ」

 

 観念したように俯く寛奈の髪を掴んで男が顔をあげさせる。

 

「で、嬢ちゃん、お・名・前は?」

 

 寛奈が小さく声を上げる。

 

「ろ、六条」

「下は」

「寛奈」

「あの場にいたんだから華族なんだろ? 家の爵位も言えよ」

「……」

「ふ~ん。胸と尻、どっちがいい?」

「し、子爵よ。もういいでしょ!」

 

 涙に塗れ、屈辱で唇をかみしめた寛奈の顔を大写しにする男に寛奈のバックをあさっていた男が声をかける。

 

「なぁ、コイツの情報端末は?」

「ん? コイツの荷物持って来た時に近くに停まってたトラックの荷台に置いてきたぜ?」

「もったいねー。持って来いよ、そうすりゃコイツ餌にして周りの女も呼び出して食えたのに」

「ば~か。そんなことしたら位置情報を辿られるだろうが。長距離便らしかったから今頃とんでもないとこ探してるぜ」

「今頃海の上だったりしてな」

「へぇ。なら、暫くコイツで楽しめるな。まあ夜には帰さねえとまずいか」

「何だよ。5時間ぐらいしか遊べねえじゃねえか。とはいっても今日は帰さねえと誘拐犯になっちまうか」

「ああ。夜通し楽しむのはもうちょい後だな」

 

 なおもぶつぶつ文句を言っている男に、

 

「あの女達ならまたお茶会で持ち帰りしようぜ、今度はあの歌乃とか言ってたちっこい女なんかどうだ。あいつのおっぱいもでかかったぜ」

「あ、あいつと、あの場を仕切っていた香織って女はまずい。あいつら公爵家と侯爵家の娘らしい」

「あ、公爵家と侯爵家の女はやばいな。なら、あの背の高かった貴美って女はどうだ? 結構でかいおっぱいしてたぜ、こいつよりあるんじゃねえか?」

「良いね。こいつの名前を使って誘きだしゃついてくるだろ。貴美って女の他にも後二人いたよな。こいつと貴美って女を手籠めにした後で誘き出して楽しも~ぜ、飽きたら、俺たちで『華族令嬢が本番のお相手をする高級秘密クラブ』ってやつをひらいて客でも取らせるか」

 

 寛奈のバックを漁っていた男が声をあげた。

 

「お、あったあった。コイツの学生証見つけたぜ。こいつも映そうぜ」

 

 その言葉に寛奈の身分証をカメラに映す男達。

 

「お〜。住所や学校、クラスもはっきり写ってるぜ。へぇ、いいとこに住んでんじゃん。こりゃバレたら大変だ」

「返して……返してよ」

「楽しんだらお前も学生証も返してやるよ」

「さ〜て、続きだ、続きだ」

「い、嫌~!」

「五月蝿えな。コイツのショーツ突っ込んで口塞げ」

「俺たちの竿突っ込むか?」

「そりゃ最後だ。華族令嬢の口の匂いと味を十分楽しんでからだ」

「あいよ」

 

 その後、休む間もなく複数の男達を同時に相手にさせられる寛奈。

 両手に強引に握らされた剛直を扱かされ、男たちの低い声が発せられる度に全身に白濁を浴びせられ、無理やりに開かされた口を男達の舌で歯の裏から舌の付け根まで代わる代わる蹂躙され、豊かな胸や臀部に至るまで、男たちの欲望のままに穢されていく。

 男達が艶やかな長い黒髪でその剛直を拭い、時にはそこに白濁を放つ。

 

「でけえ乳してるじゃんか。ここで一度抜かせてもらうぜ。その後は前の穴だ」

「んじゃ俺は……尻でもう一度抜かせてもらうかな。サンドイッチのお替りだな」

 

 部屋の隅では、家庭用のビデオカメラを持った男が、その屈辱的な一部始終をニヤニヤと笑いながら記録している。 

 

「いいぞ、顔がよく見えるように撮れ!」 

「いいね、いいね。女の汗と涙に塗れた青春映像だぜ」

「他の汁も混ざっているけどなぁ」

 

 

