冒険者になったけど仲間がいないので元S級でムチムチ爆乳の友ママにパーティ組んでもらった。 作:ユリイカ
セリアと小さなテントで過ごすわけにもいかず、悶々としたまま火の番をしていたリュートは、歩き通しの疲労もあって気が付けば眠りに落ちていた。深い眠りから浮上する曖昧な意識のなか彼が感じたのは、後頭部を包み込む柔らかな温度だった。
「か、さ……ん……うわぁっ!?」
「きゃっ!」
覚醒していくなかで、彼は現状を思い出す。上からこちらを覗き込んでくる髪の長い女性の正体と、自分が今置かれている状況を。思わず飛び跳ねるように上体を起こすと、額が何か柔らかく弾力のあるものにぶつかり、ぽよんと揺れた。
「ぐぁ。セリアさん、何してるんですか」
「何って、君が焚き火も消えてる野晒しのなかで寝てたから、風邪ひいてないか心配したのよ」
頭を振りながら立ち上がり、至近距離に迫っていた人物を見る。いつの間にか夜も明けて、朝の清々しい空気が霞と共に流れ込んでくる。寝起きなのか、髪がいつもより乱れているセリアは唇を尖らせて胸の前で腕を組んでいた。
「心配って……」
リュートは自分が野晒しで寝るに至った理由を思いかえし、昨晩の熱を蘇らせる。顔を赤くしてセリアを見ると、彼女もまた頬を赤らめてそっぽを向いていた。
その段になってようやく、彼は自分の身体が毛布に包まれていることに気が付いた。パン屋を営むセリアの朝は早い。日の出のはるか前に起きた彼女はリュートが消えた焚き火の隣で寝落ちているのを見つけて、毛布を掛けてくれたのだろう。
「セリアさん、もしかしてずっと見ててくれたの?」
首の背に残る感触を手でさすりながら。起き抜けに跳ね上げた顔を包み込んだ柔らかい感触の正体にもう少しで辿り着きそうだった。
「ち、違うわよ。ほんの、10秒前くらいからだから」
「ええ……?」
夜の冷え込みもほとんど身体に残っていないのだが、セリアは強硬に主張する。ぐっすり眠ってしまったリュートは、反論の材料を持たなかった。
「それよりも、今日も歩くんだから。しっかり朝ごはん食べておくのよ」
「あ、うん」
強引に話題が曲げられる。目的の町であるラスレオまで、あと六日かかる。まだまだ旅は序盤もいいところなのだ。ここで下手に昨日の出来事を掘り返して関係が変わってしまうことは避けたい。
幸いなことにセリアは昨日の一件はなかったこととして扱っていた。リュートもそれに乗っかり、立ち上がった。
「きゃあっ!?」
「へ?」
直後、振り返ったセリアが悲鳴をあげる。困惑するリュートの下半身に目を向け、両手で顔を覆いながらも指の隙間からしっかりと一点を凝視していた。
泥のように眠り、ようやく覚醒し始めた青年の元気の象徴である。
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、いいの。男の子だもんね。――直接見るの、初めてだけど」
息子も二人いるとはいえ、そう見ることはないだろう。チラチラと視線を外そうとしてはまた戻すという動きを繰り返しながらセリアは早口で捲し立てる。そうして、何かから逃げるように、朝食の準備をすると言って立ち上がると川の方へと走り去ってしまった。
「……勘違いするなよ、リュート。相手は幼馴染の母親なんだぞ」
今朝もしっかりとビキニアーマーを身に付けていたセリアの、大胆に露出した柔らかな肉体を頭の中から掻き消そうと、自分に向かって訴える。だが皮肉なことに、意識しないようにすればするほど、彼女の真珠のような肌が脳裏に刻み付けられていくようだった。
「冒険者っていうと華々しい活躍がよく語られるけど、8割は退屈な移動だし、2割は面倒な事務作業なのよ」
「残りがないじゃないか」
「大半はそういうものなのよ」
森を抜け、平原を越え、薄い轍の跡をたどりながら町を目指す。改めて自身の故郷がどれほどの僻地にあったのかを実感しながら、リュートは黙々と足を動かす。グレイウルフの一件以降、魔獣の襲撃もなく足の疲労だけが蓄積していく。そんな彼の内心を読み取ったセリアがしたり顔で説いた。
「たしかに、セリアさんって事務作業できなさそうだよね」
「失礼な! わ、私だって署名くらいは……」
毎朝元気に村の各戸を回っているセリアだが、何か書類をしたためている所は見た記憶がない。リュートの推測は図星だったようで、彼女は苦し紛れに呻くように言った。
「そういうのはローザとミルラの方が得意だったの。私はそのぶん戦いで活躍してたからいいのよ」
適材適所ってやつよ、と胸を張るセリア。リュートも彼女の力量を今更侮るつもりはないが、現役時代の姿を垣間見たような気がした。
「ローザさんが魔法使いで、ミルラさんが神官だったっけ」
「そうそう。二人ともすっごく優秀で、めちゃくちゃ強いのよ」
かつて"紅の翼"を結成していた三人。仲間のことを思い浮かべたセリアはふふんと鼻を鳴らす。パーティは解散し、全員が現役を退いた今でも、その頃の記憶は鮮明に残っているという。
