「お姉ちゃん」
ふわふわとした白い妖精がそこにいた。花畑にいるのにも関わらずどの花よりも可愛くて、それでいてどの花よりも弱いそんな妖精が。
リリィの手からするりと花冠が私の頭に乗る。
「これは?」
「いつもお姉ちゃんが頑張っているから、だから作ったの」
「ありがとう」
赤い眼を細目ながら「似合ってる」と、くすくすと小さく笑う。その顔が私は好きだった。いつまでも笑顔が見たくて。でも「ごめんね」と、すぐに私の嫌いな顔になる。
「ごめんね、これくらいしかお姉ちゃんにできなくて、お姉ちゃんに返せなくて」
「いいんだよ。私が好きでやっているんだから」
リリィは体が弱い。それに同じ集落に住む者と誰一人とも髪の色と瞳の色が違っていた。血の繋がった双子である私とも。
私は体の弱いリリィの分も狩りをして。集落のノルマだけでは集落から追い出されてしまう。ノルマ以上の分も私は狩りをしていた。
「好きでやってる、だからそんな風に言われると悲しい」
リリィのことが一番好き。リリィの幸せのためなら何でもできる。
両親はもういない。集落の者にも異物として扱う。リリィを守れるのは私だけ。それでよかった。私にはリリィしかいないから、リリィにしか理解されないから。
「ありがとう、お姉ちゃん。あのね、お姉ちゃんが許してくれるなら、ずっと二人で一緒にいようね」
ふわりとやわらかい風が吹く。私とお揃いの長さにしている妹の腰まで伸びたた髪がたなびく。こんな気持ちのいい時間がもっと続けばいいのに。
ああ、私は幸せだ。
★★★
「かわいそうに、住んでいた集落に裏切られて売られたんだって?」
思ってもなさそうなことをヘラヘラと軽薄そうな顔をしながら、目の前の男は机越しに椅子に座っている。質のいい、住んでいた集落の一番偉い長老より、私たちを売った裕福そうな奴隷商人よりも、比べるのが馬鹿らしくなるほどの見たことのないような上質な服。
「君の集落の一族は決まって黒い髪に金色の眼、鼻が良くて、ボスを決めたら一生の心からの忠誠」
私を、私たちを買った目の前の男は貴族というやつだった。
「たしか種族は犬だっけ」
「……狼」
「おお、やっと喋ってくれた」
何がそんなにいいのか大降りで拍手をしながら大袈裟そうに面白がっている。
「妹は」
運ばれるまでは一緒にいたリリィは、この家に着いたと同時に別の建物に連れていかれた。
「別館にいるよ。もちろん、脱走できないように命令したけど、それはしょうがないからね。ああ、そうそう。君も忘れてはいないとは思うけど命令や危害を加えようとしたら駄目だから」
奴隷の魔法、奴隷になった者にかけられる魔法。その魔法は命令をされると破ることはできず、主に危害を加えたらその奴隷は死ぬ、醜い魔法。それにかけられた者の体に特徴的な模様がつけられる。私とリリィには――
「君も彼女も綺麗だよ、その首の」
目の前の男を見ると集落の者を思い出す。集落の者と同じ黒髪に、色は違うけど黒い眼。
特にあの眼が嫌いだ。他人を蔑むような下に見るような集落の者もそんな眼をしていたことを今思い出した。
「そうそう、それで夜の当番の話なんだけど、家に来てくれたばっかりだけど今日からお願いするよ」
……夜の当番?
「君と君の妹の交代制とかでどうかな? 負担も減るだろうし、うんそれがいいね」
「……何を言っているの」
「ん? だから、夜の当番、セック……ああ、交尾って言った方が君には伝わる?」
ドン!
