※この作品はR-18です。

〝I'm STAY〟   作:hiraneki(ひらがな)

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 戦うので流血など怪我の描写あります。
 夢主は個性を二つ持ってるっぽい系です。

 いつも夢主が生意気ですすみません!
 生温かく見守ってください。




 ┗戦闘訓練 2/2

 

──最終戦に向けて

 

 融離以外のクラスメイトの訓練が終わり、全員が一旦地下のモニタールームに集められた。

 

「いよいよ お次が最終戦だ! 血ヶ裂少年には『ヒーロー』役で挑んでもらおうと思う!」

 

 いいかな? と尋ねるオールマイトに、融離は小さく頷いて応える。

 

「時にヒーローは、援軍を待たずに複数の敵と交戦しなければならない状況に出くわす……えと、そんな感じでやってもらう!」

「超絶ざっくりだ」

「それ、ヒーローが圧倒的不利じゃないですか?」

「対戦相手はどう決めるのですか?」

「持久戦に持ち込めば敵の勝ちですわね」

「んん~~やっぱり聖徳太子いるなあ……いいかい? 血ヶ裂少年にも有利な部分はある。実践はまだでも、このモニターを通してビルの雰囲気、それぞれの動き、屋内戦での立ち振舞いを何度も見てる。手の内バレバレって訳だ」

 

 アイツが真面目に見てた瞬間あった? という瀬呂のボヤキは無視。

 

「ですが、それだけで両チームが平等とは言い切れませんわ」

 

 腕組みをして八百万が言うと、オールマイトはそこでだ、と指を立てる。

 

「今回は特殊ルールだ。最終戦においては〝相手の拘束のみ〟を勝利条件とする!」

「ええ!? そんなの二人組(敵チーム)の方が断然余裕じゃねえか!」

「八百万の言う通り、持久戦に持ち込まれて終わりだな」

「ちょっと考えればわかりますわ」

「オイオイ勘違いして貰っちゃ困るぜ少年少女……拘束のみが勝利条件って事はつまり?」

 

 ……つまり?

 生徒達は答えが分からず、黙ってお互いの顔を見合わせる。

 

「制限時間が来たら両チームとも敗北扱いだ!」

「えーっっ!!?」

「時限爆弾的な捨て身なアレで!」

「それでもやっぱ二人チームの方が……」

「いやいや、血ヶ裂の個性で逃げ回ればいいじゃん」

「や、だから逃げ回っても負けじゃん」

 

 生徒が騒いでいるが、オールマイトはチラリと時計を確認して進めていく。

 

「ちょっと授業も押してしまっているからね。悪いけど敵チームがビルに入って1分後に血ヶ裂少年に潜入してもらう。合計の訓練時間は10分!」

「──やっぱり納得出来ません! 私、コンビになります!」

「ムムッ!」

 

 麗日が手を真っ直ぐ伸ばして名乗り出た。

 友の為に……オールマイトは大層感動した様子で、

 

「その仲間を思う心……嫌いじゃないよ! むしろ好き!!」

「一人でいい」

「駄目! 弱い者いじめみたいで、私が嫌!」

 

 さらに、融離の肩を叩く者が二人。

 

「血ヶ裂さんとコンビ、やりたーい!」

「僕でよければ手伝うよ☆ムッシュ☆」

 

 芦戸と青山だ。融離が芦戸だけに顔を向けていると、後ろから「ムッシュ☆」とちょっと悲しそうな声が聞こえた。

 

「ならやる事は一つ、くじ引きするぞ! 他に熱い希望者は?」

 

 オールマイトが募ると、驚いた事に後ろでチラホラと手が上がるという信じられない光景があった。

 

「血ヶ裂さんのコンビになるぞ!」

「おー!」

「結局くじ引きなのですか!」

「ほんじゃ改めまして……Kチーム、血ヶ裂少年のコンビは──」

 

 くじ箱を掻き混ぜるオールマイトを、麗日達がごくりと唾を飲み込みながら見守る。その後ろで、融離は、せめて、どうか足手まといにならない奴になりますようにと願った。

 

「──青山少年だ!!」

 

 青山がウインクして生まれた☆が、呆然とする融離の頭にこつんと当たった。

 

「頑張ろうねムッシュ☆」

「あの、やっぱり一人がいいです」

 

 オールマイトはいつもの笑顔をたたえたまま、胸の前で腕をクロスさせて、受け付けません! を全身で示してきた。クラスメイトの哀れむような目が痛い。

 

「敵側もくじで決めるのですか?」

「それは色々考えたんだが……血ヶ裂少年は希望の組は居るかい?」

「希望制!?」

「くじ引きじゃないのですか!」

「えっ、あ、いや、一人で待ってもらったし……」

「エコヒイキだ!」

 

