バットマンアーカムシティ:アナザー・インタビューテープ 作:ニンニク嫌い
≪猫が腹を見せるのは、爪を失ったからではない。目の前の相手だけは自分を傷つけないと、そう判断したからだ≫
≪君は彼女の自由を尊重しているつもりで、決して最後の一線を越えなかった。私は選択を奪わず、その一線を越える者を彼女自身に選ばせた。そして彼女は、秘密だけでなく身体の反応まで私へ預けた≫
≪聞きたまえ、ミスター・ウェイン。これはキャットウーマンが自らすべてを晒し、私の声と香りを安心そのものとして覚え始めた記録だ≫
テープ#3 セリーナ・カイル aka キャットウーマン
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【録音開始】
【電子錠が解除される音。扉が開き、硬い靴音が室内へ入ってくる】
『遅かったじゃない。待ってたわ、ヒューゴ』
≪やあ、セリーナ。今日はずいぶんと機嫌がよさそうだ≫
『そう見える? きっと、親切な誰かが私の退屈な昔話を最後まで聞いてくれたおかげね』
≪君の話を退屈だと思ったことは一度もないよ。むしろ、予定していた時間を二度も延長した甲斐があった≫
『時間を忘れて聞き入っていた、くらい言えないの? 女を喜ばせるには、正直なだけじゃ足りないわよ』
≪なるほど。君は男をその気にさせるのが実に上手い≫
『それは褒め言葉として受け取っておくわ』
【小さなガラス容器が机へ置かれる】
≪それと、これは今週の分だ。まさか、前回のものを自分の部屋へ持ち帰るほど気に入ってくれるとは思わなかったよ≫
『この香りを嗅ぐと落ち着くの。眠る前にも少し使っているわ。あなたが作ったんだから、もっと自信を持ったら? しばらくは、この香りがない生活なんて考えたくないくらいよ』
≪そこまで言ってもらえるなら、製作者として喜ばしい限りだ≫
『……いまのは少し大げさに言っただけ。気に入っているのは本当だけど』
≪そうかな。先ほどの声には、お世辞とは異なる響きがあった≫
『ヒューゴ。女の照れ隠しくらい、聞かなかったことにするものよ。友人としての忠告』
≪それは失礼した。だが、その忠告を活かせる相手が私にいるかな≫
『目の前にいるでしょう? 私はあなたを気に入っているわ。少なくとも、これまで会ったどの男とも違う』
【数秒の沈黙】
≪それは、バットマンよりもかね?≫
『あら、嫉妬かしら。あなたにも可愛いところがあるのね』
≪質問に答えていない≫
『そうね……同じくらいには、あなたに惹かれているわ。理由はまるで違うけれど』
≪興味深い答えだ。だが、そんな君の信頼を傷つけてしまうかもしれない話があってね≫
『どうしたの? 急に深刻な声を出して』
≪私の部下たちが、君はまだ何かを隠し持っているのではないかと訴えている≫
『ひどい話ね。ここへ放り込まれたとき、ジャケットも道具も財産も、全部あなたの飼い犬たちに奪われたのよ。それでもまだ足りないの?』
≪君が怒るのは当然だ。だが、彼らは君を恐れている。訓練された兵士であっても、キャットウーマンが相手となれば想像力が働きすぎるらしい。衣服の縫い目や皮膚の下、場合によっては体内へ武器を隠していても不思議ではない、とね≫
『哀れな人たち。屈強なTYGER隊員が、丸腰の女一人に怯えて眠れないなんて』
≪実際、君は丸腰のまま三人を負傷させている≫
『男が乱暴に触ろうとするからよ。礼儀を教えてあげただけ』
≪そういうことにしておこう≫
『あなたも、私が何か隠していると思っているのかしら、ヒューゴ?』
≪いいや。君が何かを持っているなら、疑われていると知った時点で別の場所へ移している。だが、私がそう判断しただけでは彼らを納得させられない≫
『私を信じてくれているのね』
≪君との間に築いたものを、根拠のない疑いで汚すつもりはないよ≫
