※この作品はR-18です。

敵亡き世界   作:山崎 響

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最終話

 扶桑近海にて

「誰もいませんね……」

 ウルスラさんがひょこっとUボートから顔を出して言った。

 私も周りを見てみた。破壊された軍艦があちこちに浮いていた。

「リベリオンの軍艦のようですね」ウルスラさんが言った。

 戦闘があったのは確かみたいだけど、一体誰が……。

「とにかく扶桑の陸地は見えています。ここからは私がウルスラさんを

おぶって飛んでいきますよ」私はトンっと胸を叩いた。

「そうして頂けると助かります。完全にUボートは停止してしまいましたので」

 私はストライカーを装着しウルスラさんをおぶって空へ飛び立った。

 あまり胸の感触は楽しめなかった。これがルッキーニちゃんの言う

残念賞ってやつか。私よりはありそうだけどな。

 私たちは扶桑へ向かった。私の住む町へ。ウルスラさんを背中に乗せて。

「ウルスラさん。もう少しで扶桑ですよ」

「……」

「ウルスラさん?」

「……」

「おーい?」

 私の首筋につーっと温かいものが流れた。

「え? ウルスラさん! ちょっと! 大丈夫ですか! ウルスラさん!」

 返事がない。ウルスラさんの力が抜けて私の背中からずり落ちそうになる。

 なんとか落ちないようにウルスラさんを私の背中に押さえつけようとした。

「あっ」

 伸ばした私の手をすり抜けウルスラさんが太平洋に落下していく。

「ウルスラさん!」

 私はウルスラさんに向かって急降下する。

「ま、間に合わない……落ちちゃう……」

 ぼよんとウルスラさんが空中で跳ねた。ふかふかのマットレスに落ちたように。

 ウルスラさんはグライダーのような形をした巨大な黒い物体の上に倒れていた。

 巨大な物体はゆらゆらと空中を移動している。

「ネウロイだ……」

 私は空に立ちすくむ。今の私は全く武装はしていない。銃さえもっていない。

 私にネウロイと戦う術は無い。

「でも……こんなに近づいているのに攻撃してこないなんて」

 私は唾を飲み込み、ウルスラさんが倒れている巨大ネウロイの背中に

降り立った。そしてウルスラさんを抱きかかえた。

「ウルスラさん、しっかりして。目を開けてぇー」私は必死に叫ぶ。

 ウルスラさんはパチっと目を開けて言った。

「扶桑に着いたんですか?」

「は?」

「寝てしまったようです」

「え? でもさっき私の首筋に血のようなものが流れて……」

「よだれです」

「あ、そうですか」

 

 ウルスラさんが辺りを見渡す。

「扶桑ってずいぶん黒い所なんですねぇ。なんか揺れてるし……」

「えっと、あの……。言いづらいんですけど、ここネウロイの上です」

「へぇ。そうなんですか。うっぷ。揺れて気持ち悪い。

あ、ちょっと吐いていいですか? げろげろ」

 出てますよ。もう……。

 

 巨大ネウロイはゆっくりと港の近くの海に着水した。軍艦は一隻もいなかった。

「あ、ありがとう……」私はネウロイにお辞儀した。

 

「私を助けてくれたんでしょうか」ウルスラさんは不思議そうな顔をしていた。

「わかりません……でもなんか……やっぱりわかりません……」

 もう一度私が振り向いた時、その巨大ネウロイは姿を消していた。

 

 私たちは歩いた。港から私の家まで。少し雪がちらついていた。

 私が同窓会に行く為に扶桑を離れた時からそれほど経っていないのに

扶桑の様子は様変わりしていた。港も…学校も…町も…山も…川も……

激しく破壊されていた。

 壊れた家の下敷きになっている人。高い建物から落ちたであろう人。

 警察官や消防士や軍人さん、そして町の人も一生懸命建物の下敷きに

なった人たちの救助に当たっていた。

 ほとんどの家は燃えて真っ黒い柱がむきだしになっていた。

「私もお手伝いを……」私が駆け出そうとした時だった。

「芳佳ちゃん? 芳佳ちゃんなの……」

「みっちゃん!」

 大きな枕を二つ合わせたような大きな頭巾をかぶったみっちゃんがいた。

「よかった……無事だったんだね……。私……わたし……」

 みっちゃんが泣き崩れた。

「みっちゃん、一体何があったの?」

 私は泣きながら顔を覆いしゃがみこむみっちゃんの前にしゃがんだ。

 なぜかウルスラさんもしゃがんだ。

「爆撃機が毎日町に爆弾を落とすの。もう壊すものなんて何もないのに

毎日毎日……」

「みっちゃん……」

「おじいちゃんが死んじゃった。お父さんも……お母さんも……」

「そ、そんな……」

 リベリオンはカールスラントだけじゃなく扶桑も滅ぼす気だ。徹底的に。

 

