種無しの男が、超ハイスペックな後輩に妻の種付けをお願いする話 作:minnie_remon
高級ホテルの広々としたロビーで、達也は深いソファーに埋もれるように腰掛けていた。
天井のシャンデリアが放つ煌びやかな光が、今の自分にはどこまでも目障りに思えた。腕時計の針が刻むカチカチという音が、胸の動悸と重なる。
……今、亜美は、悠斗に抱かれている。
屈強な体にその身を捧げ、50億という異次元とも言うべき数の精子を体に注がれる。しかもその精子一匹一匹は、自分のような何の取り柄もない惨めな男とは違う、「完璧超人」悠斗の優秀な遺伝子を受け継ぐ強い精子なのだ…そう思うと胸が張り裂けそうな気持ちに襲われた。
屈辱に圧し潰されそうな気持ちに耐えながら、達也はじっと、終わりの時を待った。
やがて、静かな足音が近づいてきた。
顔を上げると、そこに悠斗が立っていた。
スーツの乱れは全く無く、髪型も完璧に整えられている。激しい行為を終えた直後であるはずなのに、疲労のは全く窺えない。いつも通りの佇まいは、まるで重要なビジネスの商談を終えて戻ってきたかのようだった。
「達也さん」
悠斗は静かに達也の前のソファーに腰を下ろすと、落ち着いたトーンで切り出した。
「予定通り、滞りなく精子提供を終えました」
「あ…ああ。そうか…ありがとう、悠斗」
達也の声は掠れていた。安堵と、言葉にできない惨めさが混ざり合い、まともに悠斗の顔を見ることができなかった。
悠斗はそんな達也の様子を特に気に留める素振りもなく、言葉を続けた。
「万が一今回で妊娠に到っていなかった場合は、遠慮なく言ってください。何度でも再び精子提供に応じますから」
そして、自信に満ちた笑みを浮かべながら。
「もっとも、2回目を行う心配はしなくていいと僕は思っていますけどね」
その言葉には、一切の嫌味もなかった。自らの規格外の精子力に対する、純粋で絶対的な自信から出た言葉だった。
(2回目を行う心配は、しなくていい…か)
達也の胸の奥で、ズキリと鋭い痛みが走る。
自分は一度として、妻を妊娠させられる可能性すら持てなかった「ゼロ」の男だ。それに対し、目の前の男はたった一度の行為で確実に亜美の体内に命を宿してみせると断言している。
頭脳、容姿、社会的地位、そして男としての根本的な生命力。何ひとつとして悠斗に勝てる要素が見当たらない。押し寄せる猛烈な劣等感に吐き気がしそうだったが、達也は必死でそれを奥歯で噛み殺した。
「…ハハ、頼もしいよ、本当に。心から感謝する、何から何まで、改めて礼を言うよ。ありがとう」
「いえ。僕にできることで達也さんたちの力になれたなら光栄です。それでは僕は午後の裁判の準備がありますので、これで失礼します」
悠斗はスマートに立ち上がると、一礼して去っていった。その背中はどこまでも神々しく達也には見えた。
………………………………………
悠斗が去ってからしばらくして、エレベーターホールの方から亜美がゆっくりと歩いてきた。
亜美の足取りはどこか覚束なく、顔色は青白かった。達也は弾かれたように立ち上がり、妻のもとへと駆け寄った。
「亜美!大丈夫か!?」
達也が肩を支えると亜美はびくっと身体を震わせ、力なく達也を見上げた。その瞳にはまだ涙の痕が残り、表情には言葉にできない困憊が滲み出ていた。
「達也さん…」
「顔色が悪いぞ…何があったんだ?大丈夫だったか?」
心配のあまり矢継ぎ早に尋ねる達也に、亜美は視線を泳がせながら、小さく震える声でつぶやいた。
「うん…大丈夫。ただ…悠斗さんのは、すごく大きくて…すごく痛かったけど…優しくしてくれたから…」
その言葉が、達也の胸に鋭く突き刺さった。
――大きくて、痛かった。
亜美は何の意図もなく、自らが体験した事実をただ口にしただけだった。だが達也の脳裏には、妻が自分以外の男の…しかも「規格外の肉体」をその身に受け入れた…受け入れさせられたという生々しいイメージが嫌でも広がる。
自分との夫婦生活では、亜美が痛みに悶えることなどなかった。
(そうか…男としての器も、モノの大きさすらも、あいつは完璧なのか…)
悠斗は男としてのシンボルすらも、自分とは比べ物にならないほどの雄大なサイズを誇っているのだ。だが悠斗のような男なら、男性器すらも特別なモノを持っているのは当然だろう…そんな諦めにも似た敗北感が、達也の心をじわじわと蝕んでいく。俺なんかとは何から何まで違うんだ…と。
だが、妻の前でそんな惨めな嫉妬を見せるわけにはいかなかった。
「…そうか、痛かったか。ごめんな、亜美。俺が不甲斐ないばかりに、辛い思いをさせて…」
「ううん、違うの。達也さんが謝ることじゃないよ…」
亜美は達也の胸に顔を埋めた。しかし、その身体の震えはすぐには止まらなかった。亜美の記憶の中に刻まれたのは悠斗の「優しさ」などではなく、自分を冷酷に支配した圧倒的な力と痛みの恐怖だったのだが、それを夫に詳しく伝えることは流石にできなかった。
こうして、運命の一日は終わった。