主人公の職場紹介回になります。
その世界の知識がないもので、ネーミングとか不自然な部分があったらすみません。
どうぞ目を瞑って読んでください。
オリキャラがめっちゃ喋ります。
──困った客]
「はー、ホント、来てくれて助かったわ……みんな嫌がっちゃうし、訳あってその人、無理に帰せないしで困ってたのよ!」
ちょっと怒ったような声色で、店長が店の裏の通路をツカツカと歩いている。融離はその後ろでマシンガントークを聞き流しながら、ロングサイズの黒いグローブを腕に滑らせた。さらさらとしたストレッチサテンの生地がひんやりとして心地よい。
「それで、例のお客さんはどこですか?」
「一番奥にいるわ」
客と裏通路を隔てるカーテンから二人一緒に顔を出す。
「無愛想で辛気臭いったら……ホラ、あれ! 黒いボサボサ頭の!」
「あっ」
「ところでプレゼント・マイク、知ってる?」
「え? ええ、まあ多少は」
「私服でご来店よ! ホラ見て!」
……ステキ。ホント、スキ。
突然、耳元で愛を囁きだした店長を、融離は怪訝に振り返る。潤んだ瞳が熱心にどこかを見つめている。視線を辿れば、大勢のホステスに囲まれている男が一人。束ねた金髪にシンプルな眼鏡。以前、入試で見たコスチューム姿の彼とは随分と雰囲気が違うが、根っからの大ファンである店長が言うのだ、間違いなくプレゼント・マイクその人なのだろう。
「ウチに来るなんて夢みたい」
「良かったですね」
「後でサイン貰えたりとかしないかしら。ねぇ、ユーリちゃん」
「自分で行ってくださいよ」
「い、私なんかが、そん、無理よ! 私、強面の店長で通してるんだから! 行ってきてよぉ」
「別に強面のまま貰いに行けばいいじゃないですか。それに、あのお客さんはどうするんです」
「はっ」
いつもの事だが、この中年は聞いてもいない事をペラペラと喋った挙げ句、途端に話題を変える。彼のこの掴み所の無いところが、この店が働き安い理由でもあるのだが。
さて、と融離は本題に戻る。マイクの連れだという問題の男性客だ。グラスも置かずに、店の端にぽつんと座って目を閉じている、あのだらしない黒ずくめの男は、
──お前には、目を光らせていた方が……
「……私、あの人に指名されたとかじゃないですよね?」
「え!? 違う違う! あの人、彼、マイクにくっついて来店したんだけどネ、気付いたら勝手に別テーブルに行っちゃってて……回転率落ちるじゃない?
グループはまとまって座ってくれってお願いしても、『気にするな』、って動かなくて。気にするわよ。何言ってんの。こういうお店は雰囲気が大事なのよ」
「それでどうなったんです?」
「仕方なく女のコを付けたら、みーんな退かしちゃって! 何するでもなくボーっとしてんの。何でクラブ来たのかしら」
「さあ」
「ね。で、あの見た目デショ? 見た目悪いのよ。何アレ、まるで貧乏神じゃない。雰囲気悪いし、どうにかならないもんかしら」
「それで私呼んだんですか」
「もうアナタしか頼めるコが居ないのよ。あのマイクの連れじゃなかったら、つまみ出すんだケド」
「兎に角、分かりました。行ってきます」
「よろしくね、出来れば注文もね! 高いやつ! いい? ウンと踏んだ食ってやるのよ!」
よほど手を焼いたのだろう、店長はその見た目に似合わず乙女のようにぷりぷりと怒っている。
彼に強く肩を叩かれて、融離は辛気臭いテーブルへと近付いていった。
「お待たせしました。ユーリです」
「……、呼んだつもりはないが?」
「呼ばなくたって、来ますよ。そういうお店ですもの。……もしかしてお客さん、こういうお店は初めてですか?」
あからさまに嫌そうな顔をする男を無視して、融離は隣に腰かけた。ソファのスプリングが軋んで、少しだけ二人の体が揺れる。
顔を合わせるなり、『あの時の生徒』とバレたらどうしようかと思ったが、幸いにも男は融離が初対面ではないことに気付いていないようだ。反応は悪い。面倒臭そうに他所を向いたまま、
「他所に行ってくれ。俺は女と飲みに来たんじゃないんだ」
「私をどけたって、すぐに他の女の子が来ますよ。そういうお店なんです、ここは」
「……」
「ある程度はお客さんの要望にお応えしますけど、お店を利用するお客さんも、ある程度はルールを守ってもらわないとウチも困ります」
