個性把握テスト②〜放課後まで。
最後に轟くんと喋ります。
オリ主の見た目イメージ画↓(AI生成画像です)
主人公のイメージを固定したくない方等、自衛お願いします。
①男子制服ver
【挿絵表示】
②体操着ver
【挿絵表示】
『4秒15!!』
ゴールラインを跨いだ瞬間、測量器のような3本脚の機械がタイムを叫んだ。
へぇ、こんなのあるんだ、と眺めていると『ニンゲン邪魔! 退ケ!』と怒鳴られた。
「飯田のエンジンが最強だな、なんたって3秒!」
「まだ真骨頂とはいえんがな。50mじゃ3速までしか入らん」
「3速!? もうそれ車だ!」
50m走のすぐ横で、見物組がワイワイと盛り上がっている。
話題に上った飯田は、現在一位の記録を保持している男子生徒。おごる様子は全く見せない彼の両足に目をやれば、ふくらはぎから突き出た排気口が煙を吐いていた。
個性、〝エンジン〟。記録はなんと3秒04。
麗日 お茶子──7秒15。
誰かがゴールする度にガヤガヤ騒ぐ見物組。その輪から一歩離れた所に立っていると、
「個性を使って良いってのは──こういう事さ!」
なんて高らかな叫びが聞こえて同時に、ピカッ、と視界が虹色に輝いた。
晴天にも負けない鮮やかなレーザーは、融離が入試で見たものと同じものだ。仮想敵を横取りされたことを思い出して、少しムカッとする。
(ていうかあのビーム、ヘソから出してたんだ……)
くそダサイ、と誰にも聞こえない声で呟いた時、突然彼の腹から光が途切れた。推進力を失った体は、ゴールに到達する前に地面へ落下。
「……1秒以上射出すると、お腹壊しちゃうんだよね☆」
『5秒51!!』
何だコイツと視線を浴びまくる彼は、青山 優雅というらしい。
走り終えた青山は、いい汗を掻いた爽やかな顔をして、何故か融離に歩み寄ってきた。
「君……☆ 試験で会っただろ? 空を飛ぶだけだと思ってたけど、驚いたよ。なかなかスマートな個性☆」
青山はウインクして光を散らし、融離の肩をポンと叩いてそう言った。叩かれた箇所から、ゾゾゾ、と波紋が広がるように鳥肌が立つ。彼が生理的に受け付けられない、ということが分かった。
「へえー! 血ヶ裂さんって空飛ぶ個性なの?」
「僕はキラメキ──☆」
「違うけど」
「えー、じゃあなにー?」
青山の声が聞こえたのか、ピンク色の女子生徒──芦戸 三奈が興味深そうに近寄って来た。青山を押し退けて、融離の目の前に立つ。グイグイ来るので、融離のヘアバンド越しの狭い視界いっぱいに彼女の特徴的な黒目が映る。
「ていうか、そうそう──関西ボーイなの? マクド派なんだよね?」
そういえば、少し前に囲まれた時に同じ台詞を聞いた気がする。
「マクド…………知らない」
「ええ、どゆこと! 関西じゃないの? あ、言葉訛ってないもんね?」
「……50m走、もう少し見るから」
「えー!」
つれないなー、と後ろから残念そうな芦戸の声が聞こえたが、構わず見物に戻る。
確かもうすぐ緑谷の番だったはず。
「爆速っ!!!」
見ると思った通り、爆豪が緑谷との勝負を始めたところだった。
「──ターボ!!」
「どあ!!」
開始と同時に、爆豪は個性を用いて好スタートを切った。彼の容赦の無い爆破に巻き込まれた緑谷が小さく悲鳴を上げ、遅れて走り出す。
『4秒13!!』
計測器の声が響く。走り終えた爆豪が融離にチラリと視線を寄越してきた。
「見たかミイラ!」
こちらを指差す爆豪の後ろで、緑谷は、ぜぇぜぇと肩で息をしている。彼の記録は7秒02。
(あんなに高く飛んで、馬鹿みたいな力を出せるのに?)
