※この作品はR-18です。

陸仁王物語―異伝―   作:fire-cat

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まじめに考察して見たが、長い。
恵理子の報告をタブで開いて確認しながら見たほうがいいかも。


外伝 第5.75話(恵理子の報告を受け取ってしまった5人と巻き添えになった友人二人の座談会)

香織

 全員顔色が真っ青ね。寛奈には「図書室で調べものをしてから帰るわ」と上手く言っておいたけれど……今朝、恵梨子様から送られてきたあのメッセージと添付された文章、最後まで読んだわね? 

 

貴美

 私達が寛奈の「第三ボタン事件」と持ち帰り未遂の件を若宮様に報告したのは、絶対に正しかったはずよ。でも、その報告を受けた若宮様が脳内で組み上げたという「最悪の惨劇のシナリオ」……あれはあまりにも恐ろしすぎるわ。

 

霧葉

 ええ。恵梨子様が「話を聞く前の時間に戻れたら自分を即刻その場から退避させるか、間に合わなかったら殴って意識を失わせたていた」とおっしゃる意味が痛いほど分かったわ。

 

里緒

 恵梨子様ご自身も、若宮様から惨劇を聞かされた際に思わず自分を寛奈さんに置き換えてしまい、自分が襲われたような恐怖を感じて体調を崩されたとおっしゃっていたわね。

 

香織

 この惨劇があまりにも具体的で残酷なのよ。これを直に耳で聞いたら誰でも自分を寛奈の立場に置き換えてしまうわ。身の毛がよだつような恐怖を味わうのも当然ね。

 

歌乃

 ……でも、これ、ただの妄想じゃないわ。恵梨子様は若宮様があの場にいた男たちの素性や言動、評判をあの六条のお爺様に調査させた上で、彼らが確実に実行したであろう行動パターンを完全に予測してこの惨劇を組み上げたと仰られているわ。

 

霧葉

 もし私達が寛奈を化粧室に連れ出すのが一歩遅れていたら起きていたかもしれない、密室での惨劇……。薄暗いマンションの一室で、何も知らずに付いてきた寛奈が「具合の悪いお友達はどこ?」と怯えて尋ねる場面から、もう息が詰まりそうだったわ。

 

歌乃

 男たちが品定めするように寛奈の華奢な肩を抱き寄せ、逃げようとする手首を荒々しく掴んでソファへ押し倒すのよね。抵抗して蹴りを出そうとする足首を掴まれ、見せつけるように足を広げられてスカートをめくりあげられていく……。「やめなさいよ、どうなるかわかってるの?」と必死に威嚇する寛奈ちゃんに対して、男たちが「御開帳だぁ」「白のレースじゃん」と嘲笑う描写なんて、胸が押し潰されそうだったわ。寛奈ちゃんは身長157センチ、体重47キロしかない華奢な体なのよ。それなのに、あんな男たちに力づくで押さえ込まれて……想像しただけで息が詰まるわ。

 

里緒

 その後の惨状は、思い出すだけでも吐き気がするわ……。寛奈さんが「助けて、照仁様……っ!」って悲鳴を上げるけれど、その声すら卑しい嘲笑にかき消されて、ブラウスは容赦ない手つきで引き裂かれ、スカートもショーツごと剥ぎ取られていく。身をよじらせて抵抗する寛奈さんを複数の男が押さえつけ、上半身裸になってズボンのベルトを緩める男を見て何をされるか察した寛奈さんが「それだけはお願い、やめて。初めては照仁様に」と涙で哀願するのに「処女か、じゃあ初物頂き」と無惨にも純潔を踏みにじられるなんて……。

 

友人B

 私、お茶会には参加していなくて、今朝教室でAと一緒にいたところをあなたたちに巻き込まれただけなのに、あの文章を読んでいて血の気が引いたわ。一人の男に貫かれたままひっくり返され、抱え込まれて固定された状態で、さらに別の男に背後から臀部を貫かれる……サンドイッチなんて言葉で誤魔化されているけれど、どれほど凄惨な暴行か! その上、下半身が血まみれになった状態の寛奈さんを、髪を掴んで家庭用カメラの前に引きずり出してインタビューを始めるなんて、人間がすることじゃないわ。

 

友人A

 ……僕もお茶会には参加していなかったし、今朝教室でBと一緒にいたら君たちに巻き込まれた口だけれど、この文章を読まされた時は男として、いや一人の人間として激しい吐き気を覚えたよ。僕も男だけどこんな連中と同じ生き物だと思われたくないね。

 

香織

 私達はAとこいつらを同じだなんて見ていないわよ。こいつらと同じ扱いするなんて、犬と牛が四つ足だから同じだって言ってるようなものでしょう。

 

友人A

 それはありがとう。でも、こんな狂った連中が君たちのお茶会にすら参加できるなんて、正直なところ恐怖を感じた。この文章を読んだら、今後彼女をお茶会になんて気軽に参加させられない。友人扱いされているけど、僕や彼女の家は君たちより爵位の低い男爵家なんだ。もしターゲットにされていたら何の抵抗もできずに潰されていたかもしれないと思うと、震えが止まらないよ。

 

友人B

 ……A。

 

友人A

 ごめん。惨劇の後半に書かれていた男たちのやり取りや行動のディテール……家庭用のビデオカメラを持ち出して、下半身が血まみれになった寛奈さんを髪から掴み上げて大写しにし、「処女喪失記念の単独インタビュー」なんてニヤニヤしながらカメラの前に引きずり出すあそこからの描写は、本当におぞましすぎて言葉を失ったよ。こいつらの思考回路は理解したくもないが、集団心理に陥った馬鹿の行き着く先としては若宮様の考えた【妄想】と片付けられないほどリアルすぎる。

 

歌乃

 ええ……! 涙と屈辱に塗れて恐怖で怯えている寛奈ちゃんにこぶしを振り上げる男を、別の男が「顔はやめろ、映りが悪くなる」って制止したら下劣極まりない言葉で脅すのよ。そして、あの言葉にするのも悍ましいアレ……! あんな可愛い寛奈ちゃんに、そんな屈辱を強いるなんて……思い描くだけで胸が締め付けられるわ。

 

友人A

 あの場面だね。寛奈さんが「じゃあ、素直に言うこと聞くまで、この血まみれの尻にもう一度俺のこれ突っ込んで抉るか、このでけえ乳を痣が付くまで揉みしだいてやるか」って脅される場面。挙げ句の果てに「二度も三度も抉られたら一生大便垂れ流しになるんじゃねえか」なんてはったりを利かせて、怯える寛奈さんを嘲笑いながら頬を叩きながら涙と屈辱に濡れた寛奈さんに「六条寛奈、子爵家」と名乗らせる……。

 

貴美

 それだけじゃないわ。寛奈のバッグを漁っていた男が、彼女の学生証を見つけてカメラに見せつけ、住所も学校もクラスもはっきり画面に記録させる場面……。寛奈が必死で「返して、返してよ」って言っても「楽しんだら返してやる」って取り合わないの。しかも、寛奈の情報端末の扱いについての男たちの会話を覚えているかしら?

 

霧葉

 覚えているわ……。「荷物を持ってきた時に、近くに停まっていたトラックの荷台に置いてきた」って言っていたわね。持ってこなかったのかと問いかける仲間に「そんなことしたら位置情報を辿られる。長距離便のトラックだから海の上かもな」って。どこまでも悪質で、警察や家族の追跡を逃れるための邪悪な計算が働いているわ。

 

友人A

 現代において、位置情報による捜索は最優先の追跡手段だ。それを即座に理解し、長距離便のトラックを利用して捜索の目を遠く離れた海の上や見知らぬ地方へ逸らすなんて……。突発的な行きずりの犯行なんかじゃない。彼らは位置情報を遮断し、捜索を攪乱するノウハウを完全に熟知していたんだ。助けを呼ぶための通信手段を奪われ、位置情報での捜索すら攪乱されたらどうなるか。

 

友人B

 そんなの……最初から逃げ道を完璧に作り上げた上で、寛奈さんを閉じ込めて弄ぶつもりだったということじゃない! もし私が寛奈さんの立場で……貴方と付き合っている私があの暗い部屋に閉じ込められ、スマホを捨てられて助けを呼ぶ術も絶たれ、カメラの前で身分証を晒されたら……。自分の人生がその瞬間に完全に詰んでしまったという絶望で、頭がおかしくなってしまうわ。

 

霧葉

 身分証を記録された後、休む間もなく複数の男たちに同時に相手をさせられて……。両手に強引に男のものを握らされて扱かされ、男たちの低い声が発せられる度に全身に白濁を浴びせられたり、無理やりに開かされた口を男たちの舌で歯の裏から舌の付け根まで代わる代わる蹂躙されるのよ。豊かな胸や臀部、あの長い綺麗な髪に至るまで、男たちの欲望のままに穢されていく……。もし私が寛奈の立場で、あんな暴力の渦中に置かれたら、恐怖で叫ぶことすらできずに気を失ってしまうかもしれないわ。

 

里緒

 それにあの台詞! 「でけえ乳してるじゃんか。ここで一度抜かせてもらうぜ」とか、「尻でもう一度抜かせてもらうかな。サンドイッチのお替りだな」なんて……。寛奈さんはB84でDカップ、アンダー65でウエスト57、ヒップ85という女性らしいスタイルをしているけれど、男たちの前ではそのすべてがただの玩具として消費されてしまう。部屋の隅では、家庭用ビデオカメラを持った男がその屈辱的な一部始終をニヤニヤ笑いながら記録しているのよ。「女の汗と涙に塗れた青春映像だぜ」「他の汁も混ざっているけどなぁ」って嘲笑いながら。人の尊厳を何だと思っているの……!

