※この作品はR-18です。

異世界で、好き勝手して、生きていく   作:瑜伽

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ノクターンノベルズにも掲載中


プロローグ

――不慣れではありますが、感謝の気持ちを込めて、ご奉仕させていただきます。ここからはリディアと呼び捨てにし、クルスさんのお好きなように扱ってください

 

 

*

 

 

 振り返ってみれば、つまらない人生だった。

 

 幼少期から親のいいなりで、大人たちの顔色を窺ってばかり。

 親からは口癖のように勉強をしろと言われ、机に向き合う毎日。

 クラスメイトがゲームやスポーツで遊んでいる最中にも勉強。

 流行のテレビ番組や、子供達の間で人気のゲームも知らない。

 そんな人間だったから、年の近い友人もできず、クラスメイトには勉強ばかりしてる根暗と陰口をたたかれる始末。

 

 2つ下の弟も同じように育てられていたが、彼は成長するにつれ、両親に反発するようになっていった。

 勉強、勉強と言われ続けた反動か、スポーツにのめりこみ、何度叱りつけても聞き入れないので、両親は次第に諦めた。

 その分、従順だった俺に矛先が向いた。

「勉強をした人間が将来は勝つ、スポーツなんて何の役にもたたない」と両親は俺に言い聞かせた。

 

 中学に上がる頃には、さらに内向的な人間になっていた。

 他人とのコミュニケーションの取り方が分からない。

 最低限の受け答えは出来るのだが、仲を深めるという事が出来ないのだ。

 小学生の頃と同じように黙々と学校や塾に通いながら勉学に励む毎日。

 弟は野球部に入り、友人たちと明るく楽しそうに過ごしていた。

 

 高校受験の頃合いになると、より一層両親は口うるさくなった。

「県内で一番の進学校に入りなさい」と。

 俺は毎日猛勉強したが、結果は不合格だった。

 薄々気が付いていたが、この時にはっきりと解った。

 俺には勉学の才能がない。

 どれだけ勉強しても本物にはなれない。

 両親は落胆した、俺を失望の目線で見ているのがありありとわかった。

 弟は野球の才能があったのか、スポーツ推薦で名門と言われる高校に進学した。

 手のひらを返したように、両親は弟に期待を寄せ、野球の応援等にも行くようになった。

 

 滑り止めとして受けていた、県内で3番目の進学校に入学した俺は勉強に身が入らなかった。

 当たり前だ、これまで勉強ばかりしてきて、その結果がこれだ。

 唯一の取柄だった勉強ですらこの有様。それでも、惰性のように勉強をつづけた。

 それしか知らなかったのだ。

 遊び方も、クラスメイトと友人関係を築く方法もしらない。

 そんな高校生活だったが、たまたま日直が一緒になった縁で、話しかけてくれる女子があらわれた。

 いつも明るく、誰にでもフレンドリーで、男女問わず人気のある女子だ。

 俺のつまらない受け答えに笑顔で返し、話題を提供してくれる。

 彼女を好きになるのに時間はかからなかった。

 

 しかし、この想いを彼女に告げる事は出来なかった。

 自分なんかが彼女の隣に立てる自信は無かったし、大勢いる友人の中の一人だと思われていることも解っていた。

 彼女は何度か他の男子に告白されていたようだが、高校生のうちは誰とも付き合わないと宣言していた。

 誰かのモノにならないという事だけが俺にとっての救いだった。

 

 彼女との関係は友人のままだったが、それでも、人生においてこの時期が一番楽しかったと感じる。

 変わらず勉強には身が入らなかったが、最低限は熟していた。

 

 やがて大学受験の時期がやってきた。

 この時期になると両親はまた口を出すようになった。

「名門大学に入れ、もっと勉強しろ」と。

 あれほど勉強しても県内の1番の高校には不合格だったのだから、昔ほど勉強に熱を入れていない今では、両親の薦める名門大学は絶対に無理だと理解していた。

 それでも受験したのは、彼女との会話でたまたま知りえた、彼女の進学先が両親の薦める名門大学と同じだったからだろう。

 彼女と同じ大学に進めば何かしらのきっかけがあるかもしれないと考えたのだ。

 

 だが、届いた通知書は当然のように不合格。

 俺はその通知書を冷めた気持ちで眺めていた。

 両親は俺を完全に見限ったのだろう、弟だけに構うようになった。

「兄のようになるな」と。

 浪人してから入るという選択も考えたが、それをして彼女と顔を合わせた時の事を考えると、今さら受験勉強する気力も湧かなかったので、自分の学力でも入れる適当な大学に入った。

