貞操逆転でも響け!ユーフォニアム! 作:syumasyuma
この世界はひどく歪だ。
四月の冷たい夜風が窓をかすかに揺らす中、レイジはソファに深く凭れかかってテレビを眺めていた。
画面には、朝の通勤電車で男性会社員に痴漢行為を働いたとして逮捕された女性のニュースが流れている。
逮捕された女性は二十代後半のOLらしく、画面にはモザイク越しにうつむく姿が映し出されていた。
彼女は満員電車の中で、見知らぬ男性の股間をスラックスの上から数分間にわたって触り続けたという。
「かわいそうに」
ニュースキャスターが「近年、女性による男性への性犯罪が急増しており、社会問題となっています」と深刻な口調で伝える。
統計によれば、今年に入ってからの痴漢検挙数は、女性加害者が全体の七割を超えているというデータが表示された。
レイジは口元をわずかに歪めた。
同情しているようで、その切れ長の目には別の感情が宿っている。
世の中の男どもが被害者面して泣き言を並べる様子に、ある種の愉悦すら感じていた。
彼は立ち上がり、壁に立てかけた姿見の前に立つ。
身長171センチの細身の体。
逆三角形のシルエットを描く肩から腰へのライン。
薄手のシャツの下でうっすらと割れた腹筋が動く。
「うーんもう少し筋肉つかないかな?」
自分の理想とは、程遠いが自分は「獲物」として完璧だと思った。
さほど大柄すぎず、それでいて締まった体躯。
男たちが嫌がる痴漢行為も、むしろ好都合だ。
明日の入学式で、新しい環境に紛れ込めば、きっと誰かが手を出してくる。
「・・・楽しみだな。」
彼は鏡の中の自分に語りかける。
モノトーンのシャツの襟を正しながら、切れ長の目を細めた。
以前の世界なら男が痴漢すれば社会的に抹殺された。
だが、この逆転した世界では、女性が男性を触ることが当たり前になっていた。
レイジはカーテンを閉め、部屋の明かりを落とした。
ベッドに横たわりながら、明日の自分の姿を想像する。
満員電車の中で、あるいは式の最中に、あるいは帰り道の雑踏で。
誰かが彼の体に触れる。
最初は偶然を装って。
そして徐々に大胆になるだろう。
「いけないいけないさっさと寝ないと。」
彼は小さく笑い、目を閉じた。
明日から始まる新しい生活への期待で、胸が高鳴っていた。
加害者ではなく被害者として、しかし実際には狩人として獲物を待つ。
その倒錯した決意が、彼の夜を静かに支配していった。
四月の朝日が車窓から差し込む電車内は、新入生らしき若者たちで混み合っていた。
久美子は吊り革に掴まりながら、胸の奥でくすぶる何かを押し殺すように、小さく息を吐いた。
今日は入学式。
新しい生活の始まりに胸を躍らせるべきなのに、彼女の心は別のもので満たされていた。
昨夜、布団の中で何度も見てしまった動画。
女性が男性を押さえつけ、泣き叫ぶのを無視して行為に及ぶ――そんな内容だった。
嫌悪感よりも先に、自分の内腿のあたりがじんわりと熱くなったのを覚えている。
「……はあ」
そんな自分が嫌で、久美子は気合を入れ直すためにいつもより早く家を出た。
新しい制服のスカートは少し丈が短くて、歩くたびにひやりとする。
白いブラウスの襟元を正しながら、彼女は周囲を見渡した。
そのときだった。
ドアの近くに立つ一人の男子生徒に目が吸い寄せられた。
同じ学校の制服を着ている。
黒髪の短髪に、切れ長の目。
静かな眼光がどこか遠くを見つめている。
気崩していない学生服の背徳的な香りが、かえって彼の存在感を際立たせていた。
(きれいな人……)
久美子は思わず見とれ、慌てて視線を外した。
胸がドキドキと高鳴る。
162センチの自分の身長は女子の中では高いほうだが、彼はそれよりもさらに頭一つ分ほど背が高い。
細身なのに体幹がしっかりしていそうな逆三角形の体つき。
(同じ制服……ってことは、同じ学校だよね)
彼女は再びちらりと彼を盗み見た。
長い指が吊り革を掴む仕草さえ優雅で、うっすらと浮き出た手の甲の血管にまで目が行ってしまう。
久美子は無意識のうちに自分の薄い胸のあたりを押さえた。
コンプレックスに思っている部分だが、今はそれよりも、彼の視線が気になった。
もし彼がこちらを見たらどうしよう。
目が合ったらどうしよう。