 

歌乃

 泣きじゃくり身動きしなくなった寛奈ちゃんを見て、一人の男が酷薄な笑みを浮かべるのよね。「素っ裸のこいつに、こいつの服着させてやれよ」って。力なく横たわっていた寛奈ちゃんを起こして、男たちの体液にまみれた身体に、引き裂かれてボロボロになったブラウスを掛けるの。いかにも暴行されましたという姿を作り上げて写真を撮り、「このことを言ったらこの写真バラまくからな」「学校や家に見せられたくなかったら、次からは呼び出したらすぐ来いよな』と脅迫するなんて。私、この文章を読んでいる最中、自分がその写真を撮られているような錯覚に陥って、息ができなくなったわ。

 

貴美

  それだけじゃないわ、脅迫写真を撮った後で「よーし、最後にお楽しみの時間だ。まだ起つやついるか?」って男たちが歓声を上げるのよ。全員が頷いて、「口開けろ、歯を立てたら全部折るぞ」って脅迫しながら、代わる代わる男たちのものを咥えさせられる……。白濁で口腔を穢されて、「最後まで飲み干せよ、こぼしたら最初からだ」と飲み込むことを強制されるの。終わったら「コイツの腹の中、俺達のプロテインミルクでタプタプしてんじゃね?」「さっきアフター飲ませたから、後始末は大丈夫だろ」「孕ませたら面倒だからな」「さて、コイツにもプロテインミルク飲ませて食事させてやったし、そろそろ帰すか」だなんて。あの小さくて細い寛奈が、そんな言葉を浴びせられながら冷たい床で震えている姿を想像したら、私も狂ってしまいそうだったわ。

 

友人B

 極めつけは、証拠隠滅のためのあの仕打ちよ。「このまま返したらまずいだろうが。こいつの身体、隅々まで洗ってやろうぜ。俺たちの手でよ」って浴室に連れ込むのよ。液体石鹸をしみこませた軍手で全身をくまなく弄り回して、体液の残骸を洗い流すの。新品のバスタオルで「風邪引かねぇ様にしっかり拭いてやんねえとな」とか言いながらさらに全身を揉むように弄り回すなんて感触を楽しんでいるんだわ。そこまでした挙句、「やべ、また起っちまった」「こいつの身体に掛けるなよ、出すなら口の中にしろ」って下品な言葉でまた代わる代わる咥えさせて白濁を飲みこませるのよ。抵抗する力も残っていない相手に、どこまで屈辱を与えれば気が済むというの……!

 

香織

 それに「こいつの穴も二か所とも洗ったし、ワセリンも塗ってやったしな。仕上げに前の穴にコーラ突っ込んで、中も洗ってやったぜ」「ウィスキーで口を洗ってやって消毒もしてやった。俺ら親切だなぁ」ですって? 親切だなんて冗談じゃないわ! 全部計算ずくの卑劣な工作よ。

 

里緒

 コーラやウイスキーだって単なる嫌がらせじゃないわ……! 炭酸の強烈な泡と酸で、膣内に残ったDNAや体液を物理的・化学的に破壊して鑑識を無効化するつもりなのよ。傷ついた粘膜にしみてどれほど激痛が走るか分かっていてやっているのよ! 口腔をウイスキーで濯がせるのも、残ったDNAをアルコール変性で消すだけじゃなくて、粘膜から素早くアルコールを吸収させて頭を麻痺させ、思考力も逃げる気力も奪うためだわ。「未成年なのにアルコールの匂いをぷんぷんとさせてさぁ」って嘲笑っていたのも、本当に凶悪だわ……。もし寛奈さんがそのまま警察や家族に駆け込んだとしても、「未成年が酒を飲んで自ら遊んでいたんじゃないか」「酒に酔った上の狂言じゃないか」と周囲に疑わせるための罠なのよ。寛奈さんに『お酒の匂いがしたら親にも怒られる、宮家にも迷惑をかけるし警察もまともに取り合ってくれない』と思い込ませて、通報や告発を思い留まらせる強い心理的トラップを仕掛けているの。

 

霧葉

 ワセリンを塗ったのは、荒い洗滌で傷ついた粘膜の激痛を和らげて無理やりにでも自力で歩かせるためよ。現場のすぐ近くで倒れ込まれて警察や通行人に保護されたら即座に事件が発覚するから、それを防ぐためでしょうね。出血が衣服に滲むのを防いで、病院での法医学的検査を妨害する狙いまであるわ。「親切に手当てしてやった」なんて歪んだ自己満足で、最後の最後まで体を弄り回すなんて……!

 

香織

 ええ。その上で指紋が付きまくった服や下着は燃やしてしまって、靴底の泥まで新品の布とブラシで綺麗に落として徹底的に証拠を消すのよ。その代わりとして、買っておいた未開封の袋入りの安っぽいシャツとズボンを投げて「素肌にシャツを着る彼シャツってのは女の憧れなんだろ、俺ら彼氏じゃねえけどよ」なんて……どこまで尊厳を踏みにじれば気が済むの!

 

霧葉

 くっ……嫌……! 想像しただけで肌にイボが立ちそうだわ。袋ごとの服とバッグを投げつけられて外に出されて、「途中で襲われないように気ぃつけてなぁ」なんて自分たちが襲っておきながら笑い飛ばすのよ。

 

歌乃

 あまりにも惨酷すぎるわ……!

 

霧葉

 私だって、もしあの場で男たちのターゲットになっていたら、恐怖で声も出せず、ただ蹂躙されるしかなかったはずよ。 自分が下着すら燃やされて、男たちの体液とアルコールの匂いを身にまとって、素肌に投げつけられたシャツとズボンを着て一人で帰らなきゃいけないとしたら……どれほどの孤独と絶望か。

 

里緒

 ……救いがないわ。事件が終わってからが永遠に終わらない地獄の始まりだったのよ。自分の服や下着すら奪われて燃やされ、男たちの醜悪な欲望の痕跡を無理やり消された上で、靴だけは綺麗に磨かれて、下着もつけず袋から出された安物のシャツとズボンだけを身に着けて、体中に傷を負ったまま外へ叩き出される……。

 

歌乃

 放り出された寛奈ちゃんの姿を思い描くだけで、涙が出てくるわ……。

 

里緒

 自分のバッグと投げつけられた服を身に着けて、アルコールの匂いを身にまとって震えながら一人で街を歩く寛奈さん……。自分がどれほど汚され、身も心も踏みにじられたかを、冷たい夜風の中で否応なく突きつけられる瞬間よ。そんな惨めな姿で一人放り出されたら、どれほど強い心を持った女性であっても、その場で心が折れてしまうわ。

 

友人B

 消されたとはいえ男達の体液の感触や塗られたワセリンのベタついた感触が残っているはずよ! そんな身体に下着もつけずに、安っぽいシャツとズボンだけで外に放り出されるなんて……! これを読んだ後、本当に吐き気が止まらなくて、Aの腕の中で泣いてしまったわ。

 

友人A

 B……よく最後まで読んだな……。

 

友人B

 Aが助けに来てくれなかったら、最後はこんな風に扱われるのよ。白濁を飲み干せと強要され、涙を流してむせ返りながら飲み下すしかない。何度も口の中に吐き出され、身体の芯まで穢された後で、見知らぬ男が用意したシャツを素肌に着せられて放り出される。自分がそんな姿で街に放り出されたら……道行く人やすれ違う人の視線がすべて自分を汚した男たちの嘲笑に見えて、一歩も歩けなくなるわ。家に帰ることすらできない。だって、アルコールの匂いをさせたまま帰れば家族に追及されるし、警察に行こうとしてもアルコールの匂いがしたままでは『泥酔した未成年の虚言』とあしらわれてまともに取り合ってもらえないわ。むしろ私の方が未成年の飲酒ということで補導されるかもしれない。そして『写真を撒く』という言葉も私の首を絞めるのよ……。私……想像するだけで息が詰まって、心臓が破裂しそうよ……!