 やがて男達が一通り性を解き放ち満足げに寛奈を見下ろす。

 床の上で泣きじゃくり身動きしなくなった寛奈を見てひとりの男が酷薄な笑みを浮かべる。

 

「おい、素っ裸のこいつに、こいつの服着させてやれよ」

「ん? ……ああ、そういうことか」

 

 力なく横たわっていた寛奈が起こされ、男たちの体液にまみれた身体に引裂かれてボロボロになったブラウスが掛けられる。

 その、如何にも暴行されましたという姿を写真に撮られ、最後に顔をあげさせられる。

 

「このことを言ったらこの写真バラまくからな」

「これを学校や家に見せられたくなかったら、次からは呼び出したらすぐ来いよな」

「よーし。最後にお楽しみの時間だ。まだ起つやついるか?」

 

 その言葉に男達が歓声を上げる。

 

「全員かよ。オラ、口開けろ。歯を立てたら全部折るぞ」

 

 代わる代わる男達の剛直を咥えさせられ、白濁で口腔を穢される寛奈。

 

「おら。最後まで飲み干せよ。こぼしたら最初からだ」

 

 最後の男が白濁を寛奈の口腔に注ぎ、寛奈が飲み込むのを見届けて嘲笑する。

 

「あー。出した、出した。コイツの腹の中、俺達のプロテインミルクでタプタプしてんじゃね?」

「さっきアフター飲ませたから、後始末は大丈夫だろ」

「孕ませたら面倒だからな」

「さて、コイツにもプロテインミルク飲ませて食事させてやったし、そろそろ帰すか」

 

 身体を震わせ身動きしなくなった寛奈を足先で小突く男達。

 

「待て待て。このまま返したらまずいだろうが。こいつの身体、隅々まで洗ってやろうぜ。俺たちの手でよ」

 

 浴室に連れ込まれ、液体せっけんをしみこませた軍手で、残酷なまでに丁寧な手つきで全身をくまなく弄られ、男たちの体液の残骸が流されていく。

 仕上げとばかりに乱暴にシャワーを浴びせられ、「風邪引かねぇ様にしっかり拭いてやんねえとな」との言葉とともに、新品のバスタオルで更に揉まれるように全身を弄られる。

 

「やべ、また起っちまった」

「馬っ鹿で~。こいつの身体に掛けるなよ、出すなら口の中にしろ」

「ああ、そうさせてもらうわ。……おら、咥えろ」

 

 口をつぐむ寛奈の鼻をつまみ、息苦しさで口を開けたところに剛直を突っ込む男。

 

「……ふぅ~出した出した」

「なんかてめぇ見てたら俺も起っちまった。俺も出すわ」

「あ、おれもお前の後で使うわ」

 

 男たちの欲望が一巡し、証拠隠滅の作業が続く。

 

「おっし、終わった。こいつの穴も二か所とも洗ったし、ワセリンも塗ってやったしな。仕上げに前の穴にコーラ突っ込んで、中も洗ってやったぜ」

「ああ。ウィスキーで口を洗ってやって消毒もしてやった。俺ら親切だなぁ」

「悪い嬢ちゃんだよなぁ。未成年なのにアルコールの匂いをぷんぷんとさせてさぁ」

 

 男たちの嘲笑が室内にこだまする。

 

「で、こいつのこの服と下着どうする?」

「俺らの指紋やらなんやらが付きまくってんだろうが。このまま燃やしちまえ」

「何、素っ裸で返すの? お前も鬼畜だねぇ」

「馬鹿言え。そんな真似したらそこらで怪しまれてバレるだろうが。前に買っていた服があるだろ。あれ開けてねえよな」

「ああ、あったあった。何、あれ着せるの?」

「袋ごとくれちまえ。指紋つけるなよ」

「おい、靴はどうする」

「靴はこいつの靴を履かせないとまずいだろ」

「だろうよ。そんなことだろうと思って靴は隅々まで新品の布で磨いて俺たちの痕跡は消しておいたぜ。靴底の泥もしっかりブラシで落としておいた。そこの道に行くまでなら泥は付かねえだろうよ」