(同じクラスにならないかな)
そんな淡い期待が胸の中で膨らむ。
入学式でクラス発表があるはずだ。
久美子は小さく深呼吸をして、もう一度だけ彼の横顔を盗み見た。
低く落ち着いた声を聞いてみたい。
名前を知りたい。
もっと近くで――。
電車が駅に到着し、ドアが開く。
彼が動き出すのを見て、久美子は慌てて後を追った。
人混みに紛れながら、彼の背中を見失わないように。
そのとき、自分の内腿の奥がまたじんわりと熱を持つのを感じて、彼女はぎゅっと唇を噛んだ。
レイジは吊り革を握る手にわずかな苛立ちを込めた。
電車は予想よりもずいぶん空いている。
乗客同士の距離は十分にあり、誰かが「偶然を装って」触れてくるには不自然すぎる空間だった。
(ついてないな)
彼は小さく舌打ちしそうになるのを堪えた。
昨夜あれだけ期待を膨らませた自分が馬鹿みたいだ。
世の中の男どもが嘆く痴漢被害。
その被害者に今日こそなれると思っていたのに。
むしろ、今の車内では彼のほうが加害者になってしまいかねない。
それは彼の望む筋書きではなかった。
彼は窓に映る自分の姿を見つめた。
切れ長の目は相変わらず静かで、何を考えているのか読み取りにくい表情。
学生服の襟元はきちんと整っている。
逆三角形のシルエットは、自分で言うのもなんだが、確かに「映える」。
(なのに誰も来ない)
そのとき、視界の端で何かが動いた。
車両の向かい側、同じ制服を着た女子が一人。
ポニーテールを揺らして、こちらをちらちらと見ている。
茶色がかった毛先が、彼女が視線を戻すたびにふわりと跳ねた。
(うーん貞操逆転世界といえど流石に倫理観はふつうか)
レイジは気づいた。
同じ制服姿の女の子が頬を染めて、彼女がこちらを見るたびに、足をもじもじさせていることを。
(へえ。見てる、見てる)
彼は口元をほんの少しだけ緩めた。
久美子の視線には明らかな憧れが混じっている。
同じ学校の入学式に向かう途中。
これも何かの縁か。
でも今のレイジにとって、久美子の視線はあまりにも「安全」だった。
彼女は近づいてこない。
声もかけてこない。
ただ遠くから見ているだけ。
痴漢被害を期待していた彼の欲望を満たすには、まったく足りない。
(もっと大胆に来ればいいのに)
レイジは窓ガラス越しに久美子の様子を観察しながら、心の中でため息をついた。
彼女は控えめな性格をしているようで、あっちから声をかけてくることはないだろうと。
(今日は……諦めるか)
電車が減速し、次の駅に近づく。
レイジは小さく首を振り、明日こそはもっと混む時間帯の電車に乗ろうと心に決めた。
彼は久美子のほうをちらりと見てから、何事もなかったかのように視線を前に戻した。
彼女の耳の先がほんのり赤く染まっているのを見逃さずに。
入学から一ヶ月が過ぎた放課後、久美子は女子トイレの個室にこもって深いため息をついた。
「はあ……また話しかけられなかった」
今日もレイジは同じ教室の窓際で静かに本を読んでいた。
切れ長の目がページを追うたびに、久美子の胸はぎゅっと締め付けられた。
あの入学式の朝からずっと、彼に話しかけるチャンスを窺っているのに、いざ近づこうとすると足がすくんでしまうのだ。
(私ってほんとダメだなあ)
鏡に映る自分の顔を見る。
肩にかかるセミロングの毛先がゆるく内側に巻いている。
本人は胸まわりの薄さがコンプレックスで、何かにつけて自信が持てなかった。
そのとき、外から数人の女子生徒の声が聞こえてきた。
「ねえ知ってる? 空き教室で男子が売春してるって噂」
久美子は息をのんだ。
心臓が早鐘を打ち始める。
「え、マジで? 誰?」
「それが、けっこうカッコいい先輩とか後輩もいるらしいよ。放課後に空き教室に行くと、値段交渉できて……」
声は徐々に遠ざかっていく。
久美子は個室のドアに手をついたまま、しばらく動けなかった。
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
(売春……男子が……お金で……)
昨夜も布団の中で見てしまった動画が脳裏をよぎる。
女性が男性を押さえつけて無理やり行為に及ぶものだ。
嫌悪感よりも先に、内腿のあたりがじんわり熱くなる。
(もし……もしあそこにレイジくんがいたら?)