彼の個性は、走る事にくらい余裕で生かせそうなのに。不思議で、融離がじっと観察していると、緑谷は焦ったように目を泳がせているばかりいる。
その様子には、どこか身に覚えがあった。
「オイ聞いとンのか!」と吠える爆豪の横を通り過ぎて、融離は緑谷に声をかけた。
「ねえ」
「あ、血ヶ裂くん……」
「もしかして、まだ制御出来てない?」
「! いや、僕は……その……」
どぎまぎと目を泳がせる。彼のその反応を見るに、どうやら図星のようだ。
「分かるよ。こっちも発現するの遅かったから」
「え……?」
緑谷が見上げてくる。
自分も〝今の個性〟が発現した時、同じように慌てふためいていた。突然体に現れた力は制御不能で、難儀したものだ。進みたいのに壁から背中が離れない。物を取ろうと手を伸ばせば、斥力が強まってテーブルから飛び出してしまう。個性をモノにするまでは、そうやって、一日中振り回されていたように思う。
彼は、まさにあの頃の自分と同じだ。相手との間に一つ共通点を見つけただけで、距離は自然と縮まるもので。
「……」
正面切って無視された爆豪は目を吊り上げてこちらの背中にクソだのなんだのと暴言を吐いていたが、次の種目に向かったのか、いつの間にか姿を消していた。
「色んな形で使ってみろ、どんな形でもいいって」
「えっ……?」
「昔、言われた。……あの、
「……、血ヶ裂くんに
ヒーロー殺しのステインだとは言う訳にはいかないので、咄嗟に〝師匠〟と位置づけたのだが、意外な情報を得ることができた。彼にも師となる存在があるらしい。
緑谷は右手で拳を握っては開いてを繰り返す。
「……イメージは出来てるんだけど、上手くいかなくて。電子レンジに入れた卵、みたいな」
「それ……」
「あ、うん。言いたいこと分かるよ」
「やったことある」
「あるんだ」
緑谷が苦笑する。
「出来るのは、超パワーで殴るだけ?」
「え?」
「だから、電子レンジ。スイッチはオンとオフしかついてないの?」
「え、あ、いや……」
「あるじゃん、なんか、色んなスイッチ」
難しい顔をしていた緑谷は、はっとしてこちらの顔を見てきた。何か、閃いたのであればいいのだが。
「い、いや……そうか、なにも最初からフルで使おうと思わなくても……そうだよ……」
緑谷は俯いてブツブツと独り言を始めてしまった。
「……あ! 血ヶ裂くんありがとう、何だかちょっとスッキリしたよ」
「いいよ、何か昔の自分見てるみたいだったから」
じゃ、とその場を後にした融離の背後で、緑谷の分析が続いている。
「調整……調整……」
──
「おいミイラ……無視してんじゃねえよ!」
「うるさいな」
「んだとコラ! ッミィイラ!」
第2種目の握力を終えたところで、融離は再びやかましいチンピラに絡まれていた。
彼、爆豪が大声でがなる度、周りのクラスメイトの視線が刺さる。
「……何とでも言え」
「スカしてんなよ! 俺より遅かったくせに!」
「そっちが勝とうと負けようと、知ったこっちゃないね」
「てめえのその態度が気にくわねえ……いいか、俺には勝てねー! 分かったか!」
「ハッ、みみっちい。一生吠えてろ、クソガキ」
「んだコラ、てめえ、同い年だろーが……オイ、聞いてんのか!」
ギャンギャン吠える彼の相手をやめて、別の場所に視線を移した時、
「血ヶ裂さん! 立幅跳び始まるよ!」
芦戸に肩を叩かれた。
「ねえ何で顔隠してるの? ミステリアス?」
「別にそういう訳じゃあ」
「無視すんなクソが! てめー個性何だよ、あとドコ中だ!!」
「わー、爆豪、コワー」
「ンだと、黒目コラ」
芦戸と爆豪は、自分を挟んで言い合いを始めてしまった。
大した会話をした訳でもないのに、どうしてついてくるのか。
靴に履き替えながら、融離は溜め息をついた。
そして現在、第5種目のボール投げが行われている。
「血ヶ裂、お前、もう一回投げるか?」
「?」
「2回投げられることになってるんだよ」
二回投げたうち、より良い距離を採用するらしい。相澤に確認されたが、始めの記録のままでいいと断って、現在、見学組に混ざっている。爆豪のように数字に固執するつもりはない。最下位でなければ、それでいい。
それよりも融離が気にしているのは緑谷だ。ずっと観察しているが、彼は今まで平均かそれ以下の数字しか出せていない。最下位に最も近い生徒といってもいいだろう。
余裕の欠片もない緑谷の前で、麗日が、セイ、と呑気な掛け声でボールを放り投げた。球は綿毛のようにふわふわ浮き上がり、そのまま溶けるように空に消えてしまった。
相澤の端末が表示したのは『∞』。
「無限!? すげえ!! 無限が出たぞーー!!!」
(〝無重力〟か。これは難敵)
融離は頭を抱えた。
緑谷の顔は当然曇る。追い詰められ、焦りはMAXといった彼の額から汗がボタボタと落ちている。見ているこちら側もそわそわしてきた。その気持ちは物陰に隠れてグラウンドを見守っている筋骨隆々の男、そう、彼の師匠──オールマイトも同じだった。
「緑谷君はこのままだとマズいぞ……?」
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」
「彼が入試時に何をしたか知らんのか!?」
「は?」
いつの間にか融離の横に麗日、飯田、爆豪が並び、円に入る緑谷を一緒に見ていた。
そして後ろに気配を感じて振り向く。青山が飛ばす特有の光が目についた瞬間、前方に向き直り、融離は何も言わずに彼と距離をとった。
(……無個性? もしかして本当の本当に発現したて? まさか?)