 そこでは最低限の講義だけ受け、たった一人で淡々と過ごした。

 彼女に出会う前と同じ、友人が一人もいない生活に戻っただけなのに、何もかもが色あせたように感じた。

 

 弟は高校の野球部でピッチャーとして活躍し、かなりの腕前だったらしい。

 大学もスポーツ推薦で入学したようだ。

 俺はそれを聞いて「勉強をした人間が将来は勝つ、スポーツなんて将来、何の役にも立たない」と言っていた両親の言葉を思い出した。

 子供に勉強をさせるための都合の良い言葉。

 正しくは勉強でも、スポーツでも何でもいい、他人より優れたものを見つけ、磨く事。

 それが重要だったのだ。

 

 大学卒業の時期がやって来たが、就職も案の定上手くいかなかった。

 両親からは大学卒業後はすぐに家から出ていくようにと告げられていた為、必死になって面接を受けたが、暗く内向的な性格、人より多少勉強は出来るが、そんなモノ社会において何の武器にもならない。

 むしろ使いにくい人材として敬遠されてしまう事すらあった。

 就職が決まらない焦りの中で、唯一採用された企業があった。

 俺は一も二もなく飛びついた。後から考えると誰でも良かったのだろう。

 

 そこは俗にいうブラック企業だった。

 朝は始発に乗り、夜は終電で帰宅、繁忙期には終電にすら間に合わず、徹夜からの泊まり込み。

 有給休暇なんて取れるわけもなく、サービス残業は月に100時間を超えていた。

 しかし、書類上は週休2日、定時退社していることになっている。

 実際に週休2日、定時退社できていたのは上司連中だけだ。

 同僚は次々とやめていった。

 新入社員が入っても3か月も続かずやめていく。

 

 ひどい環境だったが俺は辞められなかった。

 転職活動がうまくいく自信が無かったのだ。

 そんな毎日を過ごしていればどんどんと身体と心は消耗していく。

 ボロボロになりながら4年ほど勤めたある日、弟から手紙が届いた。

 珍しい事もあるもんだと郵便受けの前で手紙を開いた俺はその場で凍り付いた。

 

 結婚の報告だった。

 そこには弟と両親、相手の女性とその両親が笑顔で写っている写真があった。

 問題はその相手だ。

 女性の顔に既視感があった俺は急いで女性の名前を確認した。

 高校時代に好きだった女の子だった。

 震える手で手紙を読むと、どうやら弟は大学卒業後プロ野球の道へ進んだようだ。

 彼女とは大学時代、友人の紹介で知り合ってから交際していたらしい。

 お互いの両親ともうまくやっているようだ。

 

「はは・・・・・・。なんだそれ・・・・・・」

 

 体中が震えていた。

 味わったことのない激痛が心臓に走り、俺の中で何かが壊れた気がした。

 眩暈が起き、立っていることすら出来なくなった。

 

「うっ・・・・・・ぐ・・・・・・」

 

 ああ、俺は死ぬんだと理解した。

 重なった徹夜、募るストレス、過労による慢性的な体調不良。

 それから精神的なショック。

 

 何が悪かったのだろうか?勝手に期待して失望した両親?それでも大学卒業までは面倒を見てくれていた。

 両親が望んだような勉学の才能が自分にあれば、誰もが羨むような、両親の言う勝った人生をおくれたのかもしれない。

 

 親に反発していたというのに今では仲良くやり、幸福を掴んだ弟?成長するにつれ疎遠になっていったが、兄弟仲が悪かったわけではない。

 彼も何度も悩み、自問し、心折れそうな事があったのを知っている。それでも立派にやり遂げ、プロ野球選手にまでなった。

 

 高校時代に仲良くなり、俺の人生に色を付けておいて、別の男のモノになった彼女?それこそ筋違いだ、彼女には何の罪もない。

むしろ初めての友人として接してくれて感謝している。

 

 誰かを恨んでいるわけではないし、自分の人生が特別不幸だったとも思わない。ただ、後悔だけがあった。

 

 もし次があるのなら、今度は自分勝手に生き、後悔しない人生を送ってやる。

 そして、何者にもなれなかった俺が、別の何かになってやる。

薄 れゆく意識の中で俺は誓った。

 

 

*

 

――目覚めた時、俺は日の当たる森の中らしき場所にいた。

 

「……? どこだ、ここ……」

 

 身を起こしながら記憶を遡るが、弟からの手紙を読んでショックを受けたことは覚えている。

 耐えがたい激痛が心臓を襲い、死を自覚したことも。

 

「確実に死んだと思ったんだがな」

 

