※この作品はR-18です。

陸仁王物語―異伝―   作:fire-cat

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外伝 恵梨子のとある世界の観察日記②

 綿密な取材があったと噂された照仁の妹、恵梨子の同人誌と、そこに掲載された、寛奈の隠し撮りを基に作成されたと噂される画像集を隅々まで熟読してしまった寛奈の友人たちは、その日から精神のバランスを完全に狂わせていた。寛奈の友人たちの平穏な日常を音もなく、しかし確実に瓦解させていった。

 同人誌のページをめくる指先が微かに震え、活字の隙間に描かれた官能の描写と、現実の寛奈の友人という近すぎる距離感が、彼女たちの脳内で奇妙に混ざり合う。夜ごと開かれる内輪の茶話会でも、話題は自然とその禁忌の領域へと引き戻された。

 

「ねえ、本当にあんな事していたわけ……?」

「でも、あの挿絵の若宮様の眼光……想像だけであんな冷徹な狂気を宿せるわけがないわよ。実際に見ていたんだって」

 

 娘たちの様子が目に見えておかしくなったことに対し、それぞれの両親も薄々感づいてはいた。だが、「また年頃の娘たちが変な同人小説でも回し読みして、くだらない妄想に浸っているのだろう」と、深刻に捉えぬまま放置していた。それが、取り返しのつかない破滅の引き金になるとも知らずに。

 当の娘たちの脳裏からは、あの映像で見た「若宮様の冷徹な眼光と寛奈を狂わせた容赦ない愛撫の記録」が一日中離れなくなっていた。

 

(あんな風に……あの若宮様に、獣のように貪り尽くされた寛奈は、どんな気持ちだったの……? あんな激しい愛し方をされたら、女として生まれた人間は、もう普通の男の優しさじゃ満足できなくなってしまうのでは……?)

 

 理性では否定しようとしながらも、底知れぬ好奇心が彼女たちを破滅的な方向へと引きずり込んでいく。

 

「ちょっと待って、そんなの危険すぎるわよ! 噂だけでも十分すぎるでしょ!」

 

 必死で引き留める香織、霧葉、貴美の腕を振り切り、好奇心と、どこか抗えない熱に突き動かされるように、歌乃と里緒の二人が立ち上がった。

 

「大丈夫よ、ただ様子を見て、噂が本当かどうか確かめるだけだから」

 

 週末の連休を利用して京極宮家を訪れた彼女たちを待ち受けていたのは、偶然の一致などではない。まるで最初からそこに来ることを分かっていたかのような、京極宮の息子たちの狂気的な罠だった。

 

 重厚な洋館の薄暗い回廊に足を踏み入れた瞬間、背後の扉が閉じられ施錠された音が木霊した。

 

「……なんだ、自分から進んで俺たちの前に来るとはな」

 

 低く有無を言わせぬ重みを持った照仁の声音が響いたかと思うと、そのすぐ隣から、甘い笑みを帯びた法仁の声が重なる。

 

「逃がさないよ。君たちが何を期待してここに足を踏み入れたか、ちゃんと分かっているからさ」

 

 廊下の陰から現れた若宮・照仁とその弟・法仁。照仁の大きな手が里緒の肩を背後から冷酷に押さえ込み、同時に法仁が逃げようとした歌乃の腰を正面から強く抱きすくめる。両側から逃げ場を塞がれ、捕らえられた二人の背筋に、恐怖と──それを凌駕する甘い戦慄が一気に駆け巡った。

 

「や、やめて……! 私達はただ、ちょっと……っ!」

 

 震える声を絞り出す歌乃の腕を、法仁が軽々と掴み、壁際へと追いやる。

 

「嘘をつかなくてもいいよ。その身体が、すでに僕たちの熱を求めて震えているんだからさ」

 

 抵抗する間もなく、歌乃は法仁に、里緒は照仁によって、それぞれ奥の寝室の広大なベッドへと引きずり込まれ、冷たいシーツの上へと押し倒された。それはかつて照仁が寛奈に行ったのと全く同じ──いや、それをさらに血の執念で凌駕する容赦ない愛撫だった。

 

 法仁は歌乃の上に馬乗りになると、その細い手首を片手でシーツに縫い付けた。

 

「ほら、感じてるくせに」

 

 甘い声で囁きながら、法仁の唇が歌乃の耳朶を執拗に食み、首筋から鎖骨へと濡れた軌跡を描いていく。薄手の衣服のボタンを引きちぎるように外し、露わになった柔らかな肌を直接嘗め回す。容赦なく敏感な場所を弄る若き猛獣の執拗な舌使いに、歌乃が逃げようとシーツを鷲掴みにする指先は快楽に痺れて力を失っていく。