そんなはずはないと思いながらも、彼女は放課後、気がつくと噂の空き教室がある校舎の廊下を歩いていた。
人目を避けるように俯き加減で、それでも足は止まらない。
空き教室のドアの前で立ち止まる。
ドアの窓からは中の様子は見えない。
久美子はごくりと唾を飲み込み、震える手でそっとドアノブに触れた。
(ただ見るだけ……どんな場所か確認するだけだから)
自分にそう言い聞かせて、彼女は静かにドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、むわりとした熱気と甘ったるい匂いが久美子を包み込んだ。
「え……」
教室の中は薄暗く、窓には黒いカーテンがかけられている。
蛍光灯の代わりに、あちこちに置かれた間接照明がぼんやりと室内を照らしていた。
目に入ったのは、パイプ椅子に座って順番を待つ十人ほどの女子生徒たちだ。
みな一様に顔を紅潮させ、スカートの膝をきゅっと閉じたり、所在なさげに指を組んだりしている。
(これって……)
久美子が息をのむと、すぐ近くにいた女子がちらりと彼女を見て、何も言わずにクリップボードを指さした。
壁に掛けられたボードには、名前のリストがずらりと並んでいる。
順番待ちの名前だ。
彼女たちはここで何かを待っている。
教室の奥は、ついたてとカーテンで仕切られていて、その向こうの様子は見えない。
でも、音だけははっきりと聞こえてきた。
「んっ……はぁ……」
荒い呼吸音。
それから、くちゅくちゅという水っぽい音。
何かが濡れて擦れ合うような、粘ついた響き。
仕切りの向こうで、今まさに行為が行われているのだと分かった。
(これが……噂の……)
順番待ちの女子生徒が一人、脚をもじもじと動かした。
彼女は俯いて自分の膝を見つめているが、耳は明らかに仕切りの向こうの音を追っている。
時折びくっと肩が震えるのは、向こうから漏れ聞こえる声のせいだろう。
久美子は立ちすくんだまま、動けなかった。
ここにレイジがいるかもしれないという期待と、もし本当にいたらどうしようという恐怖がせめぎ合う。
「ひぁっ……」
仕切りの向こうから上がった小さな悲鳴に、待っている女子たちの肩が一斉に跳ねた。
久美子の内腿の奥が、じんわりと熱くなり始める。
彼女は気づかないうちに、自分のスカートの裾をぎゅっと握りしめていた。
順番待ちの列は思ったよりずっと早く進んだ。
数分から十分程度で一人が仕切りから出てくる。
彼女たちは一様にすっきりとした表情を浮かべ、軽やかな足取りで教室を後にしていく。
中には小さく笑いながら友達と連れ立って出ていく子もいた。
(こんなに……みんな……)
久美子は自分の番が近づくにつれて、心臓が口から飛び出しそうだった。
太ももをぎゅっと閉じても、内側がじんわり湿っているのがわかる。
クリップボードに自分の名前を書くとき、指が震えて字が歪んだ。
そしてついに、彼女の名前が呼ばれた。
「次の方、どうぞ」
仕切りの向こうに足を踏み入れる。
薄暗い空間に、パイプ椅子が一脚と、小さなテーブル。
そして――
「いらっしゃい」
低く落ち着いた声。
切れ長の目が静かに久美子を見つめている。
窓際で本を読んでいたあの横顔。
ずっと話しかけたかった相手。
レイジがそこに座っていた。
「え、あ、レイジくん……?」
「黄前さんだよね。同じクラスの」
名前を知られていたことに驚く久美子をよそに、レイジは慣れた様子で説明を始めた。
「コースは二つ。
匂い嗅ぎ放題コースが一分百円。
オナニーは自由にしていいよ。
それから、俺の手マンが一回千円。
セックスはやってないから、それは悪しからず」
彼の口調はあまりにも事務的で、まるで教科書を読み上げるようだった。
でもその声を聞いているだけで、久美子の内腿はさらに熱くなる。
「黄前さんはどうする?」
問いかけられて、久美子は頭が真っ白になりながらも絞り出すように答えた。
「に、匂い嗅ぎ放題で……五分……」
五百円を震える手で差し出す。
