18歳になり、立派に背も伸びて精悍さを増した法仁が、心底誠実で爽やかな笑みを浮かべながら、歌乃に向かって一歩踏み出した。
「歌乃さん。君のその愛らしい佇まいと、内に秘めた芯の強さを、僕は昔から尊敬していました。……僕の妃になってくれませんか。二度と君に恐怖の涙を流させないと、この命に代えて誓います」
「ヒィッ……!?」
歌乃の小柄な体が、ビクンッと跳ね上がった。
法仁の眼差しは、100%の善意と、100%の正義感と、100%の皇族としての責任感に満ち溢れている。……溢れているのだが!
歌乃の脳内にフラッシュバックしたのは、あっちの世界の記憶だ。「奥の寝室で壁際に追い詰められ、逃げ場を失った状態で耳元で静かに囁かれる」という法仁の過酷なシゴキの記憶だったのだ。
(あの圧倒的威圧感だったのよ!? 18歳に成長して体格も完成された今の法仁様にそれをされたら、初夜の5分で私の心が折れて降伏させられるわよ────ーっ分からせられる!!!)
歌乃は胸元を両手で必死に防衛するように抱え込み、生まれたての小鹿のように膝をガタガタと震わせた。顔からは完全に血の気が引いている。
「歌乃……! 歌乃ちゃん……ッ!!」
隣で香織が、涙目で歌乃の肩を掴んだ。
一瞬「自分が妃に選ばれなくて助かった」という安堵が胸をかすめたものの、あまりにも哀れな生贄となった親友の姿に、胸が締め付けられる。
「私……歌乃ちゃんの『初夜の翌朝』の移動用に、一番最高級のクッションがついた車椅子を特注で用意するから……っ! だから……だから心を強く持って……っ!!」
「香織ちゃん縁起でもないこと言わないでぇぇぇ泣いちゃうから!! 私まだ法仁様に『逃げ出せないようにしてあげる』を物理で執行される覚悟なんてできてないのよぉぉぉ!!」
二人が抱き合ってガタガタと震え、涙を流し合っている。
──だが。
その「涙を流して抱き合う友情」を見た照仁と法仁の解釈は、どこまでも完璧に、どこまでも裏目へと噛み合っていった。
「……見なさい、兄上」
法仁が、胸を打たれたように深く感じ入った瞳で、二人を見つめた。
「歌乃さんは、僕のプロポーズを受け入れる感動のあまり涙を流し、香織さんは親友の幸せと『脅迫からの解放』を我が事のように喜んで泣いている……。なんて美しく、温かい友情なんだ」
「ああ、法仁」
照仁もまた、冷徹な美貌にどこか満足げな笑みを浮かべ、うなずいた。
「ですが……」
宮邸サロンに響き渡る、香織の悲痛な泣き声。歌乃の胸にすがりついてボロ泣きする彼女の姿を、法仁と照仁は腕を組んでじっと見つめていた。
「……なるほど。兄上、僕にはハッキリと分かりました」
法仁は、非常に深く、そして誠実な納得の表情を浮かべて照仁に頷いてみせた。
「香織さんのあのあまりの狼狽ぶり……。歌乃さんへの打診を聞いて『自分が法仁様の妃になれなかった』という悲しみと、僕への内に秘めた強い情愛を必死に抑え込もうとして、感情が溢れ出しているのですね」
「……ふむ」
照仁もまた、冷徹な美貌に深い知性を宿らせて頷いた。
「確かに、香織のあの取り乱し様は単なる友情の涙ではないな。あの家格、あの気品、そして何より……貴様に向けるあの怯えと熱の混ざり合った視線。……法仁、最初から香織こそが貴様の妃たる運命だったのだな」
「はい、兄上! 僕も確信しました!」
18歳となった凛々しい法仁が、眩しいほどの笑顔で香織に向かってまっすぐに歩み寄る。
「香織さん。……もう自分を偽る必要はありません。君が僕に向けてくれていたあの視線の意味、ようやく理解できました。……歌乃さんではなく、君を僕の正式な妃としてお迎えします」
(理解の方向が真逆にフルスロットルで暴走してる────ーっ!!!)