二人しかいない部屋が震える。無意識に拳を握って叩きつけて、机には亀裂が入っていた。
「そういうことじゃない! 私は強い! 元の集落でも私が一番狩りが上手かった。だから、だから私をそのために買ったんじゃないの!」
「あー、そういえば君は強いんだっけ? 店の人に説明された気もするけど別にそのために君たちを買ったわけじゃないからなぁ」
「ふざけるないで!」
私は狩りの奴隷として売られた、それにリリィだって文字の読み書きができる奴隷としてだ。特技がある奴隷は特技がない奴隷よりも何百倍も高い。普通男が言っている目的のために買う奴隷は特技がないか、そういう特技の奴隷を買う。私たちには利用価値がある。だから、売られたんだ。集落にいるよりも安全だから、私たちがやっと理解されるから。
「妹は体が弱いんだ! そんなことをしたら死んでしまう!」
「うーん、僕は君みたいな娘も好きだけど、話が進まないから仕方ないよね?」
「お前!」
「命令、喋るな」
「ンンッ」
声を出そうとしても、声は言葉にならずにただ空になる。命令を無視して声を出そうと続けようとしても、ジンジンと首が熱くなるだけ。首のそれがこれ以上無駄なことをするなと言っている。
これが奴隷の魔法。
「まあまあ、落ち着きなって。君が妹思いなのは分かったから。それに、僕に危害を加えようとしたら妹は死ぬよ? ここからでも命令は使用しようと思えばできるんだからさ」
「グゥァ」
「わぁ、すごい迫力だ。首のそれで痛いだろうによくやるね。うんうん好きだよ」
くやしい、くやしい、それでいて憎い。殺したいこの男もリリィを守れなかった私も。
「フゥフゥ」
そうだ今殺せなくても、男は夜の当番と言った男の隙を見て殺せば、私はどうなろうとリリィは助かる、汚れなくてすむ。私と違ってリリィは賢い、男の奴隷から解放されれば生きてはいける。
「そんなに妹が汚れるのが嫌ならさ」
その言葉の続きを聞いて私は――
★★★
汚れを落として着せられたのは、上質な私がさわったことすらないような黒色の生地、しっぽの部分に切れ込みがあって、布はぴったり体に張りついて、異様に薄い生地はは隠したいところをむしろ強調するように裸体よりもわざわざ着ても着なくてもいいこれを身につけいる方が恥ずかしい。
「約束は本当」
「ああ、約束は守るよ。君の妹には手を出さないし、そうだね、僕は彼女のいる別館にも行かないよ。君たちの衣食住も保証する」
「……それならいい」
男との約束、私がリリィの分も夜の当番を交尾をすればリリィには手を出さないというものだ。夜の当番が終わったら男を見張らないと。狩りよりも楽なはずだ。リリィのところへ行かないというのが嘘なら、後ろから男を殺して私もたぶん死ぬ。もう私にはそれしかのこっていない。
新しく連れてこられた部屋にはベッドしかない。ここが夜の当番をするためだけの部屋だというのは、そういう知識が薄い私にもすぐに理解できた。
男が私の横を通り抜けてベッドの上に腰かける。
「ほら来なよ」
「……」
「緊張しているの?」
「……」
「うーん、来ないなら今からでも君の妹に――」
「やめて!」
今男を殺そうとしても命令されてしまう。そうしたら私はさっきみたいに何もできずに、私のせいで妹が。それだけはいやだ。
「うーん、君は奴隷なんだから謝りかたがあるんじゃないかな」
「もうしわけ……ございません」
「うんうん、よくできました。許してあげるからこっちに来な」
とんとんと、叩く男の横に腰かける。ふわりと腰が沈んだ。服だけじゃない、ベッドすら私が使ったことがないような高価な物が使われている。
「それじゃあ始めよう」
男の手は伸びて胸に近づく。男の手の先を追って自分の体を見るとぷっくりと強調するように無防備に浮き出たそこは、触ってくださいと言っているみたいだった。
男の手が突起を避けて私の胸を触る。くすぐったい。それからその突起を避けて念入りに撫でる。またくすぐったくて、ああ交尾とはくすぐったいものなんだろう。
くすぐったいだけならいくらでも我慢できる。
男の体温を布越しに感じる。円を描いて撫でるように、目的など無さそうな男の手や指がどこにいるかがすぐに分かる。ただくすぐったいだけで、男もこんなことをしていてよく飽きないものだと思って――
「んっ」
くすぐったいとは別の何かが体に生まれた。男の手が突起を指で弾いたからだ。
「んっんっ」
ピンピンと、宛もなく動いていた男の指が獲物を見つけたかのようにその動きを繰り返す。弾いて戻ってまた弾いて戻ってを一定に繰り返す。
「んっんっんっ」
何回も何回も弾かれる度に、知らない何かがさらに体の中で大きくなる。
「……ッ」
体いっぱいに貯まって。
「んっ」
溢れた。
「あー、イッちゃった?」
とさりと、音がなった。
……頭がぼーっとする。
何をしていたんだっけ?
