冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
リュートが冒険者を志したのは、物心も曖昧な幼少の頃だった。今では顔もおぼろげな母から幾度となく聞いた心躍る冒険譚の数々。強大な魔物を討ち倒し、未開の地を己の手で拓き、人々の困難を救う。勇ましく頼れる存在。
彼が生まれ育った辺境の村それ自体、かつて冒険者たちが切り拓いた土地だった。
数少ない幼馴染たちと冒険者ごっこをして遊び、冒険者になるため我流で剣を振るい、身体を鍛えた。そして、年上の幼馴染たちは早々にパーティを結成し、村を旅立ってしまった。その背中を見送りながら、次は自分も、と決意を新たにした。
何度目かの誕生日を迎え、念願の冒険者登録が許される歳になったその日、彼は朝一番にギルドのドアを叩き、老齢の一人ギルドマスターに掴みかからん勢いで登録を果たした。
しかし、
「爺ちゃん、持ってきたよ」
「おお……リュートか。助かるのう」
長らく修理もされていないギルドのドアを開け、居眠りをしていたギルドマスターに声をかける。カウンターにどさりと置いたのは、綺麗に泥を落として揃えた薬草野ニンジン。近所の森の少し奥へと行けばいくらでも採れるものだった。
老爺は枯れ木のような指でニンジンを掴み、状態を確認する。
「んむ。やはりリュートは薬草取りが上手いのう」
「そりゃあ、それしかやってないからな」
カウンターに置かれた小さなコインを掴み、青年は唇を尖らせる。
梁に蜘蛛の巣が張り、テーブルには薄く埃の積もったギルド。ひとつの集落にひとつは支部を置くという義務感だけで設置された小屋の壁には、これもまた義務としてクエストボードが貼り付けられている。傾いたコルク地のボードに張られているのは、薬草採集か小動物狩りの依頼だけ。
「なあ爺ちゃん、もっと他の依頼ないの? ドラゴン討伐とか、商人護衛とかさ!」
「ないのう」
カウンターに身を乗り出したリュートに、半分眠ったようなギルドマスターはのんびりと返す。過去何百回と繰り返された問答である。
鄙びた田舎の村とはいえ、周囲に広がるのは穏やかな森だけ。そこそこの魔力しか流れていない大地には、強い魔獣も興味を示さない。一月に一度やってくる行商人は、当然専属の傭兵を護衛に付けている。
そもそも、万年Fランク――最低等位のリュートにそんな依頼は受けられない。
「せめて仲間が欲しいんだけど。パーティを組みたいんだけど!」
「おらんのう」
田舎村ではランクを上げるための依頼すらない。だからリュートは常に一定の需要がある薬草採集か兎狩りしかできないでいた。こんなものは冒険者ではない。ちょっとした便利屋である。
大きな町へ行けば、住人も多くそれだけ依頼も多い。だが、それなりに辺鄙な村から都市へ向かうにも、最低二人組でのパーティでなければ出発が許されない。
「猟師のガフならおるがのう」
「酒飲みのおっさんだろ。俺はもっと情熱があって切磋琢磨できるような仲間がほしいの!」
村のギルドに所属する冒険者は現在ふたり。片方はリュートであり、残りは日がな一日酒を飲んで寝ている冴えない男である。田舎村に百戦錬磨の英傑などいるはずもなく、ガフもまた薬草取りとウサギ狩りで糊口を凌いで満足している者であった。
そもそも、村から町へと行くためにパーティを結成するならば、村に二人だけの冒険者が抜けるわけにはいかない。薬草とウサギしか取れないとはいえ、森の中に出入りできる人材は貴重なのだ。
「俺もあと何年か早く生まれてたら、兄ちゃんたちに着いていけたのにな」
小遣い程度のコインを数えながら、これもまた何度目と分からないぼやきを口にする。年上の幼馴染たちはリュートと同じ歳の頃にパーティを組み、早々に村を出てしまった。おかげで彼は取り残され、村を出ることすらできない。