「おっ。サンキュ~」

「いいってことよ。代わりに次の獲物は俺が一番手な」

 

 そんな男たちの会話を他所に部屋の隅から一人の男が布越しに袋を持ってくる。

 

「そら、代わりのシャツとズボンだ、下着はねえけどな」

「素肌にシャツを着る彼シャツってのは女の憧れなんだろ。俺ら彼氏じゃねえけどよ」

「これ着て帰れよ~。途中で襲われないように気ぃつけてなぁ」

「ぎゃはは。俺たちが言うセリフじゃねぇな」

 

 男たちの下品な笑い声とともに、自分のバックと男たちが用意した安っぽいシャツとズボンを投げつけられ、裸のまま外に出される寛奈。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ──そして照仁は、その惨劇の真っ只中に置かれた寛奈の「内面」の崩壊までも、恐ろしいほどの解像度で克明に思い描いていた。

 

 寛奈は最初、激しい恐怖の中で「照仁様がきっと助けに来てくださる」と信じて疑わないはずだ。だが、どれだけ泣き叫んでも大好きな従兄は現れない。絶望の中で身体を汚され尽くした時、彼女の胸を支配するのは、己の愚かさに対する苛烈な罪悪感だ。

 

(照仁様との大切な身体なのに……私、汚されちゃった……)

(もっと素直になっていれば初めては照仁様と結ばれたのに)

 

 事後の脅迫を受け、「家や宮家に迷惑をかけてしまう」と従わざるを得ない自分に対する激しい自己嫌悪と「照仁様に知られたら捨てられてしまう」という極限の恐怖から、誰にも相談できずに一人で闇を抱え込む寛奈。

 嫌なのに「来なければ映像をばら撒く」と脅され、度重なる呼び出しに応じる度に「いつかは照仁様が助けて下さる」と信じていた。

 だが助けの手は差し出されず、汚され続け、その様子を撮られ、増えていく新たな映像を基に悪夢が繰り返される。

 やがて「私が……私がポンコツで、隙を見せたから……捨てられたんだ」という絶望から彼女の瞳から生気が失われ、黒い瞳の奥に宿っていた光は次第に濁り、やがて完全に壊れて、男たちの意のままに自ら腰を振り嬌声をあげ続ける肉人形と嘲られ蔑まされる……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 寛奈が凌辱された挙句、精神を壊した──。

 

 己が油断した結果が招いた惨劇。

 照仁は深く悔いるとともに、寛奈を生涯にわたり妃として愛し、守り抜くことを誓った。

 画像や映像などの回収は速やかに行われ、出回ったそれらを入手した者への断罪は苛烈を極めた。

 

 だが──加害者に対しての報復はそれ以上に凄惨なものとなった。

 

 照仁がもたらす「報復」とは、生ぬるい暴力や安易な私刑などではない。京極宮家の権能と、宮家の威信のすべてを私的に傾けた、存在そのものの社会的・歴史的抹殺にほかならなかった。

 捕らえられた次男とその一族の目の前で淡々と執行される、あまりにも冷酷で絶望的な断罪劇。

 

「何故だ……! 我が家は代々続く名家だ! 法の裁きを受けるにしても、なぜ一族すべての戸籍が、財産が、歴史が、こんなメチャクチャに改竄されなければならないんだ……っ!? 我が一族の本家である伯爵家が黙っていないぞ!」

「其方らが言う伯爵を自称する一族は既に家系図の偽造が確認され、華族籍から除籍された。其方らの後ろ盾はもう存在しない」

 

 絶叫する父親や親族たちの前に、静かに、しかし圧倒的な冷徹さを纏った照仁が姿を現す。

 

「わ、若宮殿下!」

「若宮殿下! 何故、何故この様な無体な真似をなさる。我らが何をしたと!」

「事と次第によっては若宮殿下とて!」

 

 その美しくも凍りついた笑みの裏には、一線を越えられた者の底知れぬ狂気が渦巻いていた。

 

「すべては、そこの愚か者が、手を出してはならない我が『掌中の珠』を無惨に壊したからだ。何をしたかはその愚か者に聞け」

 

