冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
セリアの家は村で唯一のパン屋である。朝早くから窯に火を入れ、村民たちが持ち寄った小麦を使ってパンを焼く。その香ばしい匂いで目を覚ますのが、リュートの朝であった。
「おー、リュートじゃねえか。この前はハーブ集めありがとな」
「お邪魔します!」
かつてはセリアが夫と共に切り盛りしていた工房だが、今ではセリアはもっぱらパンの配達や生地作りが担当だ。パン焼きは彼女の息子であるレザンが引き継いでいる。リュートよりも五歳年上の兄貴分は窯の片付けをしながら、突然やってきた彼を快く迎えた。
「母さんがリュートを連れてくるなんて珍しいな。何かあったのか?」
「実はセリアさんが元ぼふぉむっ!?」
「だめーーっ!
不思議そうな顔をする長男に事情を説明しようとした瞬間、リュートは顔面を柔らかく圧迫される。それが後ろから腕を回してきたセリアの手のひらだと、遅れて気付く。
日頃からパンをこねてきた手は柔らかくもしっとりとしていて力強い。リュートがもがもが口を動かすほどに、手のひらが強く押し付けられてくる。それどころか、すぐ背中にはより大きく柔らかい感触も――。
「何やってんだよ、母さん」
「ち、違うのよ。ちょっと……お茶でもしようかと思って!」
母の奇行に眉を寄せるレザン。セリアは白々しい笑い声をあげながら、窒息気味のリュートの腕を引っ張って店の奥の居住スペースへと飛び込んだ。
「……お茶なんて近所のおばちゃんたちといくらでもやってるだろうになぁ」
残された息子はひとり、その慌ただしい動きに立ち尽くすのだった。
「お願いだから、レザンには言わないで」
「げほっ、こほっ。わ、分かったよ……」
パン屋の奥。連れ込まれたのはセリアの寝室のようだった。大人二人が広々と寝られるベッドは片隅に小さな枕がひとつだけ置いてあり、簡素な机とクローゼット以外に家具らしいものもない。
幼い頃から面倒を見てもらっていたリュートも、セリアのプライベートを見るのは初めてのことだった。
彼女はリュートをベッドの縁に座らせると、真正面に向き直る。むっちりと肉付きのよい、年相応の柔らかさを感じさせる体付き。ふわりと小麦の香りがリュートの鼻先をくすぐる。
「レザン兄さんには言ってないの?」
「クラストも知らないわ」
額に手を当てて沈痛な面持ちのセリア。クラストはレザンの弟であり、リュートの幼馴染だ。同世代の友人たちと冒険者になり旅立っていった一人でもある。
「きっと、血なのよ」
寂しげに彼女は机の上に飾られた写真立てを見る。そこには、まだ若くほっそりとしたセリアと、寡黙な男性が隣り合って写っていた。レザンとクラストの父親、セリアの夫は、数年前に肺の病で亡くなっていた。
「おじさんも?」
「私とあの人は、別々のパーティに所属してたの。でも、何か縁があったのか、たまに合同作戦に参加することがあって。後から聞いたけど、彼が猛アタックをかけてたみたい」
当時は全然気付かなかったわ、と微笑みを浮かべるセリアの横顔に、リュートは思わず見惚れてしまう。彼にとっては母親ほど歳の離れた女性だったが、今その瞬間、彼女は若々しい熱を帯びていた。
「でも、冒険者稼業なんて不安定だしいつ死ぬとも分からないでしょう。結婚が決まってすぐにこの村の開拓団が募集されて、馬車に飛び乗ったわ」
とにかく死因には事欠かないその日暮らしである。家庭を持つにあたって安定を求めるのは無理からぬ話だった。幸いにして二人は若く健康で、魔獣との戦いにも慣れていた。開拓団のメンバーとしては申し分なく、快く迎えられたという。
そこで夫婦は愛を育みながら、これまでの血生臭い戦いの暮らしではなく、村人たちに食を届ける仕事を選んだ。これもまた、二人にはうってつけの生業となったのだ。
「レザンはああしてお店を継いでくれて、あの人に代わってよく働いてくれてるわ。でも、クラストは君も知ってるように昔からやんちゃでね」
リュートは冒険者ごっこに明け暮れた日々を思い出す。誰よりも活発に、拾った木の棒を剣に見立てて振り回していたのはクラストである。
「息子たちにはあんな危険で汚くて不安定な道には進んでほしくなかったのにね」
クラストは憧憬を止められず、村を出てしまった。彼女には深い後悔があるようだった。
「セリアさんは、冒険者が嫌だったの?」
「……」
辛そうな顔で過去を思い返すセリアに、思い切った問いを投げる。即答はなく、代わりに彼女は難しげに柳眉を寄せた。
悲喜交々、愛憎も混在しているようだった何より、彼女が夫と出会ったのもまた、冒険者をしていたからなのだから。