ごくごく普通のフォームで、緑谷がボールを投げた。
放物線を描き、ぽてんと落ちたボールの記録は、
「46メートル」
「な……今確かに使おうって……」
そう言って、緑谷は息を呑んだ。顔を上げた先で、相澤が厳しい目をして自分を睨んでいたからだ。髪を逆立て目を赤く光らせて相澤は言う、「個性を
「つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう。お陰で奇数のクラスが出来てしまった」
「消した……!! あのゴーグル、そうか……!」
抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド。
個性を消した。その言葉と、相澤の白い布の下から現れたゴーグルを見た緑谷の顔からサッと血の気が引く。
「イレイザー? 俺知らない」
「名前だけは見たことある! アングラ系ヒーローだよ!」
視ただけで個性を消す個性。試験会場から帰ろうとする融離に声を掛けた時、相澤は本気で警戒していたらしい。
とうとう担任の正体が判明した。ざわざわと騒ぐ生徒らを置いて、相澤は緑谷と何やら話をしている。内容は聞こえてこない。祈るような気持ちで融離が見つめていると、突然青山に肩を叩かれた。
「彼が心配? 僕はね……全っ然!」
「触るな」
「☆」
「指導を受けていたようだが」
「除籍宣告だろ」
緑谷が相澤から解放された。円の外に出る様子はないので、二投目のチャンスは取り上げらずに済んだらしい。
(終わるな……足掻け……)
絶望の只中ではあるが、彼は逃げ出さない。試験の時だって、初めこそ怯えてはいたが最後には立ち向かった。最後のその瞬間まで諦めない。寧ろ、最後の瞬間こそが、緑谷の真骨頂なのかもしれない。
ふと、緑谷の目の色が変わる。
覚悟を決めたような、強い目だ。
投球体勢に入った彼の指先が光る。
融離の脳裏に、試験で見た光景が蘇る。
周囲すべてのものを吸い込んで、急激に膨らんでいく存在感。
気迫。
来る。
あの一発が。
そう気付いた瞬間、ゾクゾクと、恐怖にも似た感覚が全身を駆け巡る。
「来る……!」
「何か知らんけど、熱いね……!」
興奮を隠しきれない様子の融離を見て、麗日も両手を握って緑谷を見つめた。
「今──」
──SMASH!!!!
彼が放ったのは指先だけを使った、最小限のSMASH。
ピピ、と表示されたのは705.3m。
「あの痛み……程じゃない!! 先生……!」
まだ、動けます。
地面に数滴、血が落ちた。緑谷は血が滲む手を握りしめて、担任に笑ってみせる。
一発殴って行動不能。そんな体たらくでは救えるものも救えない。指摘された問題点を土壇場でクリアしてみせた緑谷に、担任が口角を上げた。
──良かったんじゃない?