ああ、そうだ体の中の知らない何かが生まれて溢れてそれが溢れて。
いつの間にか倒れている。座っていたのに。
起き上がらなくちゃ。体かピクピクとする。夜の当番の続きをしないと。体はピクピクとしている。こんなこと今までなかったのに、それでもまだ体はピクピクとしている。
耳がしっぽが、とくにお腹の奥がピクピクとこんなの初めてなのに、ピクピクが何かを求めて叫んでいることだけが分かる。
分かんない分かんない分かんない。
ちかちかする目の前に黒い影が落ちる。
その影を見上げたら男だった。男はただ笑っていた。軽薄そうに初めて会ったときと変わらない顔で。
手が伸びてくる。また、胸を触られるの? また、さっきみたいに弾く?
男の手は今度は私の脇腹を掴んだ。突起を弾いた指に、また私の知らない何かをされるんじゃないのか。怖くて怖くて手から逃げるために体を動かす。いつもだったら逃げられる。自分よりも大きな獲物にも、自分よりも力のある獲物にも、狩りの時に押さえ込まれたことは何度もある。いつもだったらすぐに逃げ出せていた。今は逃げられない。この人間がこの場で今まで会った生き物のなかで一番強いから。この男からは逃げられない。
「とぇて」
生き物は逃げられないなら命乞いをしないといけない。せめて体がピクピクしているうちは、時間稼ぎしないといけない。お腹の奥が収まるまではそうしないと私が死んでしまうと思ったから。
「それじゃあ、続きをやろうか濡れているし」
何が濡れているんだろうか。でも、命乞いが失敗したことだけは分かった。ここが狩りなら私は死ぬ、そんな予感がする。でもこれは狩りじゃない、私は男に何をされるの?
「ぁぁんぁい」
「分かるようになるよ」
ぶちっと、何かが裂ける音がして。
「ぃた」
痛み。肌が裂けるような痛みがあって元の私が戻ってきて、ゾッとした。くすぐったいだけじゃない、これが交尾なんだ、この得たいの知れないピクピクが交尾なんだ。ああ、これは交尾の続きなんだと男は交尾をしているんだとそれだけ分かって――
「ンッ」
すぐに頭が真っ白になった。
「だめ゛ごれ゛だめ゛」
胸をさわられたときと比べられないほどに私の中で暴れる。男の影が揺れる度に、何十倍もの何かが溢れないで私のなかで暴れていた。
さっきは溢れたのに今度は溢れない。だから、体の中で溢れないために何かが私をむさぼっている。その度に元の私は削れていく私の体なのに勝手に私を変えていく。
どちゅ!
どちゅ!
どちゅ!
音が鳴る。どんどん速く強く動物の鳴き声みたいな音が鳴る。男が動く度に音が鳴る。でもそれは男から鳴っているからじゃない。私からだ、音の度に私が私じゃない別の動物になっていく。
「ごんな゛んぉじらなぃ」
「これから知っていけばいいよ。君はこれから妹の分までするんだから。その分知る機会ができるよ?」
どちゅ!
