種無しの男が、超ハイスペックな後輩に妻の種付けをお願いする話 作:minnie_remon
週末の夕暮れ、都内にある某飲食店。
落ち着いた音楽が流れる個室で、達也は悠斗と向かい合って座っていた。
187cmの長身を上質なオーダースーツで包み背筋を伸ばして座るその佇まいは、相変わらず洗練されている。20代後半となり、学生時代よりも一層の逞しさと知識な雰囲気を纏っていた。
「達也さん、お久しぶりです。急にどうかされたんですか?大事な相談があるなんて」
悠斗のまっすぐな瞳に見つめられ、達也は息を飲んだ。プライドと羞恥心が胸の奥で激しくせめぎ合う。
だが、もう後戻りはできない。
「今日呼んだのは他でもない。悠斗にしか頼めない、一生のお願いがあるんだ…」
達也は膝の上で拳を握り締め、意を決して言葉を絞り出した。
「悠斗、単刀直入に言う。俺は…無精子症なんだ」
その瞬間、悠斗の表情から笑顔が消えた。整った眉がわずかに寄る。
「…無精子症、ですか」
達也は静かに、しかし誤魔化すことなく自らの身体の真実を打ち明けた。5年間子どもに恵まれなかったこと、先日不妊検査を受け、自分がまったく精子を持たない「無精子症」だと判明したこと。しかし妻の亜美にはどうしても自身の子どもを抱かせてあげたい、母親になるという夢を叶えさせてあげたいと。
そして、達也は深々と頭を下げて、言った。
「お願いだ、悠斗。俺たちに…悠斗の精子を提供してくれないか」
「………」
さすがの悠斗も、告げられたあまりに予想外の内容に目を見開き、一瞬言葉を失っていた。
「悠斗のように優秀で、尊敬できる男の遺伝子なら、俺も亜美も心から歓迎できる。俺たちの命をかけて、その子を愛して育てる。だからどうか…俺の願いを聞いてくれ」
「…………………」
頭を下げ続ける達也の姿を、悠斗は黙って見つめていた。その場に重苦しい沈黙が流れる。
やがて、悠斗は静かにため息をつくと、優しく達也の肩に手を置いた。
「顔を上げてください、達也さん。驚きましたけど、中学の頃からずっと僕を可愛がってくれた達也さんが、そこまで追い詰められて決意されたことです。断る理由はありません。僕の精子で良ければ、いくらでも協力します」
「悠斗…本当にか…!?」
「ええ。僕でよければ協力させてください。必要なら弁護士として法的な手続きもしっかり確認します。達也さんと奥様が幸せになれるなら、僕は喜んで力になりますよ」
「ありがとう…本当にありがとう……」
悠斗の快諾に達也は目頭を熱くし、何度も何度も頭を下げた。
………………………………………
精子提供の同意を得たものの、プロセスを進める上では避けて通れない手順があった。それはドナーとなる悠斗の不妊検査である。悠斗の精子の状態を確認することは、精子提供を行うにあたって必須なのは言うまでもなかった。
悠斗ほどの男が不妊症であるはずがない、それは達也自身確信していたが、万が一のために悠斗に精液検査を受けてもらうことにした。
当然悠斗もこれを快諾したが、いざ精液を採取する時には珍しく自分自信緊張しているのを感じていた。もし自分も不妊症だったら…という怖れが少しだけ頭をよぎった。
ところが。
悠斗の精液検査を行ったクリニックの一室では、担当医から驚きの声が漏れていた。
「な、なんだこれ……」
悠斗の精液を顕微鏡に乗せた若いの臨床検査技師は、レンズを覗き込んだまま絶句した。
顕微鏡画面いっぱいに広がるのは、恐ろしいほどの密度とスピードで蠢く精子の群れだった。あまりの密度の高さに視野が埋め尽くされ、通常のカウント用計算盤では精子数を計測することすら困難なレベルだったのだ。
「先生、ちょっとこれを見てください!希釈しないとまともにカウントできません!」
それを聞いて駆けつけたベテラン医師も顕微鏡を覗き込み、思わず息をのんだ。
「信じられない…これほど生命力に満ち溢れた検体は、何千人と診てきて一度も見たことがないぞ…」
入念な分析を経て出されたそのデータは、まさに「神の領域」とも言える異次元の数値だった。
数日後。
「悠斗の精液結果の結果が届いたよ。念のため一緒に確認しようか」
達也の目の前のテーブルには、検査結果が入った封筒が置かれていた。それを一緒に確認するべく、亜美も達也の隣に座る。
「まあ、悠斗なら全く問題無いだろうけど…」
そう言って、達也は封筒から一枚の検査表を取り出した。
そしてる着の瞬間、達也は紙面に躍る数字を目にし、完全に思考がフリーズしてしまった。
「え……」
医学的な知識に詳しい訳ではない。だがそこに記載されている数値が常識を遥かに逸脱していることだけは一目で分かった。
【精液検査結果報告書】
・精液量:13.4 ml(WHO基準値 1.5ml)
・精子濃度:3億8,000万 / ml(WHO基準値 1500万 / ml)