 どうやら俺は生き延びてしまったらしい。

 心当たりは無いが、郵便受けの前で倒れていた俺を見つけて、誰かが救急車でも呼んでくれたのかもしれない。

 だとしたら何故病院ではなく屋外、それも森の中らしき場所にいるのかは解らないが。

 服装も病院着ではなく、家で着ていた時の服装のままだ。

 所持品も何か持っていたりはしない、郵便を取りに行くだけで、財布やスマホを持っていく人間も中々いないだろうから仕方がない。

 

「なんだあれ……?」

 

 ふと視線を上に向けた時、おかしなものに気が付いた。

 かなり距離があり見え辛いが、変わった生き物が空を飛んでいた。

 鳥や飛行機ではない、トカゲに近いフォルム。毒々しい色をしている。

 あんな生き物は今まで見たことも聞いたこともない。

 

「まさか……」

 

 目を凝らして周りの様子をよく見ると、信じられないような植物が所々に植生している。

 氷に覆われた向日葵のような花に、明滅している松ぼっくりのような木の実。

 俺の目がおかしくなったのでなければ、確実に今まで過ごしていた日本ではない。

 

 自分自身の異常を疑い、身体や心臓に意識を向けていると、違和感を覚えた。

 社会人になってから常に悩まされ、今では気にしなくなっていた頭痛や肩こり、身体の痛みが綺麗さっぱり無くなっていたのだ。

 それと同時に、身体の中に流れる何かにも気が付いた。

 

「くく……ははは……」

 

 魚が水を泳ぐように、鳥が空を飛ぶように。

 俺は本能的に理解した、その力の使い方を。

 ここがどこで、俺が何故ここにいるのか。

 そんな事が気にならなくなる位の愉悦が俺を包んでいた。

 

「これを使って、今度こそ後悔しないように生きてやる。何者にもなれなかった俺が、別の何かになってやるぞ」

 

*

 

「ここに留まっていても仕方がないな」

 

 目覚めてから30分程たっただろうか、力の使い方も確認できたので移動を始めることにした。

 力を身体への強化に回すと、目測では10メートルほどの高さにあった枝の上にあっさりと飛び乗る事が出来た。

 そのまま登っていき木の上から周囲を確認する。

 すると遠目に街らしき場所が見えた。

 ここからなら今日中に間に合うだろう。

 厳しそうなら力を使って脚力を強化すればいい。

 

「さて、移動開始だ」

 

 移動を始めてから2時間ほど歩いたところ、森の中で初めて人間に出会った。

 彼らは3人組で全員が男だった。外見的には20代前半といった所だろうか。全員黒髪黒目で日本人っぽい顔立ちだ。

 街中で見かけたなら気にも留めないだろう。

 その手に剣や弓を持っていなければ。

 

「止まってくれ!」

 

 最も先頭にいる短剣を持った男がこちらに警戒の目線を向けながら声をかけてきた。

 俺は(日本語・・・・・・やっぱりここは日本なのか?)と考えながらその場で立ち止まった。

 

「あんたも冒険者か? 丸腰に見えるが、この森で何を?」

 

 荷物もなくこんな軽装で森の中に居るということで怪しまれているらしい。

 俺は何と返したものかと考えながら相手の様子を窺った。

 

「身なりも綺麗だし、山賊・・・・・・には見えないが、一般人が立ち入るような場所でもない」

 

 短剣を右手に持ちながら声をかけてくる男は、いつでもこちらの動きに対応できるように視線を外さない。

 剣と弓を持った残りの二人は後ろに控え、こちらと周囲を警戒しているようだ。

 しかし冒険者に山賊とは、日本じゃなかなか聞かない言葉だ。

 やはり俺の知っている現代日本とは違うのだろう。

 

「ああ……俺は仕事を探しに田舎から街へ出てきたんだが、山賊らしき人間に襲われそうになったんだ。何とか逃げだせはしたが、荷物を持ってくる余裕がなかったんだよ」

 

 少し苦しいかもしれないが、嘘だと断言する事もできないはずだ。

 

「それは災難だったね。ところで何故森の中に?」

 

 相手の警戒の視線が少し薄まった気がする。

 

「そのままだと捕まりそうだったから、咄嗟に森の中に入って追っ手を撒いたんだ。そこまでは良かったんだが逃げてるうちに森の中で迷ってしまってね」

 

 どうだ?これでも疑われるようなら力を使うしかないが……。

 人間相手に使うのはまだ不安だ、失敗したときのリスクが大きすぎる。

 

「ふむ、そうだったのか。確かにこの森はそこそこ広いからな、一度迷うと抜け出すのは難しい。俺たちに出会えたのは不幸中の幸いだった」

 

 そう言って先頭の男は短剣を仕舞いながら近づいてきた。

 