『ありがとう。少し安心したわ。やっぱり、あなたはほかの男とは違う』
≪しかし、彼らの疑念を放置すれば、いずれ不用意な行動に出る者もいるだろう。それを防ぐために、彼らへ明確な証拠を示したい≫
『つまり、私に何をしてほしいの?』
≪改めて身体検査を受けてもらいたい。君が何も隠していないと証明するためにね≫
【革張りの椅子が小さく軋む】
『……どこまで調べるつもり?』
≪すべてだよ、セリーナ。曖昧な検査では、かえって疑念を強めてしまう≫
『そう。それで、誰が私を裸にひん剥くのかしら?』
≪女性看守は全員、君の検査を拒否した。先日の騒動を見ていた者も多いのでね。だから、もし通常の手順で行うなら――≫
『死体が一つ増えるだけよ、ヒューゴ。私は、見ず知らずの人間に好き勝手触らせるような安い女じゃないの』
≪私もそう考えた。君は聡明で、自尊心の強い女性だ。信頼もしていない相手へ身体を預けることなどできない。だから私が、彼らに代わって検査を行うと申し出た≫
【長い沈黙】
『……あなたが?』
≪そうだ≫
『冗談でしょう?』
≪残念ながら事実だ。私はこの施設の責任者だ。部下の疑念を解消し、同時に君を彼らの無作法から守る責任がある。その結果、君から軽蔑されることになったとしてもね≫
『難儀な仕事ね』
≪まったくだ。どうかね。私を軽蔑したか?≫
【セリーナがゆっくりと息を吐く】
『……いいえ。あなたは私の話を最後まで聞いて、勝手に哀れな被害者にも、救われるべき悪人にもしなかった。私が今日まで何をして、どうやって生きてきたのかを知っている、たった一人の男よ』
≪その評価は光栄だ≫
『嫌いになんてならないわ。ほかの誰かだったら許さない。でも、あなたなら……まだ許せる』
≪よく考えて答えたまえ。これは私の命令ではない。君自身が許可したという記録を残しておきたい≫
『最後まで私に選ばせるのね』
≪君は選択を奪われることを何より嫌う。私が君を理解していると証明するなら、ここで選択を奪うべきではないだろう≫
【短い沈黙】
『分かったわ。私が選ぶ。あなたになら、身体を調べることを許す』
≪ありがとう、セリーナ≫
『それなら早く始めましょう。ここで脱げばいいの?』
≪ああ。私と室内の監視装置が、検査の証人になる≫
【天井付近から短い電子音。監視カメラの駆動音が続く】
『カメラに残されるのは、あまり気分がよくないわ』
≪映像は私の認証情報で封印する。許可なく閲覧できる者はいない≫
『あなたしか見ない?』
≪約束しよう≫
『……それならいいわ』
【衣服の留め具が外される。布地が擦れ、続いてブーツが床へ置かれる音】
【短い沈黙】
『どう? これで満足?』
≪両腕を少し上げてくれ≫
『はいはい。まるで品評会ね』
【素足が床の上で位置を変える】
≪日常的に鍛錬を続けていることがよく分かる。余分な脂肪が少なく、筋肉の付き方にも偏りがない。柔軟性と瞬発力を両立させた、実に合理的な身体だ≫
『それがあなたなりの褒め言葉なら、受け取ってあげる。仕事道具の手入れを怠る泥棒は長生きできないもの。それに、雌猫はいつだって身軽でなくちゃね』
≪では、触診を始める。痛みや不快感があれば、その場で言いたまえ≫
『あら。裸にしただけでは、まだ足りないの?』
≪ここはゴッサムだ。皮膚の下へ異物を埋め込まれた人間も珍しくない。ジョーカーが部下の腹部へ爆発物を埋め込み、本人にも知らせず街へ放った事件を覚えているだろう≫
『……ええ。あれを持ち出されると言い返しにくいわね』
≪理解してくれて助かる。では失礼する≫
【手袋が擦れる小さな音】
【セリーナが息を呑む】
『んっ……ちょっと。胸までそんなに念入りに触る必要があるの?』
≪乳房の内部には異物を隠せるだけの組織がある。表面だけでは判断できない≫
『説明だけ聞けば立派だけど……その手つき、ただの検査にしては慣れすぎてない?』