「御尤もだが、俺だって困ってるんだ。こんな所に連れこられて」
「じゃあ、寝てなんかいないで先に帰ればいいじゃないですか」
「アイツがべろべろに酔った後の介抱を頼んでもいいなら、そうするよ」
「ああ……」
「困るだろ。こっちも後で連絡が来て、貴重な睡眠を妨げられたりしても面倒なんだよ」
「それ、もしかして前に」
「ああ、あった。しかも一度や二度じゃない」
酔いつぶれた人の相手ほど面倒なものはない。アルコールに理性が溶けた彼らは何をするか分からない。暴言を吐いて暴れたり、服を脱いだり、一度寝始めると起こすのは至難の業だ。話し掛けても、ウンウン、わかったわかったと呂律の回らない返事を返してくる。
その場に転がって帰らない客に腹が立って、何度、荷物と一緒に店の外に蹴り出したことか。
「だからって、女の子つけないのは困るので、この席に座っていたいなら私を隣に置いて下さいよ」
「金ならツレが結構な額を払ってる筈だ。駄目か? 迷惑にならないようにするから」
「ダメです。いくらお金を落としても、タダで席を空けることは出来ません」
「金が無い訳じゃない。コッチにお喋りするつもりがないのに、わざわざ来てもらうのは無駄だから遠慮してるんだ」
「あんまり屁理屈言ってると、営業妨害で締め出しますよ」
営業妨害、の言葉は少しこたえたようで、男が苦笑する。
「アンタ、他の奴らと比べてしつこいな」
「当然。本当は休みなのに、呼ばれてわざわざ出てきたんですから」
「……そりゃ悪い事した」
「そう思うんなら、従ってもらえますか。それに私、自分で言うのもなんですが、ここのお店で一番の当たりだと思いますよ」
「へえ、どんな風に?」
「この店で一番の無口です」
「アンタ、既に結構喋ってないか?」
「今は必要な時間じゃないですか。
「…………」
男は暫く考え込んでいたが、観念したような溜め息をついた。
それを承諾と受け取った融離は腰を上げて距離を詰めた。男の腕に手を回し、しなだれる。こうすれば大抵の男は態度を変える。簡単なものだ。
「そういうのは止めてくれ、……」
いきなり、パッと振り払われ、男が距離を取る。融離はムッとして睨む。男も同様に、不快感たっぷりに睨み返してくるかと思いきや、変な顔をして融離のことを見ていた。
さすがに近付き過ぎただろうか。驚きを含んだ、何かを訝しむような男の目を、表面上は平然と受け止めながら、融離は内心ハラハラしていた。バレたかもしれない。沈黙する二人の足元で、ギ、とソファが軋む。
こんな所で働いていると知られたらマズいのでは。最悪、合格通知を取り上げれたりなんてしたら……。
「お前いくつだ?」
「え?」
男は視線を上下させて、そう言った。
意外にも、男は純粋に融離の年齢を気にしているようだった。眼の前にいるホステスが、入試のときに釘を差した
「え、えーっと、知りたいですか? わ、わあ、もしかして若い子が好きとか?」
「いや、こういった店にしちゃ若く見えるからな、他意はない」
「ふふふ、そう言って、もしすごく若かったら、どうするんです?」
「……生徒を導く立場なんでね、なんせ」
「へぇ、お客さん、先生されてるんですか。意外」
「よく言われる」
「別に大丈夫ですよ。お固い職業の方も、結構来られてます」
「それを気にしてるんじゃない」
手を取ろうと触れると軽く払われた。
「喉、渇きませんか」
諦めてメニューを引き寄せて、尋ねる。男は別に、と興味なさそうに返事を返し、視線を前にやった。男の瞼が半分下がる。呆れたように。こんな子供がこんな場所で働いているなんて、今の世の中はどうかしてる。とでも言いたげに。
「……私も、こんな所なんかで働いて、何してるんだろうって思いますよ……」
「じゃあ辞めればいいだけの話だ」
「駄目ですよ。働かないとご飯食べられないじゃないですか」
「他にもあるだろ、働き口なんて」
「勿論考えた事はありますよ。でも、駄目でした」
お酒も飲めないし、頭も良くない。家族は居ないし、故郷もない。
「センセ、私、秘密があるんです」
「秘密?」
「ええ、秘密。誰にも言えない、秘密」
あるのはこの体と、男から学んだ殺人術だけ。これは、誰にも知られてはならない秘密だ。