見事な投球を見せた緑谷に、麗日は両手を上げて嬉しそうにわあわあと騒いでいた。彼女も、入試で彼の一撃を目の当たりにした一人だ。感動もひとしおといった所だろう。
「やっと、ヒーローらしい記録出したよー」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の時といい……おかしな個性だ」
「スマートじゃない──」
青山が口を開いたが、発言全てを言い切る前に彼はゴロゴロと地面を転がっていた。融離が蹴り飛ばしたからだ。
真顔で転がっていくへそ男を見送って、向き直ると、唖然とする爆豪が目に入った。
爆豪は緑谷を〝無個性〟だと言っていた。
個性の発現はもれなく四歳まで。緑谷は無個性なのに、ありえないと思っているのだろう。それが世の常識だ。けれど、
「あり得るよ」
「……あァ!?」
ぐりん、と爆豪は頭を回して融離に詰め寄る。
「自分もそうだったから」
「っ!? ──どーいうことだコラ、訳を言えデクてめぇ!!!」
融離の言葉は火に油を注いでしまったらしい。爆豪は爆風を巻き起こしながら突撃していった。
緑谷の割れんばかりの悲鳴が響いたその瞬間だった。
デジャヴだなあ、と融離は呑気に考える。
「──んぐぇッ!! また、この布、固……!!」
爆豪の体は再び相澤の布に捕縛されていた。ギチギチと爆豪を締め上げながら、相澤が歩いてくる。
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ……ったく、何度も個性使わすなよ……俺は、ドライアイなんだ!」
(個性凄いのにもったいない!!)
フッ、と彼の前髪がおりて、だらしない様相に戻る。個性の使用と共に髪の毛も変化するようだ。
その後、いつ爆発するか分からない爆豪の怒りにヒヤッとしながらも、テストは順調に進んでいった。
ボール投げ以降の緑谷の記録は平凡止まりであったが、融離の中にあった彼を心配する気持ちは薄れていた。
「んじゃ、パパっと結果発表。ちなみに除籍はウソな」
ブン、と空間に順位表が浮かび上がる。生徒らは気になって仕方がなかった筈の順位表から目を外し、担任を見た。
順位表の横で、担任はにぱっと笑っている。
「君らの最大限を引き出す……ハッ、合理的虚偽」
「はーーーーー!!!!??」
「あんなの嘘に決まってるじゃない……ちょっと考えれば分かりますわ……」
狼狽える生徒の中で一人の女子生徒が呆れて言った。黒髪を高い位置でポニーテールにしている彼女は、八百万 百。背が高く、融離からだと少し見上げる形になる。ちなみに順位は文句なしの1位。
「……そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから、目ぇ通しとけ。緑谷──」
いけしゃあしゃあと言いながら、向きを変えて背中を見せた相澤は、何か思い出したのくるりと向き直り、緑谷に一枚の紙を手渡した。
「
状況が飲み込めていないのか、緑谷は差し出された紙を握りしめたまま、校舎に戻っていく担任の背中を呆然と見ている。
そこへ融離は後ろから近付いて、ごっ、と肩でどついた。
「う゛っ゙」
「頑張れよ、ビリッケツ」
「……あ、ありがとう……」
彼は呻きながらも笑みを返してくれた。
そこへ、麗日と飯田が寄ってきて、
「何なにー! 友情ってやつ! いつの間に!」
「君、口が悪いが根は腐っては無いようだな」
「じゃ、着替えるから」
「切り替えが早い! ……あ、本当に行っちゃった」
「彼は親しみがあるのか、無いのか分からんな」
「でも、割りと好きかな、私は!」
融離の後ろ姿を見ながら飯田が呟いて、その隣で麗日が緑谷の背中をバシバシと叩いていた。
──
一番乗りだと思ってドアを開けたが、更衣室には既に男子が一人、着替えていた。
もぞもぞと体操着を脱いで出てきたのは紅白頭。頭を出した彼はこちらに気付くが、一瞥しただけで特に何も言わずに着替えを再開させた。
馴れ馴れしい奴でなかったことにホッとしたのも束の間、融離は自分のロッカーが彼の真横であることに気が付いて顔を顰めた。
しかし渋っていては、他の生徒が入ってきてしまう。大勢がいる中で着替えるのはなるべく避けたい。
「何だ?」
「……別に」
入り口に立ったまま動かない融離を、男子が不審がる。融離は諦めてロッカーを開け、手早く着替え始めた。
ヘアバンドがずれないよう、そっと上着を脱いでタンクトップ姿になった時、視線を感じて横を見る。火傷のある顔がこちらをじっと見ていたので肩が跳ねた。
「……っ見るなよ、気持ち悪い」
