※この作品はR-18です。

読み切り漫画家・綴木想真は連載したい   作:ボルメテウスさん

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第6話

ペン先が、原稿用紙の上を滑る。

いや、滑っているんじゃない。食らいついているのだ。

 

カッカッカッ、というペンの走る音だけが、仕事部屋に響いている。エアコンの低い駆動音も、隣室の住人がテレビをつける音も、今の俺には聞こえない。聞こえるのは、荒覇吐呑子の荒い吐息と、俺自身の心臓の音だけだ。

 

(……あと、五ページ)

 

デジタルのタイマーが示す残り時間は、もはや精神的な意味を持たない。残っているのは、白紙という名の敵地を、どれだけ血を流しながら制圧できるかという問題だけだ。

 

「くそっ、ここか……!」

 

俺は震える指で、新たな原稿用紙をセットした。第十八ページ。茂みに押し倒されるシーンだ。

 

羽良嶋さんの言葉が、脳内でリフレインする。

『意味を持たせてください』

 

ただ服を脱がせて、胸を揉んで、喘がせる。そんなのは『ジャンプBLACK』の敗北だ。それじゃあ、ネットの薄い動画と変わらない。

 

俺はペンを握り直した。掌が汗で滑る。

 

呑子は、震えている。

鬼の力を使った反動で、身体が熱くてたまらない。でも、その奥にあるのは「また自分は人間と違う何かになってしまった」という恐怖だ。彼女は主人公に抱きつくことで、自分がまだ「人間」であることを確認しようとしている。

 

だから、主人公のアクションは「征服」じゃなくて「受容」でなきゃいけない。

 

(彼女の震えを止めるには、どうすればいい?)

 

俺はコマの中の呑子の顔を描いた。潤んだ瞳。少し開いた唇から漏れる吐息。乱れた桃色の髪。

その表情に、色気と同時に、泣き出しそうな子供のような脆さを混ぜる。

 

そして、主人公の手。

迷いながらも、彼女の頬に触れ、その豊満な胸に手を伸ばす。

 

「……大丈夫だから」

 

セリフは短くていい。その代わり、手のひらの熱が伝わるような描線を叩き込む。

主人公が彼女の胸を鷲掴みにした瞬間、呑子の表情が凍りついた恐怖から、安堵と快楽が入り混じった歪みへと変わる。

 

(ここだ……! この落差だ!)

 

筆が加速する。

主人公が赤ん坊のように乳首に吸いつくコマ。呑子が彼の頭を抱え、甘い声を漏らしながらも、その目から一筋の涙がこぼれるコマ。

それは、背徳的なエロティシズムであり、同時に魂の救済でもある。

 

汗が顎から落ちて、原稿用紙の端を濡らした。「shit!」舌打ちしながらティッシュで拭う。心臓が早鐘を打っている。カフェインの過剰摂取で胃がキリキリする。でも、手は止まらない。

 

描いてる俺自身が、発情しそうなほど熱いシーンだ。でも、それを冷徹な計算のもとにコントロールする。ここで読者の理性を溶かし、最後のハッピーエンドへの伏線にするんだ。

 

(あと、三ページ……!)

 

最後の戦いは、朝の光の中で行われる。

目覚めた主人公は、隣で静かに眠る呑子を見る。彼女の寝顔には、昨夜の情事の名残と、穏やかな安らぎがある。

主人公は、ベッドの上に散らばった空き瓶を片付けながら、呑子の額にキスをする。

 

「美味い酒、だったな」

 

最後のコマ。

二人は手を繋いで、朝のコンビニへ向かう。日常への回帰。でも、その手の繋ぎ方は、昨日とは違う。

そこには、確かな「共犯者」としての絆がある。

 

ペンが、最後の効果線を引く。

トーンを貼る手が、いつになく正確だ。

白黒の世界に、陽だまりの温もりを閉じ込める。

 

「……ッ!!」

 

最後のコマの角を、黒く塗りつぶした瞬間。

俺の身体から、全ての力が抜け落ちた。

 

ペンが手から滑り落ちし、机の上でカランと乾いた音を立てた。

視界が霞む。天井のシミが、呑子の笑顔に見えた気がした。

 

完成した。

魂を削って、血を吐くようにして描いた、俺の最高傑作。

『鬼の姉さん』

 

「はは……やった、ぞ……」

 

声にならない声を漏らし、俺は椅子ごと後ろに倒れ込んだ。

机の端に手が触れ、書き上げた原稿の束が足元に散らばる。

掃除をする余裕すらない。

もう、どうでもいい。

眠たい。ひたすらに眠たい。

 

意識のスイッチが、オフになる直前。

羽良嶋さんの、あの冷ややかで、でもどこか期待を含んだ灰色の瞳が浮かんだ。

 

(見てくれよ、……これが、俺の答えだ……)

 

そうして、俺は原稿の海に埋もれたまま、深い闇へと沈んでいった。

ジャンプBLACKのアンソロジーになる作品は?

  • HUNTER×HUNTER
  • NARUTO
  • ONE PIECE
  • 鬼滅の刃
  • ダイの大冒険
  • チェンソーマン
  • ドラゴンボール
  • 魔都精兵のスレイブ
  • 僕のヒーローアカデミア
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