「へぇ…………どんな……?」
ふふふと一人笑う融離を、男が横目で見てくる。
融離がそれを捕まえて、また、ふふ、と笑う。
「いいですか、センセ。本当にいいオンナは、本当に大切な思い出は誰にも教えないんですよ」
人殺しですよ、なんて言える筈がない。
「お客さん──」
「相澤だ。……一杯、適当に頼んどいてくれ」
「喜んで」
相澤はぶっきらぼうに言うとすぐに目を逸らした。
融離は彼の横顔にもう一度微笑むと、顔の高さに片手を上げてウエイターを呼び寄せた。
「つまみ物、頼んでも? 私まだ晩ご飯食べてなくて」
「好きにしろ」
適当にメニューを読み上げる。
頼み終えて顔を上げると、カウンターの向こう、目立たない場所で店長が大層感動したような表情で、胸の前で音の鳴らない拍手をしていた。
──
「お連れの方、楽しそうですね」
「そうだな。いい趣味してるよ」
テーブルの上に広げられたフルーツ盛りをつつきながら女が言い、相澤は短く返す。ずっとこんな調子だが不快ではない。
マイクは店の中央の一番広いソファの真ん中で、相変わらず大勢のホステスと共にワイワイと騒いでいる。彼が指をパチンと鳴らして一言言えば、キャーと黄色い声が上がる。何がそんなに楽しいんだか。盛り上がっている様子からは、まだ帰る気配は感じられない。
「センセイの趣味は?」
「特には」
「仕事が趣味?」
「あまり好きな言い方じゃないが、まあ、間違ってはないな」
「今は、楽しいですか?」
センセイ、なんて甘ったれた呼び方が耳に入る度に、胸の辺りがゾワゾワとする。相澤はグラスを傾けて、その妙な感覚を押し流す。初めはやめるよう口を挟んだが、女にやめる気がないと理解してからは注意する気も失せてしまった。こういう店だから、そういうものなのかもしれない。
コン、とグラスを置いて視線を横に滑らせる。
目が合う。
女は笑って葡萄を摘まみ上げるとこちらに見せてきた。『食べるか?』と聞いているのだ。相澤は目を瞑って小さく首を振った。
「楽しくは無いが退屈でも無い」
「素直に楽しいって言ってくださいよ」
ふふふと笑いながら女は葡萄を口に運ぶと、そのまま無言になってしまった。
不思議な女だ、と相澤は横目で見ながら思う。
こんな所に居る女は、皆、客の男を引っ張って酒をねだるか、聞いてもない話を延々と喋るものだ。それが彼女らの仕事で給料に直結しているのだから当然の行動だと理解はしている。事実、これまで学校の付き合いでとか、今日みたいに友人に連れられたりして入った店は大体そんな感じだった。
しかしこの女は初めから『大人しくする』と条件を提示してきた。一度注文はとったが、二度目の催促をしてくる様子はない。
『誰にも言えない、秘密』
相澤の頭にその言葉が浮かんで消える。
ふと、テーブルの端に畳んで置かれた、女が脱いだ長い手袋が目に入った。ホステスらしからぬ奇妙な女はモグモグと甘い粒を咀嚼すると、指先に付いた甘い汁を紅い唇で舐めとった。
顔に残るあどけなさから察するに20歳は越えていない筈だ。それなのに時々変に大人っぽい仕草をするから、少し困る。
「こういう所の客ってのは、滞在時間は大体どのくらいなもんだ?」
質問に、女はイチゴに伸ばした手を止めて、
「……お客さんに寄りますね。閉店までいる方も居ますし、お気に入りの子が居なくてすぐ帰る人も居ますし」
「閉店は?」
「一応1時になってます」
「案外早いんだな」
「私みたいなのが働いてますから」
女は答えながら壁掛けの時計をチラリと見、蒸しタオルに手を伸ばした。ざっと拭いた後、最後にギュッと掴んで、白いタオルに薄く残る、果汁の染み。
「いつまで居るつもりなんだろうな、あいつは」
「お連れの方とは長い友人とか、そんな?」
「同期なんだ」
「ふうん。そろそろだから、もしかしたら、それを待ってるんじゃないですかね」
「『そろそろ』って?」
「この時間まで残ってるお客さんって、それが目当ての人が多いから」
女が、ふっ、と不思議な笑みを見せた時、突然店内の明かりが消灯した。
(停電か? それにしても……)
