冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
業火は渦巻き天高く舞い上がる。魔獣の断末魔も焼き尽くすほどの灼熱は十分に離れていたはずのリュートまで届き、肌が焦げそうなほどであった。
「ふんっ。まあまあね」
村を離れてしばらく歩けば、人の気配は完全に消え失せる。代わりに物陰から剣呑な視線を向けてくるのは、獰猛な魔獣たちだ。一歩でも外に出ると人魔の関係は逆転し、ただの人は死へ向かう。冒険者であろうと二名以上での行動が厳守されている理由である。
「ローザさん一人でいいんじゃ……」
しかし、魔法使いの圧倒的な火力の前では生半可な魔獣は近づくことすらできなかった。たびたび襲いかかってくる魔獣を、彼女はかるく杖を振るうだけで消し炭にしてしまい、リュートどころかセリアさえも出番がない。
これで飛翔魔法で消耗した状態というのだから、青年にはにわかには信じられない。
「当然よ。S級魔法使いを舐めないで」
ふん、と背筋に鋼でも入ったような直立で鼻を鳴らす金髪の美魔女。その高圧的な態度も技量に裏打ちされたものである。リュートは純粋な憧憬の視線を彼女に向けた。
「リュートさん、お怪我はありませんか?」
「あるわけないでしょ。私が全部燃やしたんだから」
「火傷などされていませんか?」
「私の魔力操作は完璧よ!」
白い衣を纏った神官のミルラが、熱を帯びたリュートの頬をそっと手のひらで触れる。その心配の言葉に、ローザは高い声で怒りを放った。
「でもローザは魔獣を全部粉々にしちゃうから、稼ぎにならないのよね」
「手加減して長引く方が面倒でしょ。ツノとか爪が目当てならちゃんと残すわよ」
焦土と化した現場には魔獣の毛一本残らない。倒した魔獣を解体し、余すことなく持ち帰るところまでが冒険者の技量であると自負するセリアとは相容れないところもあるようだった。
ローザは何よりも効率重視と言って憚らない。ただでさえ旅の予定は遅れているのだから、襲いかかってくる有象無象にかまっている暇などないという主張だった。
「せっかくリュート君がいるんだから、冒険者の基礎も教えてあげないと」
「手取り足取り甘やかしても駄目よ。見て覚えさせたらいいじゃない」
「ローザは天才だから分からないんでしょうね」
唇を尖らせるセリアにローザも目を吊り上げる。そんな二人を、一歩引いたところからミルラが静かな表情で見守っていた。
きっと十数年前もこのような会話が幾度となく繰り返されてきたのだろう。その光景が、リュートにもありありと思い浮かべられた。
「そもそもこの子、剣の腕はさっぱりじゃない」
「ぐっ」
のほほんと油断していた青年に、美魔女の無慈悲な刃が飛んでくる。思わず胸を押さえて呻く彼を庇うようにセリアが回り込んだ。
「リュート君はまだ、その、発展途上なだけよ。ちゃんと毎日鍛錬もしてるもの」
「セリアが付き合ってもそのレベルなんでしょう?」
「た、大器晩成型なのよっ」
「セリアさん……大丈夫ですから……」
S級の重装戦士に手解きを受けながらも、リュートの太刀筋に光るものはない。それは他ならぬ彼自身がよく理解していた。素振りをどれだけ繰り返しても、いざ魔獣と対峙すると腰が引けるのだ。
ギルドの簡易的な適職診断でも、彼に剣の才能は見出されなかった。腰に下げたものは、まだ一滴も血を吸っていない。
「ま、まあ……魔力は多少あるみたいだけど。私ほどじゃないけど、然るべき所で適切な訓練を受けたら、ある程度は使い物になるんじゃないの?」
チラチラとリュートの胸の辺りに視線を向けながらローザが言う。
セリアはほとんど魔力を持たないが、リュートは平均か僅かにそれを上回る程度の魔力を宿していた。とはいえ、生まれてこのかた魔力を操る術を教わったことなどなく、知識もない。
「私には遠く及ばないでしょうけどね」
「ぐ、ぅ」
「ローザ、もうちょっと優しくできないの?」
少し上げられたところで叩き落とされ、リュートは再び呻く。
セリアはむっと眉間を寄せて、青年を抱きしめた。
「大丈夫よ、リュート君はまだ若いんだから。立派な剣士になれるわ」
「そ、そうですかね……」
適職検査の結果、リュートに示されたもののなかに剣士はない。彼が剣を佩いているのは冒険譚に憧れているからである。
「……ふんっ」
どさくさに紛れてぎゅっと抱擁を強めて密着するセリア。彼女がごくりと生唾を飲み込む様子を見て、ローザは納得のいかない顔をする。
リュートは直接素肌で触れてくるセリアに、どぎまぎとしながらも満更でもなさそうだ。それが余計に魔女の心を苛立たせた。
「二人とも、今日の野営の準備しなさいよ。魔獣は全部私が倒してあげたんだから」
「もう、我儘ばっかり! 別にいいわよ」
「も、もちろんです。俺、何にもできてないし……」
もうそろそろ野営の準備をしなければ日が暮れる。
飛翔魔法の疲労がまだ残っているというのに、久々のことで舞い上がったのか魔法を使いすぎた。顔には出さないものの、ローザの両肩には気怠い重みが乗っていた。
「大丈夫ですか、ローザ」
「これくらい余裕よ」
そっと気遣う言葉を囁くミルラを跳ね除け、ローザはすたすたと歩き出す。その視線の端にはイチャイチャと距離の近い男女がしっかりと捉え続けられていた。