香織の視界がぐにゃりと歪む。
法仁がそっと差し出してきた手袋をはめた手。それは、見えない脅迫者から彼女を守り抜く「国家最高峰の保護」であり──同時に、あの北翼の密室での悪夢の初夜へ直行する「絶対回避不能の確定チケット」だった。
「さあ、香織さん。僕にすべてを委ねてください。……一番最初から、僕の手で君のすべてを守り、愛してみせますから」
「ひ、ヒィィィィィィ……ッ!!!」
あっちの世界の甘い悪夢のセリフと、目の前の爽やかすぎる笑顔が完璧にオーバーラップし、香織はついに白目を剥いて、歌乃の腕の中へと崩れ落ちた。
見つかるはずのない犯人を追う国家機関、親友を救うために暴走する皇族兄弟の善意、そして「初夜で完全に精神が削られる未来」を確信したお嬢様──。
すれ違いの喜劇は、ついに「香織の正妃内定」という最高潮の展開へと突入していくのだった。
18歳となりあどけなさを残しつつも精悍で凛々しい青年へと成長を遂げた法仁様。
彼の中では「見えない脅迫者に怯える哀れで気品ある令嬢を、僕の正妃として生涯完璧に愛し守り抜く」という溢れんばかりの純粋な正義感。
そして何より──あっちの世界の北翼の密室で甘く冷たく囁かれ、圧倒されたあの生々しい記憶。
相性が良すぎたがゆえに脳裏に刻み込まれたあの威圧感と、18歳になって骨格も肉体も完成された今の法仁様の圧倒的プレゼンスが組み合わさった結果、香織にとっての初夜は「愛の営み」ではなく「精神的・物理的試練」として確定してしまった。
「……香織ちゃん、息してる……?」
白目を剥いて倒れ込んだ香織を膝枕しながら、歌乃が涙目でほっと胸を撫で下ろし(※自分が難を回避できた安堵も3割ほど交じりつつ)、その背中をさすり続けている。
「よかったわね、香織ちゃん……! 法仁様の愛を独り占めできるのよ……っ! 私、式の日には一番最高級の車椅子と、最高の車椅子用クッションを用意して受付で待ってるからね……っ!」
「縁起でもないこと言わないでぇぇぇ……っ!!」
膝の上で意識を取り戻した香織が、絶望の涙を流しながら叫ぶ。
「歌乃ちゃんの裏切り者ぉぉぉ! 私が北翼の寝室に引きずり込まれている時、外で救援物資でも投げ込んでよぉぉぉ!!」
「無茶言わないで! 皇宮警察と公安と軍の情報部門が周りを固めてるのよ!? 救援物資投げ込もうとした瞬間に狙撃されるわよ!!」
抱き合って泣き叫ぶ二人の姿を、少し離れた場所から冷や汗だくで見守る霧葉、貴美、里緒の3人。
「……南無阿弥陀仏」
貴美が胸の前で静かに手を合わせる。
「貴美ちゃん、勝手に香織ちゃんを仏にしないで!」
「……ですが、これで香織の『妃入り』が確定した以上、私たちの行き先も順次手配されるわね。宮家の縁戚という名の新たな檻へ……」
「私……もう荷造りは完了しておりますので……」
里緒はどこからか取り出したカタログを静かに閉じ、遠い目をして微笑んでいた。
そんな5人の悲痛な抗議と覚悟を余所に、法仁は誠実な笑みを絶やさず、照仁様と力強く握手を交わしている。
「兄上、香織さんを僕の妃として迎える準備を進めます。……彼女がこれほどまでに泣いて喜んでくれるとは思いませんでした。初夜のその瞬間から、僕のすべてを懸けて彼女を愛し、二度とこんな涙を流させないと誓います」
「ああ、法仁。素晴らしい決断だ」
照仁もまた、冷徹な美貌に心底満足げな笑みを浮かべて頷いている。
「これで香織の身柄と尊厳は永久に保護される。……警察と軍には『婚約発表に伴う最高警戒態勢』を発令させろ。例の影の脅迫者が動くなら、この祝宴のタイミングだ。炙り出し、徹底的に叩き潰す」
(犯人は存在しないし、香織の涙は絶望の涙なんです────ーっ!!!)