どちゅ!
どちゅ!
「だぁ……あっ……めぇっ……」
ぐちゅ!
「ぁ」
最後のそれが奥の奥。体の中で一番ピクピクしていることろに体が一番欲しかったところに。
「ぁぁぁ」
ぶしゃっと体から溢れた。力が抜けていく。それから意識が飛んで――
「おーい、起きて?」
「ぅぇ?」
「終わってないよ、交尾」
おとこはまだへらへらとわらっている。
「やだぁ」
「やだじゃないよ。一人だけ気持ちよくなっちゃダメなんだよ?」
「きもちいい?」
「そうだよ、気持ちいいだよ? 勉強になった?」
これがきもちいいのはずない。きもちいいのはリリィとおはなばたけにいて、ふたりでいて、えがおでおはなしそれがきもちいい。
「だからもう少し頑張って? もっと気持ちよくさせてあげるから」
こんなきもちいいしらない。しりたくない。
ぐちゅ!
ぐちゅ!
ぐちゅ!
きぜつしそうなのにおとこだけじゃない、いっかいいっかいいしきがとびそうなのに、いちばんおくがまだだって、もとのわたしをばらばらにしながらわたしをきぜつさせてくれない。
「ぁぁぁぁぁ」
こり。
「あ゛」
「乳首いじられるの好きなんだ」
「む゛り゛ぃ゛む゛り゛ぃ゛む゛り゛ぃ゛」
こり、こり。
ぐちゅ!
こり、こり、こり。
ぐちゅ!!
こり、こり、こり、こり。
ぐちゅ!!!
ドピュッッッ!!!!!
「ぉ゛っ」
おくのおくがよろこぶ。からだにはいってきたいぶつをもとめていたって、これがほしかったって、すこしもにがさないようにくらいついている。
ぷつりと、めのまえがくらくなった。
★★☆
「……ん」
頭がぼーっとする。それに体にある違和感。体を起き上がらせて自分を確認する。身につけている黒い布は股の部分の色が変わっていて、ベッドも股の辺りに大きなシミが広がっていてわずかに湿っている。
ここはどこ? 集落から奴隷商人に売られて、奴隷商人から大きい家に連れてこられて。それから――
「やあ、調子はどう?」
私はこの男と交尾をした。
「私は寝ていた?」
「うん、もう朝だよ?」
朝? 交尾はたしか夜にしていて。
「リリィ!」
そうだ、私はこの男がリリィのところへ行かないように交尾が終わったら見張って、リリィに近づこうとしたら男を殺さないと、そう思って交尾をしたんだ。
「ああ、約束通り行ってないから安心して、ずっとここの部屋にいたから」
「……そう」
起きてからぼーっとしていた頭がやっと、スッキリとしていく。
その言葉を聞いて安心をした。この男は私との約束通りリリィのところには行っていない。それなら私はこの男を殺さないですむ。よかった。
ズキリと、頭が痛む。頭が叫んでいる、思い出して! と。頭のなかにある何かがバラバラになった塵。それを私は失くしてはいけない気がして、塵がなくならないように元の形に戻していく。
私は何で男を殺さないですむことに安心をした? 男の言葉を信じている? ああそうだ完全に思いだし――
「それから」
意識を男に向ける。元の形に戻ろうとしていたものはまた塵になる。
「君は妹に会わない方がいいよ?」
「なんで?」
おかしい、そんなこと昨日までは言ってなかったのに。
「だって夜の当番をしたら匂いが残るでしょ? 君の匂いを嗅いで、僕の匂いが強いと君の妹は驚いちゃうんじゃないかな?」
狼の一族は鼻がいい。今も私の体から男の臭いがする。交尾したから臭いが残ったのは分かる。それでも、昨日みたいに汚れを落として二日間くらい時間をおけば、付着した臭いは無くなるはずだ。
「臭いが無くなる時間くらい――」