・総精子数:50億 9200万(WHO基準値 3900万)
・運動率:99%(WHO基準値 32%)
・正常形態率:97.5 %
一般的にWHO(世界保健機関)が定める男性の基準値では、1回の射精における精液量は1.4ml以上、精子濃度は1mlあたり1,500万以上、総精子数は3,900万以上が自然受精のボーダー数値とされている。それすらクリアできずに悩む男性が世の中には溢れているのだ。
しかし、悠斗の数字はどうだ。
精液量は基準の10倍近い13.4ml。精子濃度に到っては基準の25倍超となる3億8,000万 / ml
そして、一回の射精に含まれる総精子数は、なんと50億を超えていた。WHO基準の128倍というとんでもない数値である。
「さ、3億8000万…総精子数…50億…」
検査用紙を手にする達也の手が細かく震える。用紙の余白には、ご丁寧に医師からの手書きで『極めて異例の超高精能検体。運動性・形態ともに完璧であり、生殖能力は測定不能なほど極めて高い』と、驚きを隠せない特記事項まで添えられていた。
基準値を遥かに飛び越えた、圧倒的な生命の滾り。一回の射精の中に、地球上の人口の大半を飲み込んでしまうほどの、それも狂おしいほどの運動率を持った精子たちがひしめき合っているのだ。まさに「種無し」の達也とは対極に位置する、生物として圧倒的な「生のエネルギー」の結晶がそこには示されていた。
「な、何だよ、これ……」
達也の口から、掠れた声が漏れた。
自分は、「ゼロ」だった。顕微鏡の視野の中に、一匹の動く影すら存在しない無の世界。
一方、後輩である悠斗は「50億」。
ゼロと、50億。それは比較することすら愚かしい、あまりにも残酷な対比だった。
「ハハ……ハハハ……」
達也の喉から、乾いた笑いがこぼれ出た。
「さすが悠斗だ…何なんだよアイツ、こんな所まで完璧なのかよ…これなら本当に、一発で妊娠だよ…」
冗談めかして言ったつもりだったが、その声は惨めに震えていた。自分の存在を全否定されたような圧倒的な敗北感が、達也の胸を容赦なく押し潰す。
達也の傍らに座る亜美もまた、その数値に絶句していた。その瞳は、検査用紙に刻まれた狂気的なまでに高い数字に釘付けになり、目を離すことができなくなっていた。
「すごい…」
亜美の唇から、感嘆の声が零れ落ちた。それは意識して発したものではなく、生物としての本能が漏らした吐息のようなものだった。
(50億…一回で、50億の精子…)
亜美の脳裏に、強烈なイメージがフラッシュバックする。
自分の夫である達也は、どれだけ顕微鏡を探しても、どれだけ時間をかけても、何も見つからなかった完全な「ゼロ」の男。
一方で、これから自分の体に注がれようとしているのは、たったひとすじの雫の中に億単位の生命を宿し、どんな子宮をも一瞬で孕ませてしまいそうな「規格外」の男の精液。
いくら達也が優しく、自分を愛してくれていても、生物としての本能、オスとしての「種」の絶対的な力において、達也は悠斗の足元にも及ばない。その動かしがたい現実が、亜美の胸を激しく揺さぶった。
(これが…本当の『男』の生殖力なの…?)
頭脳、身体能力、容姿、そして何より、新たな命を宿すための圧倒的な生殖能力。
男として持てる全ての要素において、悠斗は頂点に君臨している…そう感じた。。
(すごい…本当に…)
亜美はちらりと、隣に座る夫に視線をやった。その姿は力無く肩を落とし、乾いた笑いを浮かべている。
優しくて、真面目で、自分を愛してくれる夫。けれど、子どもを作ることができない体。
口に出すことなど絶対にできない。口にしたら、夫婦としての何かが決定的に壊れてしまう。
けれど、亜美の胸の奥底で、否応なしに湧き上がってしまう感情があった。
――格が、違う。
男としての生物学的な強さ、生命力としての格差。
何も持たない夫と、全てを持っている悠斗。
これから自分は、あの「完璧超人」の、50億もの生命力をその身に受け入れる――
亜美の体中に、ゾクリとした恐ろしいほどの寒気と、今まで味わったことのない妙な高揚感が駆け抜けた。
「亜美…?」
達也の声にハッと我に返った亜美は、慌てて視線を落とし、作り笑いを浮かべた。
「あ、うん…本当にすごいね。これなら…安心だね、達也さん」
「…ああ、そうだな。安心だ」
達也はそう答えたが、その表情は陰っていた。
妻を父親にしてやるための決断だった。悠斗の優秀な遺伝子を望んだのは自分自身だった。
それなのに、目の前に突きつけられた悠斗の「規格外」とも言うべき精子力は、達也の男としての尊厳を、跡形もなく踏みにじって余りあるものだった。
こうして、完璧なドナーの準備は整った。
狂気と嫉妬、そして抗えない生命の力が渦巻く中で、二人は引き返せない禁断の第一歩を踏み出そうとしていた。