 

友人A

 大丈夫だ、僕がここにいるから……。だが、男の僕から見ても、この脅迫の手口は完璧すぎて反吐が出る。写真を撮り、下着を奪い、服を焼いて証拠を消し、素裸同然で放り出すことで、被害者に『自分が汚された』という極限の恥辱と恐怖を植え付ける。警察に通報すれば写真が公表され、華族としての名誉も、女性としての未来もすべて失う。そう思い込ませて孤立させ、次回からの呼び出しに絶対に従わせるためのマインドコントロールだ。

 

歌乃

 もし私があの暗い部屋に引きずり込まれて、同じように何人もの男に囲まれていたら……。私も侯爵家の娘として普段は守られているけれど、密室に閉じ込められればただの無力な女よ。暴行された後で軍手で乱暴に身体を洗われ、コーラやウィスキーを無理やり注ぎ込まれて証拠隠滅されるなんて、恐怖と屈辱で気が狂ってしまうわ。

 

貴美

 そうよ。男たちは寛奈の学生証を見て『こりゃバレたら大変だ』なんて言いながらも、『楽しんだらお前も学生証も返してやるよ』と平然と脅す人面獣心のような奴らなのよ。私達もあの暗い部屋に引きずり込まれたら同じように身分証を奪われ、住所や学校を特定された上で、逃げ道をすべて塞がれるわ。傷だらけの身体に下着もつけずに安物のシャツとズボンだけを身に着けさせられ、冷たい外気の中に放り出される……。その瞬間、私達は華族の令嬢としてのすべてを失い、ただの汚された肉塊として自分を呪うしかなくなるわ。

 

香織

 ……でもね、若宮様が描き出した本当の恐怖は、その肉体的な凌辱の後に続く、寛奈の「内面の崩壊」の解像度の高さだわ。寛奈は、しっかりしている子よ。でも若宮様に守られているから人の悪意に晒されることはほとんどないわ。だからあまりにも人を疑わないし、面倒見の良い素直な性格なのよ。もし……もし本当にあの惨劇が起きていたら、寛奈は間違いなく『自分が悪いのだ』と思い込み、誰にも言えずに一人で壊れていたわ。

 

霧葉

 そうね……。寛奈は最初、「照仁様がきっと助けに来てくださる」と信じて疑わないはずだわ。けれどどれだけ泣き叫んでも助けは来ず、身体を汚され尽くした時、胸を支配するのは「照仁様との大切な身体なのに汚されてしまった」「もっと素直になっていれば初めては照仁様と結ばれたのに」という苛烈な罪悪感よ。……寛奈は若宮様には素直になれないけど、本当は若宮様のことを心から信頼しているし、本人は隠しているつもりでも傍から見ていてわかるくらいに一途に慕っているもの。だからこそ、汚された後に『私がポンコツで隙を見せたから』って自分を責めて、助けを呼べずにどんどん心が壊れていくのはあり得るのよ……。

 

貴美

 ええ。「写真をばら撒く」と脅され、家や宮家に迷惑をかけられないと一人で闇を抱え込み、呼び出されるたびに、彼女は「いつかは照仁様が助けて下さる」とわずかな希望を抱いて向かうのよ。でも助けの手は差し出されず、何度も何度も汚され続け、その度に新たな映像を撮られて、その映像を基にさらに悪夢が繰り返される……。

 

里緒

 ……そして、やがて寛奈さんの心の中で何かが決定的に壊れるのね。「私が……私がポンコツで、隙を見せたから……捨てられたんだ」という誤った思いを解決する術もなく絶望に飲み込まれ、瞳から生気が失われ、奥に宿っていた光が完全に濁り、最後には完全に消えてしまう。

 

香織

 心が完全に壊れてしまった寛奈は、男たちの意のままに、自ら腰を振り、嬌声をあげ続ける肉人形へと成り下がってしまうの。男たちから「最初は泣いていたのに、今じゃ言われる前に自分から来るようになった」「自分から腰を振ってる」なんて蔑まれ、嘲笑われながら……。若宮様は、女性が一番絶望する心の壊れ方を理解しているからこそ、あの解像度で寛奈の魂が死んでいく過程まで克明に思い描いていたのよ。

 

友人B

 そこまで思い描けるなんて、若宮様の寛奈さんに対する執着の深さと、壊された時の絶望の大きさが嫌というほど伝わってくるわ。若宮様はご自身でその絶望を組み立てながら、胸を抉られるような思いをなさっていたはずよ。

 

歌乃

 若宮様ご自身が、そのシナリオを組み立てながらどれほどの血の涙を流されたか……想像するだけで胸が締め付けられるわ。ご自分が世界で一番大切にしている『掌中の珠』が、泥に塗れ、自分への信頼を失い、自責の念で心を壊していく姿を、一時間かけて脳内でシミュレーションされたのよ? それは若宮様ご自身にとっても、己の無力さを噛み締める最悪の拷問だったはずだわ。

 

友人A

 その心理的プロセスのリアルさが何より恐ろしい。さっきも言ったけど、性加害者が被害者をマインドコントロールし、罪悪感と脅迫で孤立させて支配していく典型的な悪夢だ。完全に『人を壊して飼い慣らす手法』を熟知している。若宮様は、あの成り上がりの男たちがどれほど卑劣で、寛奈さんがどれほど無防備かを完璧に理解していたからこそ、そこまで一分の隙もない破滅のシナリオを導き出してしまったんだ。若宮様はどこまで人の心を読むことができ、それが齎す結果に耐えることができるのか……正直恐ろしいよ。

 

貴美

 ……そしてね、私が一番背筋の凍る思いをしたのは、若宮様のあの指摘よ。「寛奈の友人達は気が付いているのかわからぬが、彼女らの容姿と立場を思えば、寛奈だけではなく彼女らも危なかった筈だ」という一言……。

 

歌乃

 ええ、報告書の男たちの会話に、私達のことが出てきていたでしょう? 「あの背の高かった貴美って女はどうだ? 結構でかいおっぱいしてたぜ、こいつよりあるんじゃねえか?」「こいつの名前を使って誘きだしゃついてくるだろ」って……。寛奈ちゃんを手籠めにした後、私達までおびき出して楽しもうぜ、なんて……。もしあの時、私達が少しでも気を抜いていたら、寛奈ちゃんだけじゃなく、私達も同じようにあの薄暗い部屋に引きずり込まれて、カメラの前で辱めを受けていたかもしれないのよ……。

 

貴美

 そうよ……。お茶会の最中、男たちの口からそんな下品な言葉が直接出たわけではなかったわ。でも、若宮様の指摘を受けて改めて思い返してみると、あの時、男たちが私に向けていた視線……私の胸元や身体を品定めするように舐めまわしていたあの湿った目つきを思い出して、鳥肌が立ったの。寛奈の胸元から視線を逸らさせるために、わざと自分に紅茶を掛けた時。驚いて私を見た何人かの男たちの目に、一瞬だけ浮かんだの。あわよくば、濡れた私の衣服が透けるんじゃないか、寛奈だけでなく私も『お持ち帰り』できる隙があるんじゃないかっていう、獣のような色が。

 

歌乃

 私もよ! 「あの歌乃とか言ってたちっこい女なんかどうだ、あいつのおっぱいもでかかったぜ」なんて会話があったけれど、私が男子たちを引き剥がそうと笑顔であしらっていた時、彼らの視線が私の胸元に釘付けになっていた感触が蘇ってきたの。あの場にいた男たちの目は、まるで獲物を品定めで舐め回すような、品性の欠片もない濁った光を宿していたわ。男たちは『気分が悪いなら寛奈ちゃんを連れて帰ってあげる』なんて調子のいいことも言っていたわ……。もし寛奈が連れ去られていたら、次は寛奈の口から私達の名前を聞き出して、順番に誘い出されて手籠めにされていたかもしれない……。私達が危機一髪のところで踏みとどまっていただけで、ターゲットは私達全員だったのだと痛感したわ。

 

里緒

 本当に……ぞっとしますね。私が男子たちをあしらっていた時も、彼らはあからさまに苛立っていたわ。『名門令嬢だからって気取りやがって』という歪んだ欲望が隠しきれていなかったもの。

 

香織

 報告書の中で男たちが私や歌乃に対して口にしていた言葉にも、彼らの暗い計算が現れていたわ。『あいつと、あの場を仕切っていた香織って女はまずい。あいつら公爵家と侯爵家の娘らしい』というやり取りよ。

 

歌乃

 私の家は十九家しかない侯爵家、香織ちゃんの家は九家しかない公爵家ですもの。成り上がりのぼんくら息子たちであっても、公爵家や侯爵家の令嬢に手を出すことの決定的なリスクだけは瞬時に理解したのよ。だからこそ、高爵位の私達を警戒して後回しにし、まずは子爵家の令嬢である寛奈を手籠めにしてから同じ子爵家の令嬢である貴美や里緒を狙い、次に伯爵家の令嬢である霧葉を狙う。寛奈の学生証を餌にして私達を順番に呼び出そうと画策していた……。

 

里緒

 彼らは身分や立場を極めて冷静に品定めの材料にしていたのね。子爵家の私や貴美ちゃん、寛奈さんだけだったら……男たちは何の躊躇もなく襲いかかっていたでしょうね。それに……寛奈さんを餌にして私達まで呼び出して楽しもうとしていたなんて。飽きたら自分たちで『華族令嬢が本番のお相手をする高級秘密クラブ』なる悍ましいものを開いてそこで働かせるなどという恐ろしい計画まで立てられていたなんて……思い出すだけで身の毛がよだつわ。

 

友人A

 同性の視点から見ても、その分析は100%正しいと思うよ。欲望に目が眩んだ男というのは、相手の爵位の威光は理解しても、その家が持つ背景の恐ろしさまでは理解していないことが多い。『公爵家や侯爵家はヤバいが、子爵家の令嬢なら脅して動画でも撮ってやれば思い通りになる。伯爵家の令嬢だって同じようにうまくやれば思い通りになる』という歪んだ計算は、あの手の無知で卑怯な連中が最も好みそうな発想だ。殿下が描かれた脳内シミュレーションは、決して過剰な妄想などではなく、あの場に存在した悪意を完璧に言語化した『現実の鏡』なんだよ。

 