「ああ、悪ぃ。血ヶ裂って意外と細いのな」
「……は?」
「もっと鍛えてんのかと思った」
彼の体に目をやると、めくれたYシャツの隙間からしっかり割れた腹筋が見えた。
彼の岩のような窪みを見てから、シャツを捲って自分の腹を見ると弛んで見えた。
「
「だから見るなよ」
「体重あんのか」
「無かったら死んでるよ。55」
「軽いな。そうか、コッチより低いもんな」
「一言多いんだよ。見るなって」
「何位だった?」
「何が」
「テストの順位」
「見てない」
「余裕だな。俺は2位だった」
「ふうん、そう」
思っていたより話し掛けてくる。
結局コイツも数字にこだわってるのかと、内心、溜め息をつきながら、融離は素っ気なく返して着替えを進める。
「1位になりてぇとは思わねぇのか」
「……」
2位、轟 焦凍。彼は融離の見るなという忠告を無視して再び、ジト……と視線を寄越してきた。表情は何かに苛立っているようにも見える。轟が発しているオーラは、あまりいい雰囲気ではない。
「血ヶ裂、お前やたら周りに突っかかってるな」
「それが、何?」
「お前も親がヒーローだったりするのか?」
「お前
「……エンデヴァーだ、万年No.2の」
「ああ、あの」
あの贋物。そう言い掛けて口をつぐむ。
エンデヴァーなら多少は知っている。No.2ヒーロー、強力な炎系の個性。
No.1のオールマイトの人気が圧倒的過ぎて、エンデヴァーは2位でありながらイマイチ影が薄いヒーロー……という印象だけれど。
「じゃあ、轟の個性はエンデヴァーと同じ炎系?」
「いや、俺の個性は氷だ。……
「は? 何で? そんな立派な個性……」
「……立派……? どこがだ」
融離が何の気なしに口にした言葉は、彼の何かを刺激したらしい。轟は突然、敵を見るような目をして睨んできた。
「何も知らねぇクセに」
「……」
「自分がNo.1になれないからって、
轟はそこで言葉を切り、唇を噛んだ。左右違う色の瞳は複雑な表情をしていた。彼の中にある何かを見ないように、瞳が左右へ動く。
その目を融離はよく知っている。鏡の向こうに映る自分と同じ瞳だ。
〝血〟が憎いと、ぶつけようのない怒りに苦しんでいる、そんな瞳。
「……1位になりたい理由は?」
ネクタイを襟に通しながら融離が尋ねると、怒りで満ちていた轟の目が少し冷静さを取り戻したように見えた。
「
「……それ、エンデヴァーは何て?」
「あんなやつの事なんか知らねえよ」
「嫌われてる?」
「知らねえ。どう思われてるかなんて関係ねぇ」
「贅沢な悩みだな……それ、愛されてるって言うんだよ」
「……テメェ、あんまり適当な事言ってると」
「適当なんかじゃない」
今度は融離が轟を睨み返す。
「だって、お前は親に望まれてるんだろ」
「あんなやつに望まれてもな」
「それが贅沢だって言ってんだよ。捨てられた身からすると……どんな形だろうと、それだけで充分羨ましいんだよ」
「……」
あのエンデヴァーに期待される息子。生まれ持った強個性。同じ〝血〟を憎んでいるとは言え、轟は自分とは正反対だと思う。
「ヒーローのこと、憎いと思ってる」
「どういう意味だ」
「そのまんまの意味だよ」
「……何だ、それ。それなら何で、
「……、さあ」
入学の動機なんて、ある男に入れと言われたから。それだけだ。『オールマイトのような完璧なヒーローになってやる』と豪語したものの、目指すヒーロー像など持っていない融離には答えられない質問だった。
綺麗事を垂れるヒーローが憎い。
新しい刺激を望んでおいて、簡単に掌を返すこの社会が憎い。
本当の弱者を見ない社会が憎い。
個性を理由に子を捨てた親が憎い。
此の体に流れる血が、憎い。
ヒーローについて考えようものなら、彼らや社会に対する憎しみばかりが湧いてくる。
脈が上がり、手が震えてブレザーのボタンがなかなか留められない。情けない。この手は何に対して震えているんだろう。
とにかく、この学校の生徒にはあるまじき考えだ。入学前から相澤に目をつけられてしまったのも頷ける。
ふ、と自嘲気味に笑うと、轟が怪訝な顔をした。
「なに笑ってんだ」
「別に。この体に流れる〝血〟が憎いなって思うのは理解できるけど、轟みたいな恵まれてる奴も嫌いだな、って」
「……」
融離の言葉を聞いた轟は一言、「そうか」とだけ言って、荷物をまとめて更衣室を去っていった。
「変な奴」
しかし轟には目標がある。自分はどうだ? あの男のように信念があるわけでもない。胸の中にあるのは、家族や社会に対する憎しみだけ。
(血染は、どうしてここに入れって言ったんだ?)
