翌日、俺は再びジャンプBLACK編集部の応接スペースにいた。
向かいに座っているのは、羽良嶋さんじゃない。
長い黒髪を高い位置でポニーテールにまとめ、細いフレームの眼鏡をかけた女性。だぼっとしたノースリーブとパンツスタイル。どこか出勤前の母親のような、あるいは大型バイクに跨るライダーのような、独特のあか抜けた空気を纏っている。
「初めましてね。日向秋よ」
彼女はコーヒーの紙コップを手に、明るく笑った。
「日向さん…よろしくお願いします」
「堅苦しいのはなしだわ。今日はアンタの次の一手を考えるためのお茶会なんだから」
日向さんは、手元の『東風舞希』の見本誌をパラパラとめくった。その動作は、羽良嶋さんが資料を読む時のような研ぎ澄まされたものではなく、もっと呑気で、でもどこか核心を突くような手つきだった。
「読んだわよ。面白かった。特にパイズリからの本番の流れ、男の夢ってやつ? 読者サービスは完璧ね」
「あ、ありがとうございます」
「でも」
彼女は眼鏡の奥の青緑色の瞳を細めた。笑顔のまま、声のトーンだけが半音下がる。
「これじゃあ、一位は取れないわね」
俺は息を呑んだ。昨日の二位という結果の重みが、再び胸にのしかかる。
「…やっぱり、そうですか。深みが足りないって言われて…」
「違うわ」
日向さんは即座に否定した。
「深みがないんじゃない。アンタ、羽良嶋ちゃんに合わせすぎてるのよ」
「え…?」
「見てて思いません? アンタの描いてる『欲望』、それってアンタ自身の欲望なの? それとも羽良嶋ちゃんが『描きなさい』って言った欲望なの?」
彼女は見本誌の舞希さんのコマを指差した。
「確かに舞希さんは魅力的よ。でも、アンタが彼女を抱かせたのは、彼女を救いたかったから? それとも羽良嶋ちゃんが『主従逆転の模擬』を描けって言ったから?」
言葉が出ない。心臓が早鐘を打つ。
確かに、あのシーンは羽良嶋さんの言葉がなければ生まれなかった。彼女が「受動的な男から脱却しろ」と言うから、主人公を動かした。彼女が「背徳感が必要」と言うから、寝間着をはだけさせた。
俺は、自分の物語を描いているつもりで、羽良嶋さんの望む「理想のBLACK作品」をトレースしていただけなのか?
「アンタ、編集を頼りすぎてる。羽良嶋ちゃんは優秀よ。でも、彼女はあくまで「鏡」であって「エンジン」じゃない。車が走るのはエンジンがあるからでしょ? アンタの中にある、もっと歪で、もっとバカバカしくて、でもどうしようもない衝動。それを出さなきゃ、久我山先生みたいな化け物には勝てないわよ」
日向さんはコーヒーを一口飲み、ふぅと息を吐いた。
「私ね、宇宙人とか妖怪とか、そういう『人間と違うモノ』が大好きなのよ。だからこそ思うの。人間と違うモノと一緒にいる時、一番人間らしい本性が出るって。アンタの本性、見せてみなさいよ。羽良嶋ちゃんのいい子ぶったセオリーなんて、一旦全部忘れてさ」
彼女はニカっと笑った。まるで、悪戯を仕掛ける前の子供のような笑顔だ。
俺は掌の汗を握りしめた。
編集を頼りにしている。その指摘は、痛いほど鋭くて、そして図星だった。
俺は自分の「エンジン」を、見失っていたのだ。
ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?
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HUNTER×HUNTER
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NARUTO
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ONE PIECE
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鬼滅の刃
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ダイの大冒険
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チェンソーマン
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ドラゴンボール
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魔都精兵のスレイブ
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僕のヒーローアカデミア