「だって、君はこれから一日一回僕の夜の当番をしてもらうんだよ? 妹の代わりに夜の当番するんだから。もちろん今日もね」
――ゾクリ。頭の塵が完全に晴れていった。
あの交尾を毎日やるのか? ぐちゃぐちゃになるあれを、私が私じゃなくなったあれを。
ドクンドクンと、体が昨日を思い出して熱が新しい熱を生んで元々の私を糧にしながら熱が体を満たしていく。昨日と同じだ、熱は私の知らない何かを強く求めている。
「君も妹に余計な心配はかけさせたくないもんね?」
そうだ、リリィは心配をする。心配をしてあの私の嫌いな顔をする。
「……分かった」
「僕も別館には行かないし、ここにも呼ばないから安心して。ああ、君がもし僕と妹を会わせたいなら別だよ?」
「……誰がそんなことを言う」
「うんうん。冗談冗談。でも、本当に会わせたくなったら言ってね。まっ、さっきも言ったけど僕からは会わないからさ」
「それならいい」
私にとってリリィは何よりも大切なんだ。冗談でもこの男以外がそんなことを言ったら許す気はない。
「それから、使用人を呼ぶから後は使用人の言うことを聞いてね?」
男はベッドから立ち上がりドアへ歩いていく。ノブに手をかけてから私に振り返る。
「僕のこと恋しくなったら。この服を着て書斎に遊びに来ていいよ? ここには君のことを知っている人しかいないから、何時でも夜の当番より前に相手してあげる」
「お前とは夜の当番まで会わない」
「なんだ残念。まあ気が向いたら来ていいからね? じゃあ今日も夜になったらお願いね」
男が部屋から出て行って扉が閉まる。ぼーっと扉を眺める。男が言っていた使用人が来るまで。
体に微かに残る疲れと、これからの不安。
「くそっ」
体の熱は男が部屋から出ていってから、いつの間にか止まっていた。
★★☆
最初の夜から数日。今日も私はあの服を着て、夜の当番の部屋にいた。男は言っていた通り毎日私を夜の当番にしている。
ぐちゅ!
ぐちゅ!
ぐちゅ!
「ん゛っん゛っん゛っ」
「最初はこれで気絶しかけていたのに慣れてきた?」
ぐちゅっ!!
「ぃ゛っ」
「おー、イッたね。気持ちいい?」
「これ゛はきも゛ちい゛い゛じゃない」
「ふーん」
こんな乱暴なものが気持ちいいのはずない。気持ちいいは優しくて暖いものだ。こんな体がぐちゃぐちゃになるのが気持ちいいなんて――
ぐちゅ!!!
「ぅ゛っ」
「おー、またイッた。そんなに気持ちいい?」
「ぢがぅ゛、ぢがぅ゛っ」
終わって。終わって。こんなにも私は終わって欲しいと思っているのに。
それでも終わらない。
「それじゃあ動くからね」
私だけじゃ夜の当番は終わらないから。
「ゃ」
「それ」
「ぁぁぁ」
男も私の体も、終わらせてくれない。夜の当番はまだ終わらない。
気絶しそうなのを、次の刺激で意識がはっきりとしてまたすぐに気絶しそうなのを、次の刺激で意識がはっきりとする。
何回も何回も男が満足するまで繰り返して時間の感覚がより曖昧になったとき。
「そういえば君の妹のことなんだけどね」
「りりぃ?」
男は私に話しかけてきた。
リリィ。私の大切な妹。
私はリリィのために生きてきた。だから私は頑張れた。リリィには幸せになって欲しかったから。
リリィは可愛い。それなのにみんなと色が違うだけで、たったそれだけなのに。認めてくれない。あの集落だけじゃない、あの奴隷商人も気味悪がっていた、みんなみんなリリィを怪物だと思っている。
「僕は一度しか見てないけどさ」
「ぅ゛」
この男だってリリィのことを気味悪がっているに違いない。私とリリィをばらばらに住まわせている、男はリリィと別の場所で暮らしている。リリィを見ないために。
