インターフォンを押されて、屋敷の玄関に向かう。扉を開けた向こうには、ごく普通の身なりをした中年の男と少女が立っていた。
少女の首には、これが奴隷である証拠の首錠がかかっている。
「ご注文の品をお届けに上がりました。」
中年の男は、商売人の笑みを浮かべて私に言う。
無言で手を出すと、隣の少女はその手を取って私の隣へと歩いてきた。
「ご苦労。」
事前に金は払っているので、これ以上何も言うことはない。
そのまま扉を閉めて、傍らの少女に向き直る。
「本日からこのお屋敷でお世話になります、レアと言います。よろしくお願いします。」
私に促されるまでも無く少女、レアは名乗った。
「グレゴリーだ。」
簡単に名乗って、そのままレアの手を引く。
エントランスから、屋内の階段を上がって2階へ。廊下を進んだ左手3番目の部屋にレアを通す。先日臨時のメイドを雇って掃除させた室内はまだ充分に綺麗だ。
元々は客間だったこの部屋には、シングルサイズのベッドが1つ、衣服を保存するためのクローゼットに、宗教上の理由で1階の浴場が使えない客のための簡易シャワールームとトイレが備え付けられている。
早い話が、ホテルの一室に近い。
室内へとレアを引いて奥のベッドへ近づき、ベッドの足に繋げられた鎖の先端を首錠と繋ぐ。
「室内をうろつくには十分な長さの筈だ。但し窓から飛ぶと首を吊る羽目になる。馬鹿な真似はしないように。」
私の言葉の意味を一瞬図りかねるような表情をした後、レアは大きく首を振り。
「そんな心算なんて無いです!!」
そのまま大きな声で否定した。まぁその心算は無いだろう。
愛玩用として育成、出荷された固体は、買い手のことを里親か何かと同一視するようになっている。特にこの固体は、カタログ上で投薬回数と条件付けのための調教回数が極端に少なかった、生来素直なのだろう。
因みに、『愛玩』と一口に言っても、可愛がり方は人それぞれでありその過程で愛玩用奴隷が無残に死ぬことも別段珍しいことではない。
「そうか。」
勿論、そういった奴隷の精神衛生上都合の悪いことを態々言って聞かせてやるつもりはない。第1、別に愛らしいから可愛がるわけでもない。
「では、好きに寛ぐと良い。食事の時間になったら給仕の人間が呼びに来るだろう。」
それだけ言い残して部屋を出た。同じ階の別室、私が主として仕事や趣味で行う書き物の為に使う部屋へと入る。
室内にある机に座り、引き出しから愛用の手帳を取り出してページを捲る。
見出しに『第23期調理計画』と書かれたページで、捲る手を止めて、内容をよく読む。複数の文献を漁り、3日ほどかけて練り上げた計画だ。所要期間は2~3週間。
その瞬間に思いをはせ、思わず舌なめずりをした。