 

 一方、照仁は無言のまま里緒の衣服を的確な手つきで剥ぎ取っていた。冷徹な黒瞳で里緒の震える肢体を見下ろしながら、その大きな手が彼女の太ももを割り開く。

 

「っ……あ……!」

 

 抵抗する里緒の唇を深く塞ぎながら、照仁の指先が里緒の最奥の弱点を正確に突き当て、容赦なく蹂躙し始めた。大人の男の圧倒的な力と、逃げ場を一切与えない重厚な支配。里緒の頭の中は真っ白になり、かつて寛奈達が窓際で味わったのと同じ、絶望的なまでの陶酔が全身を完全に支配していく。

 

 法仁に貪り尽くされる歌乃の喘ぎ声と、照仁の重い愛撫に翻弄される里緒の悲鳴が、同じ寝室の中で官能的に絡み合う。

 

「あ、あっ、だめ……っ! こんなの、若宮様たち、狂ってるわ……っ!」

 

 快楽の泥濘に沈みかけながら里緒が叫ぶと、歌乃の首筋に赤い痕を刻みつけていた法仁が顔を上げ、冷徹な囁きで耳朶を打った。

 

「お前たちをどうやって染め上げるか……最後まで味わわせてやる。ああ、これは数か所から録画させてもらっているよ。余計な真似をしたら……外に流すよ。……そうなったらどうなるかわかるよね、君たちも華族令嬢なんだから」

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、法仁の下に組み敷かれた歌乃は、屈辱と絶望に満ちた悲痛な悲鳴を上げた。

 

「い、嫌ぁ……っ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 窓の隙間から差し込む冷たく白い朝の光が、乱れ果てた寝室の惨状を容赦なく照らし出していた。

 二日間にわたる終わりなき調教の果て、歌乃と里緒の足腰は完全に立ち行かなくなっていた。シーツは引き裂かれ、床には脱ぎ捨てられた衣服が散乱している。広大なベッドの上で、荒い息を吐き出すことしかできない彼女たちの肉体は、神経の隅々に至るまで「京極宮の熱」を刷り込まれていた。

 

 ふと、枕元で微かな足音が響く。

 乱れたシャツの袖口を丁寧に留め、完璧な身なりを整えた法仁が、冷ややかな美貌に満足げな笑みを浮かべて静かに歩み寄ってきた。その背後では、窓際に佇む照仁が、黒髪の瞳で静かに二人を見下ろしている。

 

「──君たちの退学手続きは済ませた。君たちはこの後女官見習いとして勤めながら通信教育を受けて卒業することになるから。通信教育が終われば正式に僕ら付の内舎人にしてあげるからね」

 

 その冷徹で、一分の隙もない絶対的な決定事項を告げる声を、歌乃と里緒は頭の芯が痺れたような状態で聞いていた。

 反論する気力すらない。いや、声を絞り出そうとしても、乾ききった喉からは掠れた息しか漏れない。

 

 頭が真っ白になるほどの敗北感と、自分の意思とは裏腹に、身体の奥底──まだ微かに疼く熱の余韻に支配されながら、歌乃は虚ろな瞳で天井を見つめていた。

 

(……なんで、来てしまったんだろう……)

 

 好奇心に負け、自らこの宮邸の門を叩いた自分への激しい後悔。そして、あんなにも恐れていたはずの猛獣の温もりを、いまや手放すことすら恐れている自分の醜悪な変化。法仁に触れられるたびに理性が崩壊し、快楽の波に溺れていく感覚が、今も脳裏から離れない。

 隣でぐったりと横たわる里緒もまた、照仁が残していった冷徹なまでの支配の痕を体に刻まれたまま、瞳から光を失っていた。

 

 ──ああ、この血筋に捕らえられたら、もう二度と元の世界には戻れない。

 

 あの隠し撮りされた映像の通り、私たちはこの猛獣たちに心も身体も完全に食い潰され、一生この宮邸で女官として、そして情人として生きていくしかないのだ、と。

 抗うことを忘れた肉体は、法仁が落とした冷たい影の下で、ただ甘美な絶望を受け入れるように小さく震えていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

後書き代わりの座談会

 

 

香織:……ちょっと待ってよ!!! 歌乃と里緒たちまで巻き込まれて、ガチで拉致られて女官見習いに落とされてるじゃないのーーーっ!!!??? さっきまで『私たちのところに飛び火してこないよね!?』って怯えてたら、秒で歌乃と里緒が犠牲になってて草も生えないんだけど!!!