 一族の視線が、青ざめてガタガタと震える次男に集中する。

 

「お前……! お前、一体何をしたんだ!!? 京極宮家の若宮殿下に何をしでかしたんだ!?」

 

 一族の長老たちから吊るし上げられた次男は、涙と鼻水を垂らしながら、命乞いのように言い訳を叫んだ。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!! ぼ、僕はただ……子爵家の可愛い女の子がお茶会で隙があったから、みんなでちょっと連れ出して……みんなで楽しみながら映像を撮って、その後何回か仲間と楽しんだだけ……! 相、相手だって途中から言われる前に自分から来るようになったし、やってる時は自分から腰を振って動いてるから楽しんでたように見えたんだ……っ!」

「お前の妄言は聞いておらん! 子爵家の令嬢だと……!? 相手の名は!! 誰なんだ!!? 場合によっては示談という手も──」

 

 京極宮家の若宮と子爵家令嬢という言葉の組み合わせに嫌な予感を覚えながらも必死に策を探そうとする父親に、次男は震える声で答えた。

 

「学生証には、ろ、六条寛奈って書いてあった」

 

 その名前を聞いた瞬間、父親を含めたその場にいた一族全員の顔から、完全に血の気が引いた。数秒の静寂の後、父親が絶叫とともに我が子の胸倉をつかむ。

 

「そ、その方は──―っ!!! お前、何を、なんて恐ろしい真似をしてくれたんだ……っ!!!」

「なぜ、なぜその名を聞いて気が付かんのだ……この愚か者が!! 貴様も息子にどんな教育をしていた─―っ!!」

「……駄目だ。我が一族の命運は尽きた。たった一人の愚か者の所為で」

「この愚か者の命だけでは……否、我らの命を捧げても贖えるものではない……」

 

 彼女の血筋が持つ意味を理解している親族一同の衝撃と絶望は、筆舌に尽くしがたいものだった。

 六条子爵家と言えば、京極宮家宮家令を務める子爵家だった。だが、現当主は京極宮慶仁王殿下の乳兄弟。京極宮家を継ぐ陸仁王殿下の妻の実家であり、次期当主が陸仁王殿下の実妹を娶った、言わば京極宮家の藩屏であり、ただの子爵家ではない。

 その令嬢と言えば陸仁王殿下の姪御であり──目の前にいる次々代当主の若宮である照仁が、幼少期から異性を誰一人近づけぬよう鉄壁の防壁を築いて溺愛していた、まさに掌中の珠──『若宮の隠された至宝』と呼ばれている存在である事は社交界の常識である筈だった。

 

「こ、この大逆犯がぁ」

 

 長老達から鉄拳制裁を浴びつつ懇切丁寧に、一族がこれから受けるであろう「社会的死の全貌」を説明された次男は、自分の行いが何を意味するか、ようやく悟った。

 

 ──無造作に龍珠を踏み砕き、あまつさえ、龍珠を護っていた龍の逆鱗をも傷つけるような行為をしてしまった。

 

 それは人の身には決して償えぬ過ち。それを理解した恐怖の余り、膝から崩れ落ちる次男。

 同時に、あの現場に一緒にいて、同じようにカメラを回し、面白半分で彼女を汚した仲間たちとその一族も、例外なく全員が全く同じ手順で「歴史から消去されている」のだと悟り、目の前が真っ暗になる。

 

 ──目の前で、公式の公文書から自分たちの苗字が削ぎ落とされた。

 

「今日より貴様ら一族の家紋と苗字はこれだ。墓はこちらで用意したやった」

 

 その言葉と共に苗字が国が管理するデータベース上で新しいものに書き換えられていく。

 菩提寺に出向いた宮家の使者に住職から差し出される過去帳や家系図。

 それが改められ、差し替えられた新な過去帳や家系図は中興の祖として名高かった偉大な先祖の名前こそ残されたが、その子孫は江戸中期かどこかの適当な時代で絶家となった。

 そして注釈として朱文字でこう記されていた。

 

『現在、明治の初めに、この名誉ある断絶した家系図を背乗りした一族の存在が確認されている』

 

