待つ時間というのは、人の感覚を歪める。
編集部の廊下に置かれたベンチに座り、天井の蛍光灯を数えていた。三本。そのうち一本が微かに点滅している。ジジジという電流音が、俺の心拍数と同期しているように感じられた。
手元にはスマホだけ。画面は黒い。通知は来ない。来ないけれど、握りしめた掌の内側で熱を持っている。
隣の部屋では編集長を含めた会議が続いている。最終集計。アンケート、電子版、読了率、編秀部評価。全ての数値が一つの順位に収束していく。その作業が今行われている。
羽良嶋さんは会議室の中だ。俺は外。
(あとどれくらいだ)
時間が溶ける感覚。五分が一時間に感じられ、一秒が永遠に伸びる。足が勝手に床をタタタと叩いている。止めようとしたが、身体が言うことを聞かなかった。
スッと息を吸った。肺の底まで空気を入れる。肋骨が広がる感覚。その膨らんだ胸をゆっくりと縮めながら、細く長く吐き出す。
吸って、吐く。吸って、吐く。
その呼吸のリズムだけが、俺と現実を繋ぐ唯一の糸だった。
スマホが震えた。
ディスプレイに映った名前は羽良嶋さんだ。指が震える。スライドする動作が一回で決まらなかった。
「…もしもし」
声が低い。自分でも驚くほど掠れていた。
『綴木先生』
羽良嶋さんの声は、いつもの冷徹なトーンだった。でも、その声の奥に微かな震えがある。それが何を意味するのか、俺の脳は判断を保留した。
『結果が出ました』
一拍の間。
その一拍が、永遠に感じられた。心臓が肋骨を内側から叩く音が耳の奥で反響している。
『一位です。総合一位。あなたの「ソーア」が、この号のBLACK MASTER候補筆頭に選ばれました』
一瞬、意味が分からなかった。
言葉が鼓膜を叩いた。脳がそれを解読するまでに二秒。一位。総合一位。候補筆頭。
「…え?」
『おめでとうございます。先生』
電話が切れた。
プツンという電子音が、静かな廊下に響いた。スマホを握りしめたまま、俺はベンチから立ち上がった。
一位。
一位だ。
俺の。俺が描いた。四十ページ。みほの袖。布越しの熱。朝の光。全部、全部、一位だ。
「うおおおおおおおおおおッ!!」
叫んでいた。
喉の奥から、肺の底から、胃の腑から、全てを搾り出すような声が廊下に響き渡った。自分の声じゃないみたいだった。でも間違いなく俺の声だ。天井を見上げ、拳を突き上げ、足をバンと床に叩きつける。
「やった! やったぞクソッ! 一位だ! 読者アンケート一位で総合一位だ! 久我山先生に勝った! 俺が勝ったんだ!」
エコーする叫び声が、編集部の廊下を反響して戻ってくる。奥のデスクから編集者が顔を出した。驚いた顔をしている。でも構わない。今は誰の目も気にならない。
掌のスマホはまだ微かに温かい。羽良嶋さんの声が残っている。「おめでとうございます」と言った時の、あの微かな震え。それが、初めて彼女が俺に対して見せた感情だった。
俺はベンチに崩れ落ちた。膝に顔を埋める。肩が震えている。笑っているのか泣いているのか分からない。たぶん両方だ。
「一位…」
掠れた声が、床に吸い込まれた。
でもこの一位は終着点じゃない。羽良嶋さんが言った。「候補筆頭」だ。一年間で最も高く評価された読み切りを描いた者に与えられるBLACK MASTERの称号。その候補の筆頭。まだ確定じゃない。次号、その次の号、新しい化け物が現れるたびに、この一位は脅かされる。
でも今は。
今だけは、この喜びに浸らせてくれ。
ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?
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HUNTER×HUNTER
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NARUTO
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ONE PIECE
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鬼滅の刃
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ダイの大冒険
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チェンソーマン
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ドラゴンボール
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魔都精兵のスレイブ
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僕のヒーローアカデミア