種無しの男が、超ハイスペックな後輩に妻の種付けをお願いする話 作:minnie_remon
陽翔が誕生してから、まだ数週間が過ぎたばかりの慌ただしくも静かな初秋の日。
衝撃的なニュースが芸能界を…いや日本全国を駆け抜けた。
『国民的女優・今井美桜、電撃結婚&妊娠を発表! 芸能活動を一時休止へ』
テレビのワイドショーもSNSのトレンドも、一瞬にして美桜の話題一色に染まり上がった。
目下3年連続でCM出演本数1位。女優界…というより女性タレント界の絶対女王に君臨し、清純派でありながら圧倒的なオーラを放つ美桜。これまで一度たりとも熱愛スキャンダルを報じられたことがなかった彼女だけに、世間に与えたダメージはあまりにも絶大だった。ファンの悲鳴と嘆きが渦巻き、世間は瞬く間に重度の「美桜ロス」状態へと陥っていた。
結婚相手については「一般男性」と発表されたが、達也には相手が誰なのか一瞬で分かった。完璧超人・悠斗と日本中を魅了するトップ女優の美桜、あまりにもお似合いすぎるカップルだと率直に思った。
達也はすぐにお祝いのメールを悠斗に送った。
すると数時間後、達也のポケット中でスマートフォンが振動した。悠斗からの折り返しの電話だった。
「もしもし達也さん!メールありがとうございます!」
スピーカー越しに聞こえる悠斗の声は、いつもの冷静沈着なトーンとは明らかに異なっていた。いつになく声が弾んでおり、誰がどう聞いても上機嫌であることが伝わってきた。
「いやあ、本当におめでたいよ。世間は大騒ぎになっているけれど、悠斗なら美桜さんをしっかり守っていけるよな」
「ありがとうございます。本当はもっと落ち着いたタイミングで公表したかったんですけど、美桜のお腹も少しずつ大きくなってきましたし、体調を最優先に考えてこのタイミングでの発表になったんです」
あの冷徹なまでの完璧主義者である悠斗が、どこか誇らしげに、饒舌に愛妻について語っている。その様子に、達也は少しだけ安堵の息をついた。
しかし、会話が美桜の妊娠の経緯に及んだ時、達也の背筋に冷たいものが走ることとなった。
「実はここだけの話、結婚はともかく妊娠に関しては、もう少し先までちゃんと避妊するつもりだったんです。美桜の仕事のこともありますし…」
悠斗は電話の向こうで、少し困ったような、しかし隠しきれない優越感を滲ませた苦笑いを漏らして。
「ですけど行為の最中にちょっとしたミスがありまして…コンドームが少しずれて、精液をほんの少しだけ彼女の中に零してしまったんです。本当に、ほんの一滴ぐらいの量ですよ?だから流石に大丈夫だろうと思ってたんですけど、なのにたったそれだけで、美桜のお腹に一発で命が宿ってしまって」
「え…?」
達也は息を呑み、言葉を失った。
たった、一滴。ほんの一滴の精液が漏れただけで、あの日本を代表するトップ女優を妊娠させ芸能活動に休止に追い込み、日本中に「美桜ロス」という大旋風を巻き起こした…
不妊症という惨めな自分と引き比べ、悠斗の持つ生命力はあまりにも強力で、凶暴すぎた。人間という枠組みを超えているとすら思える異次元の「精子力」に対し、達也は祝意を通り越して、心の底からの恐怖と畏怖を抱かずにはいられなかった。自分は悠斗の精液一滴ほどの価値ものない惨めな男だ…そんな気がした。
「…悠斗の生命力は、本当にすごいんだな」
ひきつった声でそう答えるのが精一杯の達也に対し、悠斗はさらに楽しげな声で言葉を続けた。
「美桜の出産予定日は来年の春先、3月か4月頃になる予定なんです。だから、もしかしたら陽翔くんと同学年になるかもしれませんね」
「え…同学年?」
「ええ。もし同じ学校に入って、同じクラスにでもなったら面白いですよね。遺伝上の兄弟みたいなものですし、何か不思議な縁を感じます」
悠斗はごく自然な親しみと戯れでそう口にしたのだろう。
だが、その言葉を聞いた瞬間、達也の心臓はドロリとした冷たい汗をかいた。
(……冗談じゃない)
スマートフォンを握る手に、自然と力がこもる。
もし、悠斗と美桜の間に生まれてくる「超・完璧な子供」と、自分の息子として育てる陽翔が本当に同じ学年で同じ学校に通うことになったらどうなる?ただでさえ陽翔に悠斗の影を見て怯えているのに、本物の悠斗と美桜の英才教育を受けた子が同じ環境にいたら…今度は母親である美桜と亜美の差を嫌でも比較してしまう…そんな未来が目に見えている。
頼むから同学年(早生まれ)になることだけは絶対に避けてほしい。4月2日以降に生まれて学年がズレてくれれば、同じ学校で比較されるという地獄だけは免れることができる。達也は必死で頭の中で日本の学校制度の起算日を計算しながら、胸を締め付けられるような思いだった。
「達也さん? どうかしましたか?」
「あ…いや、何でもないよ。無事に元気なお子さんが生まれることを、心から祈っているよ」
「ありがとうございます。共に子育て頑張りましょうね」
電話を切った後、達也はスマートフォンを握りしめたまま、リビングのソファに深く沈み込んだ。
自分の膝の上には、すやすやと眠る生まれたばかりの陽翔がいる。
この子の体内にも、「たった数滴でトップ女優を妊娠させる男」の血が滾々と流れている…
窓の外では、秋の冷たい風が吹いていた。完璧超人の凶暴なまでに荒々しい精子力は俺の人生だけではなく、日本社会そのものまでをも簡単に揺るがしてみせた。その事実に、達也は陽翔の小さな温もりを抱きしめながらただ戦慄するのだった。
1章はここまでです。