闇の中で相澤は眉をひそめた。妙だ。周囲からは一切の動揺が感じられない。突然電気が消えとなれば、ヒトは大なり小なりパニック状態に陥るものだ。しかし店内は落ち着き払っている。それどころか、寧ろこの突然の暗闇に喜んでいるような、そんな高揚感が伝わってくるのだ。
真っ暗闇に目が慣れる前に、スポットライトが女と相澤の席を真っ白に照らした。
突然の事に驚く相澤とは違って、女はただ眩しそうな目をしただけだった。
女が立ち上がると、周囲の客席から喜びの喚声が上がる。
すべての物の輪郭を消し飛ばしてしまう程の明かりに相澤が顔をしかめていると、女は唐突にドレスの肩紐を左右にずらして、恥じらう事なく陶器のような白い肌を晒け出した。
(ストリップか……? マイクの奴なんつー店に──)
こんな如何わしい所に居られるか。
相澤が席を立とうとした時、彼はドレスの下から出てきた〝衣装〟に目を奪われた。
現れたのは彼女の髪と瞳と同じ、光沢のある真っ黒なモノキニワンピース。股上の浅いローライズから伸びたレースの布はへそと鳩尾を隠し、ごく細い紐が首と背中に手を回す。
ワンピースとビキニの二面性を持つ衣装は、下着よりも覆う部分は多い筈なのにいやに肉感的だ。
彼女が両手を上げて恭しくお辞儀をすると他所の客席から『待ってました!』と声が上がり指笛が飛び交う。
バババ、と白いライトが暗闇に一本の道を創る。彼女の姿に見とれている間に、囁くように静かだったBGMがアップテンポでキャッチーなものに変わり、店内は若者のクラブのような雰囲気に様変わりしていた。
「こういうお店は初めてですか?」
「……そう、だな」
女は横顔だけを見せてそれだけ言うと、流れ出したクラブミュージックに手を引かれるように光の道の先にあるステージへと進んでいった。華奢な後姿が光に融けていく。不思議な光景だった。
──一夜の幻
ステージにダンサーが到着すると白のライトが消え、オーロラのような妖しい光が女の輪郭を彩る。
彼女の傍らには床から天井まで垂直に伸びた一本のポール。艶々としたクロムメッキの細い柱は色とりどりの光を反射している。
吊り下げられたスピーカーが繰り返し流す短い小節は情熱的なのにどこか哀愁を感じさせるメロディで、それを支えるリズミカルな重低音に自然と客の体が揺れ始める。
ポールをなぞりながら、女は1歩、2歩と鶴のように歩き、時折バレエのようにくるくると回ったりして、客の方へ視線を落とす。歓声に応えるようにして、尻や恥骨を押し当てて客を煽る。
年端も行かない子供が、欲にまみれた男を媚びを売る姿は見ていて気分がいいものではない。
(何かと思えばポールダンスか。結局やってることはストリップと変わらない……)
店を出るタイミングを失ってしまった相澤は、仕方なく席へと座り直す。
女はポールに飛びつき、くるくると回りながら上層へ昇り詰める。逆さになり、頭の後ろに指を引っ掛けると、結んでいた黒髪を振りほどいた。細い指が首筋をなぞり、胸を、鳩尾へと下りてゆく。ベッドの上で、誘い込むような乱れた姿にゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
逆さの体勢から身を起こし、今度は三日月のようにしならせて、光る柱を軸にしてゆっくりと回転していく。どの角度から見ても美しいその背後で交差する幾つもの光は、暗闇に照らされた教会のステンドグラスのようだ。
女はコンパスの様に大きく脚を広げ、素早く棒を挟み込む。その時に、触れる事など叶わない女の秘所を覆う布がチラリと見えて、一際大きな歓声が上がった。
なんてことの無い、ただの棒を、二本の脚を交差させただけ。それだけなのに。
爪先まで伸びたしなやかな脚。
肌から漂う繊細な色気。
黙ってフルーツを摘まんでいたアンニュイな雰囲気とは全く違う、白蛇のように冷たい眼差し。
あの煩いマイクがこの瞬間は口角を上げた顔のまま固まっていた。
何て間抜けな顔だよ。
相澤は鼻で笑って、グラスに手を伸ばす。
ただ指先が結露に濡れただけで、それ以上動くことはなかった。
いつまでも続くような音楽にも終わりが来た。
地面に降り立った女は指笛に見送られながら、あっさりとステージ裏の、カーテンの向こうへ消えていった。
相澤の足元に脱ぎ捨てられていた筈のドレスは、知らない間に忽然と姿を消していた。
──