≪私は人体と、その反応を研究している。必要な圧力を加えているだけだ≫
【断続的に手袋が肌を擦る音】
『ん……っ。ヒューゴ、そこは……少し、触り方がいやらしいわよ』
≪乳頭が先ほどより硬くなっている。痛みはあるかね?≫
『ないわ。でも、わざわざ口に出さないで』
≪検査記録には、観察した変化と原因の両方が必要だ。寒さではない。この部屋の温度は一定に保たれている≫
『だからって、そんなふうに摘まなくても……んっ!』
≪動かないでくれ。左右で反応に差がないか確認している≫
『確認という言葉は本当に便利ね……っ、何をしても立派な仕事に聞こえるもの』
≪だが、君は私の手を振り払おうとしていない≫
【短い沈黙。セリーナの呼吸がわずかに速くなる】
『……振り払ったら、検査が終わらないんでしょう?』
≪それだけかね?≫
『何が言いたいの?』
≪君は不快感を訴えているが、身体は反対の反応を示している。その理由を、君自身の言葉で説明してもらいたい≫
『分かっていて聞いているんでしょう』
≪私の推測を君の答えとして記録するわけにはいかない≫
【セリーナが押し殺した声を漏らす】
『……感じてるのよ』
≪何を、どのように感じている?≫
『本当に言わせるつもり?』
≪君は自分の反応を恥じる必要はない。私は善悪を尋ねているのではなく、事実を確認しているだけだ≫
『……あなたに胸を触られて、気持ちよくなってるの。乳首を弄られるたびに、身体の奥まで響いて……興奮してる。これで満足?』
【数秒の沈黙】
≪十分だ。原因が確認できた以上、ここを調べ続ける必要はない≫
【手袋が肌から離れる】
『……本当にやめるのね』
≪続けてほしかったのかね?≫
『そうは言ってないでしょう。少し意外だっただけよ』
≪君が許可したのは身体検査だ。それ以上のことを勝手に行えば、君が私へ与えた信頼を損なう≫
『……そういうところよ。あなたを信じてもいいと思えるのは』
≪では、最も慎重な確認が必要な箇所へ移ろう≫
『最も慎重な箇所?』
≪外性器と膣内、それに肛門周辺だ。体内へ異物を隠していないことを確認する≫
【革張りの椅子が大きく軋む】
『……さすがに、そこまで許した覚えはないわ』
≪ならば拒否して構わない。ただし、検査が不完全だったという記録は残る。君に疑いがあるという意味ではないが、部下たちは納得しないだろう≫
『本当に嫌な言い方をするわね』
≪選択によって生じる結果を説明しているだけだよ≫
【ガラス容器の蓋が開く】
≪決める前に、呼吸を整えたまえ。君は緊張すると、必要以上に早く結論を出そうとする≫
【セリーナが深く香りを吸い込む】
『……ん。相変わらず、いい香り』
≪気分は?≫
『落ち着いてきたわ。あなたの声も、さっきより近くに聞こえる』
≪私はここにいる。何も急ぐ必要はない≫
【長い沈黙。換気設備の低い音だけが続く】
『……分かったわ、ヒューゴ。最後まで調べて』
≪本当にそれが君の選択かね?≫
『ええ。あなたを信じる。ほかの誰かには許さないけれど、あなたになら見せてもいい』
≪ありがとう、セリーナ。それでは、そこの検査台へ両手をつき、四つん這いになってくれ。その姿勢が最も確認しやすい≫
『ずいぶん恥ずかしい格好をさせるのね。興奮しても知らないわよ、ヒューゴ先生』
【素足が数歩進む。金属製の検査台が軋み、セリーナが両手と膝をつく】
『こうしていると、本当に品評される雌猫ね。……みゃーお。これで満足?』
≪君ほど気まぐれで危険な猫を飼おうと考える者がいるなら、よほど自信過剰な人間だろう≫
『賢明な答えね。さっき「飼いたい」なんて言ったら、検査台をひっくり返していたところよ』
≪覚えておこう。では、検査を始める≫
【手袋が交換される音。器具を載せた金属トレーがわずかに鳴る】
『あまり時間をかけないで』