彼に訊きたい。
けれど連絡を取る手段はない。
置いてきぼりだ。今、すごく独りだ。これでいいのだろうか、このまま不満を撒き散らしてばかりで。そんな事を思う。
鬱々とした気持ちをロッカーの扉にぶつけて、融離も更衣室を後にした。
──
初日が終わり、HRを終えた融離は誰にも挨拶をする事なく足早に教室を後にした。
「血ヶ裂くん!」
門の外に出たところで名前を呼ばれて足を止めた。振り向くと、緑谷が息を切らしている。こちらを追い掛けてきたらしい。
さらに、おーい、と声がして彼の背後に目をやると、手を振る麗日と飯田。
「血ヶ裂くん、呼び止めてごめん、あの……テストの時のお礼を、伝えたくて……」
「お礼ならさっき聞いたよ」
「いや、もっとキチンと、言った方がいいような気がして……血ヶ裂くんの一言で見つけられたんだ。だから……ありがとう!」
「……どういたしまして」
「っひゃー! 友情だ! 熱い!」
「明日からはキチンと挨拶するんだぞ」
麗日と飯田が追いついた。
「……でね、緑谷くんって、デクくんって言うんだって! 頑張れって感じの! 素敵だよね!」
「デ、デクです!」
そこから流れで、並んで歩いている。
飯田が蔑称じゃないのかと心配してるが、緑谷は嬉しそうに、デクです、と応えている。
「ところで、血ヶ裂くんは帰りはこっちの方かい?」
「そうだ! 良かったら途中まで帰ろう!」
「……別に気遣わなくていいよ」
「え! ううん、全然そういうんじゃなくて、折角だし皆で帰りたいなって!」
「夜から仕事だから、一人でゆっくり帰りたいだけ」
「仕事してるの!?」
「バイトだけど」
「ならば引き止める訳にはいかないな」
しかし、と飯田の口がへの字に曲がる。
「学生の本分は勉強だ。仕事も立派な社会活動だとは思うが、疲労を溜め込んで学業を疎かにしては駄目だ。学校に遅れることのないよう、休息はしっかりと。早めに就寝するんだぞ」
「血ヶ裂くん、じゃあ、また明日」
口煩い飯田の隣で、緑谷が控え目に手を振った。融離は肩の高さに上げた右手で振り返して、背を向けた。
校門は帰宅する生徒で溢れ返っている。緊張感から解放された彼ら彼女らは、皆、清々しい表情をしている。早速できた友人とお喋りに夢中になって、歩みが遅い者も居る。
こういった騒がしいのは、好きじゃなかった。好きじゃなかったが、今日、それを忘れた瞬間があったように思う。しかも何度も。
下校の途中、融離は道を振り返って見上げた。
そびえるような校舎は、傾き始めた陽を反射していて少し眩しい。
名門、だとか、人気プロヒーローを数多く輩出している、なんて実績を謳っているけれど、蓋を開けてみれば仲良しごっこしてるだけ。遊びに来ているような連中ばかりに決まってる。実際に授業に出席すると思った通り、面白そうだの、俺の記録をだの、1位を獲らないといけないだの……呆れ返るような発言ばかりであった。
(なのに……)
独特の達成感と、心地良い疲労感。
融離の胸には、そんな、奇妙な感覚があった。
今まで味わったことがない種類のものだ。
今朝、教室の扉の前に立った時、今日一日で辞めてやろうと思っていたのに、何故だろう、今は違う気持ちだった。
校舎から離れれば離れるほど、辞めるのは惜しいような気持ちになってくる。明日、クラスメイトたちは何を話して、どんなくだらないことで笑い、鼻を突き合わせ、口喧嘩をするのだろう。そんな風に気になっている自分がいるのだ。
(気持ちわる……)
だから、明日、あと一日だけ来てみようかな、なんて。
オリ主と轟くんが顔見知りになりました。
個人の意見ですが、
初期の轟くんは、簡単に親との確執を教えてくれると思ってます。