最後まで1ミリも噛み合わないまま、国家権力と皇族の圧倒的な善意の暴走によって、香織の「豪華絢爛な結婚式」へのカウントダウンは、着実に、そして容赦なく刻まれていくのだった。
「……で、でも、まあ、あっちで鍛え上げられているし、大丈夫だと思うわ。成長した法仁様の体力が桁外れだったとしても、全力で向き合って満足させてしまえば、勝ち目はあるはず」
「……でも、法仁様の情熱が無限で、一晩中付き合わされるとしたら、生半可な対応じゃ火に油を注ぐだけだと思うけど?」
「極端な想像をサラッと言わないでちょうだい!!!」
自らの「回避作戦」を脳内でシミュレーションした香織が、血の気が完全に引いた顔で自らの両頬をペチペチと叩いて現実逃避を試みた!
そう、香織は必死に頭を回転させていたのだ。あっちの世界で圧倒されたとはいえ、18歳になり骨格も男としても完成した法仁様をそのまま正面から受け止めたら、初夜の数分で自分の心が文字通り崩壊する。ならば──何とかして先に体力を削ってしまえば、初夜を生き残れるのではないか、と!
だが。あっちの世界の記憶が、容赦ない現実を香織の脳裏に突きつける。
(……待って? あの人、あっちの世界では徹底的に追撃してくる体力の化け物だったわよね……!? 一晩中平気で向き合ってくるタイプじゃない!? 下手に刺激したところで、『ほう、そんなに積極的なんだね。じゃあ次は本気だ』って、余計に火に油を注いで追い詰められる未来しか見えないんだけど────っ!!!)
作戦が1秒で破綻した香織は、ガタガタと生まれたての小鹿のように膝を折り、サロンの高級絨毯の上にへたり込んだ。
「香織ちゃん……っ! 大丈夫!? 顔が『詰んだ』って書いてあるわよ!」
歌乃が必死に香織の肩をさする。
「歌乃ちゃん……ダメよ……逃げ場なんてどこにもないわ……」
香織が掠れた声で、焦点の合わない瞳を歌乃に向けた。
「どんな対策を立てようが、あの18歳の猛獣は体力が無限なのよ……! 多少体力を削ったところで、彼の『絶対に守り抜く』という執念の前には焼け石に水……っ! むしろ『君がそんなに積極的だとは思わなかったよ』って甘く囁かれて、明け方まで徹底的に愛されるだけだわ……っ!」
「香織ちゃん生々しい生存戦略を練った挙句に自滅しないでぇぇぇ!! 想像だけで私の首筋まで寒気がしてきたじゃないのよぉぉぉ!!」
一方その頃、サロンの反対側では──。
「……見なさい、兄上」
18歳の法仁が、胸を打たれたように深く感銘を受けた瞳で香織を見つめていた。
「香織さんのあの表情……。僕の妃になるという現実に、ご自身の『妻としての覚悟』を静かに噛み締めているようです。……あのように真剣に僕との未来を考えてくれているなんて、胸が熱くなりますね」
「ああ、法仁」
照仁もまた、冷徹な美貌に深い満足感を漂わせ、静かに頷く。
「あの正統派な気品と立ち振舞い、そして内に秘めた情熱……貴様の妃としてこれ以上の逸材はおらん。……式までの間、香織の健康管理には万全を期せ。夫婦睦まじく過ごせる体力を養わせるのだ」
(体力をつけさせられたら完全に追い詰められる──ーっ!!!)