 先祖代々の墓にあった墓誌が砕かれ、姿形も材質も前と同じだが新しい墓誌に差し変わった。新たな墓誌はある時期以降の先祖の名が全て消し去られている。

 墓は菩提寺とは遠く離れた、さびれた寺院の墓地に置かれ、家紋や墓碑銘は新たなものに置き換わっていた。

 先祖の功績も、名門としての誇りも、一族が積み上げてきた社会的信用も、財産も特権も──すべてが法と公文書の暴力によって、一瞬にして「ただの不法乗っ取りの詐欺師一族」へと仕立て上げられたのだ。

 

「安心しろ。私刑などで命までは取らん」

 

 絶望の床に這いつくばる男たちを、照仁は冷ややかな瞳で見下ろした。

 

「裁判の判決に従い、そこの愚か者はこのまま刑務所に収監され重禁錮300年に処せられるがな。……貴様らはこのまま返してやる。明日からの『新しい名前』での社会生活を、せいぜい楽しむといい」

 

 命だけは助けられた。しかし、それは「名誉ある家系を詐欺で手に入れていた一族」として、世間の底辺で一生を呪いながら生き地獄を味わえという、死よりも残酷な宣告だった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 っ怖いわよね……。

 これ、すごい悲劇よ。何が悲劇かって、一族を書き変えるのよ? 民法上だと親族は六親等まで含まれるのよ? 普段この次男の一家と連絡を取っていない、従甥や従姪、再従姉妹、再従兄弟とかの遠縁の親戚も巻き込まれるわ。

 兄様が想像した惨劇、近くにいる親族は寛奈を壊した時に一緒になって参加した、ろくでなしもいるかもしれないから仕方ないけど、遠くの親類により人生これからというときにほとんど付き合いのない親戚のろくでなしによってどん底に落とされる悲劇……。

 人生を壊されたはとこたち、事情を知ったら怒り狂うわよ。

 身分回復を求めて延々と裁判を起こすか、もっと手っ取り早く次男一家に殴り込みに来ても驚かないわね。

 ただ、裁判を起こしても権威そのものが相手だから勝ち目ってあるのかしら? 権威を握る華族も宮家も、こんな寛奈を襲った性犯罪者の一族にはつかないと思うわ。

 それに六条の現当主のお爺様がご健在なのよ? 戦後、華族の地位を失った旧華族が隙あらば復権を図ろうとしていたらしいけど、それを良しとする華族と否とする華族の思惑の統制を10代の頃から行いつつ、冷徹な宮内官僚との折衝、そして何より「悲劇の宮」として祭り上げようとする世間の目から、他の宮家と協同して、乳兄弟の、私のお祖父様の京極宮慶仁王を守る戦いに明け暮れていたのよ? 公文書館や宗秩寮と言った官僚組織は当然、大学、学会、博物館、法曹界。表の公安組織から裏社会までありとあらゆるところに伝手があるの。そんな人も怒らせるのよ?

 それとも関係ない一族の家系図に付けてお咎めなしにしておくのかしら? 普段の兄様ならそうするし。

 こんな惨劇で頭に血が昇っていた時でも、そうであってほしいわ。……寛奈が絡んだら望み薄だけど。

 

 あ、そうそう。華族令嬢の貴女達は知らないでしょうけど、重禁錮刑って窓と金網に覆われた狭い庭へ扉がついている独房なのは同じなのだけど、望めば労役を行える普通の禁錮刑と違って、いかなる労働も絶対禁止なの。

 外へ出られるのは2時間だけ目の前の庭に出て運動するときだけらしいわ。食事は1日6合の麦飯と味噌汁だけで、おかずは固形塩と他に一品だけ。一汁一菜だと、残りの一品って何かしら? ちゃんとしたおかずなら良いけどお漬物程度かしらね? 娯楽なんて与えられないし、犯罪の種類によってはカレンダーだってないらしいわよ。

 楽しみって金網に止まる鳥を見て愛でるくらいじゃ? 

