※この作品はR-18です。

読み切り漫画家・綴木想真は連載したい   作:ボルメテウスさん

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自身の弱点

翌日、俺は再びジャンプBLACK編集部の応接スペースにいた。

向かいに座っているのは、羽良嶋さんじゃない。

長い黒髪を高い位置でポニーテールにまとめ、細いフレームの眼鏡をかけた女性。だぼっとしたノースリーブとパンツスタイル。どこか出勤前の母親のような、あるいは大型バイクに跨るライダーのような、独特のあか抜けた空気を纏っている。

 

「初めましてね。日向秋よ」

彼女はコーヒーの紙コップを手に、明るく笑った。

「日向さん…よろしくお願いします」

「堅苦しいのはなしだわ。今日はアンタの次の一手を考えるためのお茶会なんだから」

日向さんは、手元の『東風舞希』の見本誌をパラパラとめくった。その動作は、羽良嶋さんが資料を読む時のような研ぎ澄まされたものではなく、もっと呑気で、でもどこか核心を突くような手つきだった。

 

「読んだわよ。面白かった。特にパイズリからの本番の流れ、男の夢ってやつ? 読者サービスは完璧ね」

「あ、ありがとうございます」

「でも」

彼女は眼鏡の奥の青緑色の瞳を細めた。笑顔のまま、声のトーンだけが半音下がる。

「これじゃあ、一位は取れないわね」

 

俺は息を呑んだ。昨日の二位という結果の重みが、再び胸にのしかかる。

「…やっぱり、そうですか。深みが足りないって言われて…」

「違うわ」

日向さんは即座に否定した。

「深みがないんじゃない。アンタ、羽良嶋ちゃんに合わせすぎてるのよ」

 

「え…?」

「見てて思いません? アンタの描いてる『欲望』、それってアンタ自身の欲望なの? それとも羽良嶋ちゃんが『描きなさい』って言った欲望なの?」

彼女は見本誌の舞希さんのコマを指差した。

「確かに舞希さんは魅力的よ。でも、アンタが彼女を抱かせたのは、彼女を救いたかったから? それとも羽良嶋ちゃんが『主従逆転の模擬』を描けって言ったから?」

 

言葉が出ない。心臓が早鐘を打つ。

確かに、あのシーンは羽良嶋さんの言葉がなければ生まれなかった。彼女が「受動的な男から脱却しろ」と言うから、主人公を動かした。彼女が「背徳感が必要」と言うから、寝間着をはだけさせた。

俺は、自分の物語を描いているつもりで、羽良嶋さんの望む「理想のBLACK作品」をトレースしていただけなのか?

 

「アンタ、編集を頼りすぎてる。羽良嶋ちゃんは優秀よ。でも、彼女はあくまで「鏡」であって「エンジン」じゃない。車が走るのはエンジンがあるからでしょ? アンタの中にある、もっと歪で、もっとバカバカしくて、でもどうしようもない衝動。それを出さなきゃ、久我山先生みたいな化け物には勝てないわよ」

 

日向さんはコーヒーを一口飲み、ふぅと息を吐いた。

「私ね、宇宙人とか妖怪とか、そういう『人間と違うモノ』が大好きなのよ。だからこそ思うの。人間と違うモノと一緒にいる時、一番人間らしい本性が出るって。アンタの本性、見せてみなさいよ。羽良嶋ちゃんのいい子ぶったセオリーなんて、一旦全部忘れてさ」

 

彼女はニカっと笑った。まるで、悪戯を仕掛ける前の子供のような笑顔だ。

俺は掌の汗を握りしめた。

編集を頼りにしている。その指摘は、痛いほど鋭くて、そして図星だった。

俺は自分の「エンジン」を、見失っていたのだ。

ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?

  • HUNTER×HUNTER
  • NARUTO
  • ONE PIECE
  • 鬼滅の刃
  • ダイの大冒険
  • チェンソーマン
  • ドラゴンボール
  • 魔都精兵のスレイブ
  • 僕のヒーローアカデミア
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