冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
第5話「汗で蒸れる外套の下」
朝日も昇らぬ早朝の薄明。まだ村人のほとんどが寝静まるなか、パン焼き釜に火が入る。いつもならば一人で黙々と作業を進める若きパン職人レザンの前には、二人の人影が並んでいた。
「それじゃあリュート、母さんを頼むよ」
「もちろん。任せてよ」
安い革製ながら、しっかりと装備を整え背中に荷物を背負ったリュート。彼の隣には、まだ肌寒いとはいえ重たげな外套を釦まで止めてきっちりと着込む亜麻色の髪の美熟女セリアが立っている。
「まさか母さんが元冒険者だったなんてな。もっと早く言ってくれりゃよかったのに」
「ただのD級止まりよ。行商人時代に通行証目当てで加入してただけだもの」
ガリガリと頭を掻く長男に、セリアは平然と笑って言い放つ。
数日前、リュートを町に連れていくことを了承した彼女は、ついに自身が冒険者であったことを息子に明かした。しかし、真実を伝えたわけではない。冒険者となったのはあくまで町から町への移動に必要な通行証を得るためであり、危険なことは何もしていない、と。
今回もセリアはあくまで付き添いで、リュートが道中の護衛を行う。無論、二人だけでは心許ないが、ここのところ野盗や魔獣の噂も聞かず、片道だけなら何とかなるだろうという算段をつけた、という話をしたのだ。
素直で実直なパン職人はそれを呑み込み了承した。かねてから、彼も母親に羽を伸ばしてもらいたいと考えていたのだ。町にはセリアの旧友もおり、珍しい品々も集まっている。毎日健気に働く彼女に、息抜きも必要だろう。
「というか母さん、そんなに厚着して大丈夫なのか?」
「へ、平気よ。まだまだ夜は冷え込むこともあるし必要でしょ」
「いや、別に昼間は着込まなくても」
「大丈夫だから!」
ギチギチと締め付けるようなボタンの窮屈さと体型を隠すような分厚い生地の外套は、息子の目から見ても季節外れだ。そもそもセリアは人よりも汗をかきやすい方でもある。
純粋な心遣いを見せたところ強い反論を喰らったレザンは、目を白黒させながらも頷くほかなかった。
「それじゃあ、そろそろ行くわね」
体調に気を付けるのよ、しっかり食事をして、無理をしないで、と。どちらが見送る側かとレザンが呆れるくらいの忠言を残し、後ろ髪を引かれながらもセリアは歩き出す。彼はすでに一人前だと認めていても、母としては心配が尽きない。
「気を付けてな、二人とも。帰りが遅くなっても構わないから」
無理をするな、と大きく手を振るレザン。リュートもそれに応じながら、期待に胸を膨らませる。ようやくである。夢にまで見た冒険者。その第一歩を踏み出したのだ。
「ふぅ、ふぅ……」
「おばさん、そろそろ良いんじゃない?」
村の影も見えなくなり、木々がまばらに生える森の中。朝日が差し込み陽気が緑を燻らせる。リュートは隣を歩くセリアに声をかける。分厚い冬物の外套を着込んだ彼女は顔を赤くして玉のような汗を額に滲ませている。見ているだけでも暑苦しいほどの重装備だ。当の本人は生来の汗っかきもあり、しっとりと濡れた毛先が頬に張り付いて、濡れた唇が艶やかに光っていた。
彼女は青年の言葉を待っていたかのように立ち止まると、釦を次々外していく。その速度は敏捷で、あっという間にぐっしょりと汗に濡れた分厚い扉が開かれる。
「はぁああああ、涼しいわぁ」
広げられた外套の奥に、森の涼やかな空気が滑り込む。入れ違いにむわっと蒸れた風が広がり、青年の鼻先を未亡人の汗の匂いがくすぐる。季節外れの厚着の下にあったのは、S級冒険者の証とも言える竜鱗のビキニアーマー。はち切れんばかりの豊満を、細い紐がなんとか保っていた。真っ白なパン生地のような胸元は汗に濡れ、外套に籠もった熱気がしつこく残っている。それを追い出すため、セリアは広げた外套を翼のようにパタパタと動かしてはうっとりと目を細めていた。
「うぅ、奥まで蒸れて気持ち悪いわね」