レイジはそれを受け取ると、小さく笑った。
「わかった。どうぞ」
久美子はおそるおそる近づく。
一歩、また一歩。
彼の体から漂う微かな石鹸の香りと、その下に潛む男の子特有の匂い。
それだけで頭がくらくらする。
「そんなんじゃすぐ時間になっちゃうよ」
不意に、レイジの腕が伸びて久美子の頭を抱き寄せた。
彼の胸に顔をうずめる形になり、久美子は混乱する。
「え、あ、ちょっ……」
でも、その瞬間に鼻腔を満たした匂いに、彼女の抵抗は溶けて消えた。
制服越しに感じる体温。
微かな汗の匂い。
男子の、レイジの匂い。
頭の奥がじんと痺れて、膝から力が抜ける。
(あ……だめ……もう……)
久美子は無意識のうちにスカートの中に手を入れていた。
ショーツの上からでもわかるほど、そこはもうぐっしょりと濡れている。
指で布越しに割れ目をなぞると、ぬるりとした感触が指にまとわりつく。
「んっ……はぁ……」
彼女は夢中で自分の秘部をこすり始めた。
レイジの胸に顔を埋めたまま、恥ずかしさも忘れて指を動かす。
くちゅくちゅという水音が、仕切られた小さな空間に響く。
そのとき、下の方からジーッというチャックの開く音が聞こえた。
驚いて顔を上げようとした久美子の頭に、レイジの手がそっと置かれる。
長い指が髪に絡み、彼女の顔をさらに下へと導く。
「遠慮しなくていいよ」
彼の股間が目前に迫る。
開かれたズボンの間から、トランクス越しに膨らみがはっきりと見えた。
そして、先ほどよりもはるかに濃く、強烈なオスの匂いが久美子の鼻腔を突き抜けた。
「っ……はぁ……あっ……!」
理性が吹き飛んだ。
久美子はショーツの中に直接指を差し入れると、濡れそぼった膣内に一気に指を沈める。
自分の指で満たされる感覚に腰が跳ねた。
「んあっ……あっ……あっ……!」
指を抜き差しするたびに、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴る。
レイジの股間の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、久美子は激しく自分の中をかき回した。
目の前の膨らみに顔を押し付けるようにして、荒い息を吐く。
視界がにじみ、何も考えられなくなる。
「あっ……レイジくん……レイジくんの匂い……すごい……」
彼女は夢中で指を動かし続けた。
あと何分残っているのか、もうどうでもよかった。
ただこの匂いに包まれて、自分を責め続けたかった。
久美子の指は止まらなかった。
人差し指と中指を揃えて自分の膣内に抜き差しするたびに、ぐちゅっ、ぐちゅっという水音が大きくなる。
レイジの股間から漂う匂いを嗅ぐたびに、頭の芯がじんと痺れて、もっと深く、もっと激しく自分を責めたくなる。
「んあっ……あっ……レイジくん……」
彼女は無意識に彼の名前を呼びながら、左手も使って自分の胸を揉みしだき始めた。
制服のブラウス越しに、控えめな膨らみが形を変える。
指先で乳首を見つけると、そこももう固く尖っていて、触れるだけで腰が跳ねた。
(あ……もうイきそう……)
そのとき、彼女の頭に置かれていたレイジの手が、ゆっくりと彼女の髪を撫で始めた。
まるで猫をあやすような優しい仕草に、久美子の体はさらに熱くなる。
「いいよ、そのままイっていいから」
低く落ち着いた声が頭上から降ってくる。
許可をもらったことで、久美子はもう歯止めが利かなくなった。
「あっ……あっ……イく……イっちゃう……!」
膣内をかき回す指の動きが速くなる。
レイジのトランクスのすぐ目の前で、彼女は必死に自分を追い詰めていった。
彼の匂いをもっと吸い込もうと鼻を近づけると、布越しでもわかる熱と、むせ返るような雄の匂いが彼女を包む。
「んあああっ……!」
久美子の背中が大きくしなる。
膣内の壁がきゅうきゅうと指を締め付け、じゅぶじゅぶと愛液が溢れ出して手のひらを濡らした。
