闘う巨乳なレジスタンス娘は失うものが何もない 作:かめのこたろう
「『あの男』と接触できそうだ」
ひどい息切れと発汗の中、囁かれた言葉に冷水をかけられたように思考だけが瞬時にクリアになった。
布切れ一枚纏わない、生まれたままの姿。
やはり同様の恰好の男の上に跨って受け入れたまま、激しい反応に不覚にも自分を失った直後のこと。
倒れ伏すみたいに、持て余し気味の胸をつぶして密着した状態。
ビクンビクンという制御できない身体反応がどれだけ続いていても関係なかった。
凄まじい感覚の暴走の只中であろうとも、私を即座に現実へと引き戻し、冷徹な計算をさせるだけの内容だったから。
本能が齎す淫らな快感に溺れている場合じゃなかった。
「はぁ……っ、はぁ……っ。 ん……。 た、確かでしょうね?」
こくりと、唾をのんで喉を潤してやっと聞き返す。
まだ余韻が全身を痺らせたまま。
最奥まで受け入れたモノを、勝手にきゅぅぅきゅぅぅと自分の器官が愛おしむように締め付け収縮するのを意識しないように。
「ああ、まず問題ないだろう。あくまでも偶然を装った接触を徹底したし、あちらの趣味嗜好というものを最大限に刺激するような情報を根気よく、作為的にならないよう流せていたはずだ」
「ふぅ……。じゃあ、信用できる筋から夜の女を紹介されたと、そういう体裁になってると思っていいのね」
「実際そうだからな? ふふ、なぜ君があの企業の重役とコネクションを持ちたがっているのか知らんがね。理由は聞かない方がよさそうであるし」
「……。そうよ、女にはいろいろあるってわけ。貴方は単に馴染みの商売女が金払いがいい相手を探してるって想っておけばいい」
「もちろん、わきまえているつもりだよ? ただ、わかっているとは思うが、あちらさんはそっち方面じゃ有名な放蕩家だ。要求されるものも、尋常ではないことを覚悟するんだな」
「あら、ご親切に。忠告のつもり?」
「どう受け取ってもらってもかまわんが。ただ、はっきり言って生半可な気持ちではとても耐えられないだろうとだけ。それこそ……」
意味深かつ思わせぶりな間の演出だった。
でも、淡々とした口調に、どうやら悪戯に脅してやろうというわけでもないらしいと直感して、軽口を返すこともなく沈黙する自分がいた。
くたりと縋りつくみたいに、手を添えて身体を預けている胸板から感じる鼓動の音。
「女に生まれてきたのを後悔するほどのことが待っていると思ったほうがいい」
ただ目的のために利用しているだけの男から発せられた言葉に思わず息を呑んだ。
生まれ持った肉体を最大限に活用して、何もかもをなげうちながら邁進してきた場所をとうとう目前にしたという実感。
いよいよ到達しつつある怖気と緊張が、男と交わったままの自分の身体をきゅんっと閃光のように迸った。
………
ドアマンよろしく、サングラスの黒服が車のドアを開けると、高いヒールを出して路面に降ろした。
巨大な建造物を望む場所で、今まさに足を踏み出そうとしている自分の身体を包むのは内心とは裏腹に酷く心もとない被服面積の恰好。
光沢のあるヴァイオレットのカクテルドレス。
際どいほどの短いミニ丈で、身体の線がそのまま露わになりそうなほど密着した薄い生地の。
どういう意図のものなのかこれほどわかりやすいものはなかった。
仲介した男が心づけとばかりに送ってきた、アッパークラス御用達の高級ブランドロゴが一点だけ控えめに描かれた白い箱。
その中身を、酒場の二階の自室で確認したときに抱いた所感はそのまま全く変わることは無い。
男の視線を赤裸々に集めるためのものに他ならなかった。
つまりは、自ら雄どもの性的な欲求を喚起させて催させたいと望む女の志向をそのまま形にして具現化したもの。
こんなものを纏いたかったことなど一度もない。
ただ、今の自分にはこれが最も相応しいのかもしれないとも心のどこかで思う。
慣れない高さに位置する足裏の感覚に違和感を感じながら膝に体重をかけ、腰を上げていく。
すると、太ももの半ばでタイトに伸縮をするスカートの裾から、黒いシルクの下着を隠しとおせてないだろうことも了解していた。
実際、周囲を囲む数名の黒服たちの視線が、そちらに向かっているのを見るともなく把握しながら車外へ。
内心どうあれ、一切を漏れ出さすに、コツコツとヒールの音を立てながら歩きだす。
男たちはつかず離れず、それとなく守るように、あるいは逃がさぬよう固めるように、ついてくる。
たとえどれだけ下世話な視線をあちらこちらに送ってこようとも、やはり“プロ”なのだというのは察せずにいられなかった。
あのわかりやすい制服こそ纏っていないものの、こいつらは明らかにただのボディガードなどではない。
いや、兼用なのかもしれないが。
より直接的に戦闘を生業とする組織の人間の挙動であり、気の配らせ方。
私にとって最も許すべからざる『あの』企業私兵そのもの。
この世界を、私の故郷を踏みにじり、台無しにしようとする組織を代表する者たち。
そして、私がこうなってしまったすべての元凶。
“やめてーーーーっ! お願いっ、それだけは……っ。いやーーーーーーーっ!!”
