冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
宿の主人から逃げるように階段を駆け上ったセリアは、荒い呼吸を落ち着かせながら鍵と同じ番号の扉を押し開く。彼女に続いて部屋に入ろうとしたリュートは、その背中に行先を阻まれて鼻先を思い切りぶつけた。
「ぐあっ! せ、セリアさん……?」
「ごめんなさい、リュート君。その、えっと……」
突然立ち止まったセリアに怪訝な顔をするリュート。彼は部屋の中を覗き込んで絶句する。
田舎の小村ということで至れり尽くせりの豪華な設えはそもそも考えてもいなかったが、眼前に広がっていたのはその予想すらはるかに下回る素朴なもの。それはまだ納得できるが、何よりも目を疑う光景が飛び込んでくる。
「ベッドが一つだけなんだけど」
狭い部屋にベッドが一つだけ。それも一人が寝転がればそれだけの、小さなもの。明らかに二人の宿泊を想定したものではない。
「い、いつも一人部屋を取ってたから間違えちゃった。もう一部屋借りないと」
パーティメンバーとはいえ臨時のもの。昨日の一件もあり、寝所を共にできるほど二人とも大胆ではない。顔を赤くしたセリアは乾いた笑いを残して再び階下へ。だがさほどの間も経ずに大きな悲鳴が響き渡った。
リュートが慌てて階段を降りると、そこにはカウンターに身を乗り出して主人に詰め寄る未亡人の姿があった。
「部屋がないって、どういうことなの!?」
「そのまんまの意味だよ。そもそもウチは三部屋しかねえ安宿だ。あんたらパーティなんだろ? 堪えてくれよ」
「そ、そんな……。万年閑古鳥が鳴いてる田舎宿のくせに」
「追い出してやろうか!」
容赦のない言葉の応酬に、リュートは思考が麻痺する。普段見慣れていた柔和な笑顔で優しく思いやりのあるセリアが、ほんの一面でしかなかったことを、どこか他人事のように考えていた。
「せ、せめて二人部屋があったはずでしょ。そこと取り替えてくれない?」
「無茶言うな。そっちは村の上客なんだ。狭っくるしい部屋なんて案内できるか」
「差別じゃないの!」
「うるせえ!」
懇願するセリアだが、主人はけんもほろろな態度で応える。田舎宿と言われ、ご立腹の様子であった。自分はちゃんと忠告しようとしたが、聞く前に鍵を取ったのはそっちだ、と言われてしまえば引き下がる他ない。
S級冒険者の風格は微塵も感じられぬ背中を丸めた姿で、セリアは階段を登るのだった。
「だ、大丈夫だよ。俺、床で寝るし」
「ダメよ。昨日も地面で寝てたんだから」
リュートが気を利かせて言うも、セリアは首を横に振る。実際、リュート自身も身体の痛みを覚えていた。今日は柔らかなベッドで眠れると期待していただけに落胆も大きい。
結局、二人は狭い単身者用の部屋に戻り、ベッドに腰掛けて沈黙するほかなかった。
「ごめんなさい。私、焦っちゃって」
「セリアさんは悪くないよ。先客がいたなら仕方ないでしょ」
チェックインの時点でセリアが動転していたのは事実だが、そうでなくとも現実は変わらなかった。他の二部屋が埋まっている以上、二人にはどうすることもできない。田舎の村に二つも宿はないのだ。
肌まで触れ合いそうなほどの距離感で黙っていると、お互いの息遣いや鼓動まで伝わってくる。セリアの弱い視線を感じるほど、リュートの脳裏には昨夜のことが浮かび上がってくる。
日中は歩くことに集中し忘れていた。その反動のように、熱がぶり返してくる。
「あ、暑いわねぇ」
彼女もまた同じなのか。セリアは逃げるように立ち上がると、小さな窓を開ける。春の爽やかな風が吹き込んできて、一時の清涼感が部屋の空気を和らげる。
「セリアさん、その……バディって」
緊張の緩和に乗じて、リュートはつい口を開いてしまう。こぼれ出たのは、先ほどの言葉。セリアが宿の主人に言っていたという、バディの話。