≪力を抜きたまえ。緊張したままでは、かえって時間がかかる≫
【セリーナが息を吐く。手袋が肌へ触れる】
『んっ……冷たい』
≪外傷はない。皮膚の変色も、縫合や異物を挿入した痕跡も確認できない≫
『当然でしょう。そんなところに傷を残すほど、私は不用心じゃないわ』
≪膣内も確認する。痛みを感じたら言いたまえ≫
【湿った小さな音。セリーナが短く息を呑む】
『あっ……ヒューゴ、指が……』
≪動かないでくれ。内部の状態を確認している≫
『分かってる、けど……っ。あなたの指、少し動かし方が上手すぎるのよ』
≪先ほども言ったはずだ。私は人体の構造を熟知している≫
『精神科医って、頭の中だけを調べるものだと思ってたわ……んっ』
≪心と身体を別々に扱うのは誤りだ。呼吸、脈拍、筋肉の緊張、快楽への反応。そのすべてが精神状態を示している≫
【セリーナの呼吸が徐々に乱れる】
≪内部に傷や異物はない。粘膜の状態も良好だ。性交渉の経験は、それほど多くないようだね≫
『それも検査で分かるの?』
≪身体だけで判断しているわけではない。先ほどの質問に対する、君の呼吸の変化も含めている≫
『……相変わらず油断できない男。私のお眼鏡に適う相手が、なかなかいなかっただけよ』
≪それは望外の評価だ。少なくとも、私は候補として残っているらしい≫
『調子に乗らないで。まだ面接の途中よ……あっ』
≪肛門側にも損傷は見られない。こちらを使った性交渉の経験は?≫
『ちょっと、ヒューゴ……それ、本当に検査に必要な質問なの?』
≪過去の経験が分からなければ、現在の状態を正しく評価できない≫
『便利な理屈ね……ん、そこ、触りすぎ』
≪答えたくないのなら、そう記録しよう≫
『……ないわ。そういう経験は一度もない。アブノーマルな趣味はお断りなの』
≪そうか。だが、人間の好みは経験によって変化する。現在の君の拒絶が、将来も続くとは限らない≫
『私の未来まで分析するつもり?』
≪可能性を述べただけだ。さて、指で確認できる範囲には限界がある。検査器具を使わせてもらう≫
【指が離れ、金属トレーから器具が持ち上げられる】
『何、それ? 細い棒の先に、いくつも突起がついてるじゃない』
≪内部の異物を検出し、付着していれば回収するための器具だ。表面の突起が粘膜へ沿うことで、小さな異物も見落とさずに済む≫
『説明だけなら立派だけど、見た目はずいぶん悪趣味な玩具ね』
≪TYGERの開発部門へ伝えておこう≫
『伝えるなら、もう少し使われる女の気持ちを考えた形にしろって――ああっ!』
【湿った挿入音。セリーナの腕が検査台を擦る】
≪急に動かないでくれ。まだ先端を入れただけだ≫
『先に入れるって言いなさいよ……っ。突起が、内側に引っかかって……』
≪痛みは?≫
『痛くは、ない。でも……これ、胸を触られたときより、ずっと直接響くわ』
≪ならば続ける。感じていることを、そのまま報告したまえ≫
【器具がゆっくりと動く。湿った音が一定の間隔で続く】
『んっ、あ……突起が、中を擦ってる……。奥へ動くたびに、ぞくぞくして……っ、ヒューゴ、少しゆっくり……』
≪君は「止めろ」ではなく「ゆっくり」と言った。検査を続けること自体には同意している、と解釈して構わないかね?≫
『……ええ。最後まで調べて。私が何も隠してないって、あなたに証明してあげる』
≪いい答えだ≫
【器具の動きが再開される】
『あっ、んんっ……! それ、奥へ当たって……ヒューゴ、そこは、まずい……っ!』
≪なぜかね?≫
『気持ちよすぎるのよ……っ。さっきから、触れられるたびに身体が勝手に締まって……このままだと……』
≪最後まで言葉にしたまえ。君が何を恐れているのか、私に説明してくれ≫
『恐れてるんじゃない……っ。これ以上されたら、私……あなたの検査で、イきそうなの……!』
≪それは検査を中止する理由かね?≫
