異世界で、好き勝手して、生きていく 作:瑜伽
話しながら1時間程度歩いただろうか、ついに森を抜ける所まで来た。
「やっとついたか、あれがクラヴェルだ」
フリオが指さす方向を見ると、大きな門とその傍に立っている衛兵が2人居るのが見えた。
その門の前には馬車を引いている商人らしき人物や旅装束の人間、フリオと同じように武器を持っている男女が数人並んでいた。
「あそこで街に入るための手続きをやってる、俺たちも並ぼう」
フリオ達3人の後ろからついていき、同じように並んだ。
数分後、すぐに俺たちの番になった。
「クラヴェルの住民なら通行書を、ギルド所属の人間なら所属しているギルドの許可証を。どちらもない場合は銅貨5枚だ」
衛兵がこちらに声をかけてくる。
「ああ、これが俺たちの許可証。んでこっちの兄ちゃんは職探しに来たんだとさ、銅貨5枚。これでいいよな?」
フリオ達3人が衛兵に対し許可証を見せ、懐から取り出した銅貨を5枚渡した。
「問題なし、ようこそクラヴェルへ」
衛兵が俺に視線を向けながら声をかけてきた。
俺はそれに対し軽く頭を下げ、フリオに感謝を告げた。
「いいってことよ、これも何かの縁だろうしな」
フリオは爽やかに笑うと、気にするなというように手を振った。
「それより、クルスは冒険者になるのか? 俺たちはこれから依頼の報告でギルドに向かうが……」
俺は内心で考え込んでいた。街の外への許可証はあると便利だろうが、しばらくこの街から出る気もない。
それに冒険者ギルドについて話を聞いた限り、低ランクのうちはかなり大変そうだ。
命の危険があっても自己責任のようだし、ブラック企業で働いてた頃のような思いはしたくない。
こちらに来てから得られた力に関しても、試してみたいことが多いし、冒険者でもやっていけない事はないだろうが、あくまで最終手段だな。
「いや、とりあえず街を回ってみるよ。俺でもできるような仕事が運よく見つかるかもしれないし、冒険者は俺には向いて無さそうな感じがする」
俺はフリオに返事を返した。
「そうか、有望な後輩ができるかと思ったんだがな。……クルスにいい仕事が見つかることを願っている。何かあったら冒険者ギルドを訪ねてくれ、受付に伝言しておいてくれれば伝わるからさ」
フリオの返事は俺の心を軽くしてくれた。
もしも俺の学生時代に、周りにこんな相手がいれば俺の人生も少しはマシなモノになっていたかもしれない。
「無一文だと言っていただろう?少ないが餞別だ、3日分の食事や宿代にはなると思う。」
言いながらフリオは懐を漁ると俺の方に金貨を1枚手渡して来た。
「さすがにそこまでしてもらえないさ、もう充分よくしてもらってるしな」
俺は断ろうとしたがフリオは強引に俺の手に金貨を握らせてきた。
「遠慮するなって、これでもCランクだからな。どうしても気が引けるなら俺が困ったときにでも手を貸してくれればいいさ、友人として」
フリオの言葉が俺の胸に突き刺さった。
「友人、か……」
その言葉で思い出すのはあの子だ。
今では弟の嫁になった、戸籍上は義理の妹という関係にあたるあの子。
「なんだ、ダメだったか?」
フリオは悪戯っぽく笑ってから一歩後ろに下がった。
「ダメじゃないさ、わかった。友人からの餞別としてありがたくもらっておく」
俺の人生において二人目の友人ができた。
いずれこの恩は返すことにしよう、俺にできる方法で。
「それじゃまた会おう、クルス」
フリオはそういって去っていった。
イサークとパキトもこちらに手を振ってからフリオについていった。
「……」
初めは情報収集をする為だけに彼らと行動を共にしたのだが、こういった結果になるとは想像していなかった。
俺は少しだけ高校時代の事を思い出していた。
初めての友人であり、初恋の相手でもあった彼女。
感傷を振り払うように歩き出した俺は改めて街を観察することにした。