彼女もそこを問われると予想していたようで、リュートが思うほどの動揺は現れなかった。
「私とあの人は、バディだったのよ」
結婚してからの話だけどね、と補足しながら。
リュートがまだ幼い頃にセリアの夫は亡くなっている。だから気付かなかったが、彼女が頻繁にラスレオの町で友人と顔を合わせることができていたのは、セリアたちが夫婦だったからだ。冒険者といえど、単独で村から村へと移動することはできない。今は亡き夫とバディであったからこそ、彼女はラスレオの町に通うことができていた。
「ほら、私が町に行く時はいつも行商人の馬車に乗せてもらってたでしょう。それだと半年に一回だけだし、帰るのも大変なの」
リュートたちの村は僻地の中の僻地だ。行商人は薬草の産地であるこの村のついでに立ち寄ってくれるだけであり、それも半年に一度の頻度でしかない。夫を失ったセリアがラスレオの町にいる友人たちを訪ねるには、その機会に合わせて向かい、帰りはわざわざ護衛を雇わなければならない。元S級冒険者とはいえ、現役を退いている彼女もまた、単独で村から村へ移動するわけにはいかない。
そのせいで、彼女も大切な友人と疎遠になってしまった。半年の一度の機会を見つけてこの宿に立ち寄れば、つい愚痴も溢れるだろう。――バディがいれば、と。
「おれ――」
「ダメよ」
思わず腰を浮かせるリュートの言葉を先回りして、未亡人の硬い声が封じる。
自分がバディになれば、彼女はいつでも町に行くことができる。そのことを、彼女自身も思い至らないはずがない。それでも、口にすることはなかった。
「君は町で仲間を見つけて、冒険者として旅をするんでしょう」
他ならぬ彼自身の言葉を、そのまま返す。リュートは反論の余地もなく、萎れるほかなかった。だが、そんな彼を優しい温度が包み込む。セリアが両腕を回し柔らかな抱擁をしたのだと、遅れて気付く。
青年の耳元で美熟女の肉厚な唇が震える。
「ありがとう、リュート君。実はいい機会だと思ってるのよ。息子二人もひとり立ちしたし、あの人のことも納得できたし。――今回、二人と会えば……」
その言葉の続きが聞きたくなかった。気が付けば、リュートはセリアの肩を掴み、身を翻してベッドに押し付けていた。
シーツに髪を広げた美女の垂れた目が見開かれる。存外に力強い青年に組み伏せられた衝撃か、半開きの口からは音のない空気だけが漏れていた。
「俺は、セリアさんがかっこいいと思う!」
はだけた外套の下に、窮屈そうなビキニアーマー。S級の証である竜鱗の輝きは、現役を退いてなお曇ることがない。彼女はいまだ、健在だ。
「か、かっこいいって……。おばさんを揶揄っちゃダメよ」
「本気だよ。セリアさんは今でも凄い冒険者だ。諦めちゃダメだよ。ラスレオの町で仲間を探そうよ」
自分勝手なことを言っている自覚はあった。セリアは冒険者という稼業の過酷さをよく分かっている。自分が町と村を行き来するためだけに仲間を探すなど、不純極まる動機だと思うはずだ。それでもリュートは、言わずにはいられなかった。
グレイウルフを圧倒する強さを見せられて、彼女がこのまま辺境の地で埋もれることに我慢ならなかった。
セリアのような素敵な冒険者には、夢があるべきだ。
「リュート君」
一線を退いた女冒険者は、若き魂の訴えに心を震わせる。家庭を持ち、安寧の日々で忘れかけていた、熱を思い出す。
「ダメよ」
それでも、理性という重たい蓋が燃え上がる炎を閉じ込める。
「私みたいなおばさんが、夢を見てもしかたないじゃない」
我が儘を言う聞き分けのない子をたしなめるように、柳眉を寄せて言う。
それがむしろ、青年を逆上させた。
「セリアさんは――おばさんなんかじゃないっ!」
気が付けばリュートは白い頬を両手で挟み、抵抗する隙も与えずセリアの唇に噛みついていた。