8
玲と美沙希が拘束されてから五日が経った。
その日も、二人は男たちから凄惨な輪姦を受けた。回数を重ねるごとに彼らの残虐さは増し、玲は首を絞められ、美沙希は傷ついたクリトリスをつまみ上げながらの凌辱を受けていた。
「ンぐ……ううっ!! ぅぐううッ――!!」
剛直を喉まで受け入れさせられ、玲はジタバタともがく。
「おっぱい揺らしてみっともねえな」
「ンうぐううッ!!」
「ほら、また中出しだ。今日は二輪挿しじゃねえから感謝しろよ~?」
玲の身体を好き勝手に使いながら、膣奥に白濁をブチ撒ける男。
そのすぐ隣で、美沙希は騎乗位でのアナルセックスを強要されていた。
「う……ああッ、もう……やめてください……」
連日使われ続けた肛門が痛くてたまらないのだろう、美沙希は涙をこぼして哀訴するが、美沙希の下に寝そべる男は舌打ちを返して。
「使えねえアマだな……ほら、ちゃんとヤれよ!」
苛立ちとともに美沙希のクリトリスをつまみ、力いっぱいつねり上げる。
「ぃぎいい……ッ!?」
あまりの激痛に目を剥く美沙希に、男はさらにクリトリスを引っ張って。
「もっと穴だらけにしてやってもいいんだぞ? それともこのまま引きちぎられてえか?」
「や……やめてください、します……しますから……!」
とんでもない痛みに音を上げて、美沙希は怯えた表情で腰を上下に動かし始める。
二人の姿は常にカメラに撮られていた。玲と美沙希を取り囲む男たちはそれぞれが好き勝手に乳や髪に手を伸ばし、囚えた女体を我が物顔で弄ぶ。
「っは――ひ……ひぁあああッ……!!」
窓も時計もない室内、二人が肉玩具として使われたのはどれだけの時間か。
今日もあらゆる穴に精子を詰め込まれ、玲も美沙希も白濁まみれで床に倒れる。撮影を済ませた男たちが部屋を出る準備をしていると、不意に白浪がドアを開けて現れた。
「白浪さん! お疲れッス!」
「おう。……何だこの部屋、イカ臭えな!」
白浪が言えばドッと笑いが起きるが、臭いの発生源である玲と美沙希は起き上がることすら出来ない。
「うわ、女落ちてる」
二人の元に近づいた白浪は、立ったまま玲と美沙希を見下ろす。
視線に熱情はなく、商品としての二人を検分する――しばらく沈黙してから、白浪は手近な一人に「おい」と呼びかける。
「うす」
「汚えし、適当に洗っとけ」
「分かりました」
白浪の指示を受け、男たちはすぐに動き出す。
何人かが部屋を出ていったかと思えばすぐに戻ってきた。水を溜めたバケツと古タオルを持ち込んだ男は、戻ってくるなり玲と美沙希にバケツの水を浴びせかける。
「う……!!」
突然冷や水を浴びせかけられた裸身が震える。
激しく身体を使われた玲と美沙希は全身汗まみれ。汗で冷えた身体に冷水がかかれば身体は芯まで冷えてしまい、二人は身を守るように身体を縮める。
「こっち向けよ」
しかし、男たちは玲の肩を掴んで身を起こさせ、顔面を古タオルでこすり始める。
「ん……!!」
毛羽立った繊維が顔面に押し付けられ、ざらざらと痛い。
「テメーもだぞ」
美沙希はロングヘアを掴まれていた。
黒髪のふんわりしたウェーブは水をかけられたせいでボリュームを失い、肩や首にべったり張りついてしまっている。綱のように髪を引っ張られる美沙希の豊かな胸の上をタオルが走れば、繊維が乳首のピアスに引っかかる。
「いづ……ッ!」
「あ? 引っかかったのかよめんどくせえ」