「あ、リベリオンの爆撃機です」ウルスラさんが空を指差す。

 十数機の爆撃機は編隊を組んで扶桑の空を我が物顔で飛んでいる。

「芳佳ちゃんの家の方に飛んでいくよ……」

 みっちゃんが目に涙を浮かべたまま私に言った。

 私は真っ青になり、気づいたときには駆け出していた。

 みっちゃんとウルスラさんは呆然とその場に佇んでいた。

 

 お母さん……おばあちゃん……

 

 よろず診療所は無事だった。私は家の中に入った。

「お母さーん。おばあちゃーん」家の中を探すが返事はない。

「どこへ行ったの」家の中はがらんとしていて人の気配は全くなかった。

 

え?

 

 空が光った。家の中にいても眩しいくらいに空が光った。

次の瞬間、鼓膜が破れそうなほどの轟音が鳴った。

私は耳を塞いでそのまま畳の上に倒れこんだ。

 

 あれ? 真っ暗だ。ここはどこだろう。私、家で……。

お母さんとおばあちゃんを探してて……。そうだ……。

そしたらすごい光と音が……。あれ? 手が動かない。足もだ。

 

 不思議と恐怖は無かった。ただ、終わったなとだけ思った。

 

 リーネちゃんの姿が頭に浮かんだ。リーネちゃん……ごめんね。

あんなに不安そうに私を見つめていたリーネちゃんの手を振りほどいて……。

 次々と仲間達の顔が私の頭を駆け巡る。

 ペリーヌさんとはあんまりお話できなかったな……

もうちょと胸が育つと最高の淑女になれますよ。

 ルッキーニちゃんは前と変わらなかったな。

ロマーニャでもきっといたずらしてるんだろうな……。

 あっ、シャーリーさんの胸触るの忘れてたぁ。

 ミーナ隊長とマルセイユさん無事かな……。

カールスラントも扶桑みたいになってるんだろうか……。

 バルクホルンさんはもう歩けない。私にもっと力があったら……。

 ハルトマンさんはガリアに飛んでってしまったけど、

きっとハルトマンさんなら大丈夫だよ……ね。

 サーニャちゃんは今どうしているんだろう。

 エイラさんがあんなことになって……。どうして……こんなことに。

 

 そして私は最後の仲間の顔を思い浮かべた。優しくて厳しくて

いつも私の事を心配してくれていた人。

 涙があふれて頬を伝った。悲しいわけじゃない。寂しいわけじゃない。

 あなたに私が今まで生きてこれたことのお礼を言えなかったことが

心残りなだけだ。

 私の意識は静かに暗闇の中へ溶けていった。

 

 

 ゴォォォォ

「みぃーやぁーふじぃぃぃ」

 必死の形相で叫びながら飛ぶ隻眼のウィッチ。

「リベリオンめ、もはや戦う術のない扶桑に原爆を使うとは……」

 

 美緒はエイラとサーニャに導かれ芳佳の家があった場所まで来ていた。

 診療所は影も形もなく、ただ爆風で飛ばされた瓦礫だけが山となっていた。

 魔眼を開く。いる。宮藤はこの瓦礫の下にいる。か細い息使いが聞こえる。

「生きている。宮藤は生きている」

 美緒は瓦礫を取り除く。ひとつひとつ必死に取り除く。

 一際大きな瓦礫が美緒に立ちふさがっていた。

「ハァハァ。この下だ。くそっ。この瓦礫。うぉりゃぁぁ」

 美緒は渾身の力を込めて瓦礫を投げ捨てる。

「み、宮藤!」

 芳佳の姿が見えた。芳佳の顔は血の気が無く白かった。

破れた服には血が滲んでいた。

 美緒は芳佳の体を抱きしめ、叫ぶ。

「しっかりしろ。宮藤。目を開けてくれ。宮藤ィィ」

 返事は無かった。何度も何度も美緒は叫んだ。声が枯れてもまだ

美緒は叫んでいた。

 

 

 

 私を呼ぶ声がする。誰? 応えたいけどもう声が出ないんです。

 手も足も、指すら動きません。

 何か大事なことを想っていた気がするんですけど思い出せません。

 すごく大事な……大切な……ことだったのに……。

 

