その時、変声機を通したようなザラザラとした機械的な声が聞こえてきた。誰かいるのかと思ったが、箱の中には自分しかいない。ではきっと、スピーカーがあるのだろうと思って上下左右を見渡すが、いくつかの監視カメラのようなものは見つかっても、スピーカーらしきものはなかった。
『佐藤・アビー・真由美……いや、キララちゃんと呼んだほうがいいかな。お友達や恋人、えっちな関係にある人にはそう名乗って呼んでもらっていたみたいだからね』
「なんで知ってんのよ!」
真由美――いや、キララは甲高い声で叫んだ。
小学校中学年の頃から、キララは周囲の友達に「自分のことはキララと呼んでほしい」とお願いしていた。「真由美なんて名前は、ダサくて嫌だから」というのが理由だったが、「両親に愛されていない、真由美なんて名前の女の子はいない。かわいくてきれいで、みんなに好かれるキラキラした女の子こそ、自分の本当の姿だ」と、自分で設定したからだ。
両親は知らないが、中学に入って以降は、誰も彼女のことを真由美とは呼んでいない。真由美はキララだった。キララは多くの友達がいて、カレシも途切れることなくいて、そして優しくしてくれる年上の男たちの知り合いも多かった。まさにキラキラしていた――自分でそう思い込む範囲においては。
『ちょうどいいね。佐藤・アビー・真由美という人間は死んだ。
「あんた、誰よ!」
キララは腹立たしい思いで叫んだ。
突然意味不明な状況になっていることも、謎の声の主がこの状況を理解しており、自分より優位に立っているように思えることも、何もかもがムカついた。
『僕はジョーカー。今日のショーの司会進行を務める者さ』
「ジョーカー? ショー? 何それ、意味わかんない! いいから放してよ!」
『それはできない。君にはもう、帰る場所なんてない。この場所が、キララという女の子の生きる場所なんだよ』
「はあっ!?」
ジョーカーの言うことは、何も理解できなかった。
そこでキララは、自分に何が起きたのかを思い出そうとした。
いつものように退屈な家を出て、誰かの家に泊まろうとしていた。しかし、いつも気軽に招いてくれるはずの男たちに根こそぎ宿泊を断られてしまったので、久しぶりに繁華街で立ちんぼをしていた。身汚い男はお断りしていたが、最後に自分に話しかけてきたのはホストのような美形の若い男で、金額交渉をしてからその男とホテルに向かった。たしか、そのはずだった。
だが、ホテルに到着した記憶がない。気付いたらこの状況だった。ということは、あのホストのような男に、このおかしな場所へ連れ込まれたのだろう。
「なんであんたにそんなことを決められなきゃいけないのよ!」
『まあ、納得しなくていいよ。それに知る必要もない。君はもう、この場所で生きるおもちゃの一人だからね』
「なっ……何!?」
ウィーン、というにぶい機械音が鳴り、キララはきょろきょろと狭い室内に視線を這わせた。すると目の前の床が開いて、下から何かが上がってくるのが見える。
「きゃあっ! な、何っ!? 何なのよっ!?」
それは、色や感触が人の舌によく似ている肉の塊。この狭い立方体の箱の中を埋め尽くすほどの質量。二人掛けのソファ二つを縦に重ねたような大きなその肉団子からは、しゅるん、しゅるんと音を出す、蛇のような触手が数えきれないほどに生えている。そしてそれらは、うねうねと活発に空中をただよっていた。まるで獲物を探しているようだ。
『それはこの豪邸が飼っているペットの一匹だよ。昔、頭脳明晰だけど倫理観皆無の生物学者がいてね。その学者が開発し、ある富豪が買い取ってこの場所に寄付したそうだ。この場所で行われるショーではたびたび活用されていて、一応、ピーミートという名前があるよ』
「やっ、ちょっと!」
解説をするジョーカーの声を無視して、ピーミートという肉塊から伸びた触手がキララへと向かって伸びてくる。今夜のご馳走に気付いたようだ。
「やだっ! 何よ、やめてよ!」
濃いピンク色の触手は、太さが様々だ。割り箸ほどの細いものもあれば、リコーダーほどの太さや、大根ほどの太さのものもある。その先端も様々で、ミミズのように丸くなっているものもあれば、唇みたいに厚い肉がぱかりと上下に開いているもの、硬そうなヒダが剣山のように伸びているもの、やわらかな細い舌に枝分かれしているものなど、バラエティに富んでいる。
その触手が一本ずつ体にまとわり付いてきたのでキララは気付いたのだが、どの触手も表面からうっすらと透明な液体を出していて、それらでキララの体は少しずつ濡らされていった。
「キモイキモイっ、キモイ! 何なのよ、これ! やめて、離れてよ!」
キララは恐怖と怒りの混ざった表情で怒鳴り続ける。しかしピーミートはキララの悲鳴などお構いなしに、キララの右腕、左腕、右足、左足と、順番に触手をからめてくる。
「ひっ! や、やめてっ!」
さらに、少し細めの触手がキララの乳房を丸く囲い込んだ。男たちにさわられるのとは違った感触に、キララは悲鳴を上げる。
「やっ……え、う、嘘でしょ……」
その時、キララの眼前で二本の触手の先端がぬちゅう~と口を開けた。五枚の花弁のように広がったその触手の中には、小さな突起物が所狭しと生えており、さらにはその突起物からだらりと粘性の液体が溢れ出ている。
『ピーミートは見た目に反して繊細な生物でね。性的に興奮した女性の体が発する匂いや体液だけが、唯一のエネルギー源なんだ。それを摂取するために、あらゆる快楽を女性に与えてくれるんだよ』
「やだっ……こ、来ないでっ!」
キララは大きく目を見開いた。しかし、二本の花びら触手にキララの拒絶など通じるはずもない。キララのやや濃い乳首全体に密着すると、五枚の肉花弁はキララの乳首を吸い上げ、さらにその中にある突起物がうねうねと振動してキララの乳頭を刺激した。
「やあぁんっ! ああっ、やだ、やだっ、やめてっ!」
男の太い指が乱暴につまむのとは違い、触手が与える感触はソフトタッチだ。それに、いつも相手する男たちは乳房を揉むことだけに必死で、キララを気持ちよくさせるつもりなど微塵も感じられなかったが、このピーミートという気持ちの悪い生物はキララに快感を与えたいという意思があるのだと、なぜかそう感じてしまう。
「やっ……な、何か出てる……っ!?」
ピーミートの突起物と肉花弁が、にちゅにちゅと粘性の高い音を出しながら、キララの乳房と乳首をやさしく揉み続ける。にゅるん、にゅるんと、ほかの触手もキララの体にまとわり付き、軽く押し込むようなふれ方でキララの肌を這う。ピーミートの触手とキララの肌が、くちゅん、ぴちゅんと音を立てながら、ぬめりを伴ってこすれ合う。