大仰な溜息をつく男は、力ずくでタオルの繊維を引きちぎる。
「ぎ……!」
古いタオルの糸は弱っていた。すぐにピアスから繊維はちぎれるも、一瞬の痛みは耐えがたいほど強かった。
「痛――痛いです……!」
「あっそ」
目に涙を滲ませて訴える美沙希を鼻で笑って、男はわざと手に力を入れてゴシゴシと身体を拭く。
汚れは落ちたが全身はビショビショで、タオルを押し付けられたあちこちがヒリヒリ痛い。何より膣や肛門から垂れる精液は綺麗になったばかりの太ももを濡らし、玲と美沙希の汚辱感をかき立てるのだ。
「後はテメエでやれよ」
最後に乾いたタオルを一枚投げつけて男たちは立ち去る。
「……」
彼らが去った部屋、玲はゆっくりと顔を上げる。
無力感に苛まれながら、部屋に置かれた一枚のタオルを取る。
使い古されたスポーツタオル一枚では、玲と美沙希の水気を取りきるには不十分だろう。タオルを手にした玲は美沙希に近づくと、そっと美沙希の髪をタオルで包む。
「……、……玲……」
慈しむように、美沙希の髪の水気を取る玲。
美沙希は俯いてされるがままだ。膝をついて座る玲の太ももに伸ばされた美沙希の指先は驚くほど冷たくて、玲は恋人がどれほどの目に遭ったかを思い知る。
「……もう、帰れないのかも」
声は弱々しい。
伏せられた瞳が玲を見つめる。タオル越しに美沙希の頭を撫でる玲の手が取られ、美沙希は自分の頭からタオルを外す。水気の拭き取りは不十分だったと見えて前髪から水滴が落ちるも、美沙希は顔にかかる雫を拭おうともしない。
「ねえ、玲……」
タオルを両手に持つ美沙希がおもむろに立ち上がる。
幽鬼のような足取りで美沙希が向かう先はこの部屋のドア。部屋のドアには外から鍵がかけられていて開かないが、美沙希の目的はドアを開けることではない。
「……もう、こんなのいやなの」
涙をこぼす美沙希は微笑んで、ドアノブにタオルをかけ。
タオルで作った輪の中に、自分の首を入れてしまう。
「――美沙希!」
自分でも驚くほど強い声だった。
体力が尽きたはずなのに、玲は飛び上がるように美沙希に肉薄。美沙希の首からタオルをむしり取って捨てると、玲は美沙希を胸にかき抱く。
「……」
冷え切った身体の奥底、互いの鼓動が共鳴する。
「必ず助かるチャンスは来るわ」
美沙希の背中をさすりながら告げる玲。
声は確信を帯びている。美沙希への励ましと言うには実感が込められた言葉に美沙希が顔を上げると、玲の瞳はこれまでに見たこともない色を帯びていた。
「……なんで、そんなこと……」
玲と見つめ合いながら、美沙希は疑問を口にする。
状況は絶望的だ。外との連絡手段は絶たれ、服もなく、暴力的な凌辱が繰り返される――こんな場所から抜け出すすべがあるとは思えないのに、玲はなぜだかここから出られると信じているようだった。
「……。――そうね、……もう言わないと」
呟いてから、玲は口を開く。
――語られたのは、玲がかつて歩んだ道のりのこと。
攫われた莉乃を救うため、自ら性奴隷に堕ちた日々。調教や撮影どころか、男たちからの凌辱、そして妊娠出産まで経験したこと。今の住まいに移ってからも安泰ではなかったこと。
時おり辛そうに言葉を詰まらせる玲は、自分が受けた仕打ちの全てをつまびらかにはしなかった。
しかし、恋人として玲と幾度も言葉を交わしてきた美沙希には、玲がハッキリと口にしなかったことまで察しがつく。想像を絶する恥辱の日々を超えた玲の話が最後まで終わると、美沙希はしばし沈黙して。
