「ええいっ!」
アスナのレイピアが空を切る。彼女の周りには十数体のモンスターが蠢いていた
巨大な植物型モンスターが蔓を伸ばし彼女を攻撃する
「くっ……!ミト、どこなの!?」
アスナは背中合わせで戦っていたはずのミトの姿を探すが、すでに視界から消えていた
さっきまでの連携攻撃は失敗に終わり、二人は完全に分断されていた
「ミトーっ!!」
叫ぶ声も虚しく、四方から迫る敵影に呑み込まれていく
アスナのHPゲージが赤く染まり始めていた
何度も襲いかかる鋭い爪が、彼女の防御を掻い潜り傷つけていく
体から力が抜け、ついにモンスターにのしかかられる
(もうダメかもしれない……)
「アスナーっ!!」
遠くからミトの声が聞こえた
彼女は必死に別のモンスターを引きつけながら、隙を見てアスナに接近しようとしている
「ミト、逃げて!私のことは気にしないで—」
「馬鹿なこと言わないで!あなたを見捨てられるわけないでしょう!」
二人を取り巻く状況は絶望的だった
このエリアは通常の狩り場より一段階上の難易度
レベル的には十分に戦えるはずの二人でも、数の暴力に対応しきれていなかった
アスナは自分の命よりも先に、親友ミトの安否を気遣っていた
「逃げて、お願い!」
しかしミトは決して諦めようとしなかった
両手に持った鎌で必死に戦いながら、少しずつ距離を詰める
「今行くわ!あと少し……!」
だが現実は残酷だった。いくら斬っても次から次に湧いてきて前に進めない
「邪魔しないで!」
「今や!」
突然飛び出したでっぷり太った影が何かを投げる
それはアスナの至近距離で炸裂し、アスナもろともモンスターたちを大混乱に陥れた
頭蓋に響く強烈な音と衝撃に失神する少女
それは音爆弾だった
「ちょっと巻き込んでもうたか、まぁ計画に支障なしや」
関西弁でいやらしい笑みを浮かべるのは
でっぷり太ったすだれハゲの醜悪な中年男性
“あなた”だった
男はアスナのすぐ側まで近寄る
「気絶しとるな、これはむしろ好都合やで」
「ついでに閃光玉と煙玉もプレゼントや」
適当に投げた二つの玉が戦場を更に混乱に陥れる
すぐさま“あなた”はアスナを抱えてドタドタと逃げていく
「やめて!あなた誰?!アスナを返して!」
ミトの叫びも虚しく、煙が晴れる頃にはその場から中年男もアスナも消えていた
「アスナ……?」
全てが終わった後の静寂の中で呟く
気づけば、自分を追い詰めていたモンスターたちは姿を消していた
おそらくは閃光玉によって驚いて逃げ去ったのだろう
危機は去った、しかし大切な人の姿もまた見当たらなかった
「アスナ!どこに居るの!アスナぁ!!」
叫び続けるミトの心に、最悪の想像が忍び寄ってくる
あの爆弾でアスナが……死んだ?
「そんな……嘘よ……」
膝から崩れ落ちるミト。涙が頬を伝い、床に落ちる
しかし次の瞬間、彼女は自らを叱咤し立ち上がった
「探さないと……絶対に見つけるから……!」
一方、アスナを抱えた“あなた”は、近くの洞窟へと向かっていた
彼の足取りは意外にも早く、重い体重を感じさせない軽やかさがあった
「…………」
失神したアスナはぐったりして動かなかった
洞窟内のいくつかの小さな分岐路を通り過ぎ、奥へ奥へと進んでいく
やがて、“あなた”はある大きな空間の入り口で立ち止まった
そこは自然の洞窟を人工的に加工したような、奇妙な雰囲気の場所だった
「ここやな」
“あなた”は懐から小さな鍵を取り出し、岩壁にカモフラージュされた扉を開けた
その奥に広がるのは、人が十分住めるような整えられた地下室だった
“あなた”は彼女の着ているものを全て剥ぎ取り両手両足に鎖の付いた枷をはめた
「ふぃーっ、ひとまず上手くいったで」
ため息をついた“あなた”は緊張が解けて脱力する
「クソザコのわいが全てを出し抜くにはあのタイミングで投げるしかなかった」
「主人公助けに来るらしいやんけ本来は、しかし…場をめちゃめちゃに荒らして逃走する事でイベントスキップできたみたいやな」
「いや、もしかしたらほんまに来てたかも分からんけどそんなもん確認しに行ったらキモおっさんがしばかれてアスナちゃんハッピーエンドやからな、そうはさせんで」
不意に、ヘラヘラ弛緩していた表情が引き締まる
「やが、わいの原作知識でリードできるのはここまで」
「後は媚薬やらなんやら盗んだ薬類でなんとかやるしかない」
「出たとこ勝負や、たとえ主人公に斬り殺されてもやれるだけの事はやったるで」