「綺麗だよね。あの白い髪も赤い眼も」
「ぇ?」
この世界にはもう私以外には存在しない、そう思っていたのに。
初めて認められた、私以外がリリィのことを。
「それに君だって綺麗だよ? 妹のために頑張って」
「ッ」
そうだリリィだけじゃない。リリィ攻撃する人は私も攻撃をしてきた。リリィと双子の私も、化け物だって。あそこでは二人きりで生きるしかできなかった。誰も理解しようとしてくれなかった。
「僕は君たちが必要だから買ったんだ、君が僕のために頑張るなら、少なくとも君も妹も元の集落よりは幸せに暮らせるよ」
「ふーッ、ふーッ、ふーッ」
私達を理解してくれる男のために頑張ればリリィを幸せにできるんだ。そうだ我慢すればいい。理解してくれるこの男のために、夜の当番もこの感覚もリリィのためにも。
「でも、頑張るのと我慢は違うんじゃない?」
「ぉ゛」
私は我慢をしなくていい? 男は私を理解してくれている。この家はあそこじゃない。男はあいつらじゃなあ。自分の心を常に押し潰していないといつ二人が獲物になるか分からないあそこじゃない。
そっか。
「自分の気持ちに素直になっていいんだよ?」
これを我慢しなくていいんだ。
「きも……」
何も抵抗できずに男にされる暴力が。
「きもち……」
心への暖かさが。
「きもちい……」
体への暴力も、心への暖かさも、どっちも――
「きもちいい」
混ざって頭のなかが気持ちいいだけになっていく。
「きもちいい、きもちいい、きもちいい」
男が動く度に、私は気持ちよくなってそれで次を求めていく。前よりも今。今よりも次を私は求めている。
気絶なんてできない、気絶している暇なんてない。気絶したら気持ちよくなれないから。もっと私は気持ちいいが欲しい。
それなのに気持ちいいが私のなかでピタリと止まる。いくら待っても気持ちいいがこない。気絶したかと思ったけど気絶していない。
「なん゛で」
「欲しい?」
「ほしい゛ほしい゛」
「それじゃあ、次にイク時はイクって言うんだよ? 分かった?」
「ぁ゛ぃ゛」
従わなきゃ、男に従わないと私を気持ちよくしてくれない。
「それじゃあ、イクときは言ってね」
私のなかで再び男が動く。気持ちいいが戻ってきた。
「ぉ゛」
「そうじゃないでしょ?」
ああ、そうかこれが――
「い゛ぐぅぅぅぅ」
「はい、よくできました」
イクなんだ。
★☆☆
くち、くち、くち。
部屋のなかで水の音がなる。何分も音は続いていた。ここはあの部屋じゃない。夜の当番をするあの部屋じゃなくて私の部屋でだ。
「んっ」
イッた。
気持ちいい。軽く満たされ、それでまた男の匂いがして体が餓える。気持ちよさを欲している。男はここにはいないのに、私に残っている男の濃い匂いのせいで、私はあの男からの気持ちよさを求めている。
これで六回目だ。
目が覚めて昨日の夜の当番を思い出して体が熱くなった、それから私はおかしくなっていた。窓を見ると昼だ。夜の当番まで時間がある。それなのに満たされない。男の気持ちいいを求めている。
「んッ」
七回目。軽く満たされて男の匂いがして、また餓える。
乳首も股も、男に気持ちよくさせられた場所を男の動きを思い出しながら弄って真似をする。
「んッ!」
八回目、それでも体は満たされない。
交尾したい。
あの男と交尾を、あの気持ちよさを私は欲しい。
でもまだ昼だ。
「ぁ」
九回目。
『僕のこと恋しくなったら。この服を着て書斎に遊びに来ていいよ? ここには君のことを知っている人しかいないから、何時でも夜の当番より前に相手してあげる』