「……玲……」
自分を抱きしめる玲の背中に腕を回す。
「そんな、苦しいこと……今まで、ずっと抱えてきたの……?」
「ええ。……隠していてごめんなさい」
玲の言葉に美沙希はかぶりを振って。
「ううん。教えてくれてありがとう」
言って、玲に抱きつく腕に力を入れる。
抱き合うほどに身体に温度が宿ってゆく。髪からは水が滴ったまま、しかし裸身は熱くなって、美沙希の声にも力が取り戻される。
「うん……そうよね。ここで終わるわけなんてないもの」
頷いて、美沙希は玲の首筋にキスをひとつ。
「……ぁ……」
ここに囚われてから初めてのキスだった。
「――あなたを好きになって良かった」
頬を赤くして囁く美沙希。
思わずドキリとするほど美しい顔だった。恋人同士になって長いというのに玲の心臓は跳ね、キスを返すのに随分と勇気が要る――ちゅ、と控えめな口づけを差し出すと、それだけで美沙希はくすぐったそうに微笑む。
「玲……」
「……美沙希」
名前を呼び合い、見つめ合った時。
遠くから、男たちの怒号が聞こえた。
「!?」
反射的に立ち上がり、ドアから離れる玲と美沙希。
ドアの向こうがにわかに騒がしい。バタバタと急き立てられるような足音に男たちの悲鳴が重なる――何事かと身構える玲と美沙希だが、手を強く結び合い、何があろうと立ち向かう覚悟は出来ていた。
そんな二人の目の前、ドアが開いて白浪が飛び出す。
白浪は明らかに焦った様子だ。金髪は乱れ、着ている黒Tシャツには濡れたような跡がある。
転がり込んだ白浪はギョロギョロと周囲を見回しながら頭を掻きむしり。
「くそッ、なんでバレたんだ、なんで――」
部屋に押し入ろうとする白浪の背後、ゆらりと影が揺れた。
「――」
「あ……?」
ハッと目を見開く玲と美沙希に気付いて白浪が振り返った瞬間、影――黒スーツを纏う長身の女が動く。
「ッが!!」
女が腕を振りかぶった次の瞬間、白浪の身体が宙に浮いた。
くるくるとスピンする白浪が床に落ちるより早く、女は白浪の首根っこを掴んで床に組み伏せる。ゴリュッと痛そうな音が二回響くと、白浪は女の子のような甲高い悲鳴を上げて。
「いだッ、痛゛ぁあああッ!! 肩ッ、肩取れるぅ゛ッ!!」
両肩の関節を外された激痛に悶え喚く。
女は喚く白浪を無視して二人に近づく。開きっぱなしのドアの向こうには倒れた男たちと彼らを拘束する女の姿が見えて、この場所が女たちによって制圧されたことが分かる。
「お二人はこちらを」
白浪を攻撃した時の荒々しい様子から一転、彼女は優美な足取りで玲と美沙希に黒布を差し出す。
広げてみると、黒色のバスローブらしい。彼女は何者かと訝りながらもバスローブを纏えば、素肌が隠れる安心感に二人の身体から力が抜けていく。
「――ぁ、」
その場にへたり込みそうになった美沙希を彼女は支えて。
「病院へお連れします。……動けますか?」
「……え、ええ」
尋ねられ、玲は頷く。
(誰? ……でも――)
美沙希を抱き上げたまま部屋を出る彼女に連れられ、玲は部屋の外へ。
玲と美沙希を犯した男たちはもれなく倒れ、女たちによって拘束されているところ。男たちの呻きを聞きながら建物を出ると、外には車が待っていた。
「乗ってください」
後部座席に並んで座ると、ぐったりした美沙希が玲にもたれかかる。
(……助かったの……?)