 これ、本来は凶悪犯や知能犯に適用させる刑らしいけど……。

 ああ、知能犯は独房で一人で道具を使わずに行える週数時間程度の軽作業は申し出られるらしいわね。

 

 

 それに刑期もえげつないわ。

 想像なんだから、せめて80年ぐらいにすればいいのに、寛奈がお持ち帰りされかけた報告を受けたままブチ切れモードの頭の中で、寛奈が凌辱されて壊された。なんて惨劇を想像するから考えられる罪状の一番重い年数を単純に加算しまくって架空の裁判官の判決とは言え、年数がありえない数字になるのよ。馬っ鹿じゃないの? 

 でも、そうなったらこの次男達、いつまで持つのかしら? 我が兄ながらえげつないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……待って、待って。送る直前の今、気が付いたわ。300年って、単に罪状を限界まで加算した求刑年数なんかじゃないわ……古来の逆鱗を傷つけた者が行う三代にわたる贖いと同じよ。

 ……兄さまは怒りに任せて暴走したんじゃない。古来の禁忌に対するしかるべき報復を、現代の制度に完璧に落とし込んで計算していたの……? 一代百年と考えれば計算は合っているわ……。って、これ、近代法の刑罰という形を借りて、実罰として執行される『神話の祟り』じゃないの!! 

 何考えているのよ。怖いってものじゃないわ、昭和二十一年の年頭の詔書に書かれていた『朕ハ神聖ナル祭祀ヲ主宰スル者トシテ、亦、国法ニ則リテ國務ヲ総覽スル』陛下に連なる一族の者として神罰を下しているつもりなのね! 

 

 

 

 

 ……ちょっと待って。

 ……神話の祟りなら続きがあるわよね。もしかしたら……。

 

 ……こんな寛奈を妃にしても多分初めは何もできないけど……ああすれば少なくとも兄様には心を委ねられる、元々愛していたんだもの……。あんなことがあっても兄様との間に健常な子どもが生まれれば、誰も文句を付けないだろうし……。だとしたら……。

 

 

 

 ……ねえ、兄様が考えた惨劇と復讐のお話、せっかくだから復讐を終えた兄様のその後も、ちょっと考えてみたわ。どうかしら? 

 兄様がここまでするかはわからないけど、何となくこうなりそうな気がするのよ。

 

 貴方達の感想を聞かせてね。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 すべての手続きを終え、一族をこの世の地獄へと突き落とした照仁が戻ったのは、京極宮家の奥深くに位置する、外の世界から完全に隔絶された一室だった。

 

「──寛奈」

 

 静かに扉を開けると、そこには絹の天蓋付きベッドの真ん中で、小さく身を縮めている六条寛奈の姿があった。

 照仁は足音を立てずにベッドの傍らへ進み、その場に膝を突いた。彼が外界で見せていた、人を容易に圧殺するような冷酷な宮家の若宮の顔はそこにはない。代わりに浮かんでいたのは、信じられないほど深く、そして昏い慈愛の微笑みだった。

 

「もう大丈夫だ。寛奈を汚した悍ましい羽虫どもは、その羽も脚も、一族の歴史ごとすべて毟り取って泥に沈めておいた。二度と君の視界に入ることも、その耳に声を届かせることもない」

 

 他人から触れられる事に怯えたように肩を揺らす寛奈の細い手首を、照仁は優しく、しかし決して逃がさない強さで包み込む。指先が、彼女の肌に残る見えない「傷」をなぞるように動いた。

 照仁は寛奈の頬に触れ、彼女の瞳に映る自分を見つめる。

 

「もう泣かなくていい。君の涙も、恐怖も、僕が共有する。……これからは、僕だけを見て生きていくといい。僕の与える呼吸と共に」

 

 惨劇から救い出された寛奈ではあったが、怯えと絶望から、もはや他人を拒絶する気力すら失っていた。

 そんな寛奈の額に、照仁は深く、刻印を刻むように唇を寄せた。

 

 ──龍珠を砕いた者たちには破滅を。

 

 ──そして、傷ついた龍珠は、二度と誰の目にも触れぬよう、龍の顎の奥深くへ永遠に隠匿される。

 

 それこそが、照仁の愛だった……。

 

 

 

 

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