男は言ってたじゃないか。夜の当番よりも前に相手をするって、男が言ったんだ。好きなときに交尾をしていいと。
男に会える、男と交尾ができるそう考えると体の奥は一人でイッたときよりももっと熱くなる。
「ぁッ」
十回目。今までよりも何倍も気持ちよくなった。それでも餓えが止まらない、むしろ餓えはどんどんひどくなる。
交尾したい交尾したい交尾したい。
ああ、そうだ。私が男を求めて交尾をしに行くんじゃない。夜の当番のために行くんだ。私が頑張ればリリィは幸せになれる。リリィのために。
「……だから仕方ない」
仕方のないことだ。私は男の夜の当番だから。男が私に夜の当番をやれと言ったんだ、男が悪い。リリィをもっと幸せになるために今から夜の当番のために私は男に会いに行くんだ。
★☆☆
「あれ、お昼だけどどうしたの?」
最初に私が連れてこられた部屋。部屋には男が初めて会ったときのように椅子に座っている。
「夜の当番」
「夜の当番? まだお昼だよ?」
「……早く……終わらせる」
「そっか」
「あの部屋に」
私は気持ちいいを待ちきれない。あの部屋に行きたい。
「ううん、まだ行かないよ」
「ぇっ」
どうして? 私は夜の当番のためにこの部屋に来たのに。交尾を早く交尾をしたい。
男が目の前に立っている。本物の男の匂いだ。私に残っていた残り物なんかじゃない。匂いを嗅いだだけで体は熱くなる。
「それにいつもより早く夜の当番をして欲しいなら、代わりに僕のお願いを聞いて欲しいな」
私の指よりも何倍も太い男の指が、私の濡れている裂け目の入り口を触れた。
「僕のことボスとして認めてよ」
狼は生涯に1度だけ一人のボスを決める。忠誠を誓い誓ったら最後そのボスのことを裏切れなくなる。嘘忠誠には絶対につけない。忠誠を誓ったら最後、男から逃げられない、狼の忠誠とはそういうものだ。
男の指が私のなかに入ってきて動く。
「ぁ゛」
全然違う、私が必死に惨めに一人で弄ったときよりも。気持ちよくなって、さっきよりも何倍も気持ちよくイケ――
「ぃ゛」
イケない。
イキたいのに、イこうとしたら男は指を止める。また指を動かせてイこうとしたら指を止める。
「そうだ、僕をここでボスとして認めないなら、君たちを奴隷から解放するよ」
「ぇ゛」
奴隷から解放される?
「そうだね。二人で住める家を用意して、君は強いんだっけ? なら、狩りをしていれば生きていける、君たちが楽しく、差別されないに暮らせるように手配するよ」
イキたい。イキたい。お願いだからイカせて。
「近くにはお花畑もある場所とかがすぐに用意できるね」
ああ、いいな。リリィとまた二人きりであの幸せになれるんだ。心地よくてお日様が暖かくて、二人で笑顔になるんだ。それで、心が気持ちよくなって。
「僕は君たちに二度と会わない。夜の当番もここで終わり」
交尾がここで終わったら私はイケない。イケたら心も体も気持ちよくなれる。
「君はどうしたい?」
リリィと二人だと心しか気持ちよくなれない。ボスとして忠誠を誓えば心も体も気持ちいい。奴隷から解放されたらこの気持ちよさを味わえない。イケない体も心も気持ちいいのが終わっちゃう。
「ぼすとしてちゅうせいをちかいます」
今、私はこの男を私のボスとして認めた。
取り返しのつかないことをした気がする。もう前には戻れない、リリィと幸せだった頃には絶対に戻れない。
「それじゃあ行こうか」
「ぃ゛けぇ゛たぁ゛っ」
それでも、私がイクためならどうでもよかった。
☆☆☆
「僕のことはこれからご主人様って呼んで欲しいな」