 あっ……。眩しい……。暗闇に……。光が……。

 

「宮藤が目を開けた……。宮藤、宮藤ぃぃ。見えるか?私が見えるか?」

 眩しい光の中に涙を流しながら必死に叫ぶ坂本さんが見えた。

「さ……か……も……さん」

「宮藤、良かった。ははっ。生きてた。良かった」

 

 ぶしゃっ

 私の顔に大量の血の塊が降りかかった。

 赤い視界の中で坂本さんがリベリオン兵に頭を打ち抜かれて

倒れているところが見えた。

 

「坂本さん? 坂本さん……。坂本さん。いやぁぁぁぁぁぁぁ」

 私の叫びと共に大きな白い光が私から放出された。

 白い光は私を完全に飲み込んでいった。

 

 白い光は広がり、やがて扶桑を包み込む。その光はどこまでもどこまでも

広がっていた。そして世界は完全に白い光に包まれた。

 

 

 

 リーネは破壊されたガリアの大地を走っていた。子供達がリーネの後を追う。

「ペリーヌさん……どこ? どうか無事でいて……」

「リーネお姉ちゃん。なんだろうこれ? 雪? きらきら光ってる」

 輝く結晶がリーネと子供達の上へ降り注いでいた。

 リーネは足を止めて空を見た。

「よ……しかちゃん?」リーネは空を見たままつぶやいた。

 

「いったたた」お尻をさすりながら光の結晶の中を歩いてくる人がいる。

「ペリーヌさん!」リーネはペリーヌの元に走り思い切り抱きつく。

「きゃっ」ペリーヌは尻餅をついた。リーネがペリーヌに覆いかぶさる。

 リーネの胸がペリーヌの顔を思いっきり挟んでいた。

「くっ苦しいですわ。リ、リーネさん。ちょ、ちょっと」

 ジタバタとペリーヌがもがいていた。

 

「お取り込み中、悪いんだけどさぁ。なんか食べるものない?おなかすいたよ」

 お腹をさすりながら誰かが話しかけてきた。

「ハルトマンさん!」リーネが驚いてハルトマンの足を見た。足が……ある。

「仕方がありませんわね。家でお茶にしましょうか」

「やったぁ。ねえペリーヌ、お菓子ある? お菓子」

「倉庫が無事ならあると思いますわ」

 リーネは口をぱくぱくしながら二人を見ていた。

 それから目に涙があふれてきた。

「ど、どうしたんだよ。リーネ。うわぁ」

「リ、リーネさん」

 リーネは二人を思いっきり抱きしめた。

「良かった……。良かったよぅ。よかった……。本当に良かった」

 ハルトマンとペリーヌは顔を見合わせた。

 ハルトマンはポリポリと頬を掻いて恥ずかしそうに目をそらした。

 ペリーヌは、ずれた眼鏡を直しながらちょっとハルトマンに微笑んだ。

 

 

 

 ローマの王宮の庭でシャーリーはぼんやりと目を開けた。

「しゃーりぃ、起きてよ。しゃぁりぃ」

「もうちょっと寝かせてくれよ。あと五十分……」

「ハルトマンの真似してないでさぁ。起きてよぅ」

「え?」

 シャーリーは、がばっと起き上がった。

「ルッキーニ……。お前……」

「ん? どったの……しゃーりぃ?」

 シャーリーはルッキーニの頭を掴みマジマジとおでこを見た。

「わっわっ。何なにナニ……」

「角がない……。え? ルッキーニ? なんともないのか?」

「何がぁ?シャーリー。って、ちょっと、痛い痛い。

アタシ浮いてるってば……シャーリー」

「ははは……あは……あはははは」

「へんなシャーリー。泣きながら笑ってる……」

 シャーリーはルッキーニの手をとってぶんぶん振り回した。

「め~がまわるぅぅ」

「そうだ……。ルッキーニ、女王陛下は……?」

「へ? 女王ちゃんなら庭園でお茶飲んでたよ」

「そっか。そうかぁ。そうかぁぁぁ」

「目が回るってばぁぁあ」

 ルッキーニはぽふんとシャーリーの胸の上に落ちた。

 

 シャーリーの胸に顔をうずめながらルッキーニが囁いた。

「シャーリー。ありがとう。大好きだよ」

 

 ローマの街は落ち着きを取り戻していた。

 建物を修理する音がずっと鳴り響いていた。

 

 

 