彼女はレイジの太ももにしがみつくようにして、絶頂の波に震える体を支えた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息を整えながら、久美子はぼんやりと顔を上げた。
レイジの切れ長の目が静かに彼女を見下ろしている。
彼のトランクスは、彼女の吐息で湿って、より一層中の膨らみがはっきりと浮かび上がっていた。
「五分、ちょうどだよ」
レイジが壁時計を指さす。
久美子はまだぼんやりした頭で、自分が何をしていたのかを思い出し、一気に顔が赤くなるのを感じた。
「あ、あの……私…」
「また来たいならいつでもどうぞ。黄前さん」
レイジは淡々と言いながら、チャックを閉めた。
その仕草さえも、久美子にはひどく官能的に見えて、彼女は慌ててスカートを直しながら立ち上がった。
足がまだ震えている。
「は、はい……ありがとう、ございました……」
消え入りそうな声でそう言って、久美子は仕切りの向こうから逃げ出した。
待合スペースに残っていた女子生徒たちが、彼女の乱れた髪と紅潮した顔をちらりと見て、意味ありげに微笑む。
久美子は教室を飛び出し、廊下の壁にもたれかかった。
心臓がまだバクバクと鳴っている。
スカートの中はぐっしょりと濡れたままだ。
(私、レイジくんの前で……オナニーしちゃった……)
恥ずかしさと興奮と後悔がごちゃ混ぜになって、彼女はしばらくその場から動けなかった。
でも、心のどこかで、もう一度あの匂いを嗅ぎたいと渇望している自分がいることも、はっきりと自覚していた。
それから三日間、久美子はまともにレイジの顔を見ることができなかった。
教室で彼の姿が視界に入るたびに、心臓が跳ね上がり、あの日のことを思い出してスカートの中がじんわりと湿る。
窓際で本を読む横顔も、先生に何か尋ねられて答える低い声も、すべてが彼女をあの薄暗い仕切りの向こう側へと引き戻した。
(私、レイジくんの前であんなこと……)
授業中、ノートにペンを走らせながらも、久美子の頭の中は彼の匂いでいっぱいだった。
制服越しの体温。
髪を撫でる長い指。
そして、あのチャックの下から立ち上る強烈な雄の匂い。
思い出すだけで内腿の奥がきゅうっと疼く。
「黄前さん、この問題解ける?」
突然先生に指されて、久美子はびくっと肩を震わせた。
「え、あ、はい……」
慌てて立ち上がると、スカートの裾が椅子に引っかかって少しめくれる。
その瞬間、斜め前の席にいるレイジと目が合った気がして、彼女の顔は一気に赤くなった。
彼はすぐに視線を前に戻したけれど、口元がほんの少しだけ緩んだように見えたのは気のせいだろうか。
放課後、久美子は図書室で本を読むふりをしながら、心の中で自分と戦っていた。
(また行きたい……でも、変態だと思われてるよね……)
ページをめくる手が止まる。
あの教室のドアを開ければ、またレイジがいる。
今回も五百円を握りしめて、匂いを嗅がせてもらえるだろうか。
それとも、もっと別のことを――。
彼女はぎゅっと目を閉じて頭を振った。
「ダメダメ、私ったら……」
でも、鞄の中にはもう五百円玉が用意してある。
朝、無意識に財布から取り出して、ポケットに入れていたのだ。
図書室を出ると、廊下は夕日でオレンジ色に染まっていた。
部活の生徒たちの声が遠くに聞こえる。
久美子は足を止め、あの空き教室へ続く渡り廊下の方をじっと見つめた。
(少しだけ……顔を見るだけなら……)
自分にそう言い聞かせて、彼女はまた同じ道を歩き始めた。
制服のスカートの下では、もうすでにショーツが湿り始めている。
その感触を確かめるように太ももをすり合わせながら、久美子は早足で廊下を進んでいく。
今日こそ、もっと長く彼のそばにいたい。
そんな欲望が、彼女の臆病な心を少しずつ溶かしていった。
空き教室のドアの前で、久美子は大きく深呼吸をした。
胸の奥で心臓がうるさいくらいに鳴っている。
前回来たときと同じ、むわりとした甘ったるい空気が、ドアの隙間からわずかに漏れ出していた。
