漫画の内容がある程度、決まり、それを手渡す。
「この子がヒロインなのね」
そう言いながら、ヒロインであるみほを見る。
ショートボブの茶髪。楚楚とした茶色の瞳。どこか怯えるような、でも芯の強さを感じさせる表情。
戦車道の名家・西住流の生まれ。元々は強豪・黒森峰女学園に在籍していたが、昨年の全国大会決勝での「ある件」で母親の西住しほから厳しい叱咤を受けたことで戦車道そのものを忌避するように転校してきた少女。
そして、俺が描く主人公の「幼馴染」。
「彼女が転校先で主人公と再会する。ここまではいいとして、どう料理するか…」
俺はペン先で唇を叩きながら、脳内でみほの走馬灯を再生した。母親に否定され、仲間を見捨てて逃げた罪悪感。それを抱えたまま、主人公の通う学校へと逃げ込んでくる。
「学校という閉鎖空間で、傷だらけの幼馴染と再会する。そこからどう純愛へと結びつけるか。秋さん、いくつか構想があるんですが聞いてもらえますか?」
秋さんは頷き、いつものように腕を組んだ。
「どうぞ」
「ヒロインを西住みほにします」
俺はノートにラフを描きながら言った。秋さんは少し目を細め、俺のノートを覗き込む。
「ガールズ&パンツァーのみほちゃん。戦車道の名家の娘でありながら、母親との確執から逃げるように転校してきた少女。彼女がなぜ学校なんです?」
「彼女にとって学校は、戦車道から逃げ込んだ『避難所』であり、同時に母親の支配から逃れられない『監獄』でもあるからです。その矛盾を描きたい」
俺はペン先でノートの隅に描いたみほの顔を指した。
「舞台は、学校の地下にある旧戦車格納庫です。みほが転校初日、誰にも見つからないように隠れて泣いていた場所です。そこで主人公と再会する。主人公は夜間の清掃当番で地下に来ていました」
「再会のシーンが地下室ですか。暗いですね」
「暗いです。でもそこがいい。みほは、母親の幻影に怯えている。主人公は、そんな彼女を装甲板の内側に隠す。狭い空間、二人きり。彼女の震えが肩越しに伝わる距離。でも主人公は彼女を抱きしめない。ただ、隣に座って、彼女が話し終わるのを待つ」
俺は言葉を切って、秋さんの反応を伺った。彼女は無表情のまま、右手で顎を支えている。
「…続けて」
「ある夜、みほが主人公の制服の袖を掴む。それが初めての接触です。彼女は、戦車道から逃げた自分を『最低だ』と言う。主人公は『最低じゃない。逃げたんじゃなくて、立ってる場所を変えただけだ』と答える。その言葉で、彼女の装甲に初めて亀裂が入る」
「そこで抱きしめるわけではない」
「はい。抱きしめません。主人公は、みほが怖れているのは『戦車の冷たい鉄の匂い』だと分かっているから。自分が彼女に触れることは、彼女を再びあの世界に引き戻すことになるんじゃないかと恐れている。だから、袖を掴むという彼女の行動が、彼女自身の『触れたい、繋がりたい』という渇望の現れになるんです」
「なるほど。行為がない代わりに、心理的な接触を描くわけですね」
秋さんの指摘は的確だった。俺は頷く。
「最後は、朝の光が格納庫に差し込み、二人は何もなかったかのように登校します。でも袖の裾だけは、まだ微かに触れ合っている。二人だけの秘密の共有です」
俺はノートを閉じた。
「…先生」
秋さんの声が低くなった。
「袖の触れ合いだけで読者を満足させるつもりですか? それは『純愛』というより『未練』でしょう。みほちゃんが袖を掴む、その瞬間の彼女の指先の震え、主人公がその手を振り払わずに受け入れる、その皮膚の温度。そこを描き切らなければ、単なる青春の思い出話で終わります」
「描きます。袖を掴む指先の白さと、その袖口から滲み出る汗。それが二人の熱です」
「では、その熱が最高潮に達した瞬間のカタルシスを、どこに置くんです? 朝の登校では遅すぎます。袖が触れ合っているだけでは、物語としての着地が弱い」
俺は息を呑んだ。確かに、秋さんの言う通りだ。袖の触れ合いだけで終わらせるには、この物語は少し繊細すぎる。
「…なら、朝の光が差し込むシーンで、主人公がみほの袖を直すんじゃなくて、みほが主人公の袖を離す瞬間にします。彼女が自分から手を離す。それは拒絶じゃなくて、『もう大丈夫』という合図。でも、その指先が離れる時、一瞬だけ、指先と指先が触れる。その一秒の接触に、全ての感情を込めます」
「指先の接触。それを最後の『行為』にする」
「はい。それなら、セックス以上の深いつながりを描けるはずです」
秋さんは腕を組み、天井を見上げた。長い沈黙。俺の心臓が早鐘を打つ。
「…いいでしょう。その指先の接触に説得力を持たせることができれば、これは一位を取れる企画になります。ただし、ページ配分には気をつけてください。地下格納庫の暗闇と、朝の光のコントラスト。その中で二人の距離感をどうコマ割りで表現するか。それが勝負です」
「分かりました。ネーム、叩き上げます!」
俺は力強く頷いた。地下格納庫の冷たい空気と、二人の間に流れる熱い沈黙。それを描き出すために、俺はペンを握りしめた。
ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?
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ONE PIECE
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鬼滅の刃
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ダイの大冒険
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チェンソーマン
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魔都精兵のスレイブ
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僕のヒーローアカデミア