♡
柔らかな朝陽が、彼の瞼を撫ぜる。カーテンの切れ間から差し込むそれを受けて、彼の意識はまどろみから引き上げられた。
隣で眠る彼女を起こすまいとするが、掴まれていた右腕がそれを許してはくれない。半ば眠ったまま、彼女も布団をもぞもぞと這い出る。寝ぼけ眼を擦りつつ、小さな眠り声を上げる彼女が、この上なく愛しく思えた。
「おはよう、フェイトさん……」
「んぅ……おはよ……」
一糸纏わぬ姿の彼女を見ていると、下半身に血が滾っていくのを感じる。朝勃ちと言い張るには苦しいものを感じた彼は、そそくさとシャワールームへ向かおうとした。
しかし、フェイトにがっちりと腕を掴まれる。彼女の腕を力尽くで振り払うこともできたのだが、それは流石に憚られた。シャワーを浴びるから、腕を放して欲しい、と口にする彼。未だ意識が覚醒しているとは言い難いフェイトは、とんでもない返答を繰り出した。
―――いっしょに、はいろ?
その日のシャワールームからは、男女の嬌声が響いていたそうな。それも、朝っぱらから。
♡♡
所変わって、ここは時空管理局のオフィスである。未だ気まずい関係が続く彼とギンガは、以前のように接することができずにいた。
しかし、煮えきらない関係はもう終わりだ。これもギンガのためだと決意を新たにし、彼女の元へと出向く彼。その姿を認めたギンガは、その場を去ろうとした。
―――そんなことはさせない!今日は……今回だけは、絶対に!
彼は去ろうとする彼女の袖を掴み、制止の声をかけた。その声色は、どこか懇願するようなものだったという。
「待ってくれ、ギンガさん」
「……っ!離してください!」
「嫌だ、離さない。……どうしても聞いて欲しい話があるんだ……。頼むよ」
俯きながら、弱々しく言葉を絞り出す彼を見て、ギンガの表情も困惑の色を秘めたものに変わる。
―――彼は、私のことが嫌いになったのではないのか?自分が攫われる原因を作り、挙句無理やり彼を犯した自分が嫌いになったのではなかったのか?
ギンガは思案する。フェイトから聞いた彼の内心とは似つかぬ態度に眉を顰めるも、彼の言葉を待った。真剣な様子の彼を無視するのは、とても嫌だったから。
自らに向き直ってくれたギンガを愛おしく思うと同時に、これから伝えなくてはならない言葉が胸に重くのしかかる。彼は、何も言わず眼前の彼女を抱きしめたくなる衝動をグッと堪え、震える声で別れの言葉を紡いだ。
「―――俺は、君のことが好きだった。……ううん、今でも愛している」
「……えっ……?」
「でも、でも……。こんな汚れた俺じゃあ、君の隣は相応しくないよな。―――今まで、ありがとう。どうか、幸せに……」
「……ま、待って!待ってください!」
「ゴメン、これ以上君を見ていると……気持ちが揺らぎそうになる……本当に、ゴメンな」
震える頬を、押し上げて隠す。目尻から零れる涙を、ギンガに見せないように努める。せめて最後は、カッコ悪い所を見られたくはなかったから。
半ば一方的に言葉を押し付け、涙を堪えながら無我夢中で走る。今はただ、ギンガのことを考えたくなかった。こんな自分を愛してくれると言ってくれた、金の髪の彼女に縋りたかった。
「フェイトさん……。俺、頑張ったよ。ギンガさんに……お別れを言ってきたんだ」
「そっか……よく頑張ったね、えらいえらい」
「うん……ありがとう……。今日は、甘えてもいいかな……」
「もちろんだよ。―――いっぱい、気持ちよくなろ?」
悲しみに濡れる彼の心は、すべてを包み込んでくれるような安らぎと温もりを求め、彼女の肢体を貪るだろう。そして、そのことに妖しく笑みを浮かべる彼女に気づくことは、決してないのだろう。
♡♡♡
心をひどく擦り減らした彼は、フェイトに泣きついた。悲しみをぶつけるように、温もりと愛を求めるように彼女を貪った。
疲れ果てた身体は意識を絶ち、眠りへと堕ちてゆく。肉欲に溺れた彼の意識は、心の深くに強く焼き付いた記憶を呼び覚ましていた。
「あぁん、あんっ♡気持ちいいっ♡とっても気持ちいいわぁん♡」
「くっ……!離……せっ!」
「もっとぉ♡もっと激しく犯してぇっ♡」
「犯され、てるの……っは……俺だろうが……っ!」
―――あぁ、これは夢だ。思い出したくもない、悪夢そのものだ。
……初めてクアットロに貪られた時のことが、鮮明に呼び起こされる。AMFの影響下においては単なる人に過ぎない彼が、戦闘機人たるクアットロに膂力で敵うはずもない。一方的に、望まぬ性行為を強いられた。
淫靡な言葉で情欲を煽り立てられ、逃げることもできずに繋がり続けた。子種の一滴すら彼女の蜜壺の外に出すことは許されず、休む間もなく腰を振られ続ける。肉体に与えられる快楽と、精神に与えられる苦痛の歪さが、彼の心身をじわりじわりと侵していった。
―――場面が、変わる。
下半身に覚えた倦怠感と不快感を拭えない彼の眼前に、恍惚とした表情を浮かべるクアットロと、その姉であるウーノが立ち構えていた。……初めてクアットロに犯された、翌日のことである。
「……これが例の彼ね」
「はぁい、ウーノ姉様ぁ。彼ったら、とっても可愛いんですよぉ?虐めてあげたら、たあっぷり喜んでくれるんですものぉ♡」