霧葉

 ……あの時感じた歌乃や貴美が感じたという気味の悪さが、この報告書の男たちのセリフと完全に一致していたなんて、本当に恐ろしい話ね。そう考えると男達が報告書に書かれていたような卑しい企みを頭の中で張り巡らせていたというのは……間違いなく、あり得る話だったわ。もし寛奈を手籠めにした後、あの学生証を餌にして里緒や貴美が呼び出されていたら……。私は寛奈や里緒、貴美を餌に呼び出されれば、罠だと分かっていても、友人を救いたい一心で向かってしまったかもしれない。そうしたら、あの凄惨な輪姦の被害者は寛奈一人じゃなく、私達全員になっていたのよ。

 

友人A

 寛奈さんのあの無防備さは、タガが外れた獣にとっては格好の標的だ。若宮様がお調べになって得られた結果を基に思い描いた惨劇のプロセス……あれは実際に一歩間違えれば、100%起きていた最悪の未来だよ。あの場にいた連中は、華族の令嬢という立場や無防備さに群がるハイエナそのものだったんだ。君たちは自分たちがどれほど危険な綱渡りをしていたか、若宮様の妄想という形の警告によって突きつけられたわけだ。

 

友人B

 このお話を聞いて震えが止まらないわ。もし香織たちがいなかったら、寛奈さんだけでなく、私の大切な友人たちが全員、薄暗い部屋で尊厳を削り取られ、一生消えない傷を負って、人生を終わらされていたかもしれないなんて……。

 

香織

 ええ。私達が『お持ち帰り未遂でしたわ』などと息巻いて抗議した裏で、事態は私達が想像していたよりもずっと、ずっと致命的な淵にあったんだわ。

 

友人A

 そうだね。君たちが公爵家や侯爵家の令嬢だから無事だったとか、そんな甘い連中じゃない。身分がバレれば面倒だと口では言いながら、欲情が勝てば何をするか分からないのがあの手の獣だ。本当に危なかったと思うね。間違いなく常習犯か、それに類する考えを持ったクズどもだ。今までも隙のある令嬢を見つけては、集団で食い物にし映像で脅して奴隷扱いしたり、そうでなくてもそれに近いことをして、公になる前に揉み消しているのかもしれない。お茶会の場で未遂に終わったのは、本当に君たちが必死に防波堤になったからだ。少しでも対応が遅れていたら、今頃どうなっていたか……。

 

香織

 そうね。若宮様はあいつらの言動と行動、私達の行動と寛奈の危うさをすべて計算し尽くして『起こり得た最も現実的な破滅』を可視化されたのね。その上で、私達全員が危機に瀕していたことを警告してくださったのよ。寛奈を守ったつもりでいたけれど、一歩間違えれば、私達全員があの悍ましい記録映像の犠牲者になっていた……。その事実を、私達は深く心に刻まなければならないわ。将来結ばれるべき政略結婚の相手や、家同士が決めた婚約者がいるなら、猶更よ。私たちが襲われそんな目に遭わされたら、その相手の名誉すらも泥に塗れるのよ。私たち華族子女の貞操は自分だけの貞操という個人の問題では済まされないの。相手の男性の顔にも泥を塗り、一族の歴史に消えない疵を残すわ。

 

友人A

 男たちは、その重みを一切理解せずに、ただの『お遊び』で君たちを消費しようとしていたのか、それとも、だからこそ公にできないと踏んだのか。僕としては後者の気がするな。

 

霧葉

 恵梨子様はメッセージの中で、「私も兄様から聞かされた惨劇が具体的過ぎて、うっかり寛奈の立場に自分を置き換えちゃって私が襲われたみたいな恐怖を感じた」とおっしゃっていたわね。「貴女達も寛奈を我が身に置き換えてゆっくりじっくりと味わいなさい」そして「意中の人がいたら、寛奈が呼ぶ兄様の名前をその方のお名前に変えてもいいと思うわ」とも。

 

香織

 そうね。恵梨子様が私達全員にこの『我が身への置き換え』と『意中の人への置換』を求めた意味は、立場によっていくつかの重層的な意味を持っていると思うの。

 

歌乃

 意中の人に置き換えさせる意味の一つは、自己嫌悪と罪悪感を極限まで引き上げるためね。

 

里緒

 それはすごく残酷だけど、でも痛烈な意味があると思うの。

 

貴美

 どういうことかしら? 

 

里緒

 私達も寛奈と同じ年の令嬢でしょう? もし自分がその場に一人で置かれ、男たちに服を剥ぎ取られて凌辱されたら……そして、必死に救いを求めて叫ぶ相手が自分の『意中の人』だったら? それなのにその人は来ず、助けてもらえないまま身も心もボロボロに破壊される恐怖と絶望……。それを我が身として想像させることで、寛奈さんが被るはずだった惨劇の真の重さを、私達に骨の髄まで理解させようとされたのよ。恵梨子様は『意中の人がいたら兄様の名前を貴女達の意中の人に変えてもいいわね』とも提案なさっていたでしょ? 私、ふと自分の意中の人に置き換えて考えてみたの。……絶望の中で『助けて』って叫んでも、大好きなその人は来てくれない。汚され尽くして『彼との大切な身体なのに汚されちゃった』って、苛烈な罪悪感と自己嫌悪で心が壊れていく……。それって、肉体的な暴行以上に、魂を殺されるような絶望だわ。

 

霧葉

 我が身への置き換え……私も試してみましたが、途中で耐えきれなくなったわ。自分が薄暗い部屋で服を引き裂かれ、何人もの男たちに無理やり身体を開かれ、恥部や口内を汚される感覚……。そして何より、助けを求めて大好きな人の名前を叫び続けているのに、誰も来てくれない絶望。自分が汚されていく恐怖と屈辱で、精神が狂いそうになったわ。

 

香織

 私も自分を寛奈の立場に置き換えて読んだら、あまりの恐怖に血の気が引いたわ。それに恵梨子様は『意中の人がいたら兄様の名前を意中の人に変えてもいい』なんて書いていらしたけれど、それって恐ろしい意味があるのよ。助けを求めて必死に名前を呼び続けたのに、その一番信頼している大好きな人が最後まで現れず、汚され尽くしてしまうという絶望の深さ……。自分の愚かさを責めて自己嫌悪に陥り、光を失っていく過程まで描くなんて、若宮様の思考の冷徹さに寒気がするわ。

 

歌乃

 もし……私が寛奈ちゃんの立場だったら、そして助けを呼ぶ名前を私の意中の人に置き換えたとしたら……。いくら叫んでも大好きな人は現れず、身も心もボロボロに汚されてしまう。その後に押し寄せるのは、『大切な人のために取っておきたかったのに汚されてしまった』という激しい自己嫌悪と罪悪感よ。さらに『こんな醜く汚された姿を彼に見られたら、絶対に軽蔑されて捨てられてしまう』という極限の恐怖に支配され、それがあるからこそ、脅迫されても誰にも相談できず、一人で闇を抱え込んで何度も呼び出しに応じることになるわ。そうなったら、私も腰を振り嬌声をあげ続ける肉人形になってしまうかもしれない。

 

友人B

 私とAの場合、恋人同士だからその意味がより残酷に刺さったわ。もし私が寛奈さんの立場で……あの暗い部屋で男たちに囲まれて、襲われながらAの名前を必死に叫んでいるところを想像したら……。貴方に助けてほしいと心から願うと同時に、こんな醜く汚された姿を貴方に見られたくない、知られたくないという裂けるような葛藤に苛まれる。そしてそして助けに来てくれない貴方に対しても、勝手に絶望を感じてしまうかもしれない。絶望の中で身体を汚され、録画され、脅されて……。貴方に知られたら嫌われてしまう、捨てられてしまうっていう恐怖で、誰にも言えずに呼び出しに応じ続ける。想像しただけで吐き気がするわ。もしそうなったら、私はもう二度と貴方に顔向けできない。自分が汚れた存在になったと思い込んで、貴方を巻き込まないために一人で地獄に堕ちる道を選ぶと思う。

 

友人A

 僕が置き換えて考えたのは、もし僕がBを助けに行けなかったら、ということだ。恋人のBがあんな目に遭っているのに、自分は何も知らずに過ごしていて、救い出すこともできずに何も知らずに過ごし、君が脅されて何度も地獄を味わわされて、心が死んでいく。男にとって、大切な人を守れず、その人が汚されるという想像は、己の無力さを突きつけられる最大の精神的拷問だ。後になってその真実をすべてを知ったら……。僕は相手の男たちを絶対に生かしておかない。社会的な抹殺どころか、物理的にこの手でその男たちを全員この世から消し去ってやりたいと思うはずだ。でもそうしても、映像を撮られて脅されている君を心から救えるかと言われたら……現代の法やしがらみの中で、僕みたいな一般の学生に何ができる? 絶望しかない。……僕なら、加害者を殺したら自分も死ぬかもしれない。……僕みたいな一般の学生でさえそう思うんだ。若宮様が、どれほどの激情と殺意をこの『妄想』に込めたか、痛いほど理解できる。ご自分の脳内で『照仁様』と叫ばせながら助けに行けない惨劇を描いたこと自体、殿下ご自身にとっても苛烈な自傷行為だったはずだ。

 

貴美

 若宮様は、寛奈が汚される肉体的な恐怖だけでなく、その心が壊れ、自分への信頼を失っていくプロセスのすべてを思い描いていらした。それほどまでに寛奈を愛し、同時に『万が一にも守り切れなかった場合、自分自身が寛奈を絶望に突き落とす存在になり得る』という自責と狂気の深さを、私達に見せつけたということよ。

 

里緒

 ……それが、若宮様下の狙いなのね。ただ『危なかったぞ』と言葉で注意するだけでは、私達はどこかで『でも、何も起きなかったし』と高を括ってしまっていたかもしれない。でも、この極限の恐怖と、大切な人を失う、あるいは大切な人に絶望されるという内面の崩壊を『自分の事として』疑似体験させることで、二度とあんな隙を見せないように、私達の魂に直接恐怖を刻み込んだのよ。

 

友人B

 恐怖? 