 理論的でない理由を言うオールマイトに生徒からブーイングが出る。

 

「なあ血ヶ裂、俺を指名すんのは止めてくれな。青山はいいとして正直お前、謎過ぎて怖ぇ」

「あたしも。青山はいいけど」

「俺も。青山はいいけど」

 

 何人かが首を振る。その中に切島も居た。

 融離はしばらく考えて、

 

「轟と……切島」

「マジかよ血ヶ裂、大きく出たな……って俺ぇ!??!」

 

 指名された切島が大きく仰け反りながら驚く横で、オールマイトが、ほほうと顎を撫でる。

 

「これもまた面白い組み合わせじゃないか」

「轟はこの中で一番強いと思ったのと、あとは緑谷が良かったけど居ないので、切島はなんとなく」

「俺何となくかよ!」

 

 本音を言うと爆豪とも手合わせをしたいと思っていたのだが、一戦目を終えてからずっと無言で俯いている姿を見ていると気分が萎えてしまった。

 切島が自信無さそうに轟に歩み寄る。

 

「なあ轟……俺で大丈夫かな、自信ねえよ」

「たぶん大丈夫だ。屋内戦必須となると、硬ぇほうが強ぇんじゃないか?」

「──っおうよ、とっちめてやろうぜ轟!!」

「切島……単純……」

「よおしやる気は充分だな。じゃあ最終戦だ! それぞれ位置について!」

 

 轟、切島、融離と青山が地上へと向かう。

 

 

 

 

 

 

──最終戦

 

状況設定(最終戦ver.)

 

【ヴィラン】がビルに立て籠もっている!爆発物所持の可能性大!

『ヒーロー』は建物に潜入し、急ぎ対処せよ!

 

『ヒーロー』は、時間内に【ヴィラン】を捕まえる事。

【ヴィラン】は、時間内まで『核兵器』を守り、且つ『ヒーロー』を捕まえる事。

 

 

 

『──最終戦、開始だ!』

 

 

「1分って罠とか奇襲とか作戦考える暇ねえな!」

「血ヶ裂の前であんま喋んな」

「僕は☆」

 

 切島と轟がビルに入るのを見届けて、融離は青山を横目で見ながら考えている。

 組んでしまったのならもうどうしようもない。今は、どうやるべきかを考えないと。

 

 

 

 

 

──地下室モニタールーム。

 

 

「さあ始まるぞ! 観察組は、自分達は終わったからって気を弛(ゆる)めないようにな!」

「まだ終わってない血ヶ裂が弛んでたけ気がするけど」

「あ、どっか行っちゃうよ」

 

 開始前。

 青山を置いて、融離がどこかへ走っていく。それを指差して芦戸が言った。オールマイトが無線を飛ばす。

 

『血ヶ裂少年? 始まるぞ』

『拾ってきます』

 

 さっぱりした答えを返した融離が向かうのは、第一戦で爆豪が破壊したビル。そこで適当な大きさの瓦礫を拾うと轟たちが待つ建物へと引き返した。

 

「何だ? 石拾った?」

「……武器に使うんでしょうか?」

「2戦目の轟少年、切島少年に対してどう仕掛けていくか、そこが見所かもしれないな」

「何でも良いけど、私は血ヶ裂さん応援するよ!」

「葉隠さん、轟くんにやられたの根に持ってるんだね」

 

 モニター室はどちらが勝つかで盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

──

 

 壁に貼り付いたりができるということは、狭い通路での戦闘は避けた方が無難だろう。

 

 

(青山の奇襲も無くはない……か?)

 

 

 切島と階段を駆け上がりながら、轟は思考を巡らせていた。

 動き回られると厄介だ……開けた場所で立ち回る方が……。

 

「なあ、血ヶ裂が来たら、お前の氷で通路塞いで、挟み撃ちとかすっか?」

 

 切島の提案に、轟は首を振る。

 

「いや、俺らの逃げ場が無くなっちまう。相手の戦法が分からねえ内は止めといた方がいいかもしれねえ」

 

 細かいところは考えていないが、どの道、相手が誰であろうと、一戦目の尾白と葉隠ペアに対してしたのと同じ戦法で行くつもりだ。

 

「姿みせた瞬間俺の氷で動き止めりゃ、それで終わりだ」

「それ張り合い無くね? せっかく2戦目ができるんだし、有意義にやりてェっていうか……」

「……勝ちは勝ちだろ」

「そうかもしれねェけど、俺ズッケエ事せずに男らしく真っ向勝負してェんだよな」

「自信なかったんじゃねえのか?」

「いや! 轟に言われて燃えてきた! 戦えそうだわ俺、ありがとな!」

「別に、思った事言ったまでだ」

「だから使うなよ、あの凄えやつ。寒いし!」

 