「お願いだよ、セリアさん。数日だけでいい……。俺を助けて!」
「助けるって……。無理なものは無理よ」
リュートもまた、冒険者という光に当てられてしまった人間だ。念願の冒険者になったというのに、辺境の村の中で退屈な人生を送りたいわけではない。彼女には酷なことを承知で、それでも頼み込むしかなかった。
「一週間だけでいいんだ。町まで連れてってよ。そうしたら俺はそこで新しい仲間を見つけてパーティを結成する!」
村に最も近い町まで、徒歩で一週間。その道程には魔獣も出る。だからこそ、一人で村を離れることは許されない。しかしセリアとパーティを組めば、村を出られる。町には他にも多くの冒険者がいる。そこで新たなパーティを組み、セリアを村に送り届ければ、リュートの悲願は叶うのだ。
床に膝を突き、額まで擦れそうな勢いで頭を下げるリュート。見かねたセリアが彼の肩を掴む。
「だ、ダメよ。諦めて。元冒険者だって言ったでしょ。もう引退して何年経ってると思うの」
「でも毎日生地を捏ねて配達もしてるし、衰えてないでしょ」
「そんなに甘くないの。お、お腹のまわりとか二の腕とか、結構お肉も付いてきてるし……」
眉を八の字にして腹肉を摘むセリア。リュートにはむしろ健康的にさえ見えるが、本人は不服のようだった。
「だったら尚更、ちょっと運動ついでにさ。町まで行って帰ってくれば」
「な、舐めてるわねぇ」
どうです奥さま、と揉み手で提案する青年だったが、それが彼女の神経を逆撫でした。セリアはリュートを正座させると、正面に立ち塞がって睥睨する。
「リュート君は森の中でウサギ狩りしかしてないんでしょうけど、外は危険がいっぱいなのよ。熟睡なんてできないし、日中は基本歩きっぱなし。お宝なんて見つからないし、近付いてくるのは魔獣か野盗なのよ!」
「うぐう」
本職らしい生々しい言葉は、ダイレクトに突き刺さる。ぐうの音も出ないとはこのことだった。セリアは頑なで、胸を押し上げるように腕を組む。絶対に頷いてやるものか、とむしろ決意を固めているようだった。
しかし、リュートもまた諦められない。彼だって、十年以上も思い焦がれてきた。その情熱は、燃え続けている。
「一度だけでいいんだ。――外の世界を見て、いろんな事を経験して、可愛い女の子とイチャイチャしたい」
「……はぁ?」
涙ながらに語られる野望。リュートが枕の側で聞かされてきた様々な冒険譚。波乱万丈のストーリー、最後はお姫様と結ばれる。世界はこんなにも広く、夢に溢れているのかと、彼は期待に胸を膨らませてきた。
「そ、そのために町に行きたいの?」
「そうだよ! 悪いか!」
「悪くは、ないけど……」
もはや開き直って赤裸々に自分の本心を語るリュートに、セリアも上手く言い返すことができない。たじろぐ彼女に好機を見た青年は、ここぞとばかりに攻め立てる。
「冒険者こそ男のロマン! ばったばったと迫り来る大魔獣を薙ぎ倒して、熱い友情を育んで、最後には真実の愛を見つけるんだよ!!」
クラストですら、もう少し現実的な野望を語っていた。
鼻息荒く力説する青年を見て、セリアは毒気が抜けていくのを感じていた。典型的に、夢と妄想を拗らせた幼い青年である。単調な日常が下手に続いてしまったせいで、余計にそれを拗らせている。
「……ちょうど、町にいる昔の仲間に顔を見せようかと思ってたの」
「セリアさん!?」
彼女は肩の力を抜いてベッドの上に腰を下ろす。ずむ、と大きな尻が沈み込む。セリアは濃い亜麻色の髪を指先に絡めながら、期待に目を輝かせているリュートを見やった。
「行って帰るだけよ。それなら、付き合ってあげる」
往復で二週間の短い旅だ。しかし、冒険者稼業の現実、辛いところ、嫌な面はいくらでもあるはずだ。これを経験すれば、青年も地に足をつけて平穏を求めるはずである。
これは先達としての務めなのだ、と彼女は思い直す。他ならぬセリアもまた、夢物語に突き動かされて冒険者になり、現実を知ったのだから。リュートにそれを教えてやることこそ、自分の使命なのだと。
「ありがとう、セリアさん!」
何も知らない青年は無邪気に飛び上がり、セリアの手を掴んで喜びに荒ぶる。彼のそんな姿に、セリアの胸の奥に沸々と悪い気持ちが湧いてきた。彼が打ちのめされる未来に罪悪感もあれど、それ見たことかと見下ろしてやりたい。クソガキだった彼に悪戯をされたことを根に持っているわけでは、断じて無いが。
「それじゃあさ」
リュートはセリアの悪い表情にはまるで気付かず、満面の笑みで口を開く。
「セリアさんの現役のころの装備も見れるんだよね」