 

里緒

 ええ。私達は『寛奈はおっちょこちょいで隙だらけ』『私達が守ってあげなきゃ』と、どこか高みの見物をしていた。でも若宮様は『お前たちが相手にしていたのは、一歩間違えればお前たち自身の人生と尊厳すらも地獄の底へ叩き落とす本物の悪意だ。その危機感を持て』と突きつけているのよ。自分事として置き換えさせることで、私達がどれほど薄氷の上を歩いていたかを骨の髄まで叩き込もうとされたのね

 

歌乃

 侯爵家の娘である私や、公爵家の香織ですら、権力に守られた安全圏にいるとは限らない。男達に「ヤバい』と言われつつも、女としての尊厳を暴力で破壊され、映像という鎖で繋がれれば、爵位など何の意味も持たなくなる……。この置換の考察は、華族令嬢としての私達に、自らの立場と肉体が持つ危うさを自覚させるための猛毒の劇薬だわ。『自分の不注意のせいで、愛する人に純潔を捧げられなくなった』『汚れた自分を見られたくない』という心理こそが、被害者を孤立させ、加害者の意のままに操られてしまう最大の弱点になる。その心の動きを私達に理解させるため……。本当に恐ろしい方ね。……でも、おかげで目が覚めた。私達は華族の娘。一歩間違えれば、家格や財産、あるいはただの欲望のために、あの男たちのような獣にいつでも狙われる立場なんだって。

 

霧葉

 Bも含めて寛奈や私達「華族子女」の立場から見れば、これは徹底的な『防犯意識の植え付け』と『当事者意識の喚起』よ。寛奈があれほど無防備なのは、若宮様から守られていることに慣れすぎているからよ。私達も普段、華族という庇護された環境で平和に暮らしているけれど、一歩外に出れば自分たちの容姿や立場を狙う悪意に晒されている。私達友人にも『もし一歩遅れていたら、貴女たち自身にもこれほどの惨劇が降りかかっていたかもしれない』と我が身に置き換えさせることで、今後の防衛意識を強烈に高めさせようとしたのよ。

 

香織

 そうね。寛奈の事件を「可哀想な他人の不幸」として客観視していたら、「大変だったわね」で終わってしまう。でも、己の肉体が引き裂かれ、大好きな人に顔向けできなくなる絶望として骨の髄まで味わえば、二度と隙を見せない防壁になれるわ。

 

貴美

 そして「守る側」である私達の立場から言えば、これは『油断に対する苛烈な警告』ね。私達は必死で寛奈を守ったつもりでいたけれど、若宮様から見れば「ガードが甘く、一歩間違えれば惨劇が起きていた」のよ。もし私達がガードを怠れば、自分や大切な友人がどんな地獄に落ちるか。自分の意中の人の名前に入れ替えて想像させることで、大切な存在を永遠に失う恐怖を追体験させ、二度と二の舞を演じさせないためのトラウマを刻み込んだのよ。

 

香織

 ええ……。恵梨子様ご自身が味わったそのあまりの衝撃と絶望を、私達にも正確な熱量で共有させることで、私達を本当の意味で「寛奈を完璧に護衛する同志」に引き上げようとされたのだわ。

 

貴美

 やはり恵梨子様が『我が身に置き換えてゆっくりじっくりと味わいなさい』とおっしゃったのは、単なる意地悪やイタズラ心ではないわね。寛奈の無防備さが招き寄せたかもしれない凄惨な未来を、親友である私達にも共有させて防衛意識を叩き込むためだったのよ。

 

香織

 ええ、複数の立場からの考察ができたわね。寛奈の立場からすれば、信じていた存在に見捨てられたという極限の精神的崩壊。若宮様の立場からすれば、最も大切な『掌中の珠』を理不尽に踏みにじられた激痛と、守り切れなかった自己への苛烈な罰。そして私達友人の立場からすれば、一瞬の油断で大切な親友を永遠に失うという悔恨……。恵梨子様ご自身も、自分が襲われたかのような恐怖を感じつつ、その多角的な重圧を私達に投げかけていらっしゃるのね。

 

歌乃

 それに、絶対的な守護者である若宮様の立場から見れば、これは『復讐の正当性の共有』という意味もあるわ。若宮様が計画した加害者一族への凄惨な社会的抹殺は、一見すると過剰で冷酷に見えるかもしれない。けれど、意中の人が踏みにじられ、精神を破滅させられる絶望を共有させられることで、誰もが「あの男たちと一族に下される苛烈な裁きは当然の報いであり、至極正当なものだ」と納得せざるを得なくなるのよ。

 

里緒

 あとは、恵梨子様ご自身の「巻き添え事故の腹いせ」よ。朝一番に若宮様からこの濃密で凄惨な「地獄の台本」を朗々と聞かされて、ご自分の精神が崩壊しそうだったのよ? その恐怖を一人で抱えきれず、元凶である寛奈さんを守りつつも隙を作った私達をトラウマ回避と毒抜きの『道連れ』としたんだと思うわ。「自分が襲われたみたいな恐怖」を感じた恵梨子様が、「私ばかりがこんな恐怖を味わわされるのは納得がいかないから、報告元である貴女達も同じ恐怖を味わいなさい」という道連れの心理も少しはあったと思うわ。

 

香織

 それは……ええ、ありそうね。そして、恵梨子様のメッセージで触れられていた言葉……「これって龍珠破砕・逆鱗触犯よね」という部分について議論しなければならないわね。若宮様が頭の中で組み上げた「寛奈を壊した一族の社会的・歴史的存在抹殺計画」の全貌……あれは単なる激昂による私刑などでは決してないわ。

 

歌乃

 恵梨子様のメッセージの最後にあった『龍珠破砕・逆鱗触犯』という言葉……あれは本当に的を射ているわ。京極宮家の若宮様である照仁王殿下という巨大な龍が、その顎の下に隠し持ち、決して他者に触れさせない至宝たる龍珠。それが寛奈ちゃんよ。

 

里緒

 ええ。その至宝である寛奈さんを、ただの遊び半分で連れ出し、集団で暴行し、複数回にわたって犯し続けて精神まで破壊する行為そのものが、神話における『龍珠破砕』です。龍の生命であり誇りでもある宝玉を無造作に踏み砕く行為に他なりません。古代の神話において、龍の顎の下にある秘宝「龍珠」を砕き、護衛者たる龍の「逆鱗」に触れることがどれほどの禁忌とされてきたか。寛奈さんは、若宮様にとって文字通り代わりのきかない「掌中の珠=龍珠」なのにそれを集団で凌辱し、何度も犯し続けて精神まで壊す行為は、明確な『龍珠破砕』に他なりません。

 

貴美

 さらに悪質なのは『逆鱗触犯』の態様よ。単に肉体を汚すだけでなく、その屈辱的な姿をカメラに収めて映像として残し、脅迫の道具にした。そして捕まった際、次男が放ったあの言い訳……「相手だって途中から自分から来るようになったし、やってる時は自分から腰を振って動いてるから楽しんでたように見えた」という言葉! 恐怖と絶望で精神が壊れ、拒絶する気力すら失った寛奈の惨状を「楽しんでいた」と歪曲し、彼女の尊厳を二重三重に傷つけた。若宮様の前でそれを口にすることは、龍の逆鱗を塵芥のように扱う行為に他ならないわ。あれこそが、触れてはならない龍の逆鱗を直接踏みにじる行為だったのよ。

 

香織

 若宮様にとって、寛奈は婚約者候補とか幼馴染とか従妹とか、そういう次元を超越している存在よ。幼少期から異性を近づけず、鉄壁の防壁を築いて守り抜いてきた『隠された至宝』なの。その彼女の心と身体を壊し、あまつさえ『楽しんでいた』などと嘯くことは、若宮様の愛に対する最大の冒涜であり、逆鱗を撫で斬りにするような行為だわ。神話の龍が最も激怒する禁忌そのものよ。龍珠を砕くこと、そして龍の逆鱗を犯すこと……それは人界の法律で裁く以前の、絶対的な禁忌よ。

 

友人A

 男の立場から言っても、あの次男の「楽しんでいたように見えた」という弁解は最悪の地雷だったね。性加害者が自己保身のために使う典型的な言い訳だが、相手が若宮様の最も大切にする至宝だったんだ。自分の犯した罪の重さも、相手の血筋の意味も理解していなかった愚者が、龍の逆鱗を逆なでした結果として、一族ごと歴史から消去されるという極限の因果応報を引き寄せたんだよ。

 