「まあローザはドケチの貧乏性だし、ミルラも生真面目すぎて融通が効かないんだけど」
「俺、ラスレオで二人とも会えるんだよね……」
「私が言ったってバラしちゃダメよ」
かつての仲間同士の気安さからか、とんでもないことを言っている。聞いていたリュートの方が呆れていると、セリアは眉を寄せて釘を刺してきた。心配せずとも、リュートはそもそも二人の顔すら知らないのだ。初対面で失礼な放言をするほど性格が終わっているわけでもない。
そもそも普段は優しく穏やかなセリアがそこまで言うということは、親密さの表れだろう。長年行動を共にした親友であることに間違いはない。だからこそ、リュートも興味があった。セリアが背中を預けてきた仲間たちが、どんな冒険者だったのか。
「ほら、見えてきたわよ」
小高い丘を越えると、景色が変わる。先導するセリアが指差す先に、白い煙を幾筋伸ばす集落が見えた。
ラスレオの町まではまだまだかかるが、その途中には小規模な村がいくつか点在している。行商人向けの宿もあり、少なくとも雨風を凌ぐことはできる。一週間の旅程とはいえ、屋根の下で枕を高くして眠れる機会もそれなりにある。そもそも、普通は一日歩けば辿り着ける程度の距離感で集落があるはずで、一日野営を挟まねば最寄りの村にすら届かないリュートの故郷の方が田舎すぎるのである。
「俺、宿に泊まるの初めてだ!」
「こんな田舎村の安宿で喜んでるようじゃ、ラスレオの宿を見たら失神しちゃうわよ」
まだ村人の気配がないのを良いことに中々な事を言い放つセリアに、浮き足立ったリュートは気が付くこともない。彼の故郷である小村は宿そのものが存在せず、たまにやってくる行商人のような旅人も村長の屋敷に部屋を借りている。それで賄える程度に、人が来ないのだ。
「この村の近くは珍しい薬草が生えてて、行商人はそれを買いに来るのよ」
自分たちの村はそのオマケ、とセリアはばっさり切り捨てる。事実だが、だからこそ悲しい話である。
「すげえ、店が二軒もある! あれって鍛冶屋か!?」
「初々しいわねえ」
忙しなく目を動かして初めて見る村の家々に感心しているリュートを傍に、セリアは慣れた様子だ。事実、彼女は何度かこの村も訪れている。迷いのない足取りで村の簡素な門をくぐると、すぐ近くに建つ宿の戸を叩く。
「こんにちは」
「おお、セリアさん」
宿の店主も顔馴染みで、それを快く迎えた。無精髭を生やした老人で、人の良さそうな朗らかな顔をしている。彼は一瞬眉を寄せて、まじまじとセリアの姿を見る。
「なんだ、今日は随分厚着じゃないか。暑くないのか?」
「そ、そうかしら? おほほほ」
無論、村に入る直前に彼女は例の外套を着直している。ぐっちょりと汗ばんだ身体とセクシーなビキニアーマーを隠し、セリアは素知らぬ顔ではぐらかす。ぎこちない未亡人に首を傾げた店主は、その陰に隠れるリュートに遅れて気が付いた。
「こっちは新顔だな。セリアさんの息子かい?」
「いや。俺は冒険者のリュートだ」
冒険者のリュート。
村ではついぞ使うことのなかった口上に、青年は内心ニヤつきを堪えながら手を挙げる。驚いたように数度瞬きした初老の主人は、すぐに口元を緩めた。
「ほう。てことは、セリアさんの新しいバディかい」
「バディ?」
困惑するリュートに、主人も首を傾げる。
「町に出る時は行商について行くしかないから、冒険者のバディが欲しいっていっつも言ってたからなぁ。てっきりそうだと――」
「そ、そんなこと言ってたかしら!? おほほほっ!」
どうやらここの宿屋の主人は、セリアが冒険者であったことは知っているらしい。彼女が外套を着込んだところを見るに、ランクまでは知らないのだろうが。リュートは、セリアが長男に向けて語った説明が妙に流暢だったことを思い出す。この村の宿に泊まるためには冒険者であることは伝えなければならない以上、同じ説明をこの主人にもしていたのだろうと思い至る。
だが、それでも疑問は残る。
セリアは己の息子やリュートが冒険者になることを望んでいなかったはず。それなのに、冒険者のバディが欲しいというのは矛盾しているように思えた。そもそもバディというのは、パーティメンバーとはまた違うようにも聞こえるような――。
「おじさん、お部屋の鍵を貰えるかしら!」
「お、おう。そりゃもちろん……」
リュートの思考を阻止するように、セリアはカウンターに身を乗り出して主人に迫る。後ろに立つ青年には、美熟女の規格外の尻肉が迫力たっぷりに突き出されるのが見えた。
純情な若者の目を釘付けにしていることなど露知らず、セリアは主人の手から鍵をもぎ取るや否や二階へと続く階段へ向かった。
「あ、おい、その部屋は――」
「行くわよ、リュート君!」
「うわああああっ!?」
主人が何か言いかけたのも遮って、セリアはリュートの手を掴んで疾風のように駆け上がるのだった。