 

歌乃:しかも『ちょっと様子を見てやろう』なんて軽い気持ちでノコノコ出向いた結果、待ち構えていた法仁様たちに一網打尽にされてるの、完全にホラー映画のフラグ回収じゃん……!

 

霧葉:『退学手続きは済ませた。女官見習いとして〜』って、若宮様たちの行政手際の良さ怖すぎでしょ!! 人生を物理的かつ不可逆的に詰ませるの天才的すぎない!?

 

香織:『数か所から録画させてもらっているよ。余計な真似をしたら……』って、法仁様、お父様の悪しき伝統を完璧に継承しすぎでしょ!!

 

貴美:実家にも学校にも戻れず、幽閉されて昼は女官見習い、夜は若宮様たちの愛玩情人(ペット)として朝まで骨抜きにされる生活……

 

香織:これ、もう完全に『逃げ場ゼロの永久監禁エンド』じゃないの!!!

 

貴美:でもさ、最後に歌乃と里緒たちも『私たちはこの猛獣たちに心も身体も完全に食い潰され……』って悟っちゃってるあたり、もう全員あの血統に完全適応(洗脳)されてるよね

 

霧葉:最初はあんなに『狂ってる!』って叫んでたのに、2日間の濃厚すぎるお仕置きを経たら、全員もれなく『この人たちなしでは生きられない身体』に改造されてるの、ある意味ですごいわ……」

 

香織:恵梨子ちゃん、これもう個人の趣味で書いた小説の域を超えて、京極宮家の『ドキュメンタリー非公式記録』として一族に永久保存されるレベルよ!

 

霧葉:結論、京極宮の男たちに近づいた女は、例外なく全員『骨抜きのお人形』にされる運命から逃れられない。ってことで良いわね?

 

里緒:歌乃と里緒たちも加わったことで、北翼の夜会はさらに賑やかになってそうね……

 

香織:もうこうなったら、私たちもこれ以上首を突っ込まずに、遠くから彼女たちの末路と恵梨子ちゃんの『次作』を生暖かい目で見守るしかなくない!?

 

 

 だが……

 

 その友人達の後ろから、こつこつと響いてくる複数の足音……。二人は男性のようだが残りは明らかに女性の足音だった……。

 

 




香織
「ちょっとみんな……! 恵梨子ちゃんから回ってきた同人原稿の第2弾『恵梨子のとある世界の観察日記②』、もう読み終わったかしら!? 私、前作も凄まじいフィクションだと思ったけれど、今回は心理描写がドロドロしすぎて、途中で頭がどうにかなりそうだったわよ!」

歌乃 :
「あははは! 読んだ読んだ! 今回も相変わらず恵梨子の妄想力がフルスロットルで暴走してたわね! 作中の私たちが、恵梨子の描いた同人誌と寛奈ちゃんの隠し撮り画像を隅々まで熟読したせいで、日に日に精神のバランスを崩していくっていう……どんな集団脳内汚染なのよ!」

貴美 :
「笑い事じゃないわよ歌乃ちゃん……っ! 作中とはいえ、私たちがページの官能的な描写と現実の寛奈ちゃんを重ね合わせて、『冷徹な眼光』とか『容赦ない愛撫の記録』なんて言葉に囚われて日常が静かに瓦解していくのよ? 恥ずかしすぎて顔から火が出そうだったわ……!」

霧葉 :
「ええ、相変わらず描写の解像度だけは異常に高いわね。ところで、今回の作中舞台の年齢設定もかなり独特だったわ。作中では照仁様が23歳、法仁様が17歳で、作中の私たち5人は20歳の大人として描かれている。けれど、現実にいる私たちは17歳で、現実の照仁様は19歳、法仁様なんてまだ13歳の中等部生なのよ? 23歳の照仁様と17歳の法仁様が主導する世界なんて、現実の年齢関係からしたら完全なパラレルワールドだわ」

里緒 :
「ええ。それに、作中の設定では相変わらず寛奈ちゃんに『沙織ちゃん』という妹がいることになっていたけれど、現実の六条家には寛奈ちゃんのお兄様の雅彰様はいても妹なんて存在しないものね。恵梨子ちゃん、作中で寛奈ちゃん周辺のドロドロした関係性を強めるために架空の妹を生み出しておいて、その影を私たちにまでチラつかせるなんて、本当に業が深いわ」

香織 :
「作中で夜ごとに開かれる内輪の茶話会(サロン)のシーンなんて、私たちが集まるたびに同人誌の禁忌な話題に引き戻されていくじゃない? 『作中の若宮様の冷徹な視線は、実際に見ていなければ描けないはずだ』なんて分析し合って、頭の中から情景が離れなくなるなんて……! 完全に恵梨子の怪文書に毒されきっているわ!」