これまで、マイクと持て囃される男に連れ回されて楽しかったと思える店など一度もなかったが、今日は少し違った。
それは誇張すれば、楽しかったと言う事なのかもしれない。
あの後、客全員の視線を奪う程の艶っぽいダンスを披露した女は、元の黒いドレスに身を包んでなに食わぬ顔で戻ってきた。
その後も特に会話は弾みはしなかったが、時間はあっという間に過ぎていった。
「ご縁があれば、また」
あれ? おーい、俺のツレ知らねェ? 同期がいねーんだ、と自分を探し始めた同期を見て相澤が席を立った時、女が言った。
ようやく外に出たというのに、マイクは見送りに出てきたホステスとじゃれ合ってなかなか離れない。確かずっと彼の隣に座っていた女だ。化粧が濃い。
マイクはホステスの耳元で何事か囁くが、軽くあしらわれてしまっていた。
一度、ワッ、と笑い声が上がってようやく、マイクは店の前を離れて相澤の元に歩いてきた。
「いいのか、お持ち帰りするなら今が最後のチャンスだぜ?!」
「耳元でデカイ声出すな……俺は連れて来られただけで、そんなつもりはない」
マイクは相澤に追い付くなりそう言って、顎で店の入り口を示した。そこには上客を見送ろうと出てきた中年の店員の横で、しおらしく手を振る例の黒ドレスの女。
その慎ましい姿だけを見ると、男を魅了する情熱的なダンスをするとは到底思えない。
つくづく変な女だ、と相澤が女を見ながら考えていると、ドカッとマイクが肩を組んできた。
「んまァ〜見とれちゃって! 相澤くん、ポールダンス、夢中で見てたもんな!」
「あれは驚いていただけだ」
「またまたァ」
「眼の前で服脱いで驚かない方が駄目だろ」
「どおだかぁ!? ムッツリは嫌われるぞ! ああ、俺はもう食い入るように見てたね! ナイスな形のバストとヒップ! パぁーフェクト!!」
あれは揉みごたえがあるぞ、上も下も、と友人は手をわきわきと動かしている。
何となく、もう一度振り返ってみると、女はあの小太りな店員に抱きつかれ頬ずりされていた。一体どういった状況だ。
「俺のガチファンなんだとよ」
「そんなことは一言も言ってなかったが……」
「アン? 男の方だよ。あの大きめの。あの店の店長なんだと」
「あいつ店長だったのか」
「おう、ファンだから是非サインしてあげてくれって、店出た時に頼まれてたってワケ」
それでサインを手に入れられて舞い上がり、頬ずりに繋がったらしい。
いや、頬ずりに繋がるか? と疑問が残った。
「んでもよ、ずっと楽しそうに話してたなあ」
「誰が」
「黒髪のコだよ、ポールダンスの」
「あれのどこが楽しそうに見えたんだ」
「お前が初対面の人間と、しかも女と! 長いこと話してるのは初めて見た気がするンだよなア!」
「そうか」
「なあ、あの子いくつだって?」
「知らん」
「エッ……? 聞いてねェの……?」
「不味かったか?」
「えッウン……名前は……?」
「……忘れた。聞いてない」
「う、嘘、嘘だろ? マジ? 女のコの名前一つ聞けないなんて相澤……」
マイクに言われて思い返してみれば、確かに言葉は少なかったとはいえ、今までで一番話し込んだかもしれない。
今になって名前くらい聞いておけばよかったと、勿体ないことをしたような、そんな気持ちになってきた。
「やっぱ狙ってたんじゃん!? 細っこいがあの体つきに、色気たっぷりのダンス……」
「忘れろよ。ほら、明日は楽しい休日出勤だ」
「ウワーッ! 入試だ採点だで疲れてンだ! 聞いてなかったよ雄英がこんなブラックだなんて!! ハメくらい外させてくれ!」
「ほら、側溝あるぞ、外せ、足を、酔っぱらい」
「ヒドくない!?」
その後もくだらないやり取りが続いて、同期をどうにか帰らせた相澤が自宅のベッドに横になった時は、日付を跨いで何時間か過ぎていた。
──一応1時になってます……
あの女も今頃は自宅のベッドの上だろうか。
裸同然の姿は目に納めたが、その内面は全くといって知らない女。
身を横たえ眠りに落ちるまでの間、相澤の瞼には女の姿がチラついていた。
夜の世界は が如く(未プレイ)のイメージしか持ってません。
文字数ってどれくらいがちょうどいいんでしょうね。
5000字〜1万字くらいで区切っていこうと思ってるんですがバラついてます…難しい。