友人B

 神話の神様に直接呪われたとしても、あそこまでの恐怖はないわ。罰を与えるというレベルではなく、存在そのものを歴史の表舞台から消し去るという発想自体が、人間というよりは荒ぶる神の裁きそのものよ。この世で最も怒らせてはならない存在を怒らせてしまったのね。

 

友人A

 龍珠を砕かれ、逆鱗に触れられた龍が、怒りのままに男たちの一族の存在そのものを根絶やしにするのは、神話の論理としては完全に正しい。神話において、龍の逆鱗に触れた者はどうなる? 一族郎党皆殺しだ。若宮様の脳内で展開された報復劇は、まさにそれだ。物理的な命を奪うのではなく、家系図の改竄と存在の歴史的抹殺という、現代社会における最も凄惨な『皆殺し』だ。

 

霧葉

 男たちが軽い遊びのつもりでやった行為が、神話的禁忌に触れる大罪だったわけね。彼らは自分たちがどれほどの存在に手を出していたのか、全く理解していなかった。寛奈が壊されたという事実と、その責任を転嫁する言い訳。その二つが揃った瞬間、若宮様の報復は、人間の法の枠を超え、神話における『祟り』や『神罰』の領域に達したのね。だからこそ、あの報復計画があれほどまでに徹底的で、冷酷なものになったのでしょうね。

 

歌乃

 若宮様を怒らせた代償として用意された「社会的・歴史的存在抹殺」の手口の冷徹さといったら……。加害者である次男本人を処罰するにとどまらず、民法上の六親等に及ぶ親族全員の戸籍と財産を書き換え、本家の華族籍を剥奪し、データベース上の苗字を改竄する。さらには菩提寺の過去帳や家系図まで差し替えさせ、「明治の初めにこの名誉ある断絶した家系図を背乗りした不法乗っ取りの詐欺師一族」という朱文字の注釈を刻み込むなんて……。

 

里緒

 先祖代々の墓にあった墓誌を砕き、新たな墓誌はある時期以降の先祖の名を全て消し去る……。墓地を別の地に移動し、消した先祖の名をそこの墓誌に刻む。これって、単なる戸籍の改ざんというレベルの話じゃないわ。国家そのものが、彼らの存在を『歴史的な詐欺』として認定するということよ。命を奪うような生ぬるい暴力ではなく、「最初からこの社会に存在しなかった詐欺師の末裔」として、一生世間の底辺で呪われながら生きさせるのよ。死ぬことよりも遥かに恐ろしい地獄だわ。若宮様は公的な権力と法を用いて、加害者の一族そのものを歴史から消去するという完璧な復讐を思い描いたのね。……次元が違いすぎるわ。

 

霧葉

 恐ろしいのは、もしこの惨劇が現実になっていたら、巻き込まれた遠縁の親戚たちの運命ね。普段は連絡も取っていないようなはとこや遠い親戚まで、たった一人のろくでなしの愚行によって「詐欺師の一族」に落とされ、人生を壊される。怒り狂った親族が身分回復を求めて裁判を起こすか、次男一家に殴り込みに行くのは火を見るより明らかね。

 

里緒

 恵梨子様は、遠縁の親戚たちが人生を壊されて身分回復を求める裁判を起こす可能性について言及しておられましたわね。ですが、その裁判の結末は最初から目に見えています。

 

香織

 ええ、裁判を起こしたところで、絶対に勝てないわ。どれほど証拠を揃えようとも大学や学会、博物館といった権威ある機関が揃って「あなたたちは詐欺師の末裔である」と証言し証拠は全て『精巧な捏造品』扱い。よくて『真贋不明の偽造文書』と鑑定されて一蹴されるだけ。裁判を起こせば起こすほど、自分たちが詐欺師であるという判例と公式記録が積み重ねられていき、公的に「詐欺師の一族」であることが強固に証明されていくだけだわ。

 

友人B

 そ、そんなことが許されるの?

 

霧葉

 六条家の現当主である寛奈のお祖父様の存在を忘れてはならないわ。現当主であるお爺様は、伏水宮系の諸宮家を束ねる京極宮慶仁王殿下の乳兄弟よ。戦後、華族の地位を失った旧華族が復権を図ろうとする中で、それを良しとする華族と否とする華族の思惑の統制を10代の頃から行いつつ、冷徹な宮内官僚との折衝を重ねてきた傑物よ。桑名の悲劇で心に傷を負った京極宮慶仁王を「悲劇の宮」として祭り上げようとする世間から、乳兄弟として他の宮家と協同して守り抜いてきた実績を持つ、一介の宮家令には収まらないほど、他の宮家と強いつながりをお持ちの方なの。

 

歌乃

 だから公文書館や宗秩寮と言った官僚組織は当然、大学、学会、博物館、法曹界。表の公安組織から裏社会のフィクサーまでありとあらゆるところに伝手があるのよ。そんな歴戦の化け物みたいな当主が、手塩にかけて育てた最愛の孫娘を獣どもに踏みにじられ嬲り者にされた挙句精神を壊されたと知ったらどうなるか……。自分の最愛の孫娘を嬲り者にした一族の言い分など、一言も聞くはずがないわ。当然裁判なんて起こせるはずがないわ。裁判を起こした瞬間に、獣風情がまだ抗うかとその者の残された細い命綱すらも断ち切るもの。若宮様だけでなく、六条家のお爺様まで本気で怒らせたら、この日本に加害者たちの逃げ場なんてどこにも存在しないの。

 

里緒

 そんな家の令嬢であり、若宮様が幼少期から『掌中の珠』として溺愛して誰一人近づけなかった寛奈さんに手を出すなんて、虎の尾を踏むどころの話ではありませんわ。六条家の恐ろしさを、あの成り上がり者たちは理解していなかったということです。

 

友人A

 さっき、あの手の成り上がりや無知な連中は、相手の爵位は理解してもその家が持つ背景の恐ろしさを正しく理解していないことが多いって言ったけど、その通りだったってわけだ。

 

貴美

 そう考えると地方の没落しかけた一族が勝てる勝負なんて、最初から存在しないわ。裁判を起こせば起こすほど、自分たちが『詐欺師の一族』であることを公式に確認されるだけよ。結果として、遠縁の親戚たちは身内同士で『お前たちの家のぼんくら次男のせいで!』と永遠に泥沼の呪い合いと互いの潰し合いを続けることになるわ……。若宮様は、それすらも織り込み済みで『せいぜい身内同士で呪い合って生きるがいい』と考えていらっしゃるのよ。

 

友人B

 でも、そんな大規模な公文書の改竄や一族の抹殺を、他の宮家や華族たちが黙って見過ごすのかしら? 日本は法治国家でしょう? いくら宮家や若宮様だからって、公文書や家系図を勝手に書き換えて、一族全員を『詐欺師の偽物』に仕立て上げるなんて……!

 

香織

 ええ、権限のない個人がそれを行えば、公文書偽造や私文書偽造の罪に問われるでしょうね。でもこれを行うのは宮家であり、その意を汲んだ国家機関の上層部なのよ? 権限のある国家機関が公文書の改ざんをする、それは改ざんではなくて単なる不備の訂正になるわ。華族の当主たちや高位の官僚たちは、これが殿下の『復讐』であることを察知するでしょうね。加害者側の男子の家はもちろん、後ろ盾となっていた伯爵家すら『家系図の偽造が発覚した』として華族籍を剥奪され除籍されたのだから。でも手出しは一切しない。六条家は単なる子爵家ではなく、京極宮家の藩屏であり、六条のご当主様は裏も表も知り尽くした重鎮。そんな存在の『至宝』である寛奈を傷つけ蹂躙したのだから、関わりを持てば自分たちの家まで巻き込まれかねないわ。だから、即座に蜥蜴の尾切りとして完全に孤立させるでしょう。当然全華族が加害者一族を即座に見限るわ。

 

霧葉

 ええ。『あのような野蛮な騙り者の一族など、最初から華族社会の仲間ではない』と切り捨てて終わりね。それどころか、積極的に協力するに決まっているわ。礼節や道義を重んじる華族や宮家が、子爵家の令嬢を集団で凌辱しただけでなく精神すら破壊した大逆無道の性犯罪を犯した下劣な一族に味方するはずがないもの。大逆無道の性犯罪を犯し、若宮様の至宝を傷つけた愚者の一族に味方すれば、自家まで『同調者』として巻き込まれ、歴史から消されかねないから。

 

香織

 華族社会というのは、そういう残酷な自浄作用を持っているのよ。誰かが泥をかぶった時、手を差し伸べるのではなく、自分たちにその泥が跳ねないように一斉に切り捨てる。一致団結して「我が家はそのような不敬な者たちとは一切関わりがない」と粛清を支持するはずよ。若宮様の冷徹な狂気に怯えつつも、自らの地位を守るために徹底的に加害者一族を排除する動きに出るわね。どの華族も我先にとその次男の一族との関わりを絶つわ。それどころか、彼らが『詐欺師の一族』であることを自ら吹聴して回るかもしれないわ。

 

里緒

 華族社会は一見華やかですが、その実態は自己防衛と血統防衛のための極めて冷酷な連帯責任社会です。事件が表沙汰になる前に、主だった華族や宮家が連携して、加害者一族を社交界・政財界から完全に追放し、存在そのものを『無かったこと』にするでしょうね。

 