歌乃 :
「本当よね! 昼間は優雅にお茶を飲んでいるお嬢様たちが、頭の中では作中の照仁様や法仁様の過激な愛撫の記憶(妄想)に支配されて悶々としてるなんて、絵面がシュールすぎてお腹が痛いわ! 13歳の現実の法仁様がこれを聞いたら、一体どんな顔をするのやら」

貴美 :
「もう、法仁様のお名前を出さないで……! 作中の17歳の法仁様はすごく大人びていて冷酷な雰囲気を漂わせているけれど、現実の法仁様はまだ13歳の男の子よ!? 作中の20歳の私たちが17歳の法仁様に怯えたり囚われたりしているのを見ると、現実に引き直したときに犯罪スレスレの背徳感が凄まじくて、生きた心地がしないわ……!」

霧葉 :
「ふふ、まあそれこそが恵梨子の狙うフィクションの罠でしょうね。現実と物語の境界線をあえて曖昧にして、読んでいる私たちまで『もしかしたら自分たちも……』という疑心暗鬼に陥らせる。心理サスペンスとしては非常に巧妙な構成だわ」

里緒 :
「それから、作中で印象的だったのは大人たちの反応ですわね。娘たちの様子が目に見えておかしくなっているのに、『年頃の娘たちが変な同人小説を回し読みして、くだらない妄想に浸っているだけだろう』と軽視して放置してしまうところ……」

香織 :
「そこよそこ! 大人たちが『思春期の過剰な妄想』って決めつけて見過ごした結果が、取り返しのつかない破滅へのカウントダウンになるなんて! ホラー映画で一番最初にフラグを立てるダメな親の典型じゃないのよ!」

歌乃 :
「あはは! でもさ、客観的に見たら『娘たちが集まって同人誌読んで赤面してる』だけだから、親からしたら『また変な少女漫画にハマってるわ』くらいにしか見えないのも納得だけどね! まさかそれが自分たちの娘を底なしの泥沼に引きずり込む引き金になってるなんて思わないじゃない!」

貴美 :
「放置されたせいで、作中の私たちがどんどん逃げ場を失っていくのが本当に怖かったわ……。誰にも相談できなくて、親友同士でサロンに集まっては不安を増幅させていくなんて……恵梨子ちゃんの描くバッドエンドへの誘導が完璧すぎるわ」

霧葉 :「そして……本編が終わった後に添えられている、あのなぜかある後書きについても触れないわけにはいかないわね」

香織 :「本当よ! なんなのあの後書きは! 本編のドロドロした重苦しい展開が終わったと思ったら、急に登場人物たちの楽屋裏座談会みたいなのが始まって! しかも作中の私たちが『もう私たちはあの冷徹な眼光から逃れられないのね……』なんて、半ばうっとりしながら諦めて受け入れているじゃないのよ!」

里緒 :
「ええ。作中の私たちが、日常の瓦解を恐れつつも、心のどこかで若宮様たちによる破滅的な支配を待ち望んでしまっているようなコメントを残していて……著者の恵梨子ちゃんによる『全員完全攻略完了』のダメ押しスタンプを押されたような後書きでしたわね」

歌乃 :
「メタ的な後書きを使ってまで、作中の私たちの理性を完膚なきまでに破壊し尽くそうとする恵梨子の執念ね! 本編で心理的に追い詰めて、後書きで『はい、みなさん堕ちましたー!』って確定させるスタイル、相変わらず容赦なさすぎて笑うしかないわ!」

霧葉 :
「要するに、この『観察日記②』は、恵梨子の過剰な妄想力と緻密な心理描写によって、作中の登場人物たちを精神的に追い詰めていく怪文書の傑作、ということね」

香織 :
「傑作なんて褒めちゃダメよ霧葉! こんなもの真に受けたら、私たちまで精神のバランスを崩しちゃうわよ! 幸いにも、現実にいる私たちは心身ともに至って健常な17歳のお嬢様だし、現実の照仁様は19歳、法仁様は13歳の男の子なんだから!」

里緒 :
「ふふ、そうですわね。作中の20歳の私たちが辿った狂気のドラマは、あくまで恵梨子ちゃんのノートの中だけのフィクション。私たちはこの安全で平和なサロンで、自由においしい紅茶を楽しめばいいのですわ」

歌乃 :
「よーし! じゃあ恵梨子の妄想爆走作『観察日記②』の感想戦はこれにて終了! 次に恵梨子が変な原稿を持ってきたら、今度こそみんなでたっぷりお説教してあげましょ!」

貴美 :
「うん! 美味しいスコーンと紅茶を食べて、現実の平穏をたっぷり噛みしめましょう!」

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