 階段を駆け上がって、二人は3階の広い部屋に入った。

 壁一面にガラスが貼られた、明るい空間だ。ここなら視界を確保しつつ思う存分、個性が出せる。

 

「ここにすんのか?」

「ああ。狭い場所で動き回られるよりは、見通しきく場所で距離とりつつ戦いてえ。常に位置を把握しておきたい」

「じゃあ、ここでやるか!」

 

 切島がガキン、と拳を打ち合わせた時だった。

 ガラス窓の向こう側に、フッ、と何がが見えた。二人がそれに目を向けるのと同時に、深紅の布がガラスを派手に突き破って飛び込んできた。

 

「来──!」

「退け!!」

「うおっ冷た……!!」

 

 切島が反射的に飛び退くのとほぼ同時に、轟が右手を床から掬い上げるように振り上げる。彼の右半身から放たれた冷気は瞬時に氷に姿を変え、切島のいた場所を走り抜け窓の外までを貫いていた。

 

「だーっ白黒ついた……!」

 

 切島が身を起こす。

 割れた窓ガラスに向かって大砲のように突き出た氷の先に、紅いマントがあった。

 轟は確保テープを片手に、半身が氷漬けになった紅いヒーローに駆け寄る。氷に捕らえられた布を捲ると、そこにあったのはただのコンクリート片だった。

 

「囮……?」

「潜入成功だ」

「轟、後ろぉ!!」

「!」

 

 切島の声を聞いて、轟は咄嗟に背後に氷壁を形成。トゲのように突き出した氷の先に何かが当たった感覚がして振り向くと、視界の端で融離の襟巻きが目に入った。

 逃がすまいとすかさず右手を動かして追撃を加えるが、手応えは無く、壁に穴が空いただけだった。

 

「速え! やったか!?」

「いや……逃げられた」

 

 キョロキョロと融離の姿を探す切島。

 直後、再び窓の外に人影が現れる。

 

「青山、登場☆」

 

 割れた窓から飛び込んできたのは青山。短距離走の時と同じようにレーザーを推進力にして飛び上がってきたのだ。

 

「馬鹿! 外に──!」

 

 轟の背後にある柱の裏から融離の声が聞こえた。

 1秒の制限が来て、青山のへそからレーザーが消える。ゆっくりと放物線を描く先には拳を構える切島と轟の右手。

 ここでようやく青山の顔が曇る。

 

「外にいろって言ったろ馬鹿!!!」

 

 切島の拳が当たる直前、青山の体が引(・)っ(・)張(・)ら(・)れ(・)て(・)、柱の向こうに吸い込まれるようにして消えた。

 

「血ヶ裂の個性か!? どこだ」

「ここだよ」

 

 青山を抱えた融離が轟の真横を横切る。

 

「逃がさねえ」

「悪いね半身サイボーグ。ひとまず戦略的撤退だ」

 

 轟の右手から放たれた氷が大波に姿を変えて紅い影を追うが、するりとかわされてしまった。

 

 

 

 

──地下モニタールーム。

 

 地下室では、一瞬の出来事に皆がぽかんと画面を見つめていた。轟の派手な個性のせいで、画面の殆どは大きな氷の柱で埋まっている。

 

「どうなったの……?」

「血ヶ裂少年と青山少年は回避したようだな。布を裂いて囮に使うとは見事」

「あの量の氷は死ぬだろ、あんなの」

「血ヶ裂さん頑張れー!」

 

 グーの形の手袋がブンブンと振り回されている。

 

「瀬呂、誰勝つと思う?」

「いやまァ、何だかんだで轟じゃね?」

 

 

 

 

 

──

 

「だあー! どうする、あんま時間無えぞ……俺やっぱ行ってくるわ!!」

 

 融離だけでなく青山までも取り逃がしてしまった。

 轟と切島は暫し部屋で警戒を続けていたが、相手が姿を見せる気配はなく、焦れた切島が部屋を飛び出してしまう。

 

「おいっ!」

「固まってると俺の出番無えし、分かれて探した方が効率いいだろ!」

「そうかもしれねぇが……」

 

 あと寒いし!