【器具の動きが止まる。セリーナの荒い呼吸だけが残る】
『……そこで止めるなんて、本当に意地が悪いわね』
≪私は君の意思を確認している。ここで終わらせてほしいのか。それとも、検査を最後まで続けてほしいのかね?≫
【長い沈黙】
『……続けて』
≪聞こえなかった≫
『最後まで続けて、ヒューゴ。あなたの手で、全部調べて』
≪分かった≫
【器具が再び動き始める。先ほどより速い湿った音が続く】
『あっ、ああっ……! 待って、突起が、奥を何度も……っ! ヒューゴ、だめ、もう、本当に……!』
≪力を抜きたまえ。君は安全だ。感じているものを拒絶する必要はない≫
『分かってる……っ。あなたになら、見られても……聞かれてもいい。でも、これ以上は……あっ、んんっ!』
≪君の呼吸がさらに速くなっている。筋肉の収縮も強い。もう限界が近いようだ≫
『そんなの、言われなくても……っ、分かってるわよ……! ヒューゴ、私、イく……っ! あなたの前で、こんな検査だけで……!』
≪構わない。そのまま受け入れたまえ、セリーナ≫
『あっ、だめ……イく、イっちゃう……! ヒューゴ、見て……私が、あなたの指示だけで――』
【セリーナが大きく息を吸い込む】
『あああああっ――――!』
【検査台が激しく軋む。器具の金属部がトレーへ触れ、甲高い音を立てる】
【液体が検査台と床へ落ちる音。セリーナの声が途切れ、荒い呼吸だけが続く】
【十数秒の沈黙】
≪……興味深い≫
『その言葉……本当に、好きね……』
≪予想していた以上に強い絶頂反応だ。呼吸の乱れ、全身の痙攣、分泌量のいずれも、君が快楽へ極めて敏感であることを示している。私はまだ、君の身体を十分に理解できていなかったらしい≫
『報告書には……もう少し綺麗な言葉で書いてちょうだい……』
≪もちろんだ。「ただの身体検査で絶頂した」と記録する必要はない≫
『……やっぱり、嫌な男』
≪だが、嫌いではない≫
【短い沈黙】
『ええ……嫌いじゃないわ。だから、こんな姿を見せたのよ』
≪その信頼は大切にしよう。異物は確認されなかった。君の無実は証明されたよ、セリーナ≫
【器具がゆっくりと抜かれる。セリーナが小さく息を漏らす】
『やっと終わり?』
≪ああ。検査は終了だ。無理に立つ必要はない。そのまま呼吸を整えたまえ≫
【ゴム手袋が外される。続いて、布がセリーナの背中へ掛けられる】
≪私の服も検査台も濡れてしまったが、それは清掃班に任せればいい。今日のカウンセリングもここまでにしよう≫
『……もう帰るの?』
≪君は疲れている≫
『私は、帰ってほしいなんて言ってないわ』
【数秒の沈黙】
≪では、落ち着くまでここにいよう≫
『最初からそう言えばいいのよ』
【ガラス容器が持ち上げられる】
≪香りをもう少し濃くする。これは原液に近い。ゆっくり吸いたまえ≫
【小さな噴霧音】
【セリーナが深く息を吸い込む】
『あ……本当に、いい匂い……』
≪気分はどうだね?≫
『安心する。これを嗅いでいると、あなたの声を聞いているときと同じ気分になるの』
≪香りと私の存在が、君の中で結びつき始めているようだ。実に興味深い≫
『また分析? 今くらいは黙って、そばにいて……ヒューゴ』
≪もちろんだ、セリーナ≫
【衣擦れの音。椅子が検査台の近くへ引き寄せられる】
【換気設備の低い駆動音と、セリーナの穏やかな呼吸がしばらく続く】
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【録音停止】
Stop テープ#3
≪猫が腹を見せたからといって、すぐに首輪を受け入れるわけではない。だが、安心を覚えた手になら、その喉元へ触れることさえ許す≫
≪次の記録では、彼女は身体だけでなく、自らの判断まで私へ預ける。誰の声に従い、誰の名を首に帯びるのか――よく聞いておきたまえ、ミスター・ウェイン。君ではなく、私の名をね≫