交尾をするための部屋に二人で来たら私のボスはそう言ってきた。
「ご主人様」
ボスの、ご主人様の言ったことは絶対だ。従わなければいけない。
「うんうん。いいね」
ご主人様が私のなかに入ってくる。
気持ちいい。気持ちいいけどそれ以上に、ご主人様を幸せにさせたい。私のためじゃない。ご主人様のためだけに、ご主人様を幸せにしたい。私はご主人様を幸せにしたい。
体のなかの筋肉がギュッと力がこもる。ご主人様の私に気持ちいいをしてくれるそれを、ご主人様がより気持ちよくなって欲しくて、私のなかがご主人様のためだけの形に変わっていく。
「きもちいいですか?」
「うん、気持ちいいよ。ありがとう」
お礼を言われて。私はご主人様の役にたったんだ。
役にたったと考えると心も体も幸せになる。交尾だけでも私は気持ちいいけど、ご主人様が幸せになればもっと気持ちよくなれる、ご主人様の言うことやること全部気持ちよくなる。
もっともっとご主人様を気持ちよくさせなきゃ。
ベッドの上で四つん這いになって深く頭を下げて高くお尻を上げる。ご主人様が私を求めやすいように。ご主人様が楽しめるように。
「賢い犬は好きだよ」
「ありがとうございます」
犬とか狼とかもうどうでもいい。ご主人様のためなら私は狼じゃなくて犬になっていい。ご主人様が嬉しそうならそれでいい。
「ごしゅじんさま」
「ごしゅじんさま」
「ごしゅじんさま」
☆☆☆
気づけば夜は明けて明るくなっていた。いつもは交尾をしてもとれる疲労感も体に残った。あれから私は何回も何回も求めたから。
体を起き上がらせて隣を見ると寝ていた。すやすやと寝息をたてながら無防備に。初めてだった、私が一番に目が覚めるのは。こんなに隙を見せるのは。
ぼんやりと考える、今だったら何も抵抗もされないんじゃないか。
体を起き上がらせて、体を近づける。首へどんど、あとちょっとで首を触れる、私は男の首を――
――ペロッと舐める。
「ん゛」
キュンと、体の奥が疼く。
ご主人様の味だ。幸せな味がする。大好きな私の唯一のご主人様。私はご主人様を気持ちよくさせなきゃいけない。私はそういう生き物た。
「うーん?」
ご主人様のパチリと目を開いた。私と目が合う。体の奥は暴れる、早くご主人様を気持ちよくさせないと。
「おはよう」
「へっへっ」
私はあお向けに寝っ転がって足をたたむ。ご主人様が私との交尾をできやすいように、ご主人様に見やすくしながら指で開く。股のすき間から私の尻尾は揺れていた。
「私で気持ちよくなってください」
私にはこれくらいしかご主人様が喜びそうなことが分からなかった。
「悪い娘だ、挨拶をされたら挨拶しないと駄目なんだよ?」
「駄目……ですか?」
「うん、いいよ。君も気持ちよくなっていいからね?」
「ありがとうお゛ざい゛ま゛す゛っ……」
ぐちゅりと、お礼を言っている途中でご主人様が入ってくる。
「ごしゅじんさまきもちいい? わたしできもちいい?」
「気持ちいいよ。ありがとう」
「ぉ゛」
感謝されるだけで、ご主人様との交尾で私が一人で気持ちよくなろうとしていたときよりも何倍も気持ちよくなってイッた。
好き、ご主人様が好き。
「そういえば」
「ぁ゛ぃ゛」
「今度、君の妹に会おうと思うけどどうかな?」
「い゛も゛う゛とッ?」
妹? 私に? ああそうだ、リリィ。私の妹、私の二番目に好きな人。一番はもちろんご主人様。
「い゛い゛ですぅよ゛」
「よかった。そうだ君も妹と会う? 会いたがっていたもんね」
ご主人様が私のために、私の好きな人に会わせてくれるなんて。
ああ、私は幸せだ。