「俺はフリオ、Cランクの冒険者だ。パスファインというパーティでリーダーをやっている。そっちの弓を持った男はイサーク、剣を持ったやつはパキト。2人とも俺と同じCランクだ。あんたは?」

 

 言いながらフリオは握手を求めてきた。

 イサークとパキトと紹介された面々に視線を向けると会釈を返された、交渉や他人とのやり取りはフリオが担当しているらしい。

 そしてパーティという言葉。

 ここでのパーティは仲間や同行者という意味だろう。

 力を使わず疑いを晴らせたのはいいが、名前か……。

 ここで黙っていると再び警戒を招いてしまう、日本での名前を彼ら風に名乗るなら。

 

「ああ、俺の名前はクルスと言う。フリオ、イサーク、パキト。よろしく」

 

 自分の苗字から取って名乗ることにした。

 下の名前はかつての日本に置いていこう。

 何者にもなれなかった男の名前だ。

 これからの俺には不要だろう。

 ただ全ては捨てない。

 両親や弟、そして好きだった人との繋がりを示す名前だけを持っていく。

 

*

 

「さて、クルス。俺たちは依頼も終わってクラヴェルに戻るところなんだが、一緒に行くか?」

 

 自己紹介が終わった後、フリオがこれからの予定を尋ねてきた。

 街の方角は確認しているから、一人で行けない事もないのだが、情報も集めたいしここは誘いに乗っておこう。

 

「頼む。初めて街に入るんだ。色々教えてくれると助かる」

 

「よし来た。田舎から出てきた人間がまず戸惑うのは通行料かな。住民票に登録されていない人間は街の出入りの際、金銭を取られる。クラヴェルなら銅貨5枚だな」

 

 通行料と来た、無一文の俺には厳しいぞ。

 しかも住民票があるとは、住んでいる人間は細かく管理されていると考えるべきか?

 思ったより現代日本の仕組みに近いのかもしれない。

 

「そんな顔をしなくていいさ、今回の通行料程度なら俺が出しておくし、冒険者ギルドにでも登録しておけば出入りの際に取られることもない」

 

 不安そうな顔をしていたのだろう、フリオが気前の良いことを言ってくれる。

 中々面倒見のいい青年なのかもしれない。

 そのままフリオと会話を続け、情報を集めていると様々な事が解った。

 

 まずここはバロウの森というらしく、現在は最も近くにあるクラヴェルの街に向かっているそうだ。

 クラヴェルの街はアークレイア王国に属する街の一つらしく、王都ほどでは無いがそこそこ賑わっているらしい。

 バロウの森で採れる素材や、生息している魔獣を目当てに冒険者や商人たちが集まっているとの事。

 俺が魔獣に出会わなかったのは運がよかったのか、それとも何か理由があるのか気になっていたら、フリオが教えてくれた。

 どうやら、浅い所にいる魔獣はほとんどが狩りつくされているらしく、好戦的な魔獣は奥の方にまで行かないとめったに出会えないとの事。

 

 貨幣の価値や冒険者ギルドについても教えてくれた。

 賎貨が10枚で銅貨が1枚、銅貨が10枚で銀貨が1枚、銀貨が10枚で金貨が1枚。

 貨幣の種類が変わるごとに桁が1つ上がっていくようで、覚えやすくて助かる。

 貴族や大商人が使うような白金貨やミスリル貨もあるらしいのだが、一般人が日常で使用することはまず無いらしい。

 労働者の給料や1食あたりの値段を聞くに、銅貨1枚で100円くらいの印象を受ける。もちろん物によっては大きく差があるだろうが。

 

 冒険者ギルドについては、ハローワークと何でも屋が合わさった組合といった所だろうか。

 個人的な雑用や、街の清掃、素材の回収等。

 ランクによって受けられる依頼に差があり、犯罪者以外なら誰でも登録できる代わりに低ランクのうちは厳しい生活になるらしい。

 通常は依頼者からの評価や熟した件数等でランクが上がっていき、高ランクになればなるほど大金を得られるようで、一攫千金が狙える職業でもあるそうだ。

 ちなみに彼らパスファインのCランクというのは中堅ほどのランクだそうで、これくらいになれば一般的な労働者よりもずいぶん多く稼げると聞いた。

 

 身体の中に流れる力についても聞いてみたが、これは一般的に魔力と言われていて、意識して感じ取れる人間はほとんどおらず、割合としては100人に1、2人程度らしい。

 大多数の人間は無意識に発動して、身体が少し強化される程度のもののようだ。

 さらにこの魔力を意識して動かせるようになれば、魔道具師や魔術師、魔法使いと言った高給取りにもなれるそうだ。

 

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