 そう言って、切島は斜めに壁に突き刺さる氷柱をくぐり、単身、部屋から出てしまった。

 轟はそれに続くようなことはしなかった。狭い場所は選びたくない。自分が身動き取れなくなるからだ。

 

 

(…………捕らえられなかった……)

 

 

 切島がいなくなってしばらく、轟は苛立ちをぶつけるように右手を横薙ぎに払った。噴き出した冷気が派手に広がり、湾曲した氷の壁が現れ視界を塞ぐ。

 続いて右足で、力任せに床を踏みつけた。硬い重音を響かせて、大きな氷塊が形成したばかりの壁を押し破り、立ち上がった。

 轟は白い息を吐きながら、それを睨み上げた。次に融離が姿を見せたら、必ず捕まえてやる。そう強く思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

──モニタールーム。

 

「轟、燃えてるカンジ!?」

『轟少年、建物内に核がある設定は継続中だからな、忘れないように』

 

 オールマイトの隣で、芦戸が「すごーい! なんか分かんないケドー!」と興奮したように握った拳をブンブンと振っている。

 

「あっ切島くんエンカウントっぽいよ!?」

 

──ガキンッ

 音声は聞こえていないが、融離の大型ナイフが切島の〝鎧〟に当たった時、部屋中にそんな音が響いた気がした。

 掴みかかる切島。融離はそれを軽々とかわすと、ひょいと飛び上がった。

 

「おお……なんか、コウモリみたい」

「狭い場所での一対一が彼の本分なのかもな」

「青山くんどこ行ったんだろ?」

 

 麗日の言葉通り、逆さまになって天井に張り付く姿はコウモリのようだった。その下で切島が肌を鱗のようにひび割れ逆立てて何やら叫んでいる。

 

「刃物が防げるんだから、突っ込んでテープさえ巻けばワンチャン」

「血ヶ裂さんは轟さんへの時間も考慮しつつ……なかなかハードですわね」

「二兎を追う者は一兎も得ず」

 

 皆の頭の中から青山の影が完全に消えるのは時間の問題だ。

 

 

 

 

 

 

──

 

 切島の騒がしい声と、融離がくるくると回すナイフが空を切る音が狭い通路に響いている。

 

「おいマジで時間ねえんだから降りてこい!」

 

 そう切島が急かすと、融離はパッと手足を天井から離し、急加速して切島に斬りかかった。

 

「効かねえ!」

 

 切島が手でナイフを掴むと、ガギンと音がして刃が少し欠ける。

 融離は空中で、切島は一歩踏み出した姿勢で、二人の動きが止まる、刹那、融離は切島の右手を支点にひらりと体を翻し、首元に踵落としを叩き込んだ。

 踵落としを入れた時、融離のブーツから仕込みナイフが飛び出したが、小さく細い刃は彼の硬化に負けて折れてしまった。

 

「あっっ──っぶねえええ!? 俺じゃなかったら死んでたぞ、隠しナイフとかマジか!!」

「仕込みナイフ」

 

 切島が首を押さえて叫ぶ。

 融離はブーツの先で床をトントンと叩いた。リズミカルな音が鳴ったのを合図に、彼女のつま先と踵から小型の刃物がスラリと顔を出した。

 床に落ちたそれを見た切島の顔が曇る。

 

「……お前のコスチューム、エグいな」

「言ったじゃん、大した攻撃手段が無いからって」

 

 

 

 

──地下室。

 急所である首にナイフを突き立てるという容赦ない融離の攻撃を見て、全員が顔を青くしていた。

 

「今の、切島じゃなかったら死んでたよな?」

「死んでる」

「良かった、俺じゃなくて……」

 

 瀬呂と上鳴が身を寄せ合ってガタガタと震えている。

 

「でもさっき、くるっと宙返りしたの、すごかったねえ」

「ええ、しなやかな動きでしたわ」

「先生、今のは倫理的に有りなのですか?」

「ウウン……まあ無傷だったから、良し、なのかなあ……んん……」

 

 飯田の疑問に、オールマイトはぎこちなく答える。

 いやいや流石に危険すぎると思い直し、ちょっと注意しておくね、と無線機を手にした。

 

『血ヶ裂少年、あくまでも訓練だ。そして君はヒーローチームなんだ、危険すぎる攻撃は控えるように……』

 

 プツンと画面の一つが突然真っ暗になった。

 融離が投げナイフで自分を撮していた定点カメラを潰したのだ。

 

「殆どこっち見ずに当てるとか……あいつどんな腕してんだよ」

「あっ切島、ケリ食らってんぞ!」

 

 潰されたカメラとは別角度のモニターを見ると、切島の頬に融離の蹴りが入っていた。

 

『~~!』

 

 仕掛けてもかわされてしまい、逆に融離から一発を食らうの繰り返しだった。

 ちょこまかと動き回る融離に腹を立てているのか、切島が何か叫んでいる。

 

「爆豪も凄かったけど、血ヶ裂の動きやばくね? 俺コレされたら目ぇ回す自信ある」

「蝶のように舞い、蜂のように刺す」

「切島さぁ、轟と合流した方がいいんじゃね?」

「いやいや背中見せた途端ブスリだぞ。こりゃ、タイマン仕掛けた時点で切島の負けだな」

 

 切島の肩が大きく上下しており、モニター越しでもスタミナ切れなのが見て取れる。

 

