『魔都精兵のスレイブ』の単行本が、机の上で危険なタワーを築いている。
一巻から最新巻まで、休憩なしで読み通した俺の脳内は、今や魔都と化していた。
「すげぇな、この世界観…!」
思わず声が出る。
異空間「魔都」から現れる怪物「醜鬼」。それに対抗できるのは、「桃」の恩恵で特殊能力を得た女性たちだけ。
男は守られる側か、あるいは能力者の「スレイブ」として戦う道具。
この力関係の逆転。そして、それを補って余りある女性たちの圧倒的なカリスマ。
京香組長の支配欲と優希の献身。美羅の勇ましさ。日万凛の葛藤。
どのキャラクターも、宝石のように輝いている。
「で、誰を描くか…」
俺はペン先で、単行本の表紙や裏表紙のイラストをなぞった。
ライバルたちが誰を選ぶか。予想はつく。
久我山なら、冥加理宇のようなドSな老婆か、あるいは湊花のような狂気を孕んだキャラを選ぶだろう。新人之介なら、夢子のような静かな狂気か、日万凛のような繊細なキャラを拾うはずだ。
俺が被って勝てるわけがない。俺の武器は「ハッピーエンドへの渇望」と「肉感的な母性」だ。
そこで、一枚のイラストで手が止まった。
九番組組長、東風舞希。
長い黒髪、和装を崩した着こなし、そして何よりその存在感。
九番組の組長であり、日万凛や八千穂の母。名門・東家の「東の晩餐」を勝ち抜いて当主となった実力者。
圧倒的な強さ。理不尽なまでの寵愛。そして、全てを包み込む母性。
「…この人だ」
俺は呟いた。
前回の『鬼の姉子』で描いた荒覇吐呑子。彼女は「強い姉」であり「寂しい鬼」だった。
東風舞希は、その上位互換と言っていい。
「強い母親」「大人の女性」「包容力」。この三拍子が揃ったキャラクターなど、そうはいない。
しかも、彼女には「東の晩餐」という地獄を勝ち抜いた過去がある。苛烈な実力至上主義を改め、家族愛を重んじる方針に変えた。その決断の裏には、どれほどの血と涙が流されたのか。
「羽良嶋さん!」
翌日の打ち合わせ。俺は単行本の該当ページを開いて見せた。
「主役は、東風舞希で行きます!」
羽良嶋さんは、俺が提示したページを一瞥し、ゆっくりと瞬きをした。
「舞希様ですか。なるほど。日万凛や八千穂の母親であり、九番組の絶対的支配者。強力なキャラクターですね」
「です! 前回の呑子と似た『強い女性』の系譜ですが、呑子が『孤独な鬼』なら、舞希さんは『血塗られた聖母』です。この落差、描かずにいられません!」
俺は身を乗り出した。熱が循環する。
「それに…もう一つ、重要な要素があるんです」
「なんでしょう?」
俺は声を潛めた。
「彼女は『人妻』です」
羽良嶋さんの眉が、ピクリと動いた。
「夫はいるけど、東家当主としての重責で、女としての自分を殺している。家庭も組織も守っているけれど、誰にも彼女自身を守らせていない。そこに、俺の描く『欲望』をぶつけたいんです」
「…なるほど。前回の課題『主人公の欲望』を、ここで解決させようというわけですね」
羽良嶋さんは腕を組み、顎に手を当てた。
「人妻という背徳感。そして、それを許してしまうほどの包容力。確かに、BLACKの読者が好む匂いはします。でも先生」
彼女の灰色の瞳が、俺を射抜く。
「安易な寝取りや不倫に逃げないでくださいね。舞希は、東家の誇り高き当主です。彼女が夫以外の男に身を委ねるなら、それ相応の『覚悟』と『必然』が必要です。ただ欲情して関係を持ったのでは、彼女の品格を貶めるだけです」
「分かってます!」
俺は即答した。
ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?
-
HUNTER×HUNTER
-
NARUTO
-
ONE PIECE
-
鬼滅の刃
-
ダイの大冒険
-
チェンソーマン
-
ドラゴンボール
-
魔都精兵のスレイブ
-
僕のヒーローアカデミア