※この作品はR-18です。

読み切り漫画家・綴木想真は連載したい   作:ボルメテウスさん

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掲載

夜の路地裏は、墨を流したように暗い。

 

漫画家志望の大学生が、足早に歩を進めている。手には原稿用紙の入った封筒。締め切りまであと数時間。焦燥感が背中を押す。

 

その時だ。暗がりから、ぬめりとした影が伸びた。

異形。腐った肉のような臭気と共に、長い髪の妖怪が襲いかかる。

「ひっ……!」

逃げ場はない。死を覚悟したその瞬間――

 

「あーあ。せっかく良い酒の夢見てたのに、うるさいねえ」

 

ふらりと、影が現れた。

酔っ払いだ。一升瓶を片手に、セーターを着崩した長身の女。

でも、彼女の目は笑っていない。右目の奥で、鋭い殺気が光る。

 

ドゴォッ!

彼女が空いた片手を一振りしただけで、妖怪は肉塊へと変わり、路地の壁に叩きつけられた。

瞬殺。あまりの暴力に、大学生は腰を抜かす。

 

「……んぅ」

女が呻いた。倒した妖怪の残滓を吸収したのか、彼女の肌が桜色に染まっていく。

鬼の血。使えば使うほど、身体の奥が熱く疼く。

荒覇吐呑子。表向きは売れっ子少女漫画家。裏では人間社会に潛む妖を狩る、酒呑童子の末裔。

 

「……あんた」

呑子のトロンとした目が、大学生を射抜く。

彼女の呼吸が荒くなる。理性のストッパーが、音を立てて外れていく。

普段なら、自室で一人、大人のおもちゃや自分の手で発散する熱だ。

でも、今は違う。

目の前の少年は、ドンピシャで彼女の好みだったから。

 

「いい匂いするねぇ……」

 

ガシッと手首を掴まれ、彼は為す術もなく茂みの中へ引きずり込まれた。

 

――ここからが、俺が魂を削って描いた本番だ。

 

背中が地面に押し付けられる。草の匂いと、濃厚な酒と女の香り。

「ちょ、待って、何!?」

パニックになる大学生を他所に、呑子はセーターを頭から脱ぎ捨てた。

下着なんて邪魔だ。露わになったのは、月明かりの下で白く艶めく、完璧なお椀型の双丘。

 

「ッ……!?」

揺れる爆乳。視界を埋め尽くす圧倒的な質量に、彼の理性は蒸発した。

嫌悪感? 恐怖? そんなものは、彼女の瞳の奥に揺らぐ「寂しさ」の前では無力だ。

彼女は、自分がバケモノになることを恐れている。だから、人間に触れたがる。抱き留めてほしいと渇望している。

 

彼は、誘導されるがまま手を伸ばした。

震える指先が、豊満な果実を鷲掴みにする。

柔らかい。温かい。そして、命の鼓動が聞こえるようだ。

「んっ……ああっ……」

呑子が甘い声を漏らす。それは快楽と共に、ようやく人間に触れられた安堵の吐息だ。

彼は赤ん坊のように、その先端に吸い付いた。吸い付きながら、残った手で豊饒な肉を揉みしだく。

 

許されてる。受け入れられてる。

孤独な鬼と、凡庸な人間の、背徳的で、温かい融合。

彼の童貞は、彼女の熱の中に溶けて消えた。

 

*  *  *

 

「っは……!」

 

ペンが、机の上でカランと転がった。

俺、綴木想真は、椅子の背もたれに深く沈み込んだまま、荒い呼吸を繰り返している。

仕事部屋の空気は、カフェインと汗の臭いで濁っている。

 

終わった。

四十ページすべての白紙を、黒いインクとトーンで埋め尽くした。

『鬼の姉さん』。

 

ただのエロじゃない。

羽良嶋さんが言った「欲望と、孤独と、その先にある共感」。

それを描ききったはずだ。呑子の震えも、主人公の覚悟も。茂みでの情事も、ただの発情ではなく、互いの欠落を埋め合う儀式として描いた。

 

手元の原稿の束が、少しだけ熱を帯びているように感じる。

これ以上のものは、今の俺には描けない。

 

視界が明滅する。瞼が重い。鉄の錘が落ちてきたように、意識が急速に遠のいていく。

確認したいことはある。羽良嶋さんに見せた時の反応。次号の掲載順位。ライバルたちの作品はどうだったのか。

 

でも、もういい。

今はただ、這い上がるようにして描き上げたこの原稿の上で、泥のように眠りたい。

 

「……見てくれ、よ……」

 

掠れた声が、誰もいない部屋に響く。

俺の意識は、深い闇の中へと沈んでいった。

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