「……あ、逃げた!」

 

 突然、切島が融離に背を向けて走り出した。

 

 

 

 

 

──

 

『轟! 悪ぃやっぱ合流するわ!』

『わかった』

 

 出来れば加勢に来てほしい切島だったが、無線機から聞こえた轟の素っ気ない返事を聞く限り望めそうにない。

 轟は現在も最初の大広間にいるはずだ。ここから遠くはないが、動きの早い融離の攻撃を避けながら行かなければならないと思うと近いとも言えない。

 

「逃げるのか。贋物だな」

「どうとでも言え! 戦略的撤退だ!」

 

 切島は走りながら無線機に手を添える。

 

「厄介だぞ! 何か動く度に体が持っていかれちまって全然攻撃が当たらねえし、一発が重てえ! 動きも早えし、手数も多い──痛ェ!」

 

 融離のナイフがふくらはぎを掠めた。痛みと衝撃で、切島は足をもつれさせて転倒する。間を開けず、床に倒れた彼の頬のすぐ横を、ボールペン程の小さなナイフがトトト、と追加で刺さった。

 

「──っの、グッ!」

 

 上体を起こす前に融離が背中に飛び乗ってきた。圧迫感に堪らず息を吐き出す。

 融離は素早く腰のベルトを引き抜くと、切島の首にベルトを回し躊躇いも見せずに締め上げた。切島は振りほどこうと藻掻くが、ベルトは固く、苦しいばかりで……このままでは、息が続かない。

 

 

『血ヶ裂少年、行き過ぎだ! 今すぐ手を離せ』

 

 

 オールマイトの厳しい声が聞こえた。

 首を締めていたベルトがゆるむ。

 

「……なッにが確保テープだ甘いんだよ」

 

 融離は苛立つ声で呟くと、ベルトを床に投げ付けた。バックルがセメントにぶつかってキンと高い音が鳴る。

 

「逃げ出したお前が悪いんだよ、卑怯者」

「げっほ……何だよそれ、意味わかんねえ。じゃあ、避けてばっかで、すぐ高いトコに逃げるお前だって卑怯者だろ」

 

 テープを体に巻かれている切島の言葉に、融離は何処吹く風といった様子で、

 

「だって切島の拳で殴られたら、〝血〟が出るだろ?」

「当たり前ェだろ」

「嫌なんだよね。血が出るの」

 

『おい、まだか?』

 

 轟から無線が届いた。

 悪ぃ、と切島が短く返すとすぐ理解したらしく『分かった』とだけ返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 切島が確保されてしまった。

 青山のことは何も言わなかったが、まだ二人共、残ってるのだろうか。

 この空間に入るにはドアか壁に空いた穴の2箇所のどちらかだ。轟は穴から入ってくると踏んで、じっと見据えていた。

 青山の個性は1秒程度。氷でガードしつつ近付けば余裕だ。血ヶ裂も位置を見失わないよう注意すれば怖い個性ではない。間合いを詰めてきたところを狙って、捕らえる。

 轟が脳内でシミュレーションしていると、不意に、コツコツと固いブーツの音が聞こえてきた。

 

 

(……来た)

 

 

 姿勢を下げて備える。

 ガチャリ、ドアノブが回る音がした。

 轟の予想は外れ、融離は当然のようにドアを開けて入ってきた。

 

「仲間が危険なの分かってて助けに来ないのは、ヒーロー目指す者としてどうかと思うけど」

「今そんなこと関係無いだろ」

「あるよ」

 

 融離が背中の太刀に手を掛けるのを見て、轟は前方に波のような氷を走らせた。

 融離の紅い体がフッと消える。直後、背後から、微かに硬いブーツが床を打つ音が聞こえて咄嗟に身を翻した。眼前に、太刀が迫っていた。上体を反らせて辛うじてかわすが、頬に痛みが走り顔をしかめる。

 後方に倒れ込もうとしていた轟の体が、突然見えない糸に引っ張られた。融離の〝引力〟だ。

 

『動く度に体が持っていかれて──』

 

 切島が言っていたのはこれか。

 融離が追撃を加えようと迫るのを見て、轟は右足を払った。薄い氷の壁が二人の視界を塞ぎ、太刀の長い刀身が氷を切り取った。

 

「くっ!」

 

 すぐ身を起こし目を走らせるが、既に相手の姿はなかった。

 左右、周囲を見渡していると、声は頭上から降ってきた。

 

「氷って無限につくれるの?」

 

 天井に足をつけた融離がこちらを見(・)上(・)げ(・)て(・)い(・)た(・)。

 どちらが空で地上なのか見失ってしまいそうだ。

 唯一重力に従順な紅いマフラーが、この空間の上下を教えてくれている。

 