(大丈夫、大丈夫だから)
自分に言い聞かせてドアを開ける。
待合スペースには今日も数人の女子生徒がパイプ椅子に座っていた。
前回よりは少ない。
みな一様に顔を上気させ、順番を待っている。
クリップボードに名前を書こうとしたとき、久美子は気づいた。
リストの一番上に、見覚えのある名前が並んでいる。
同じクラスの子だ。
隣のクラスの子もいる。
みんな、ここに来ていたんだ。
彼女は震える手で自分の名前を書き足した。
待っている間、仕切りの向こうから聞こえる声に耳を澄ませる。
「あっ……あっ……そこ……もっと……」
知らない女子の声だ。
くちゅくちゅという水音と、時折レイジの低い声が何か囁いているのが聞こえる。
手マンコースを頼んでいるのだろうか。
久美子は自分のスカートをぎゅっと握りしめた。
彼の長い指が、他の誰かの膣内に入っているところを想像して、胸がぎゅうっと痛くなるような、でもそれ以上に興奮している自分がいた。
(レイジくんの指……)
無意識に自分の指を見つめる。
あの日、彼の匂いを嗅ぎながら自分を責めた指。
今日は、彼の指に触れてもらえるだろうか。
「次の方」
声がかかって、久美子はびくっと立ち上がった。
仕切りの向こうから出てきた女子生徒は、前回見た子たちと同じようにすっきりとした顔で、軽やかに去っていく。
久美子は意を決して、仕切りの中に足を踏み入れた。
「やあ、黄前さん。また来てくれたんだ」
レイジは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
今日も彼は窓際ではなく、パイプ椅子に座って彼女を待っている。
「今日はどうする? 前回と同じでいい?」
問いかけに、久美子は持っていた五百円玉を差し出そうとして、手を止めた。
今日、彼女のポケットにはもう一枚千円札入っている。
「あの……き、今日は……」
声が震える。
でも、来る前から決めていたことだ。
久美子は勇気を振り絞って顔を上げた。
「手マン……お願いします……」
言ってしまった。
顔が真っ赤になるのを感じる。
レイジは一瞬息をのんだように見えたが、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。
「わかった。千円ね」
久美子は震える手でお金を差し出した。
レイジはそれを受け取ると、パイプ椅子を彼女の方に向けて座り直す。
「じゃあ……そこに立って。スカートを上げて、下着も下ろして」
淡々とした指示。
でもその声だけで、久美子の内腿はもうじっとりと濡れ始めている。
彼女は言われた通りに立ち、ゆっくりとスカートの裾をたくし上げた。
白いショーツが露わになる。
その中心はもうすでに湿って、うっすらと濃い色に変わっていた。
「全部下ろして」
レイジの静かな声が追い打ちをかける。
久美子は目をぎゅっと閉じて、ショーツを膝まで下ろした。
ひんやりとした空気が、濡れた秘部に触れて、彼女は小さく身震いする。
「きれいだね」
レイジの低い声がすぐ近くで聞こえた。
彼の長い指が、そっと久美子の太ももに触れる。
そのままゆっくりと内側をなぞりながら、指先が近づいてくる。
「力抜いて。大丈夫だから」
そして、彼の中指と人差し指が、彼女の濡れそぼった入り口にそっと触れた。
「んっ……!」
久美子の腰がびくんと跳ねる。
でもレイジは慌てず、ゆっくりと指の腹で彼女の割れ目をなぞり始めた。
愛液を全体に塗り広げるような、優しくて焦れったい動き。
「黄前さん、すごく濡れてる。気持ちいい?」
「あっ……はい……気持ちいい……です……」
正直に答えると、レイジの指が少しだけ入り口に沈み込んだ。
自分の指とは全然違う感触。
長くて、節くれ立っていて、そして何より、レイジの指だという事実が久美子をさらに濡らしていく。
「入れるよ。ゆっくり息を吐いて」
「は、はい……あっ……!」
ずぶり、という感触とともに、レイジの二本の指が彼女の中にゆっくりと侵入してきた。