歌乃

 宮家の方々も同様ね。神聖なる宮家の権威とその藩屏を冒涜した加害者に対して、一切の情けをかけることはないわ。

 

友人A

 華族や宮家の動向とは、個人の感情を超えた体制防衛の冷徹な機構そのものだ。待っているのは情け容赦のない排斥運動だね。寛奈さんという『若宮の隠された至宝』に手を出すことは、華族社会全体に対する反逆と見なされるわけだ。結果として、加害者一族は法的な庇護も社交界の庇護も一切失い、孤立無援のまま歴史の闇に沈められる。

 

霧葉

 そして同時に、各家では子女への教育がこれまで以上に厳格化されるわね。

 

里緒

 間違いなく、夜会やお茶会における護衛の数や監視の目が跳ね上がりますね。私達自身も、これまで以上に自由な行動が制限されることになるでしょうけれど……この惨劇の可能性を知った今となっては、文句など言えません。

 

香織

 それと、公文書が個人の意思で書き換えられるという事実……それは、一歩間違えれば自分たちも同じように歴史から消されるという強烈な恐怖のメッセージになるわね。

 

友人A

 表向きは『正当な歴史の訂正』として受け入れつつ、裏では宮家の逆鱗に決して触れてはならないという暗黙の掟が社交界を支配することになるのか。殿下は、復讐を遂げると同時に、壊されてしまった寛奈さんの周囲から一切の害意を排除するための完璧な防壁を築き上げたということになるのかな。

 

友人B

 一般大衆への影響はどうなるの……? 戸籍や国家データベースが裏で書き換えられるなんて、一般の人々からすれば見えない恐怖以外の何物でもないわ。

 

友人A

 一般大衆に至っては、何が起きたのかすら認識できないだろうね。データベースや公文書が書き換えられればニュースや新聞で、ある日突然『名門を騙っていた不法乗っ取りの一族が摘発された』と報じられるだけだ。近所の名士だった一家が『実は血統を詐称していた詐欺師集団だった』というニュースや噂が流れ、あっという間に社会的信用を失って没落していくのを見るだけだ。大衆はそれを真実として受け入れ、疑うことすらない。いや、できない。確たる証拠が何もないからね。せいぜい怪しげな三流紙が面白おかしく書き立てるだけだ。

 

貴美

 真実を知っているのは、計画を実行した当事者たちと、見せしめとして生かされた加害者一族だけ。誰にも信じてもらえない絶望の中で生きていくなんて、死ぬこと以上の地獄よね。

 

友人A

 権威ある者たちが『これが正しい歴史だ』と提示すれば、それをそのまま信じ込む。スキャンダラスな没落劇として消費し、『やっぱりあの一族には胡散臭いところがあった』と後付けで納得するだけだよ。権威と国家が歴史を捏造・改竄することの絶対的な恐怖がここにある。

 

貴美

 単なる復讐心ではなく、愛する者を冒涜された神が世界そのものを造り変えるような、底知れぬ恐ろしいまでの愛情だわ。

 

歌乃

 ……宮家の人間として、自らを神罰の代行者と見立てた狂気的なまでの正統性の主張ね。しかも、若宮様はそれを感情的な暴走ではなく、お茶会の参加者の詳細な報告を受けてからのわずか一時間で、宮家としての権能と官僚的な冷徹さをもって完璧に組み立てたというのだから……。

 

香織

 もうそこには触れないほうが良いわね。ということで話題を変えましょう。Bさん、どうぞ。

 

友人B

 え? いきなりそんなこと言われても……あ、若宮様の計画に出てきた『重禁錮300年』という判決よ。あれ、ありえない数字よね……。

 

香織

 ええ、加害者一族への抹殺計画も恐ろしいけれど、報告書に書かれていた「重禁錮刑」やその求刑年数についても、驚くべき考察が成り立つのよ。恵梨子様のメッセージにもあったけれど、重禁錮刑というのは、私達が日常で目にする通常の禁錮刑とは全く異なる極刑に近いものなのね。

 

貴美

 ええ。規則正しい就寝と起床、金網で覆われた狭い庭がついた独房に閉じ込められ、労働の機会すら一切与えられない。外に出られるのは一日二時間、金網越しの庭で運動する時だけ。食事は一日六合の麦飯と味噌汁、固形塩と一品だけのおかずで、娯楽もカレンダーすら与えられない。ただ金網に止まる鳥を眺めて過ごすだけの生き地獄……。

 

歌乃

 そして何より驚愕すべきは、Bが言ったように次男に言い渡された「重禁錮300年」というあり得ない数字よ! 恵梨子様は最初『架空の裁判官の判決とはいえ馬鹿じゃないの』って呆れていたけれど、結局は古代の『三代にわたる贖い』を現代法に完璧に翻訳したんだって気づいて戦慄していたわね。一代百年と考えて三代で300年……まさに龍の逆鱗に触れた者の末路だわ。

 

霧葉

 ええ。何もすることが許されない独房の中で、ただただ時間が過ぎるのを持て持てあまし、自分の犯した罪の重さと、失った一族の未来について、無限に続く静寂の中で考え続けるしかない。それは死刑よりもはるかに重く、残酷な拷問よ。若宮様は、あの次男の精神が完全に崩壊するまで、その重禁錮刑という名の地獄に縛り付けるつもりだったのね。

 

友人A

 昭和21年の詔書にある『神聖なる祭祀を主宰する者』に連なる一族として、若宮様は本気で『神罰』を下すつもりでこのシステムを構築したってことか。頭が良すぎる人間の怒りというのは、ここまで冷徹で、狂気を帯びるものなのか……。

 

友人B

 ……ねえ、恵梨子様がメッセージの最後に書き添えていた「惨劇と復讐を終えた後の若宮様と寛奈さんの姿」の妄想……あれも思い出すと鳥肌が立つわ。救いがあるようでいて、完璧な狂気と執着に満ちていたわね。

 

友人A

 すべての復讐を完了し、一族を地獄へ叩き落とした若宮様が戻る、外界から完全に隔絶された奥深い一室の場面だね。そこには恐怖で小さく身を縮めている寛奈さんがいて、若宮様は冷酷な顔から昏い慈愛の微笑みに変わり、「もう大丈夫だ、君を汚した悍ましい羽虫どもはその羽も脚も、すべて毟り取って泥に沈めておいた」と優しく語りかける。

 

里緒

 ……あれも胸に刺さったわ。外の世界から断絶された京極宮家の奥深くで、恐怖に怯える寛奈さんを抱きしめて『二度と君の視界に入ることもない』って優しく囁く若宮様……。

 

霧葉

 傷ついた寛奈を外界から完全に遮断された宮家の奥深い部屋に秘匿し、『もう泣かなくていい、これからは僕だけを見て僕の与える呼吸と共に生きていくといい』って語りかける姿ね。精神を病み、他人を拒絶するようになった寛奈を、二度と誰の目にも触れぬよう龍の顎の奥深くへ永遠に隠匿し、自分だけのものとして愛し続ける……。

 

香織

 恵梨子様の予想だとしても、恐ろしいほど解像度が高いわ。若宮様なら、本当にそうされる。寛奈が汚されて壊れてしまったら、普通なら遠ざけるでしょう? でも、若宮様は違う。壊れた寛奈を丸ごと受け入れ、二度と誰の目にも触れない『顎の奥深く』へ永遠に隠匿し、自分だけのものにする……。

 

貴美

 もし本当にあんな凄惨な事件が起きていれば、寛奈の心は二度と元には戻らなかったはずよ。他人に触れられるだけで怯える彼女にとって、絶対的な安全圏である若宮様の腕の中しか、もう生きる場所は残されていなかった。あの報告書で若宮様は、自分が彼女の『唯一の世界』になることを、悲しみながらもどこか受け入れているように見えたわ。

 

香織

 寛奈を生涯愛し、守り抜くという誓いが、彼女の自由を完全に奪い、永遠の檻に閉じ込めるという形で結実する。あんな凄惨な目に遭わされた後で、若宮様の底知れぬ慈愛に触れたら、寛奈はもう若宮様以外に依存できなくなるわ。若宮様は、それすらも計算しているのかもしれないわね。

 

貴美

 ……恐ろしいけれど、どこか美しいとすら思えてしまうのが悔しいわね。若宮様のあの深淵のような慈愛と執着を知っていれば、納得できてしまうのが一番怖いわ。穢れから守るという名目で、二度と誰の目にも触れないよう、龍の顎の奥深くへ永遠に隠匿してしまう。それは残酷な隔離のようにも見えるけれど、完全に壊れ果てた彼女にとっては、唯一の救済でもあったのね。それこそが、若宮様の執着であり、究極の愛の形なのだと恵梨子様は確信しておられたのね。

 

霧葉

 そうね。正常な愛では、もう壊れた器を満たすことはできないのだから。壊れてしまった寛奈にとって、絶対的な力で仇を討ち、すべてから隔絶して守り抜いてくれる若宮様のその狂気だけが、唯一の救済になっていたのも事実よ。

 

香織

 傷ついた寛奈は、最初は他人を拒絶して心を開けないかもしれないけれど……若宮様が与える深い愛と安心感の中で、少しずつ心を取り戻していく。だって元々愛していたんだもの。やがて健やかな子どもが生まれれば、誰も文句を言えなくなる……。まさに『破砕された龍珠を、龍の顎の奥深くへ永遠に隠匿する』という結末ね。

