※この作品はR-18です。

読み切り漫画家・綴木想真は連載したい   作:ボルメテウスさん

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ストーリーの始まり

「――というわけで、考えてきましたよ、プロット!」

 

俺はテーブルにノートを広げた。何枚も書き直したラフと、メモ書きがびっしり詰まった、カオスの塊だ。対面には、いつものパンツスーツに身を包んだ羽良嶋さん。彼女の手元には、例の妖怪資料の山が控えている。

 

「題して、『鬼の姉さん』!」

 

「…鬼の、姉さん」

 

羽良嶋さんが小さく呟く。評価の読めない声だ。

 

「はい。舞台は現代。主人公は漫画家志望の大学生、名前は…まだ仮で『俺』です。彼が夜道を歩いていると――」

 

俺はノートを一気に捲り、最初のページを見せた。見開きで、闇の中に蠢く異形と、それに追われる青年のラフが描かれている。

 

「妖怪に襲われます」

 

「襲われて、どうするんですか」

 

「逃げます。だって相手はバケモノですから。で、もうダメだって時に――」

 

俺はページを捲った。次のラフには、月明かりの下、セーターを着崩した長身の美女が一升瓶を片手に立っている。

 

「酔っぱらった美女が現れる。彼女は呂律の回らない口調で『うるさいわねぇ…』とか言いながら、襲ってきた妖怪を握り潰す。文字通り、グシャッと」

 

「その美女が、荒覇吐呑子。酒呑童子の末裔で、普段は人気少女漫画家。でも裏では、人間社会に紛れる悪しき妖怪を狩る退治屋、という設定ですね」

 

羽良嶋さんが俺の言葉を引き継いだ。

 

「そうです! 主人公は彼女に一目惚れします。恐怖と憧れが混ざった、説明のつかない感情で。でも、ここからが肝心で――」

 

俺はノートの次のページを開いた。ここには、少しだけ描き込みを丁寧にした呑子のアップがある。表情は苦悶に歪み、手は自分の胸元を掻きむしっている。

 

「彼女、強いんです。鬼の血を使えば使うほど、身体の内側から熱くなって、人間の精気を欲してしまう。いわゆる『発情』です。普段は一人で処理してるんですが――」

 

「その処理の方法は?」

 

羽良嶋さんが、真面目な顔で核心を突いてくる。俺は少しだけ言い淀んだ。

 

「…大人のおもちゃとか、あとはもう、ひたすら自室で。彼女の部屋の引き出しには、色々と…」

 

「リアリティはありますね」

 

彼女は真顔で頷き、ノートにメモを取った。俺の方が少し恥ずかしくなってくる。

 

「で、ですよ! でも今回は違うんです。助けた主人公が、ドンピシャに自分の好みの年下の男だった。彼女は理性と闘うんですが、どうしても抑えられなくて――」

 

「その葛藤が、この作品の核になるわけですね」

 

羽良嶋さんは腕を組み、しばしノートを見下ろした。

 

「いいでしょう。では、四十ページの構成を詰めていきます。まず、冒頭の妖怪に襲われるシーン。ここで読者を掴むために、何が必要か分かりますか?」

 

「え、と…怖さ?」

 

「違います」

 

バッサリだ。

 

「怖さは二の次です。必要なのは――」

 

彼女はノートを指差した。

 

「『俺』の『欲望』です」

 

俺は目を見開いた。

 

「主人公は、なぜ夜道を一人で歩いていたのか? なぜコンビニ帰りなのか? きっと彼は、漫画のネームに煮詰まって、気分転換に出たんです。自分には才能がないんじゃないか、このまま漫画家になれないんじゃないか――そんな焦燥感を抱えて、夜の街を彷徨っている」

 

「…その『コンプレックス』が、後に現れる呑子という『巨大な存在』への憧れに繋がる、と?」

 

「そうです。彼は彼女に、ただ『助けられた』だけじゃなく、『認めてほしい』と心の底で思う。その弱さが、読み手の共感を生むんです」

 

俺はガツンと頭を殴られた気分だった。そうだ。ただのラッキースケベじゃダメだ。主人公が抱える『欠落』が、呑子という圧倒的な『存在』を求める理由になる。

 

「分かりました。書き直します。彼がどんな夢を持っていて、どんな壁にぶつかって、だからこそ彼女の握り潰す『強さ』に、そして『寂しさ』に、心を奪われるのか」

 

俺はペンを握り直す。

 

「そして羽良嶋さん。ここからが俺の得意分野です」

 

「聞きましょう」

 

「呑子の『発情』の描写です。彼女は決して自分から襲いません。だって、彼女は根っこの部分で『傷つけること』を恐れているから。酒を飲むのも、鬼の力に怯えている自分を誤魔化すためだ」

 

俺は早口で続ける。

 

「でも、主人公は違う。彼は彼女を怖がらない。むしろ、その痛みを『自分にも分かる』と感じてしまう。だから彼女は、初めて他人に手を伸ばす。これは合意なんです。欲望と、孤独と、その先にあるかもしれない共感の物語です」

 

「…いいでしょう」

 

羽良嶋さんが、初めて口元をほころばせた。

 

「綴木先生。『妖怪×エロ×ハッピーエンド』。その理想を、今のプロットで見せてください。ただし、くれぐれも私を落胆させないように」

 

「任せてください。この読み切り、絶対に読者の記憶に残る一発にしてみせます」

 

俺は立ち上がり、ノートを抱えて打ち合わせスペースを出ようとした。が。

 

「あ、綴木先生」

 

呼び止められた。

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