今から村を出ようとするなら、外から流れの冒険者がやってきてパーティを組んでくれるか、どこからともなくフリーの冒険者が湧いてくるような奇跡に期待するしかない。
「こんにちは、おじいさんいらっしゃる?」
力なく項垂れていても仕方ないとリュートが外に靴先を向けたその時、ドアが軋んで穏やかな声が響く。先に入ってきたのは香ばしい焼き立てのパンの匂い。遅れて、濃い亜麻色の長髪を一房に纏めた肉付きのよい女性が入ってきた。彼女は胸の前に木箱を抱え、そこに豊満な双丘を重たげに載せている。リュートは思わずその魅惑的な柔肉に視線が向かいそうになるのを必死に押し留め、本能を振り払うように鼻梁の通った美しい女性の相貌に目を向けた。
「せ、セリアおばさん」
「あら、リュートくん。お仕事終わったの?」
リュートにも砕けた口調で柔らかに声をかける妙齢の女性。村唯一のパン屋を営む職人であり、彼の幼馴染の母親でもある。セリアは焼き上がったパンの入った木箱をカウンターに置きギルドマスターから代金を受け取る。彼女は毎朝、村人たちから小麦を預かり、焼き上がったパンを各戸に届けていた。
「いつも通りの薬草採集だけだから余裕だよ」
「流石ね。冒険者稼業も板についてきたじゃない」
そう言ってセリアは懐から小ぶりな丸パンを取り出してリュートに向ける。幼い頃に母親を亡くしたリュートにとって、彼女は第二の母親のように接してくれた。一応一人立ちしたと言っていい今でも、こうして理由を見つけてはパンを恵んでくれる。
「俺の思い描いてた冒険者はこんなんじゃないんだけどな……」
ありがたくパンを受け取りつつ、再びぼやきが口から漏れる。雑穀を混ぜた穀物パンは食べ応えがあり、一仕事終えたリュートの身に染みる。
「何言ってるの、物語みたいな冒険者なんてそうそういないんだからね」
いつもの調子のリュートに、セリアも腰に手を当てて呆れる。他ならぬ彼女の息子も冒険者に憧れて村を飛び出して行った一人なのだ。その時も、彼女は何度も同じことを諭していた。
魔獣を討ち倒し平和を齎したり、過酷な旅の果てに財宝を手に入れたりといったロマン溢れる話など早々ない。現実は依頼に応じて東奔西走し、大半はその日暮らしで口を糊する不安定な職業なのだと。
「うう……。俺だって兄ちゃんたちみたいに色んな土地を巡って、可愛い女の子と出会ったりしたい……」
「そんな都合のいい話あるわけないでしょう。冒険者なんて、大半はむさ苦しくて汚い男ばっかりなんだから」
可愛い嫁と唸るほどの金を持って帰って来てやるよ、と大言壮語を叩いて出ていった幼馴染の背中が目の奥に浮かぶ。だが、セリアは容赦なくそれを切り捨てた。
「なんだよ、まるで見て来たみたいにさぁ」
あまりにも徹底的な突き放しっぷりに、リュートは唇を尖らせる。夢のひとつくらい、見せてもらってもいいだろうと訴える。だがセリアはやはり頑なだ。パン屋を継いだ長男は健在とはいえ、次男が村を出ていってしまったことが相当尾を引いているようだった。しかし、どうにもそれを考えても態度が硬い。
思えばセリアは昔からそうだった。リュートが幼馴染たちと冒険者ごっこをして遊んでいた時も、依頼人はそんなに甘くないだの、そんなに魔獣が荒ぶることはないだの、細かく突っ込んできた。
「んむ? なんだ、リュートは知らんのか?」
小さな違和感を抱くリュートに、パンを奥にしまい込んで戻ってきたギルドマスターが不思議そうな顔をする。
「ちょ、ちょっとおじいさん!」
セリアが何やら焦り顔で止めようとするも、開きはじめた老爺の口は急に止まれない。
「セリアは今でこそ引退しておるが、昔は"紅の翼"と言うS級冒険者パーティの剣士でなあ。それこそ、巨人や竜をばったばったと――」
「きゃあああああっ!」
饒舌に語るギルドマスター。セリアの悲鳴が小さな小屋に響き渡る、が。
「おばさ……セリアさんが元S級冒険者!?」
青年がそれを聞き逃せるはずもなかった。