その声が聞こえてしまった心の中でシンクロする5人の絶叫。
「香織さん」
法仁が、眩しいほどの誠実な笑顔で、へたり込む香織の前に優しく屈み込んだ。
「どんな手を使って僕を喜ばせようと考えてくれても構いませんよ。……君の与えてくれるものなら、僕はそのすべてを何度でも、幾晩でも、深く愛して受け止めますからね」
(手口が読まれている上に全肯定で倍返しされる予告が入った──ーっ!!!)
あっちの世界で圧倒されたトラウマと、成長した法仁様の底知れぬ体力と執着。どんな回避策を講じようとも、すべてが「甘く完璧な束縛」の燃料へと変換されていく完璧な詰み盤面。
白目を剥いて完全に思考を停止させた香織を乗せるための「最高級クッション付き車椅子」のカタログを、里緒がそっと静かに開くのだった。
法仁が鍛え上げた肉体は、もはや圧倒的な圧迫感を誇っている。18歳を迎えた彼の威圧感は、逃げ場のないほどの重厚さを感じさせていた。
そして、時は無情にも過ぎ去り、香織と法仁の結婚の儀が盛大に、かつ厳重な警戒の下、厳かに執り行われた。
そしてその夜──
「……ねえ、香織」
北翼の広大な寝室。窓の外は、国家警察の特殊部隊と公安の精鋭によって完全に封鎖され、外界へ繋がる電波も逃げ道もすべて遮断されている。その絶対的な密室の中で、純白のドレスのボタンに法仁の手が伸びた。
「何を怯えているんだい? 君が一番よく知っているはずだろう。僕たちがどれほど運命的で、君のその心がどう反応するかをさ」
甘く、どこまでも冷徹で、逃げ場のない低音。
その声が香織に絶望をもたらしていた。
「何を怯えているんだい? 君が一番よく知っているはずだろう。僕たちがどれほど相性が良くて、君のその身体が僕の熱にどう反応するかをさ」
普通の睦言の筈が、香織にはそう聞こえて来た。
(ひっ。本当は違うのは判っているの。わかっているけど、なんて言っているのかわからないけど、終わりな気がするのよ)
香織は震える両手で法仁の胸元を押し返そうとするが、18歳の引き締まった鋼鉄の肉体は微動だにしない。
法仁が、この5年間の皇室での過酷な鍛錬と、何より「愛する者を脅かす影の脅迫者を物理的に滅ぼす」という狂気的な執念の中で鍛え上げた肉体は、もはや人間の枠を超えた生体兵器へと進化していた。
香織が抵抗すればするほど、法仁の瞳に宿る独占欲の炎が激しく燃え上がっていく。
「ふむ……少し大人びたじゃないか。教えてくれた胸の大きさ、83どころか、少し豊かになったみたいだね? その素晴らしい胸も、細いウエストも、その素晴らしい気品も、すべてが僕のために存在している証拠だね」
法仁の指先が、服の上からすら容赦なく敏感な先端を捉え、意図的にねじり上げる。
──ビクッ!
開発し尽くされた身体は、頭の拒絶命令を完全に無視して、甘い喘ぎ声を喉の奥から零してしまう。
18歳を迎え、完全なる大人の骨格と筋肉を手に入れた彼のイチモツは、もはや「馬並み」という表現ですら生ぬるい、暴力的なまでの質量と熱量を誇っている。その反応を見ただけで、法仁の下半身に宿る凶悪な熱量は、限界を超えて肥大化していった。
(ちょっと待って……嘘、迫力がすごすぎる……!? あっちの時より、明らかに……!)
