冷血無表情な保健室の先生に、事務的に性処理してもらう話。 作:東雲(しののめ)
「――ここにクラスと名前を書いてください」
俺は体育の授業で膝に怪我をして保健室を訪れていた。
対面する養護教諭の女性から、診察のための用紙が渡される。
「症状の欄は私が記入するのでそのままで結構です」
渡された紙に言われたとおり書き込んでいく。
「二年B組、
先生は確認するように、俺の名前を淡々と読み上げた。
怪我といっても、転んで足をすりむいただけで、大した傷ではない。
しかし流血していたこともあって、体育の授業を抜けて今ここに来ることになった。
「処置をするので動かないでください」
消毒液の匂いが充満する保健室。
俺は椅子に座ったまま頷く。
養護教諭のその女性はまるでロボットのように、無駄のない事務的会話を交わすと、的確に消毒とテーピングをしてくれる。
(とっつきにくいけど、悪い人ではなさそうなんだよな)
彼女は
生徒たちからは密かに『
年齢は二六歳。
長い黒髪をおさげ風に一本にまとめていて、大きな胸に細い腰といったモデルのような容姿が特徴の人だ。
しかし生徒からの人気は正直ない。
というのは、『機械人形』という異名通り、とても冷たいからだ。
かつては数多くの男たちが、彼女にアプローチをしたようだが全部玉砕、というか無視。
仕事に関わることであっても常に言動が冷淡で、皆が妄想するような甘いイベントは一切発生しないのである。
優れた容姿の女性でも、そこに夢がないのなら、当然ながら男たちの興味関心はなくなっていく。今ではむしろ忌避されているようになっていた。
「処置が完了しました。なにか違和感はありますか?」
「い、いえ。大丈夫だと思います」
普通のことを訊かれているはずなのに、なんだか緊張して、ついこちらの口調も硬くなってしまう。
(でも本当に美人だよな……)
その切れ長の瞳で見つめられると、やっぱり怖いけれど。
服装も鉄壁であり、薄いセーターにピッチリとしたスラックス、その上に白衣を纏っている。胸チラやパンチラのチャンスは皆無である格好だ。
「ではお大事に」
末原先生は呆気ないほど簡潔に、自身の仕事が終わったと告げた。
これまで噂で聞いていた通り、雑談の一つも生じないらしい。
「……ありがとうございました」
俺は素直にお礼を言って立ち上がった。
しかし膝を怪我していたこともあって、その瞬間に痛みが走りふらついてしまう。
前に倒れる――そう思った。
「あっ」
だが頭を床にぶつけることにはならなかった。
むしろとても柔らかいなにかが頭部を包んでいる。
(末原先生の――おっぱい!?)
その正体は先生の双房だった。
倒れそうなところを、身体で受け止めてくれたのである。
「気をつけてください」
胸が生徒に当たっているのに、彼女の鉄面皮はピクリとも動かない。機械的に受け答えをするままだ。
「三橋さん?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
まだ上手くバランスが取れなくてと言うと、彼女は分かりましたと言った。
俺はそのまま一秒でも長く、先生の胸を感じていたいと思ってしまっていたのである。
(良い匂い……)
胸元を深く吸い込むと、柔軟剤と女性の香りが混ざった、なんとも甘美な匂いが鼻腔をくすぐった。
機械だ人形だと呼ばれても、末原先生はやっぱり女なのである。
「三橋さん、大丈夫ですか?」
「も、もう少しだけ……」
「一応確認させてもらいますが」
先生は一呼吸置いて。
「セクハラ――しているわけではないですよね?」
俺はその言葉で我に返った。
そうだ、自分は今あきらかにセクハラをしていた。
あまりにストレートに指摘されたので、俺は驚いてすぐに顔をあげ距離を取る。
もはやその動きは足に痛みがある人間ではないだろう。
(ま、まずい。もしかして怒られる……いや訴えられるとかも……)
最悪のケースが脳裏に浮かぶ。
なにせ相手は『機械人形』と呼ばれる先生、温情なしに処罰を下す可能性は大いにある。
俺は欲望に身を任せたことを、今さらながらに後悔した。
「もうしっかり立てますね」
「え」
「なんですか?」
「い、いえ、しっかり立てますし、歩くこともできそうです」
「そうですか。もし時間が経ってもまだ足下がふらつくようであれば、念のため医療機関を受診してみてもいいかもしれません」
「わ、分かりました」
……。
…………。
………………特に怒っていない?
(俺が胸の感触を楽しんでいたことぐらい、やられている本人が一番気づいているはずだろうに)
この先生は何も言わなかった。
いつも通り、喜怒哀楽のない顔で目の前にいる。
「では、お大事に」
彼女は軽く会釈をすると、俺がまだ退出していないにもかかわらず、机に向かって書類作業を始めて
しまう。
本当に、まるで何も起きなかったかのようにだ。
俺は唖然としていた。
「お、お世話になりました」
なんとかお礼を口にし、壊れた機械みたいな変な足取りで保健室を出た。そして壁に背をつけずるずると床に座り込む。
「痛い」
怪我をした膝よりも、股間がずっと痛かった。