「体への負担は?」

「さあなっ」

 

 踏みつけた右足ごと凍りつかせて巨大な氷壁が、融離めがけて立ち上がった。しかし氷は真っ二つに割られてしまう。その向こう側に姿はない。

 

「挙動が雑なんだよ」

「!」

 

 今度は轟のすぐ足元に。

 訓練開始前に力任せに破かれてほつれが目立つ紅い布。顔回りに隙間が生じて、融離の黒い眼が見え、ほんの一瞬だけ、轟は、気を取られてしまう。次の瞬間、肩を斬り裂かれた。

 

「──クッ、ソ……!!」

 

 二人の間を割くように氷壁を作る。飛び退いた融離は、すぐに別角度から斬り込んでくる。それを氷壁で防ぐ。防ぐ。防ぐ。防ぐ。

 広かった空間は忽ち氷の洞穴と化し、轟は一つの隙間に身を隠し、白い息を吐いていた。息が上がり、苦しい。

 手が震えている、いや、全身が小刻みに震えていた。単純な冷えからくるものか、それとも融離の真っ黒な目を見たからか……。

 融離の眼を思い返して、ゾッとする。普通の眼ではなかった。あれは、実戦を知ってる眼だ。父、エンデヴァーの気迫と似ている。死線を経験した者が持つ独特な気迫。

 

 そう遠くない場所で、カツンと固い音がした。見つかるのも時間の問題だろう。

 

「氷だけじゃ、そろそろ限界じゃないのか?」

 

 融離の声が響く。

 

「いい加減、左(炎)使えよ」

「っ…──使わねえ!」

 

 

 

 

 

 

 

──久しぶりに、地下モニタールーム。

 

「先生、何も見えないです」

「そうだね……」

 

 轟が個性を連発したおかげで、モニターは氷以外何も映っていなかった。

 

「無線機で話は聞こえるのですよね? 状況はどうなっていそうですか?」

 

 飯田が聞くとオールマイトはうーんと首を捻った。

 

 

『何が『氷で勝つ』だ。何が『親を否定する為』だ? ……ふざけんな気取りやがって、ムカつくんだよ』

 

 イヤホンからまず聞こえたのは融離の声だった。言い返す轟の声も聞こえる。物音はあまりしないことから、2人は戦闘よりも会話に集中していることが伺えた。

 

 

『血ヶ裂、お前昨日言ってたな。『ヒーローが憎い』って』

 

『それが何』

 

『それで雄英、なんて矛盾してないか?』

 

『……』

 

『自分の事は棚に上げて、他人の揚げ足とって満足してるようなヤツが、ヒーローに相応しいのかよ』

 

『……もう一回、言ってみろ』

 

『お前なんかの代わりに不合格になったヤツが可哀想だな』

 

 

 

「……口喧嘩してる……」

「口喧嘩!? なんと幼稚なことを!?」

「何も見えないんじゃあ訓練にならないわ。何か起きても止められないし、中止にすべきよオールマイト」

「そう、だよねえ……」

 

 でももう少しだけぶつからせてあげたいんだけどなあ、口の中でモゴモゴ喋りながら、オールマイトは無線機から聞こえる音声に集中した。

 

 

 

 

 

 

──

 

「……というか、何で俺は怒られてんだ? さっぱり分からねえんだが」

「分かんないだろうな、両親に、家に恵まれてぬくぬく育ったお前には」

「はあ? そっちこそ、親が居ないなら居ないで、自由でいいじゃねえか」

「自由? 馬鹿にしてんのか!」

 

 ほんの些細な一言が、過敏になっているお互いの劣等感を刺激して、売り言葉に買い言葉で、怒りはどんどん膨らんでいく。

 

「まともな個性持ってるクセに……贅沢なんだよ!!」

「他人の家のこと、何も知らねえ癖に好き勝手言うんじゃねえ!!」

 

『おい二人共! 無茶はするなよ! どうなってる!?』

 

 オールマイトの声は、二人の耳には届かない。

 轟の右手が、これまでで一番の氷塊を形成する。

 再び斬り裂こうと振りかぶった融離のナイフは飲み込まれ、紅い体も氷に取り込まれてしまった。

 

 

 

「……血ヶ裂、お前が一番、ヒーローらしく無いだろ……」

 

 シンと静まり返った空間に、轟の苦しそうな呼吸混じりの声が響く。

 

「ただの妬みの塊じゃねえか」

 

 膝の上に手を置いて、はあはあと白い息を吐く。

 轟の個性がとうとう融離を捕まえていた。

 

「……熱くなって悪かった。あそこまで好き放題言われちゃ流石に抑えられねえよ」

「っ、お前、なんかに……くそ……!」

 