衣服を脱がされ、冷たいシーツの上に組み敷かれた瞬間、香織の脳裏を過ったのは「胸や口を使って暴発させれば……」という甘い算段だった。
だが、その甘い希望は、初撃の圧倒的な質量によって文字通り木端微塵に粉砕される。
「口で? ……そんなもので僕が満足するとでも思ったのかい、香織」
法仁は微笑みながら、香織の艶やかな黒髪を片手で掴み、逃げ場を完全に塞いだ。
一晩で10発? いや、そんな生やさしい回数で終わるはずがない。一晩中、抜かずの連撃で意識を何度も強制浮上させられ、白目を剥いて痙攣するまで徹底的に犯し尽くされる。それが、法仁という名の「国家最高峰の愛の刑罰」の全貌だった。
豊満なカップサイズがEと進化の途上にある双丘で必死に挟み込もうと試みても、法仁の容赦ない腰の突き上げはその壁を軽々と踏み越え、最も奥の深い場所へと直接暴力的なまでの快楽を叩き込む。逃げることも、気を失って楽になることも許されない。
「さあ、一晩中愛してあげるよ。……朝を迎える頃には、君のその足腰も、僕以外の男の名前を考える脳味噌も、すべて綺麗に溶けてなくなっているからさ」
北翼の完全なる密室に、香織の絶叫と、それを優しく包み込むような法仁の甘い囁きが、朝まで途切れることなく響き渡り続けるのだった。
香織
ちょっとみんな……! 恵梨子ちゃんからまた回ってきた最新作『恵梨子のとある世界の観察日記⑦』、読み終わったかしら!? 私、今回はもうツッコミどころが多すぎて、途中で開いた口が塞がらなかったわよ……っ!
歌乃
あはははは! ほんとそれ! ちょっと、冒頭から腹筋崩壊するかと思ったわよ! 18歳になって精悍な青年へと成長した法仁様が、100%の善意と正義感で『歌乃さん、僕の妃になってくれませんか』ってプロポーズしてきた場面! 作中の歌乃ちゃんのリアクションが『ヒィッ……!?』って生まれたての小鹿みたいにガタガタ震え出すんだもん!
貴美
笑い事じゃないわよ、歌乃ちゃん……っ! だって作中の歌乃ちゃん、あっちの世界の記憶で『奥の寝室で壁際に追い詰められて耳元で静かに囁かれる過酷なシゴキ』がフラッシュバックして『初夜の5分で心が折れて降伏させられるわよ!』ってパニックになってるのよ!? その恐怖は想像するだけでも恐ろしいわよ……!
霧葉
ふふ……でも今回の本質は、そこからの兄弟による完璧なる解釈違いの暴走ね。作中の歌乃と香織が『哀れな生贄となった親友を思って抱き合いながら涙を流す友情』を見せたのに、それを見た照仁様と法仁様の解釈がどこまでも裏目へと噛み合っていくのが実に見事だわ。
里緒
ええ。『香織さんのあのあまりの狼狽ぶり……自分が法仁様の妃になれなかった悲しみと、僕への内に秘めた強い情愛を必死に抑え込もうとしているのですね』『香織こそが貴様の妃たる運命だったのだな』って……! 二人で腕を組んで納得し合っているシーン、思わずお茶を吹き出しそうになりましたわ。
香織
それよそれ!! 何が『理解の方向が真逆にフルスロットルで暴走してる』よ! 作中の私の悲鳴がそのまま聞こえてきそうだったわ! 見えない脅迫者から守る『国家最高峰の保護』のつもりが、北翼の密室での悪夢の初夜へ直行する『絶対回避不能の確定チケット』に化けるなんて、何の冗談よーっ!?
歌乃
あはは! しかも香織ちゃんが白目を剥いて倒れ込んだあとの作中の私のコメントが最高に酷いのよ!『よかったわね香織ちゃん! 法仁様の愛を独り占めできるのよ! 私、式の日には一番最高級の車椅子と、最高の車椅子用クッションを用意して受付で待ってるからね!』って! 危機を回避できた安堵を3割ほど交えつつ背中さすってる場合じゃないでしょ!
