それと補足ですが、登場するヒロインは皆何かしらの後悔を抱えているキャラです。後悔が罪の形となったキャラでお願いします。
階段を上る。その先は。
「ここは」
「うへぇ〜、絵本であるような幻想的なところだねぇ〜」
人工物がほとんどない、幻想的な森林と沼地だ。とても監獄の中とは思えない。
「透くん、あれ」
「あ…」
木の根元、沼地の近くに一人、少女が蹲る。
「どうする?話しかける?」
「…そうするしか、ないよな」
俺は少女に近づく。すると彼女はビクリとして、俺と目が合う。
芸術品かと疑うほどの美少女だ。だがその目には涙の跡があった。
「…誰?」
「君はここの囚人かな?」
「…そうだよ」
少女は睨むような目でこちらをみる。
「名前は?」
「……名前」
少女は悩む素振りを見せる。そして、
「メ、メリュジーヌ」
「メリュジーヌか、俺は白鐘透だ」
「おじさんは小鳥遊ホシノだよ、よろしく〜」
「おじさん!?」
「だよね、これでおじさんとか何言ってるんだって思うよね。…と、君はここの囚人だとするなら、何の罪なの?」
「…怠惰」
「怠惰?君が?」
少女、メリュジーヌは頷いた。
「…私には、私を私たらしめてくれた人がいたんだ。この沼地で、ただの肉塊だった私を引き揚げてくれた人が」
ちらりと彼女は見る。森林と沼地の向こう。綺麗な屋敷があった。おそらくその人がいるということだろう。
「私は、あの人のためなら、何でもしようと思った。それが、私たらしめてくれたあの人への恩返しだったから。…でも、それが間違いだったんだ」
「……」
メリュジーヌは膝を抱え、震える声で続けた。
「ある日、あの人は私に命じたんだ」
彼女は屋敷へ視線を向けたまま、小さく息を吐く。
「『あの者たちを始末してきなさい』って。」
「……誰を?」
俺が尋ねると、メリュジーヌは目を閉じた。
「私の故郷を守ってくれた人たち。」
「え……」
思わず声が漏れる。
「その人たちは、私に優しくしてくれた。
化け物だと恐れる人もいたけど、それでも手を差し伸べてくれた人がいた。
笑ってくれた人がいた。
一緒に食事をしてくれた人がいた。
……なのに。」
彼女の拳がぎゅっと握られる。
「私は剣を向けた」
風が止んだ、森が静まり返る。
「…止めようとは思わなかったのか?」
俺の問いに、メリュジーヌは静かに頷いた。
「…思ったさ。こんなことおかしいって。
どうしてあの人たちを殺さなきゃいけないのかって。」
「だったら!」
思わず俺は声を荒げていた。
「どうして止めなかったんだ!」
メリュジーヌの肩が震える。
その問いは、きっと何度も自分自身に投げかけてきたものだったのだろう。
「……怖かった。」
消え入りそうな声だった。
「嫌われるのが、捨てられるのが。
せっかく私を見つけてくれた人に、いらないと言われるのが」
彼女は俯いたまま続ける。
「だから私は、自分に言い聞かせた」
「きっと理由がある、あの人は間違えない、私は従えばいいって。
そうして……考えることを、やめた。」
その一言が、胸に重く落ちる。
「…それが私の怠惰。
自分で考えることを放棄して、間違っていると分かっていたのに、止めることを怠った。」
俺は何も言えなかった。
責めることは簡単だ。
だけど、目の前にいる少女は、誰よりも自分を責め続けている。
そんなことは、その表情を見れば分かった。
「全部終わった後……」
メリュジーヌは震える声で続ける。
「私は、褒めてもらえると思ってた」
「よくやったって、ありがとうって」
しかし、彼女は力なく笑った。
「でも、何もなかった。
ただ……、ただ、遠回しにっ」
彼女は唇を噛む。
「私は醜いって、あなたは美しくないって。
そんな私を引き合いに出して、あの人は自分の美しさを語った」
涙が一滴、沼へ落ちる。
「私は、あの人のために全てを失ったのに。
故郷も、恩人も、自分自身も。
それでも私は、あの人を止められなかった。」
静寂が辺りを包む。
ホシノは小さく呟いた。
「……似てるねぇ」
メリュジーヌが顔を上げる。
「え?」
「おじさんもさ。」
ホシノは遠くを見るような目をした。
「あの時、こうしてれば、って何度も思った。
怒らなきゃよかった。
ちゃんと話せばよかった。
そんなことばっかり考えてた」
ホシノは少しだけ笑う。
「でもね、後悔って、何度思い返しても過去は変わらないんだ。
だから、おじさんは今を歩くことにした。」
メリュジーヌは目を丸くする。
「……歩く?」
「うん」
ホシノは俺を親指で指した。
「この変な人に引っ張られてねぇ」
「誰が変な人だ」
「否定しないんだ」
「否定しても聞かないだろ」
「分かってるじゃん」
ホシノはくすっと笑った。
その笑顔につられたのか、メリュジーヌの口元もほんの少しだけ緩む。
俺はメリュジーヌの前にしゃがみ込んだ。
「メリュジーヌ」
「……何?」
「君は今でも、あの人の命令なら従うか?」
彼女は驚いたように目を見開いた。
そして、長い沈黙のあと、小さく首を横に振る。
「……ううん」
「じゃあ」
俺はゆっくりと立ち上がり、屋敷を見据えた。
「あの屋敷へ行こう」
「え……?」
「君が止められなかったものを」
「今度は君自身の意思で、止めに行こう」
メリュジーヌは震えていた。
恐怖なのか、決意なのか。
そのどちらもだったのかもしれない。
彼女はゆっくりと立ち上がる。
そして、自分の胸に手を当てた。
「……今度は」
その瞳には、先ほどまでとは違う光が宿っていた。
「今度は、私が決めるよ」
その言葉と同時に、静まり返っていた森に風が吹き抜けた。