闘う巨乳なレジスタンス娘は失うものが何もない 作:かめのこたろう
「お疲れのようですね?」
『仕事』を済ませたばかりの場所の裏口、目の前に待機していた送迎の車のシートに収まってすぐ、運転席から声がかかった。
今日は特に負担が重かったのは確かで、まだ余韻の熱がしつこく下腹の奥に灯り続けていた。
その疲労とやりこなした安堵はとても誤魔化せるものではないらしい。
すっかり馴染みになった資本家専属の運転手たる男の言葉が純粋な心遣いではないことなどわかり切っていた。
ただ最低限の社交辞令程度のものくらいは混ざっていることも。
対立し反目する敵対関係では当然ない。
だけど心温まる友人などでもありえない。
私はそんな相手の言葉に特に身構えるでもなく、素直に受け入れて応答を返す。
「まあ……ね? 汚れを拭うものはある?」
「ウェットシートでよろしければ。お手前のダッシュボードの中に」
「ありがとう。もらうね」
指先一本動かすのもダルイくらい億劫だったけど。
なんとか重心を変えて、手を伸ばす。
いわれた通りのものを見つけたら、さっさと何枚か抜き出して処理を始める。
さっき出てきたときに、垂れ落ちてきたやつがまだ太腿を汚してたから。
自分の身体を買った男が手配した送迎車の中で、その痕跡の残滓を拭い去る。
毎回ではないけど、それなりにはあるくらいの頻度で起こる私のルーティン。
悩みや葛藤などとうに過ぎ去った場所で、機械的にやりこなすだけの必要作業。
ひんやりとした濡れた紙布の感触が気持ちよかった。
そして足を開いてミニスカートから漏れ出る場所を、バックミラー越しにしっかり確認されていることも、了解していた。
明らかな欲求を隠そうともしない男の視線も、さほど意識もしないでやり過ごす。
股の付け根まで這い伝った跡を辿るように拭って、ねっとりと汚れた下着のぬめりが無くなるまで。
女の一番大切な場所を、必要最低限に露出して前からの視線にさらしているのも覚悟の上で。
やがて結果におおむね満足いくと、やっと何らの心残りもなく高級シートの柔らかなクッションに無心で身体を預けられた。
「いつも助かるわ」
ぐったりと完全に脱力しながら、運転席へと言葉を贈る。
これも必要な社交辞令の一つ。
商売相手の資本家当人以上に、その周辺への心遣いというのはバカにできない。
だからいつも通りに、主人の身の回りの情報や、時間と場所の融通を利かせたり、送迎中のアレコレで少しでも負担を軽減させる機転に対して、私は謝意を言葉にすることを躊躇わない。
「いえ。貴女様は我が主人の大切な客人なのだから、この程度の配慮は当然のこと」
そう、百点満点の模範的回答が即座に帰ってきた。
そして儀礼的仮面を脱ぎ捨てた、本音の答えは少し間をおいてから。
「……先払いの報酬もいただいておりますしね」
男なら誰しもが渇望する欲求に塗れた、正直な響きだった。
敵でも味方でもない、ある意味誰よりも信用できる『取引相手』の声に、私は疲れ切った身体で何故か安堵するような心持になる。
………。
……。
…。
『これから送迎はいつも貴方がするとおもっていいのかしら?』
『ええ、まあ。貴女様のような関係の相手は私が担当することが多いかと』
『そう。……じゃあ仲良くしたいものね?』
『はあ。……っ!? な、なにをっ!』
『運転に集中して。プロなんだからちょっと撫でられたくらいじゃ平気でしょ?』
『うっ! く……っ、な、何を一体? どういうつもりだっ?』
『なに、これから貴方ができる範囲で友情を示してほしいってだけ。……話して問題ないことを独り言してみたり、あるいは私が不便しないように機転利かせてくれたり……ね?』
『ふ、ふふんっ、なるほどな。……っ、……っ、そ、その見返りが“こういうこと”ってわけか?』
『ええ、嫌い?』
『嫌いじゃないが。どこまで期待していいんだろうな?』
『とりあえず手と……、お望みならお口で慰めてあげてもいいわ』
『ほう。悪い話には聞こえないかもな』
『じゃあこれで成立ってことでいい? ……そろそろ御立派なものが正直な姿をしてるみたいだけど』
『少し先で止める。そこでまずは手付けを貰おうか』
『いいわ。これからいい付き合いになれそうね』
『ああ、そうだな。お互いできる限り前向きに助け合っていきたいもんだな』
………。
……。
…。
最初に契約を取り交わしたときの記憶がフラッシュバックのように瞬いた。
つい前回、彼を満足させたばかりというのもあったかもしれない。
「こないだも世話になっちまったな。その分くらいは融通させてもらうつもりだぜ」
いつの間にかバックミラー越しにスカートの中から、こちらの顔に視線を移していた男が言う。
やはりその調子は善良さも親愛さともかけ離れた、欲得塗れとしか言いようがないものだったが、私はむしろ望ましいと思う。
対価さえあれば裏切られはしない。
メリットさえ提示できれば、関係は維持できる。
その確信が一仕事終えた後の気怠さの中でも、自分の態度を致命的にぞんざいなものにはしない。
むしろ共犯意識のようなものが、心地よくさえある。
「これからもお願いね」
「ああ。……なあ?」
この含みのあるやり取りはこれで終わりとばかりに態度で告げたつもりが、いつになく食い下がってきた。
そして次に告げられた言葉に私は一瞬だけ虚を突かれたような気持ちになった。
「もし俺が今以上のことをしようとしたら……どうすりゃいい?」
これ以上。
つまりは私の身体そのものを。
答えは決まり切っていた。
「規定料金のメニューがあるから。後で教えてあげる」
「……ふんっ、まあそうだろうな」
男の声は思ったより不満そうではなかった。
むしろ戯れとばかりに自嘲的な響きだったことに、私はまだまだこの関係を壊さなくて済みそうなことを理解した。
「その代わりといっちゃなんだが……。着くまでに一発、お願いできねーか?」
いっちょ前に恥じらいめいたものを滲ませた要求もさほど不快には感じないで済んだ。
疲労の極致だった身体を動かして助手席に移動していくのも、思ったよりは億劫じゃなかった。