「なんだろうこれ?」マルセイユが空を見上げた。

「ネウロイを倒した後の結晶のような……。」

 ハイデマリーが手に落ちて溶けていく結晶を見ていた。

「不思議だな。この光に包まれていると怒りとか悲しみとか憎しみが

洗い流されていくようだ」バルクホルンが光の中で立ち上がった。

「バルクホルン……お前!」マルセイユが驚いてバルクホルンを見た。 

「ハンナ、驚くのはまだ早いぞ」バルクホルンがマルセイユに言った。

 

 突然ハイデマリーが駆け出す。光の中に佇む影に向かって。

「みんなお疲れさま。任務完了よ」

「ミーナぁ?」マルセイユは驚いて変な声を上げた。

 ハイデマリーはミーナの隣で泣いていた。

「私の足は治った。ミーナも還ってこれた。しかし世界はあまりにも

傷つき過ぎた。任務完了と言うにはまだ早いんじゃないのか? ミーナ」

「まわりを見てごらんなさい。トゥルーデ」

 光の中でミーナが両手を広げた。わぁっと歓声が上がる。

「これは……」バルクホルンは周りを見渡して驚く。

 カールスラントの兵士たちとリベリオンの兵士たちが共に武器を投げ捨て

生還の喜びを分かち合っていた。

 マルセイユはバルクホルンの隣で口を開けたまま固まっていた。

 

 

 

 オラーシャの空は澄み渡っていた。

 うっすらと積もった雪の上を小鳥が跳ねている。

「え? 私……。生きてる」

 サーニャは崩れた王宮を不思議そうに見ていた。

「わっ。ナンデ私、はだかなんだヨ」

 サーニャの後ろで声が聞こえた。確かに聞こえた。

「エ……イラ!」サーニャは振り向いた。

「サーニャぁ。なんか着るものない? さみーヨ。風邪ひいちゃうヨ」

「エイラ……エイラ……エイラぁ……」

 サーニャは黒いローブを開きエイラを抱きしめる。

「サ、サーニャ、あったかいんだケド、サーニャのムムム胸が顔に当たって……」

「エイラ……。ごめんなさい。私……私……。ん?……エイラ?……。きゃぁぁ」

 サーニャの胸にべっとりとエイラの鼻血が付いていた。

「な、なんか……ワタシ……シアワセだぁぁぁぁぁ」

 

 

 私は光の中を彷徨っている。世界に降り注ぐ光の結晶は私。

 少しずつ私の体が無くなっていく。「でも暖かくて気持ちいい」

 ゆらゆらと空を漂う私の隣をウィッチ型のネウロイが一緒に飛んでいた。

 ネウロイは赤いコアを私に差し出した。赤い光と白い光が眩く輝く。

 私はネウロイを見て言った。

「何で頭にゲロをかぶっているの?」

 

 

「あっ」私は目を覚ました。私はキョロキョロとまわりを見渡す。

 お母さん……。おばあちゃん……。みっちゃん……。ウルスラさん……。

 みんなが私を心配そうに覗き込んでいた。

「芳佳ちゃん。芳佳ちゃんが目を開けたよ」みっちゃんが嬉しそうに言った。

 私は家の布団に寝ていた。ぼんやりした頭で庭の方に目をやった。

 庭では坂本さんが素振りをしていた。烈風丸をぶんぶんと振る。

 

「坂本さん!」私は飛び起き庭へ行った。

「おぅ。目が覚めたか。宮藤。」

「私、私、坂本さんに……」

「どうした? 宮藤」

「ありがとうございます」

「ん?」

「私、坂本さんがいなかったら生きてこれませんでした」

「あっはっは。上官が部下を守るのは当然のことだ。

それより、これを見てみろ。宮藤」

 私は赤い紙を坂本さんから、受け取った。

「召集令状!」

「リベリオンの上空にネウロイの巣が出現した。

私とお前はリベリオンの防衛と巣の殲滅に当たる」

「そ、それじゃ……」

「それと、ミーナから伝言だ。」

「え?」

 

 

 

 ストライクウィッチーズ再結成します!

 

 

完




 ここまでお付き合いして下さった方、本当にありがとうございました。
 お気に入り登録して下さった方、愛してます。

 正直なところ、私の書いたラクガキを読んでくれる方がいるとは思いませんでした。
「せっかく書いたし一人でも読んでくれる人がいたら嬉しいなぁ」
くらいの気持ちでした。もう一回言います。読んでくれてありがとうございました。

 ちなみに私はエイラとハルトマンが大好きです。
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