道行く人を見れば日本にいても違和感の無いような黒髪黒目の者もいれば、欧米で見かけるような金髪碧眼の者もいる。
中には青色の髪の毛やルビーのような目の色をした者もおり、恐らく染色剤やカラコンを使用しているわけでは無いのだろうという事が何となくわかった。
ただ全体的に容姿が整っている者が多いのは何か理由があるんだろうか。
入場した門から大通りを道なりに歩いていると、様々な店が並んでいた。看板から察するに、宿屋や酒場、商店等が多いみたいだ。
徒歩で30分程歩いた頃だろうか。
街の中に建てられた防壁と、その中へ出入りするために使うのであろう門に突き当たった。
入場門ほどの大きさではないが、設えはこっちの方が立派かも知れない。
「貴族街に何か用か?」
門の前にいる衛兵が声をかけてきた。
なるほど、この門の先は上流階級が住んでいるエリアだったらしい。
領主の館や、賓客を持て成す施設等が集められているとフリオから聞いた。
「いえ、田舎から出てきたばかりでして、立派な門だったのでつい気になって近くまで来てしまいました」
俺は言いながら軽く頭を下げる。
「そうか、用が無いならあまり近づかないように」
衛兵はそれで納得したのだろう、俺に対する訝し気な視線をやめ、周囲の警戒に戻った。
俺は踵を返すことにした。ある程度街の観察は済んだし、だいぶ日も落ちてきた。
今日の宿と食料をどうするか考えないといけない。
道を引き返しながらしばらく歩いていると、「きゃっ、放してください」という声が遠くから聞こえた。
(ん……? 今声が聞こえた気がしたが、こっちか……?)
声が聞こえた方に移動するとそこは路地裏だった。
「へへっ、いいから来いよ、悪いようにはしねぇからさ」
「そうだぜ、こんな人目のない所歩いてんだ。お前も期待してたんじゃないのか?」
「ちっ、違いますっ! 急いでいたからこの道を通っただけで……! 放してくださいっ!」
そこには如何にもチンピラといった雰囲気の男2人に腕を掴まれ、必死に抵抗している女性がいた。
表情は切羽詰まっているというのに見惚れるような容姿をしていた。
今までの俺だったなら、面倒事は御免だと見て見ぬふりをするか、警察に連絡でもしてそれっきりだっただろう。
しかし、何者にもなれなかったかつての俺は捨てたのだ。こちらに来てから得た力を人間相手に試す時が来た。
加減を間違えても相手はチンピラ、そこまで良心が痛む事もない。
何より、俺はこの力を使って好き放題して、何かになってやる、そう決めたのだ。
俺は逸る心を抑え、チンピラたちの方に向かって歩き出した。
「あのーお兄さん方、そちらの女性は嫌がってますし、腕を放してあげては?」
俺が声をかけると、空気が一瞬止まった気がした。
「ああん?なんだお前? 今取り込み中なのがわかんねえのか?」
背の高い方がこちらに威圧してきた。
「てめぇ、なめてんじゃねーぞ!」
背の低い方が女性の腕を放し、そのままこちらに殴りかかってきた。
「危ないっ!」
女性の声が聞こえた。
俺は自分の中の魔力を身体強化に使い、そのままチンピラの拳を受け止めた。
身体全体を意識して魔力を流すと反射神経や動体視力なんかも強化されるらしい。
「落ち着いてください、お互いに怪我をしたくはないでしょう?」
俺は自分の中の力をチンピラ2人に向かって直接放出し、心の中で念じた。
(俺に対する怒りが無くなり、目の前の女性に対する興味も失せる。ここであったことは記憶に残らない)
「ちっ……おい、行こうぜ」
「あぁ……」
背の高い方が女性を解放し、さっさと歩きだして、もう一人の男に声をかけた。
声をかけられた背の低い方はいきなり殴りかかってくるような気の短い男だったというのに、今では平静に見える。
俺たちの事を一瞥もせず去っていった2人を眺めながら、俺の得た力についての手ごたえを感じていた。
「あっ、あの!助けていただきありがとうございました!」
女性は正気に戻ったのだろう、俺に声をかけてきた。