 融離はほぼ全身が氷漬けになっていた。頭と左手は氷から逃れたが、そこも壁に貼り付いてびくともしない。文字通り磔状態になっていた。

 抜け出そうともがくが、冷たいを通り越して刺すような激しい痛みが皮膚に走り、苦痛に顔を歪ませる。

 

『轟少年、聞こえるか? こちらは今モニターが確認できない。間もなく時間だ、終了宣言させて貰うぞ』

 

「ああ、コッチもいま捕まえた所だ。終わりでいい」

「まだだッ! まだ戦える!!」

 

 確保テープを手に近付く轟に、融離が吠える。

 

「おい無理に動くと皮が剥がれるぞ」

「皮ぐらいなら、いいんだよっ……!!」

「やめとけ、すげえ痛ェぞ」

 

 融離は何を思ってか、大きく口を開けるとマフラーに噛みついた。

 最終戦の終わりが告げられようとした時、融離の左手が壁から剥がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生、すみません! この子は悪くないんです……私が悪いんです!』

 

『お母さん、顔を上げて下さい。……融離ちゃんは個性だもんね。大丈夫だよ、先生わかってるから……』

 

『おかあさん……おひざ、いたい……』

 

『すみません、すみません!』

 

 

 

 

 

『ばけものー!』

 

『ばけものじゃ ないもん!』

 

『個性だから大丈夫ー! はいはーい、みんな仲良くねー』

 

『ばけものとなんか あそばない!』

 

『ばけものなんかじゃ! ないもん!』

 

『融離ちゃんは血、出さないようにね』

 

 

 

 

『また血ぃーだしたー!』

 

『にげろー! とかされるぞー!!』

 

『せんせ……こけ、ちゃった……』

 

『……ちょっと、血が止まるまで待とっか、ね? ちょっとだけ一人であっちの部屋に居てくれる……?』

 

『××せんせーに さわっちゃ、だめ!』

 

『せんせえ……ばけものじゃ……ない……!』

 

『……すみません……っ!』

 

 

 

 

 

『おかあさん! どうして! だして!!』

 

『……うるさい! 入ってなさい!!』

 

『だして! あけてぇ! くらくてこわい! おかあさん!』

 

『おかーさーん、融離はどうしていっつも部屋なの?』

 

『血が汚れてるからよ。綺麗になったら出てくるからね』

 

 

 

 

 

『おい、何もそこまでしなくても……』

 

『あなたは黙ってて! 全部! ぜんぶぜんぶっ……あなたの責任でしょ!!?』

 

『何言ってるんだ、僕一人の話じゃないだろう!?』

 

『あなたはいつも仕事、仕事で……!』

 

『………………!!』

 

『…………!』

 

『……』

 

 

 

 

 

『おかーさん、融離はー? きれいになったー?』

 

『まだまだ掛かりそうなの。汚れた血がうつるから、開けちゃダメよ』

 

『はあい』

 

 

 

 

 

──

 

 ブチブチとゴムが千切れたような音がして、融離の左手が凍った壁から剥がれた。皮膚を失ったその手のひらに血が滲み、やがてポタポタと滴り始める。

 轟は理解できなかった。

 不気味さに、数歩、後退る。

 融離は痛みを耐えるように震える息を吐くと、血が滴る左手で自身を縛る氷に触れた。

 

「!?」

 

 目の前の光景が信じられず、轟は自身の左手に目をやった。自分は炎は出していない。にも関わらず、氷が蒸気を上げて溶けだしているのだ。

 どういうことか。注意深く見れば、融離が手を触れた氷の溶けるスピードが、やけに速い。

 

「血ヶ裂、お前その左手……何だ?」

「別に、左手に限った話じゃない」

 

『血ヶ裂少年? 轟少年? 今から向かうが、どうした?!』

 

 インカムからオールマイトの声が飛んでくるが、今飛び込んできた情報を飲み込むので手一杯で、うまく言葉が返せない。

 融離の手から滲み出た真っ赤な血が、ポタリと落ちた時、氷から蒸気が上がった。

 血だ! あいつの血が、氷を融かしている。

 

「そういうことかよ……!」

「これで氷はクリアだ」

 

『いいか、訓練は終わりだ! 二人とも、今から私と合流するまで動くんじゃない!!』

 

 オールマイトの必死の制止が聞こえるが、融離には届いていないようだった。

 

──姿が消えた。

 

 咄嗟に上を見たのは勘だった。運良く読みが当たり、相手は頭上で太刀を構えていた。

 寒い。しかし全力で応戦しなければ死ぬという確信があった。

 轟は気力を振り絞り、震えが酷い右手に力を込めた。

 氷で太刀を捕らえた。融離は空中に身を投げ、轟の攻撃を避けていた。すぐに体勢を整えてブーツナイフを引き抜き、轟に真っ直ぐ斬りかかってくる。

 腕を裂かれた。しかし同時に放った氷が融離の顔面を打った。

 額が裂けて、血が流れたのが見えた。

 

「これで終い──ッ!?」

 

 頭を覆っていた布が融け落ちて、彼(・)女(・)の顔が現れた。今度はハッキリと見て取れた。真っ黒な目は、獲物を噛み砕こうと喜び狂う獣のそれだ。

 融離の額からこぼれた血が宙に舞い、轟の頬に落ち、ジュ、と痛みが広がった。

 

 

(止まれ……止まってくれ!!)