「そう……それは楽しみね」
「私の分も残しておいてくださいねぇ?もっともっと……この子を虐めたいんですよぉ♡」
「ダメよ。貴女は昨日一人だけで楽しんだのでしょう?」
―――今日は、私に譲ってもらいます。
それは、クアットロに向けていた姉としての表情とはまるで異なる、冷たい笑みだった。眼前の彼をどうやって壊そうかを思案している、凶暴な笑みだった。
たまらず身を竦ませる彼の姿を認めると、サディスティックな笑みを一層強めたウーノは、彼の眼前に跪いた。目線が合う。彼の背に、一筋の脂汗が滲んだ。
「その枷のことは、クアットロから聞いているのでしょう?でも……このスイッチのことは、聞いているかしら?」
「何を……っ!ぐおおおっ!?」
開けさせたジャケットの胸元から小さなスイッチを取り出し、彼に見せつけるウーノ。彼女がそれを操作した途端、彼の身を、再び枷の電流が焼いた。
倒れ伏し、苦痛に喘ぐ彼に馬乗りになる。どこか喜色を滲ませた声で、ウーノは彼に語りかけた。
―――このスイッチを操作すれば、彼とギンガの身に電流が流れる、と。
「ぐう……っ!ギンガ、さんは……関係ないだろ……!」
「あら、そうも行きません。貴方はタイプゼロ・ファーストの
イニシアチブを完全に握られている彼に、ウーノの言葉を無視できるハズもなかった。力なく項垂れる彼に薄らと頬を染めたウーノは、自らの蜜壺で彼の肉棒を絡め取る。クアットロとのデータリンクで彼の弱所を把握し尽くした彼女は、そのデータ通りに腰を動かした。
「ぐあ……っ!」
「ふふっ、クアットロの言うとおりね……。もっと、貴方の歪んだ顔が見たくなるわ……」
快感に抗わんとする彼の頬を、ウーノの手が撫ぜる。うっとりと自らを見つめてくる彼女に、彼は途方もない嫌悪感を覚えた。なぜなら、彼女の声はギンガのそれによく似ているからだ。ギンガを侮辱されているように感じた彼は、彼女を愉しませてなどやるものか、と反骨心を強める。
そんな彼の姿に、ますます興奮しているウーノ。彼の顔を絶望で染め上げ、心を圧し折り、自らに従順な牡にできたなら……。想像しただけでも情欲が滾り、股に熱い雫が伝う。彼との接合部にかかる力が、僅かばかり強まった。
―――こうして、スカリエッティ家の夜は更けていく。ジェイル謹製の精力剤を投与された彼は、アジトに住まう殆どのナンバーズと肌を重ねた。
里帰りしてきたドゥーエには、甘い言葉で囁かれながらも、無情な腰使いで精を貪られた。本心ではないとわかっていても、彼女の労うような言葉に、少しだけ彼の心は安らいだ。
トーレからは、戦闘行為で昂ぶった性欲を叩きつけられるかのように、ただただ肉棒としての役を求められた。互いに名を呼ぶこともなく、肉欲を満たすためだけの関係だった。
クアットロからは、ひどく歪んだ執着をぶつけられた。ナンバーズの中で彼と最も長く、多く乱れたのは彼女だったようだ。
彼の心身を傷つけることにこの上ない快感を覚えた彼女は、時間の許す限り彼の元へ顔を出し、彼と繋がった。淫靡に、偏執的に彼を貪り続けたその姿は、恋に狂った乙女のようでもあったという。
セインとは、比較的穏やかに肌を重ねた。初めは興味半分、といったところだったが、血は争えぬようだ。特に精液の熱い感触が気に入ったようで、腟内だけでなく、顔面や口内にも射精するように求められた。
最終的には彼を害する意思などではなく、純粋な愛情から彼を激しく求め続けたという。
ノーヴェとは暴力的にまぐわい続けた。姉であるチンクを戦闘不能に追い込んだスバル・ナカジマに対しての怒りを拳に乗せて、彼にぶつける。何度も、何度も。身体を動かしたことで昂ぶった性欲をも、傷つけた彼に叩きつけた。
ギンガを人質に取られているが故に抵抗できない彼を痛めつけることに、仄暗い快感と、後に大きな罪悪感を覚えるのは、また別のお話。
ウェンディとはセイン同様、比較的穏やかに肌を重ねた。こちらを気遣うような素振りすら見せる彼女を優しく抱きしめ、感謝の言葉を告げる。壊れかけていた彼の心には、確かな安らぎとなっていたから。
その結果、彼女と交わる頻度が増えたのも、また別のお話。
そして、ナンバーサーティーンこと、ギンガ・ナカジマ。スカリエッティのアジトで彼女と交わる機会は、驚くほど少なかった。……ギンガを彼と引き合わせることに嫉妬を覚える者が、少なからず居たためである。
スカリエッティの洗脳により、機械的ながらも最も強い情動が表面化した彼女が彼を求めるのは、自然なことだった。そして、それに彼が最大限の愛を以て応えることも。その結果、クアットロを筆頭に不満が続出。彼と会話させる頻度すら激減する運びとなる。
そして、地上本部へと強襲をかける前日のことだ。彼は今までに関係を持った全てのナンバーズ全員と、一度に交わった。
スカリエッティ謹製の精力剤を投与された彼も、彼女たちの獣のような肉欲をぶつけられ続けたことで、ついに心が決壊した。
彼女たちの歪んだ愛を身体中に浴び続けた彼。苦痛と疲労で心神を喪失しかけた彼を助け出した金の髪の少女が狂ったのは、ご存知のとおりである。