思わず、固く厳重に密閉し封印したものが噴出しそうになる。
ここまで忍耐と深謀遠慮を気が遠くなるほど積み重ねて築き上げた何もかもご破算にしてでも望んでしまいそうになる、破滅的欲求。
今この瞬間、一見して油断しているコイツラに襲い掛かって、その血で因果を報わせてやれたら……。
仄かに揺らめいた赤黒い衝動の誘惑は強烈だった。
でも何とかギリギリ我慢をできたのは、恐らく仲間たちの顔、そして故郷の記憶が最後の一線を越えさせなかったのかもしれない。
まだ。
ここで台無しにするわけにはいかない。
そのためなら何でも耐えられるはずだった。
豪奢なエレベーターの扉が閉まった途端に襲ってきた、ドレスの薄布越しに片方の尻をいきなり撫で上げられる感覚さえも。
「んっ!?」
「へへへ、お姉さんイイ身体してるな? ここ最近じゃ一番の上玉だぜ」
“くぅ……っ、早速ってわけ……”
全くの予想外でも、不測の事態というわけでもなかった。
仲介者の男から、だいたいの流れは確認できていたのだ。
だからナデナデサワサワと、形を余すことなく確認されるように卑猥な手つきで触られることも覚悟のうえではあった。
ただ、どこまでも不快で嫌悪感が抑えられないというだけで。
でも拒否することだけはできない。
無防備にされるがままに受け入れて、与えられるすべてを甘んじて享受するしかない。
「う……、ん……っ! ちょ、ちょっとご挨拶じゃない? さすが世界に名だたる大企業の人たちはスキンシップも普通とは違うってこと?」
多分に皮肉を混じえた私の応答がよっぽど効果的だったらしい。
一瞬ピクリと、撫でさする手つきが固まったかと思うと、直後にさぞ愉快そうな笑い声と共に、さらに遠慮会釈ない動きへと進化する。
むにゅぅぅぅっ!
「うっ!」
柔肉を思いっきり、強く握られる感覚。
「ははは、こりゃいい! 強気でカッコイイ美人は大歓迎だぜ?」
「ククク、そうだな。アンタみたいな女はみんな大好きだ。もちろん俺らの主人も、な?」
応じるように被せたもう一人の両手が、何らの備えもしていなかった無防備な胸を背後から抱えるように握ってくる。
そして間髪いれず尻と呼応するみたいな、たっぷりと堪能するような手つきで、やはりむにゅむにゅぐにょぐにょと蹂躙が始まる。
「すっげえな、これ! こんなバカでかくて形がいいパイオツ拝んだのは初めてだぜ!」
「……っ、……っ、そ、そう。歓迎してもらえたみたいで嬉しいわ……っ」
明確な拒絶こそせずになお、否定的なものを言外に漂わせて言い放ってやる。
決して全面的に受け入れて、享楽的に喜ぶような素振りにはならないように。
“単純に演じて受け入れ切らないほうがいいかもしれない”。
仲介者たる男の助言が脳裏にリフレインする。
“いや、むしろ君の場合、ある程度は正直に拒絶と嫌悪してみせるのも手だろうな?”。
全てを嘘で塗り固めるよりも、真実の中に紛れ込ませた方がわからない。
完成度の高い欺瞞とはそういうものだと。
だから私は、せいぜい嫌々、心から軽蔑して見下すような態度を隠さずにして見せる。
「ん……っ、く……っ、歓迎の挨拶にしては十分すぎるんじゃない? そろそろお腹いっぱいなんだけど……?」
胸の先端とか、尻の中心付近の柔らかい場所とか、敏感なところを意図せぬ刺激が偶発的に襲ってくるたび、ぴくっぴくっと腹立たしい反応が生まれては消えていく。
サラッとしたドレスの生地と、乳首が不規則に接触して摺れる感じがイヤらしい。
撓んだお尻の肉が大きな変形を加えられて巻き起こる、繊細な神経の応答が止まってくれない。
そして何が一番いやかって、そんなぞんざいで洗練されたとは言い難い扱いに、肉体が読み取り励起しつつあるものの予感に他ならなかった。
必要不可欠でどうしようもない、納得ずくだといえども、コイツラみたいな男たちに、汲みだされて齎せられつつあるものを、決して認めたくはなかった。
“あー……、もう……”
私の諦めきれない、演じきれない本音の混じった、ゆえにこそ真実味の溢れる悩ましい態度を敏感に察したのか。
蹂躙し、凌辱する手つきを止めようとしないまま、己たちの優位を信じ切って疑わない男の声が響く。
「おいおい、こんくらいで音を上げてどうすんだ。本格的なボディチェックはこれからだぞ?」
最期の一言と同時に、チーンと到着を告げる音が鳴った。
まだ何も始まってすらいない。
目的の相手がいるフロアの入り口にやっと着いただけ。