 

歌乃

 もしそんなことになったら、寛奈ちゃん自身も二度と私達の前に姿を現さなくなってしまう……。若宮様の愛の深さと狂気の背中合わせな性質を思い知らされたわ。

 

香織

 ええ。未遂で終わって本当に良かった。私達は、寛奈を守り切ることで、寛奈の尊厳だけでなく、日本社交界の平和と、ひとつの名門一族の歴史的消滅をも未然に防いだのかもしれないわね。

 

歌乃

 本当にそうよ。あの時、私達が身を挺して男子たちを追い払って大正解だったわ。もし一歩遅れていたら、今頃この日本で『古代神話の祟り』が現実のものとして執行されていたんですもの。

 

友人B

 寛奈さん本人は相変わらず無自覚で、自分の胸元がどれほど危険な凶器になっているかも分かっていないけれど……。

 

貴美

 寛奈を守り抜いたことは、その未来を救っただけじゃなくて、若宮様をあの底なしの狂気と神罰の執行者から引き留め、彼らの『正常な愛』を守り抜いたことでもあったのね。

 

里緒

 そうね。寛奈さんの周囲に私服の女性警衛官が専属でつくことになったのも、痛いほど納得できるわ。若宮様はもう、一秒たりとも寛奈さんに危険を近づけさせたくないのよ。私達も、これからは今まで以上に気を引き締めなければならないわね。私達がどれほど危うい綱渡りをしているのか、絶対に忘れてはいけないわ。

 

霧葉

 ……私達が若宮様のもとに怒鳴り込んで『甘やかして野放しにするな!』ってお説教した時、若宮様が一切反論せずにじっと耐えて頭を下げてくださって、本当によかったわ……。もし私達が防ぎ切れていなかったら、寛奈だけでなく、私達やあの一族全員が神話の惨劇の当事者になっていたのよ。

 

貴美

 本当にね。あの私達の直談判は、寛奈を守るためでもあったけれど、結果として自分たちの平和と一族の存続を守るための正解だったわけね。

 

友人B

 それにしてもこんな話聞いたら、今後、寛奈さんを見る目が絶対に変わっちゃうわね。『この子が触れたら一族が滅ぶ龍の逆鱗……』って。

 

友人A

 僕もこんな話聞いてしまったら、もう他人事じゃなくなったよ。僕も男子の動きには注意して怪しい噂を掴んだら君たちに伝えるよ。もちろん危険のない範囲でだけど。

 

友人B

 ええ。私も貴方達がいないところでは寛奈さんの周りに気を付けるわ。私もAと同じく危険のない範囲でね。

 

香織

 ええ。お願いね。

 

貴美

 ……ふぅ、話しているだけで喉が乾いて仕方がなかったわ。香織、あのおいしそうなお菓子と紅茶、そろそろいただいてもいいかしら? 

 

里緒

 賛成! 巻き込まれたお二人も、ほら、遠慮しないで召し上がれ。

 

友人A

 ……じゃあ遠慮なく、いただきます。……あ、これおいしいね。

 

友人B

 ……あ、本当にこれおいしいわね。

 

(華やかな紅茶の香りがサロンに広がり、集った友人たちの少し疲れた、けれど晴れやかな笑い声が静かに響き渡った)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

恵梨子の追加メッセージ

 

 ……もう色々と話し合ったかしら?

 朝はショックで気が付かなかったわ。兄様の妄想にあった寛奈のショーツ、レース地だったけど、寛奈が兄様と会う予定がある日以外にレース地のショーツを履いているのを見たことないのだけれど。

 多分兄様は蹴りを繰り出す寛奈の足を受け止めて、罰としてそのまま足を上げることが多いから色は問わないけど、寛奈のショーツ=レース地ってなっているわね。

 それに、寛奈の蹴り、意外とすごいわよ。添付した写真みたいに。

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 兄さまは軽く受け止めるから寛奈の蹴りは男に通用しないと思っていると思うのだけど。まあ集団で囲まれたら難しいから、あの惨劇には変わりないのかしら?

 

どう思う?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

香織

 恵梨子様からまたメッセージが届いたわ。「朝はショックで気が付かなかったけれど」って……恵梨子様、少し落ち着いたら途端に観察眼が冴え渡るのね。

 

貴美

 ……ほんとうね。でも、恵梨子様のこの指摘、ものすごく重要な事実が含まれていないかしら?

 

霧葉

 ええ。まず一つ目のショーツの件よ。「寛奈が若宮様と会う予定がある日以外にレース地のショーツを履いているのを見たことがない」……ということは、あのお茶会の日、寛奈が履いていたのはレース地ではなく、至って普通のシンプルなショーツだったということよね?

 

歌乃

 そうよ! 寛奈ちゃんったら、若宮様とお会いする日だけ、背伸びして綺麗で可愛いレースのショーツを選んで履いているのよ! 本人は無意識のつもりかもしれないけれど、どれだけ照仁様を意識して特別扱いしているか、これで丸分かりじゃない!

 

里緒

 ふふっ、本当に可愛らしいわね。でも、それに対して若宮様は……ご自身の脳内妄想の中で、寛奈さんの下着を「白のレース」と決めつけていらっしゃったわけね?

 

友人A

 男の僕がこの話題に口をはさむのは気が引けるけど……。つまり殿下の頭の中では「寛奈さんの下着=レース地」という固定観念が完全に出来上がっているんだね。殿下ご自身がこれまでに目撃したか、あるいは想像してきた寛奈さんの姿が、すべて「自分と会う日のレース地の下着の寛奈さん」だけだったから、どんな状況でも寛奈さんはレース地を履いていると思い込んでしまっているわけだ。

 

友人B

 なんだか……あんなに完璧で冷徹で、一族を歴史から消し去るような恐ろしい復讐計画を1時間で組み立てる若宮様なのに、寛奈さんの下着の好みを「常に自分好みのレース地」だと勘違いしているなんて、急にものすごい純情さと執着の偏りを感じてしまうわね……。

 

香織

 ええ。若宮様の完璧な知性と狂気の裏にある、寛奈に対するあまりにも一途で独善的な思い込みが露呈した部分ね。そう考えるとあの悲惨な場面もちょっとだけ微笑ましくすら思えてくるわ。

 

霧葉

 どこまでも罪深い脳内補正ですわね……。そして恵梨子様、さらに恐ろしい写真を添付してこられたわ。「寛奈の蹴り、意外とすごいわよ」って……これ、ご覧になって?

 

友人A

 ……うわ、すごいな。これ、外だと思うけどローファーの踵に金具まで打ってあるじゃないか。軸足もしっかり決まっているし、腰の入った見事な前蹴りとサイドキックだ。華奢な体格とはいえ、このフォームでアゴやみぞおちに喰らったら、素人の男なら一発で伸されるか悶絶するぞ。

 

友人B

 本当ね……! 鋭い目つきといい、スカートを翻してしなやかに脚を高く伸ばすフォームといい、まるで武道の師範みたいだわ。寛奈さん、こんな凄まじい蹴りを繰り出せるのね。

 

香織

 若宮様がこの蹴りを「軽く受け止めてあしらえる」のは、殿下ご自身が桁外れに武道に長けていらっしゃるからよ。だからこそ殿下の脳内では「寛奈の蹴り=男には通用しない可愛い抵抗」として処理されてしまっていたのね。でも、普通の成り上がり者やぼんくら息子が油断して近づけば、鼻骨を砕かれるか肋骨を折られるのがオチだわ。

 

歌乃

 ええ。もし最初に向かってきた男が一人か二人で、不意打ち気味にこの鋭い前蹴りを叩き込んでいれば、その場を突破して逃げ出せた可能性すらあるわね。

 

里緒

 けれど……恵梨子様がおっしゃる通り、密室で複数の男たちに囲まれてしまえば、一人が犠牲になって足首を掴まれた瞬間に組み伏せられてしまうわ。どれほど鋭い蹴りであっても、多勢に無勢の狭い室内では限界がありますもの。

 

霧葉

 そうね。足を掴まれ、見せつけるように広げられて押し倒されるというあの惨劇のプロセス自体は、残念ながら大きく変わらなかったでしょうね……。でも、若宮様が「寛奈は無力で抵抗すら可愛いもの」と思い込んでいたのに対して、実際の寛奈は土壇場で男の一人や二人を病院送りにするくらいの戦う気概と威力を持っていた……そこは若宮様のシミュレーションの唯一の「甘さ」であり、寛奈の意地と言えるかもしれないわ。

 

貴美

 ふふ、でも「寛奈のショーツは常にレース地」という点といい、「蹴りは軽々と受け止められるもの」という点といい、若宮様の脳内シミュレーションにはご自身の『寛奈体験』が色濃く反映されすぎていて、冷徹な狂気の中にもどこか歪んだ愛着が見え隠れしているのが、なんだか可笑しくもあり、恐ろしくもあるわね。

 

香織

 ええ。恵梨子様にもそうお返ししておきましょう。「寛奈の蹴りは想像以上に凶器ですが、あの密室と人数では惨劇を回避するのは難しかったでしょう。ですが、若宮殿下の脳内が『自分と会う時の寛奈』で固定されているというご指摘には、一同深く納得いたしました」ってね。

 

 

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