纏う熱気を逃せば、今度は体内に染み込んだ熱が不快になってくる。セリアは唇をへの字に曲げて、懐から取り出した布を谷間へと突っ込む。ずる、と抜き出したそれは、しっとりと濡れていた。
無自覚な艶かしさは青年の目を灼きかねない。そっと視線を逸らしながら、リュートは感情を隠すように口走った。
「わざわざ外套着るくらいなら、全部正直に伝えても良かったんじゃ」
「無理に決まってるでしょう。母親がS級冒険者だったなんて知られたくないもの」
セリアがリュートと臨時パーティを組み、町へと送り届けるには、当然息子に隠していた真実を明かす他ない。だが、彼女はあくまでS級冒険者であった事実は伏せたままにすることを固持していた。
リュートにしてみれば、母親が元S級冒険者だったと言われれば尊敬こそすれ失望などするはずもない。だがそこは複雑な親心があるのだろう。パン屋を継いでくれたレザンまで冒険者になると言い出しては敵わないと思ったのかもしれない。
彼女が編み出した妙案が、このS級ビキニアーマーを覆い隠す季節外れの外套だったのだ。竜鱗の鎧を脱ぐ、という選択肢はそもそもないらしい。
ともあれ村も見えなくなり、堂々と真の姿を晒すセリアはやはりかっこいい。リュートは凛と立つ彼女の鮮やかな龍鱗に目を奪われた。
「もうリュート君ったら、まじまじ見過ぎよ」
「ごめん、おばさん。でもやっぱりかっこよくて素敵だよ」
「ふふっ、そ、そうかなー? えへへ」
手放しの賞賛に悪い気はしない。くねくねとセリアが身を捩るたび、その肢体が艶かしく揺れうごいた。はち切れそうなほどに溢れる夢の躍動に、青年は目眩すら覚える。
「ところでセリアさん。町にいるっていう友人は、"紅の翼"のメンバーなの?」
「そうよ。あの人と結婚してパーティは解散しちゃったんだけど、二人ともラスレオに留まってくれてね」
目的地と定める町の名はラスレオという。リュートはそこに仲間を探しに行くが、セリアは旧交を温めに向かう。その町にはかつての彼女のパーティ"紅の翼"の仲間が根を下ろしているのだという。
「魔法使いと神官の二人よ。解散する時は申し訳なく思ったけど、二人とも快く送り出してくれたわ」
セリアは三人パーティ唯一の前衛職である重戦士。彼女が抜ければ魔法使いと神官だけとなり、布陣としては心許ない。もちろん新たなメンバーを迎えるという択もあっただろうが、仲間たちはそうしなかった。新参を加えてもそれは"紅の翼"ではない、という主張だった。
結果、セリアが開拓団として定住した村に近いラスレオの町に居を構え、そこで新たな暮らしを送り始めた。
子が生まれるまでは定期的に顔も合わせていたようだが、育児が始まると片道一週間の距離はあまりに遠い。文通は続けていたものの、しばらく会っていないようだった。
リュートは、胸を弾ませるセリアの横顔を見て羨ましく思う。自分には、そのように思い出を分かち合える仲間がまだいない。ラスレオの町に着いたら、自分もそんな仲間を見つけたいと改めて決意する。
「一人は魔法薬のお店を開いて儲けてるみたいだし、もう一人は孤児院の院長になったって聞いてるわ。リュート君もぜひ会ってみたら」
「いいの?」
「もちろん! 君のこと、ぜひ自慢させて」
"紅の翼"の元メンバーということは、その二人もまたS級冒険者であった証左。引退し第二の人生を送っているとはいえ、先輩には違いない。そんな偉人たちと顔馴染みになれる好機、逃す手はなかった。
セリアもまたそんなリュートに相好を崩す。幼い頃から面倒を見てきた彼女にしてみれば、彼もまた息子のひとりである。
「二人とも私と年齢も近いし、もしかしたら結婚して子供もいるかも。楽しみだわ」
足取りも軽く、森の中を進むセリア。彼女の穏やかな表情は、突然変わる。
「リュート君、止まって!」
青年が疑問を呈するよりも早く、彼女は背中の大剣を抜く。刃に映るのは研ぎ澄ました冷徹な表情。S級冒険者の風格は、まるで失われていない。柔和な小麦の香りに包み隠されていた重戦士の顔が曝け出される。
次の瞬間、リュートの耳を獰猛な獣の吠え声が貫いた。
「グレイウルフ!」
彼の声に応じるように、茂みの影から鋭利な牙が飛び込んできた。