貴美
香織ちゃんの『裏切り者ぉぉぉ! 私が北翼の寝室に引きずり込まれている時、外で救援物資でも投げ込んでよぉぉぉ!!』って叫びに対する歌乃ちゃんの『皇宮警察と公安と軍が固めてるから狙撃されるわよ!!』っていう返答も生々しすぎるわ……。後ろで見守る私たち3人が『南無阿弥陀仏』って静かに手を合わせたり、里緒ちゃんが車椅子のカタログを静かに閉じたりするのも完璧なコンビネーションね。
霧葉 :
「論理的に分析すると、作中の香織の『生存戦略』の自滅も見どころね。18歳になった法仁様の体力を先に削って初夜を生き残ろうと脳内シミュレーションするけれど、『あの人は徹底的に追撃してくる体力の化け物だったわよね!? 下手に刺激したら“ほう、そんなに積極的なんだね。じゃあ次は本気だ”って余計に火に油を注ぐだけだわ!』って1秒で作戦破綻させてへたり込んでいるんだもの」
里緒
そしてサロンの反対側で照仁様が『夫婦睦まじく過ごせる体力を養わせるのだ』なんて言い出して、作中の5人が心の中で『体力をつけさせられたら完全に追い詰められる──ーっ!』ってシンクロ絶叫するのも実に可笑しかったですわ。法仁様の『君の与えてくれるものなら僕もそのすべてを何度でも、幾晩でも深く愛して受け止めますからね』っていう手口既読の上での全肯定倍返し予告……完璧な詰み盤面ですわね。
香織
ちょっと里緒ちゃん、他人事みたいに楽しんでないでよ! 終盤の描写なんて、もう怪文書の域を超えて官能ホラーだったじゃない! 厳重な警戒態勢の中で挙行された結婚の儀のあと、外界から遮断された北翼の完全な密室寝室……。18歳になった鋼鉄の肉体を持つ法仁様に組み敷かれて『一晩中、徹底的に向き合わされる』あっちの私の悲鳴が朝まで響き渡るなんて……想像しただけで私、自分の身が縮む思いだったわよ!
歌乃
まあまあ香織ちゃん、私たちは心身ともに超健常で、平和なサロンでこうやってお茶を飲んでいる現実の5人なんだから落ち着いて! でも作中の香織ちゃんには本当にお愁傷様としか言いようがないわね。『犯人は存在しないし、香織の涙は絶望の涙なんです────ーっ!!!』っていう心の叫び、誰にも届かないんだもの!
貴美
ええ……存在しない影の脅迫者を追って国家機関と公安を動かし、婚約発表に伴う最高警戒態勢を発令させる皇族兄弟の圧倒的な善意と権力の無駄遣い……。どこまでも噛み合わないまま『豪華絢爛な結婚式』へとカウントダウンが進んでいく構造が、哀しくも美しく描かれていたわ。
霧葉
恵梨子ちゃんのこの『すれ違いコメディと官能的圧迫感』の描写力、回を追うごとに洗練されていくわね。作中の香織がどれほど足掻こうとも、法仁様の純粋すぎる正義感と圧倒的プレゼンスの前にはすべてが『甘く完璧な束縛の燃料』に変換されてしまう。物語の構成としても最高のクライマックスだったと言えるわ。
里緒
ふふっ、本当に。もし次回作『⑨』が出るなら、次は他のメンバーの『公爵家という名の新たな檻』への行き先が手配されるのでしょうか? カタログを用意して楽しみに待つことにいたしますわ。
香織
楽しみに待たないでちょうだい! 次回作でまた私たちがどんな目に遭わされるかと思うと気が気じゃないんだから!……でもまあ、とりあえず今日はこのマカイバリのお茶を飲んで、私たちが『北翼の密室』に閉じ込められていない平和な現実に感謝することにするわ……!