「いえ、何事も無くてよかったです」
改めて彼女を眺めると、やはりとんでもなく整った容姿をしていた。
こちらに来てから見かけた人間は全体的に容姿が整っていたが、彼女はその中でも群を抜いている。
サラサラとした白金のような長髪を腰まで下ろし、空のような透き通ったスカイブルーの瞳、肌は新雪を思わせるような白。
チンピラたちに目を付けられるのも解る気がした。
「私、リディアと申します。この街で喫茶店を開いているのですが、明日の仕込みのために今日中に用意しないといけない茶葉がありまして、急遽買い出しに行ったところだったんですが、先ほどの方たちに声をかけられ、強引に腕を掴まれて逃げるに逃げられず……」
リディアの言葉に視線を向けると、確かに買い物帰りのようでバッグを持っている。
この時間に人通りの少なそうな路地裏を使うのは不用心だとは思うが、運が悪かったのだろう。
「そうだったんですね、急いでいても次回からは別の道を通った方が良いかもしれません」
そう、本当に運が悪かったのだ。
ここで俺に出会ってしまった事が。
「はい、そうします。あの、よろしければお名前を窺ってもよろしいでしょうか?」
可愛らしい上目遣いでリディアが俺に問い掛ける。
「ああ、失礼しました。俺はクルスと言います。職を求めて田舎から出てきたばかりの世間知らずです」
この名前を名乗るのにもだいぶ慣れてきた、まぁ元々の苗字だったんだから当たり前だが。
「そうだったんですか!? 物腰も柔らかくて、堂々としていらっしゃったのでそんな風には見えませんでした」
こちらの田舎出身の人間は街に住んでいる人からするとあまり評価は高くないらしい。
「あの、この後時間はありますか?お礼をさせてほしいんですが……」
ふむ、力を使うまでもなく相手から言い出してくれるとは。
「実はまだ今日の宿も決まっていなくて、これから探しに行こうかと思っていたところなんです」
暗に時間は無いという事を示したつもりだ。
食いついてくれるだろうか。
「そうだったんですか…… あの、実はうちの喫茶店は元々宿屋だったんです。なので2階には使っていない部屋がいくつかあります、よろしければ宿屋代わりにいかがでしょうか?」
よし、喫茶店が元は宿屋だったというのは想定外だが、うれしい誤算だ。
空いているスペースだけでも間借りさせてもらえないかと思っていたからな、最悪、力を使ってでも。
「非常にありがたい提案ですが、いいんでしょうか?ご家族で経営していらっしゃるなら、ご家族の許可も必要でしょうし」
これは実際気になるところだ、いざとなればまとめて力を使ってしまえばいいが、リディア自身はどう考えているのか。
「いえ、両親は実家で元気に暮らしています。私もそちらで生活していたのですが、成人を期にたまたま安く売りだされていた店を買い取り、喫茶店を開いたんです。店長は私ですし従業員は一人もいません。」
一人で店を切り盛りしていたのか、しかしそこに初対面の男を招き入れるのはどうなんだ?いくら助けてもらったとはいえ不用心が過ぎないか?
「リディアさんが開いたお店だったのですね、それは凄い。 しかしお一人でしたら猶更、男を招き入れるのは不味いのではないでしょうか?」
リディアに相手をしてもらうのは決定事項だが、表面上はあくまで紳士的に振舞う。
「ふふ、大丈夫ですよ。私の店は衛兵さんの詰め所があるすぐ側なんです、店の中で大声を出せば聞こえるくらい。それに元は宿屋でしたから、全部の部屋に魔道具を使った鍵がかかるようになっています」
音に鍵か……。俺の中の力を使えばどうとでもなると思うが、この世界の魔法使いや魔術師はどうなんだ?そもそも数が少なすぎて存在自体が一般的ではないんだろうか。
「そうですか、それなら安心ですね。それではお言葉に甘えてお世話になります」
俺は言いながら頭を下げた。
「はい!」
リディアは満面の笑みでうなずいた、俺の中の黒い企みにも気づかず。