久美子の膣壁がぎゅうっと異物を締め付ける。
でも彼の指は遠慮なく、奥まで進んでいく。
「ああっ……レイジくんの指……入ってる……」
「うん、全部入った。あったかいね」
レイジはそう言いながら、中の指をゆっくりと曲げ始めた。
膣の上の方、ざらざらした部分を指の腹で押し上げるように刺激される。
「ひゃっ……! そこ……あっ……!」
「ここ、気持ちいいんだ。黄前さん、ここ弱いでしょ」
彼の指が一定のリズムで、その部分をぐっと押し上げたり、離したりを繰り返す。
久美子は立っていられなくなり、レイジの肩に両手をついた。
自分の指では届かなかった場所。
自分ではできなかった刺激。
それを彼は容赦なく攻め立てる。
「あっ……あっ……だめ……なんか……変なの……」
膣の奥からじわじわと熱が広がって、子宮のあたりがきゅうきゅうと疼き始める。
レイジの指が抜き差しされるたびに、ぐちゅっ、ぐちゅっと卑猥な水音が教室に響く。
それが自分の体から出ている音だと思うだけで、さらに興奮して愛液が溢れてきた。
「黄前さん、イきそう?」
「あっ……はい……イきそう……です……」
「いいよ。俺の指でイって」
許可の言葉に、久美子の体は勝手に反応した。
膣壁がぎゅうぎゅうとレイジの指を締め付け、奥からどっと熱いものが溢れ出す感覚。
「イくっ……イっちゃう……あああっ……!」
彼女はレイジの肩にしがみつきながら、何度も何度も腰を痙攣させた。
レイジはそんな彼女の様子を静かに見つめながら、中の指をゆっくりと動かし続けている。
その動きがまた、絶頂の波を長引かせていく。
「はぁ……はぁ……」
ようやく波が引いて、久美子がぐったりとレイジにもたれかかると、彼はそっと指を抜いた。
指は彼女の愛液でぐっしょりと濡れて、糸を引いている。
「お疲れさま。気持ちよかった?」
「は、はい……すごく……」
久美子は真っ赤な顔でうなずきながら、慌ててショーツを引き上げた。
スカートの裾を直す手がまだ震えている。
でも、心は不思議と満たされていた。
「また来る?」
レイジがウェットティッシュで指を拭きながら、何気なく尋ねる。
久美子は一瞬息をのんでから、小さくうなずいた。
「……はい。また、来ます」
彼女はふらつく足で仕切りを出た。
待合スペースの女子たちがちらりと彼女を見る。
でももう、その視線は気にならなかった。
(レイジくんの指……また触ってほしい)
久美子は教室を出て、夕暮れの廊下を歩きながら、まだ自分の奥に残る彼の指の感触を反芻していた。
今度はいつ来よう。
明日も明後日も、彼に会いたい。
そんな思いで胸がいっぱいだった。
アガタ祭りを目前に控えた校内は、どこか浮ついた空気に包まれていた。
廊下では女子たちが浴衣の話題で盛り上がり、男子たちは屋台の食べ物や花火の話に花を咲かせている。
「久美子!私、塚本を誘う!」
「その調子ですよ!葉月ちゃん!」
昼休み、葉月が目を輝かせて宣言した。
彼女は久美子の幼馴染である秀一に、入学当初から好意を寄せている。
元気で明るい葉月は、恋愛に関しても積極的だった。
「え……秀一を?」
「久美子ちゃん塚本君に何かあるんですか?」
「う~ん言っておいたほうがいいよね・・・?」
緑の質問に、久美子は微妙な表情を浮かべた。
言うべきか迷ったが、葉月が無駄に期待して傷つくのも可哀想だ。
「あのね、葉月……秀一は、私のお姉ちゃんと付き合ってるんだ」
「「えっ?」」
葉月と緑の動きがぴたりと止まる。
箸でつまみかけた卵焼きが、弁当箱にぽとりと落ちた。
「中学校のときからずっと。だから、たぶん……」
「そ、そうなんだ……」
「はっ葉月ちゃん!」
葉月は見る見るうちにしょんぼりと肩を落とした。
元気が取り柄のような彼女が、こんなに小さく見えるのは珍しい。
「ごめんね、早く言えばよかった」
「わたしもごめんなさい。無責任でした・・・。」
「ううん、いいの。知らなかった私が悪いし……」