 

 

 距離を取ろうと氷壁を立ち上げても、融離の左手が氷を溶かす。皮膚が剥がれ、文字通り剥き出しの状態の肌を氷に押し付ける度に、凄まじい痛みを感じているはずだ。なのに、痛みに顔を歪めているようには見えない。それどころか不気味に笑みを浮かべているのだ。

 氷のせいで、逃げる場所がないことに気付いた時には、凶器が眼前に迫っていた。

 喉元に氷とは別の、ヒヤリとしたものを感じた。ちくしょう。奥歯を噛み締め、憎々しげに喉を鳴らす。

 

 轟が左拳を握り締める。その寸前、オールマイトが分厚い氷壁を砕き飛び込んできた。

 

「──血ヶ裂少年! 本ッ当にすまん!!」

 

 生徒二人の姿を把握した彼のダブルスレッジハンマーが、間一髪のところで融離を弾き飛ばした。

 

「……もう少し早く駆けつけて置くべきだった……」

「……っ」

 

 緊張の糸が切れて、轟はその場に座り込んだ。

 全身から汗が吹き出して、ドッドッドッ、心臓が痛いほど脈打っている。それは、生きている何よりの証拠なのに、生きた心地がまるでしなくて、震える手で、首に触れて確かめた。

 

 

 

 

結果

×『ヒーロー』

 K血ヶ裂 融離(負傷・行動不能)

  青山 優雅(?)

 

×【ヴィラン】※追加コンビ

 L切島 鋭児朗(負傷・捕獲)

  轟 焦凍(負傷)

 

 

 

 

 

 

──

 

「お疲れさん!!」

 

 すべての組の訓練が終わり、オールマイトの号令が響く。

 敗北に喫した者は当然、勝利したとはいえ思ったように力を発揮できず苦い顔をしている者もいる。

 緑谷と融離の二人が大怪我で運ばれたこともあり、クラスに流れる空気は少し重たい。

 

「しかし、真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ皆、上出来だったぜ!」

 

 失敗に捕らわれ続けていてはこの先やっていけないぞ。

 

「血ヶ裂少年の動きは大胆だった! 動きだけを見ればプロに引けは取らないだろう。危険な行為が多く、見直す必要はあるが……。切島少年はやはりいい個性だ! しかし今回はもう少し意見を交わしてから別れるべきだったかな。轟少年の個性も見事だ、だが屋内戦で核があるという設定を忘れてしまったかな、少し白熱しすぎちゃったね! ……ま、全体的に、仲間との会話をもう少し意識すると尚良しってところかな」

「僕!☆」

「青山くんどこおったん?」

 

 ※青山は別の部屋にあったロッカーの中に閉じ込められてました。

 

 生徒たちが溢すそれぞれの感想にオールマイトは、勉強、勉強、それもまた勉強と返してやる。

 生徒たちが徐々に口数を戻していく中、一際、ぼんやりと棒立ちしている生徒が目についた。

 

 

「轟少年」

 

 呼ぶと、僅かに目線を上げた。頬、肩、腕、あちこちに出血が見られる。

 

「君も怪我がある。リカバリーガールの所に行くかい?」

「ああ……自分で行ける」

「OK。切島少年、君は?」

「俺は、いいッス。かすり傷なんで」

「うむ。……考えることが多いだろうな」

 

 やり取りの間、一度も顔を上げることなく自分の足元をじっと睨んでいる切島。最後まで戦い切った轟と自分を比べて、不甲斐ない思いを感じているのだろう。

 

「切島少年、いま君の胸にあるのは、悔しいと一言で簡単には言い表せられないものだろう。察するよ。……が、それは自分の中に新しい価値が生まれた証拠でもある。自分がどう感じたのか、じっくり向き合ってみるといい」

「オールマイト、俺……」

「Plus Ultra! 限界にぶち当たって、それに打ち勝ってみせるのさ。……皆、それを繰り返してヒーローになるんだ」

 

 そう言って肩をポンと叩いてやると、切島の瞳に幾分か元気が戻ったように見えた。

 

 

 

 

 

 






 次、この日の放課後と、オリジナル回です。
 その後も何話かオリジナル回が続きます。


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