冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
「ほらリュート、退きなさいよ。私が座れないでしょう」
「いや、別のところに座れば……」
「年長者に口ごたえする気? 全く情けないわね。私がわざわざ用意してあげたんだから、もっと食べなさい」
「おわっ!?」
朝。セリアたちが目を覚ます前に痕跡を消したローザは、そのまま食事の準備までしていた。リュートの隣にむっちりとした腰を降ろし、彼に密着したまま皿を押し付ける。山のように盛られたシチューはあまりに量が多い。
ローブを着込んでいるとはいえ、昨夜浴びるほど堪能した美魔女の妖艶な匂いは青年を刺激する。そうでなくとも、昨日とは見違えるほどの距離感の変わりように困惑が隠せない。
「ふわぁ、おはよう二人とも。早いわね」
「あなたが遅いのよ。適当に作ったから、食べていいわよ」
「わあ、いい匂いがすると思ったのよ!」
テントの中からモゾモゾと這い出してきたセリアは、焚き火に掛けられている鍋を見て眠気を吹き飛ばす。さっそく皿を抱えて食べ始める彼女を、リュートは戦々恐々として見ていた。
「もぐもぐ。やっぱりローザの料理は美味しいわね。滅多に作ってくれないけど」
しかし、当のセリアは目の前の二人の距離感には気が付かないまま呑気に舌鼓を打っている。魔法薬学に精通しているからか、それとも独身生活に年季が入っているからか、ローザは案外料理上手だった。リュートも量はともかく、味には目を見張る。とはいえ現役時代はあまり進んで食事を用意することはなかったようで、セリアは感激に目を細めていた。
「おはようございます、みなさん」
そうこうしているうちに、隣のテントからミルラも起き出してくる。寝起きとは思えないほど身だしなみも整えられている。
「……」
「な、何よ?」
ミルラはリュートの隣に座るローザをじっと見つめる。青年が冷や汗をかく間もずっと無言だ。
「私も頂きますね」
結局、彼女は何か発することもなく、セリアの隣に腰を下ろすと食事を始めた。
セリアを思いつつもローザとも一線を越えてしまったリュートは、生きた心地がしない。素直にセリアに伝え、謝罪すべきだと分かっていても、それを口にすることはできなかった。朝のなごやかな時間を破壊するわけにはいかない、と言い訳だけはすんなりと出てくる。
「そんなに心配しなくても、私は言いふらしたりしないわよ」
美味しそうに食事をするセリアを見やりつつ、ローザが声を潜めてリュートに耳打ちする。
「昨日のことは、ちょっとした過ち。お互いなかった事にするわよ」
「はぁ……」
そうしてくれるなら、リュートも異論はない。セリアを裏切るような思いはあるが、知られて軽蔑されるよりはマシだと思った。
「ほら、しっかり食べなさい。口に付いてるわよ。ぺろ」
「ろ、ローザさん!」
「何よ。セリアみたいになりたいなら、朝からあれくらい食べないとダメよ」
さっきの言葉はなんだったのかとリュートは悶える。口元についたソースを指で拭ったかと思えば、それを自ら舐めとる。そのうえ、こんなに細いんだからとリュートの内腿をさわさわと撫でる。明らかに距離感が近すぎる。これではまるで、付き合いたての恋人のようではないか。
「ねえ、ローザ」
突然セリアが口を開く。
リュートは背筋を伸ばし、呼吸を忘れて固まる。
「このシチュー、変な薬草入ってない?」
「ちょっと苦味があるだけでしょう。身体には良いわよ」
「うぅう……」
しかし続く言葉は料理に入っていた具材への苦言であった。ローザはそれを一蹴し、セリアは唇を尖らせる。かつての仲間達と行動を共にするようになったからか、セリアはどこか幼くなったように見えた。
「そ、それじゃあ俺、鍛錬してくるから!」
一瞬緩んだ隙を逃さず、リュートは立ち上がる。器のシチューを急いで描き込み、逃げるように走り出す。
毎朝欠かさず鍛錬をしているのは事実であり、セリアも知っている。青年が頬を赤くしていることにも気付かず、未亡人はのほほんとして見送った。
「せいっ! はっ! ふっ!」
剣術の鍛錬は、リュートが村で唯一の冒険者であった狩人から手解きをうけたものだ。まだ幼い頃に一度だけ、酒の切れ目の戯れに教えられた程度のこと。だが彼は愚直にそれを続け、独学で発展させていた。
剣術の才能がないことは自覚している。それでも剣を振るう冒険者の姿に憧れていた。
それに、無心になって剣を振るう時間が嫌いではなかった。
やがて汗があふれ、服が張り付く。熱気が全身から滲み出す。服を脱ぎ捨て上裸になると、若く逞しい肉体があらわになった。
「案外良い身体してるわね」
「確かに、よく鍛えられています」
「うわああっ!?」
集中していたところに視線を感じて、リュートは悲鳴を上げながら飛び上がる。木立の奥に逃げたはずが、物陰からローザとミルラがこちらを見ていた。
「いいわよ、続けなさい」
「そんな見られながらだとやり辛いよ……」
緊張の糸が切れて肩を落とす青年に、金髪の美魔女は片眉を上げる。ミルラはやはり感情の推し量れない表情でまじまじと視線を向けていた。
「セリアさんは何してるの」
「後片付けを任せてきたわ」
さっぱりと言うローザに呆れるリュート。とはいえ、役割分担はパーティの頃からのもののようだった。集中していて時間を忘れていたが、セリアとミルラの朝食も終わる程度に時間が過ぎていたらしい。
「今日も結構歩くんだから、ほどほどにしておいたら?」
「そういうわけにもいかないよ。というか、ある程度やらないと気持ち悪くて」
すっかり習慣付いてしまった鍛錬は、もはや欠かす方が難しい。そんなリュートに、ローザは珍妙なものを見るような目を向けた。
「……ミルラさん?」
「――いえ、なんでもありません」
ローザとの会話の間もじっと視線を注ぎ続けるミルラに、リュートが首を傾げる。だが彼の声にミルラは僅かに顔を揺らすだけで、平然としたままだった。
「リュート君、他の二人も! テントは自分で片付けてよね」
そんななか、野営地の方からセリアの叫びが聞こえてくる。我に返ったリュートは急いで服を拾い上げていく。
「まったく仕方ないわね。ほら、行くわよ」
「ちょっ、ローザさん!」
ローザはリュートの腕を掴み、引っ張る。昨日までの彼女では考えられない行動に、リュートは冷や冷やとする。そんんあ二人を、ミルラはやはり無言のまま見つめていた。
テントの撤収はすぐに終わり、各々の準備も整うと早速移動が始まる。
「今日は宿屋に泊まれるはずだから、それまで頑張りましょうね」
セリアがリュートの側へと近づき、そっと囁く。
「せ、セリアさん」
「ふふっ。――ほら、急ぎましょ!」
意味ありげな笑みに、青年は魅了される。あっという間に若い煩悩は彼の頭の中を埋め尽くし、鼻の下が伸びてくる。
「ほらリュート、何をぼんやりしてるのよ」
上の空になる彼の二の腕を、セリアがむっとして抓る。鋭い痛みが彼を現実へと戻した。表面上は穏やかな空気のなか、一向はラスレオの町を目指して再び進み始めるのだった。