久美子は落ち込む葉月の背中を優しく撫でながら、自分の心の中に不思議な感覚が広がっているのに気づいた。
(私、いつの間にか吹っ切れてる)
中学生の頃、姉が秀一と付き合っていると聞いたときは、すごくショックだった。
幼馴染としてずっと近くにいた秀一。
姉の方が美人でスタイルもよくて、どうやったって敵わないと思っていた。
布団の中で何度も泣いたのを覚えている。
でも今は違う。
あの頃の鬱屈した気持ちが、きれいに消えている。
それどころか、胸の奥から別の欲求がむくむくと湧き上がってくるのを感じた。
(私が今、一緒に行きたいのは……)
頭に浮かんだのは、切れ長の目をした男子生徒の顔だった。
「葉月、ちょっとごめんね!」
久美子は勢いよく立ち上がると、教室の中を見渡した。
窓際の席。
レイジはいつものように本を読んでいる。
心臓が早鐘を打つ。
でも、もう逃げたくなかった。
「レイジくん」
声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。
切れ長の目が久美子を捉える。
それだけで膝が震えそうになる。
「あの、アガタ祭りって……誰かと行く予定ある?」
レイジは少しだけ驚いたような顔をしてから、小さく首を振った。
「男子と回る予定。もう約束してるんだ」
「そ、そうなんだ……」
久美子はがっかりしたような、でもほっとしたような複雑な気持ちになった。
もしOKと言われたら、二人きりで祭りに行くことになる。
それはそれで、自分がどうにかなってしまいそうだ。
「でも」
レイジが本を閉じながら続けた。
「祭りで会ったら、よろしくね。黄前さん」
その瞬間、久美子の胸の中で花火が打ち上がった。
彼の低い声が耳にこびりついて離れない。
祭りで会ったら。
会ったらよろしく。
つまり、会いたいと思ってくれている?
「は、はい!こちらこそ!」
久美子はぺこりとお辞儀をして、自分の席に戻った。
顔がにやけてしまうのを必死で抑える。
でも、口元はどうしても緩んでしまう。
「ちょっと久美子!」
「久美子ちゃん!どういうことなんですか!」
席に戻ると、葉月がじとーっとした目で彼女を睨んでいた。
緑は新たなる恋話に目を輝かせている。
「失恋した私の前で、イチャイチャしないでよ!」
「イチャイチャなんてしてないよ!」
「してた!顔がにやけてた!」
「してましたよ!」
「そ、それは……」
久美子はばつが悪そうに俯いたが、ふと顔を上げると、葉月の手をぎゅっと握った。
「ねえ葉月ちゃん、私、いいこと教えてあげる」
「え?いいこと?」
「放課後、一緒に来て。元気が出ること間違いなしだから」
「久美子ちゃん?私は?」
「緑ちゃんにはまだ早いよ」
「そんなー」
葉月は首をかしげたが、久美子の真剣な表情に何かを感じ取ったのか、素直にうなずいた。
「わかった。でも何?」
「それは着いてからのお楽しみ」
「いいなー。今度は私に教えてくださいね?」
「そのうちね?」
「久美子ちゃんから大人の余裕を感じます!」
久美子はそう言って微笑んだ。
あの空き教室のことを、誰かに教えるのは初めてだった。
でも、落ち込んでいる葉月の顔を見ていたら、教えてあげたいと思ったのだ。
レイジの指がくれるあの感覚を。
彼の匂いに包まれるあの幸福を。
放課後、久美子は葉月の手を引いて、あの校舎へと向かった。
葉月はきょとんとした顔でついてくる。
空き教室のドアの前に立つと、久美子は振り返ってにっこり笑った。
「ここね、すごい場所なんだよ」
「すごい場所?」
「うん。葉月ちゃんもきっと、元気になるから」
そう言って、久美子はゆっくりとドアを開けた。
むわりとした甘ったるい空気が二人を包み込む。
葉月が息をのむのが聞こえた。
「久美子、ここって……」
「いらっしゃい、葉月ちゃん」
久美子はクリップボードを手に取りながら、友達に優しく説明を始めた。
股間に顔をうずめて匂いを嗅ぐ久美子が脳から離れたかったのでついつい書いてしまいました。