音もなく発進する車の中、玲は緊張の糸が切れるのを感じて。
(――あ……)
穏やかで安らかな眠りに誘われ、瞼が重くなる。
ほどなくしてすうすうと寝息を立て始める二人は、久しぶりの深い眠りに沈むのだった。
●
次に意識を取り戻した時、玲と美沙希は病院のベッドの上だった。
「……朝……?」
窓の外はすっかり明るい。
いつの間にか入院着に着替えた身体はさっぱりと清潔だ。気になって秘所に手を伸ばしても溢れてくる汚らしい液体はなく、周囲を見ようと首を振れば短い髪が肩の上で揺れる。
二人部屋の病室を仕切るカーテンは開いていて、隣のベッドには美沙希の姿。美沙希も先ほど起きたばかりのようで、玲と目が合うと微笑んで身を起こす。
「美沙希、ここは――」
言いかけた時、病室のドアが開いて。
「――お姉ちゃん! 美沙希さん……っ!!」
現れた莉乃は歓声を上げて、ベッドの上の玲に飛びつく。
ぎゅうっと強い抱きつき方から、愛らしい目元の腫れぼったさから、莉乃がどれだけ心配したかが伝わってくる――強く抱きしめ返す玲に美沙希が微笑ましそうに声を漏らす中、病室の入り口では呆れたような声が上がる。
「相手は入院患者よ、手加減してあげたら?」
「! 雨夜……!」
ドアのところに立っているのは雨夜だった。
ゴージャスな巻き毛に真紅のドレスを纏う雨夜の姿は、色の淡い病室にはまるで似合わない毒々しさ。莉乃と雨夜の取り合わせに違和感を覚えた玲は眉を寄せてしまうが、「違うの」と莉乃が口を開く。
「お姉ちゃんと美沙希さんがいなくなって、雨夜さんが助けてくれたんだよ」
「……じゃあ、あの時助けに来たのは――」
呟く玲の頭の中、白浪たちを制圧した黒スーツの女たちの姿がよぎる。
彼女たちはみな、雨夜の配下だったのだろう。玲は莉乃を撫でながら、改めて雨夜に顔を向けて。
「――ありがとう。おかげで助かったわ」
「いいえ。それにしても、事件に愛されてるのね?」
薄く笑う雨夜は病室には入ろうとせず、玲と美沙希の姿を見やり。
「顔色も良いし、じき退院できるでしょうね。――これで貸し借りは無しよ、構わないわね?」
「ええ。……ありがとう」
改めて頭を下げる玲に目を細め、雨夜は背を向ける。
ヒラヒラと手を振る雨夜の姿は、すぐに見えなくなった。
●
――それから一週間で、玲と美沙希は退院した。
莉乃の強い希望によって、退院して初めての夜は三人で寝ることになった。
玲と美沙希の寝室に莉乃を招き、莉乃を真ん中にした川の字になる。玲と美沙希はまだ疲れが残っているが莉乃は戻ってきた二人を前にハイになっていて、左右にせわしなく首を向けてはお喋りを続ける。
「それでね! 来週から限定のドリンクが出るから行きたくて、次の土曜日にね――」
弾む声でお喋りする莉乃は、二人が巻き込まれた事件については一切触れなかった。
玲と美沙希の身に何が起きたのか、莉乃はどのようにして二人の手がかりを得たのか――今はそんな話よりも、三人で過ごす明るい未来に目を向けていたかった。
「あとね、ちょっと先なんだけど、そこの広場で――」
いつまでも終わりそうになく喋る莉乃も、夜が更けるにつれて眠気を覚えて。
「ん……だから、……だから……」
眠気に負けそうになりながら、莉乃は一言。
「……だから、ずっと一緒に……いてね……」
それだけ言って、眠りの底へ落ちていく。
「……うん」
「ずっと、一緒よ」
頷く玲と美沙希も意識を手放し、三人は静かな眠りの中へ。
眠ったまま莉乃は玲に抱きつき、多幸感に満ちた微笑をたたえるのだった。