馬車の扉が内側から開いた。
「——セフィ様」
銀髪の騎士が背筋を伸ばした。他の三人も同時に姿勢を正す。空気が変わった。広場に満ちていた緊張が、別種のものへと置き換わる。
馬車の中から白い手が伸びた。細く、長い指。光を受けて淡く輝くような肌。続いて、深紅のドレスの裾が揺れる。そして——
「ご苦労さま。少し、外の空気を吸いたくてね」
柔らかな声だった。低すぎず高すぎず、耳の奥に染み込むような声。俺は思わず息を呑んだ。
現れたのは、一人の女性だった。
長いピンク色の髪が風に流れる。紫色の瞳が、まっすぐに俺を捉えている。ドレスから覗く胸元は豊かで、腰は驚くほど細い。だがそれ以上に——
(——顔が見えない)
彼女の顔の上半分は、薄いヴェールで覆われていた。白く透ける布の向こうに、端正な顔立ちの輪郭がぼんやりと浮かぶ。ヴェール越しでも分かる。この人は、美しい。
「この方が?」
セフィと呼ばれた女性が、銀髪の騎士に問いかけた。
「はい。国境付近を単独で歩いていた男です。身元はオスタニアの市役所に登録済みと申しておりますが——」
「結構。あなた、下がっていて」
セフィは騎士を下がらせると、自ら俺の前に歩み寄った。ドレスの裾が石畳を擦る音。靴音はしない。まるで滑るように歩く。
「久世生真さん。…そう呼んでいいかしら」
「え、あ、はい」
俺は咄嗟に背筋を伸ばした。相手が誰かは分からない。だが、只者でないことだけは確かだ。この立ち居振る舞い。この空気の支配力。王族か、それに準ずる地位の人物。
「私はセフィ・ミカエラ・デビルーク。西方魔導諸国の一つでこの王妃を務めています」
「王妃——!?」
声が裏返った。王妃。この人が、一国の王妃。
「そんなに驚かなくても」
セフィは小さく笑った。ヴェールの下で、唇が柔らかく弧を描くのが見えた。
「中央連邦の人間が西方の王妃に会うのは珍しいでしょうけれど、私は今、個人的な用事でこの辺りを訪れていたの。娘の様子を見にね」
「娘さんがオスタニアに?」
「ええ。色々あって、ね」
セフィは言葉を濁した。だがその声音に母親としての愛情が滲んでいた。俺には分かる。救助隊時代、子供を守ろうとする親の声を何度も聞いてきたから。
「それで、あなたに会いたかったの」
「俺に?」
「ええ」
セフィが一歩近づいた。ほのかに花の香りが漂う。ヴェール越しの紫色の瞳が、俺をじっと見つめている。
「あなた、この世界の人間じゃないでしょう」
心臓が跳ねた。
「——」
言葉が出ない。否定も肯定もできず、俺はただ立ち尽くした。
「安心して。私はあなたを捕まえに来たわけじゃない。ただ、確かめたかっただけ」
セフィは俺の耳元に顔を寄せた。ヴェール越しの吐息が、首筋にかかる。
「この世界の生命力が枯れていく中で、あなただけが持つ異常なほどの生命力。それを、この目で見ておきたかったの」
(なぜ、それを)
俺がこの世界に来てから、まだ数日。生命力が高いことは自覚している。だがそれを外部の人間に知られるような行動は取っていないはずだ。
「あなたが市役所で登録された時、生命力の測定値が異常に高かったのよ。オスタニアの上層部はすぐに把握した。…そして、その情報は国境を越えて私のところにも届いた」
「情報網が、そんなに」
「王妃という立場は、そういうものよ」
セフィは一歩下がり、俺を上から下まで見渡した。
「それで、実際に会ってみて分かったわ。あなたこの世界の男性とは何かが根本的に違う」
「違う、とは」
「生命力が高いだけじゃない。…男としての、欲求が」
ドキリ、と心臓が鳴った。
「この世界の男たちは、もう女を抱く気力を失っている。生命力が枯渇して、子孫を残す行為すら義務のようにこなすだけ。でもあなたは——」
セフィの声が、少しだけ熱を帯びた。
「女を抱きたいと、心から思える男なのでしょう」
(なぜ、それを)
美智代さんとのことをこの人は知らないはずだ。なのに、まるで見てきたかのように言う。
「私はチャーム人の末裔。人よりも、生命の流れを敏感に感じ取れるの。あなたの体から溢れる生命力は、まるで太陽のように温かい。…そして、その生命力が向かう先もなんとなく分かる」
セフィは俺の胸に手を当てた。白い指が、シャツ越しに心臓の位置を捉える。
「あなたの生命力は、女へと注がれることを求めている。違う?」
「——」
答えられなかった。図星だったからだ。この世界に来てから、俺は確かに女性を求めている。美智代さんと肌を重ねた時の感覚が、まだ体に残っている。
「王妃として、一国の代表としてではなく一人の女として言うわ」
セフィがヴェールを、そっと持ち上げた。
「私を、あなたの生命力で満たしてほしい」
ヴェールの下から現れた素顔に、俺は息を呑んだ。
——美しい、という言葉では足りない。
透き通るような白い肌。紫色の瞳が宝石のように輝いている。形の良い鼻筋、柔らかそうな唇。年齢を重ねた大人の女性だけが持つ、成熟した色気。それでいて少女のような可憐さも残っている。
「——っ」
頭がくらくらした。彼女の美貌は暴力に近かった。見ているだけで意識が持っていかれそうになる。これが、チャーム人という種族の力なのか。
「素顔を見ても、理性を失わないのね」
セフィが驚いたように目を見開いた。
「普通の男なら、私の顔を見た瞬間に理性を捨てて飛びついてくる。…あなたは違う。強いのね」
「強い、というか」
俺はようやく声を絞り出した。
「王妃を、そんな目で見るわけにはいかないでしょう」
「ふふ」
セフィが笑った。鈴を転がすような、それでいて艶やかな笑い声。
「本当に、変わった人。…ますます気に入ったわ」
* * *
結局、俺はセフィの馬車に乗せられた。
「中央連邦の許可は?」
「後で私が話をつけるわ。心配しないで」
有無を言わさぬ笑顔だった。銀髪の騎士——名前はザスティンというらしい——が渋い顔をしていたが、セフィの決定に逆らえる者はいなかった。
馬車の中は、外からは想像できないほど広かった。座面は柔らかな革張りで、小さなテーブルには果実酒とグラスが置かれている。魔導具による空間拡張が施されているのだと、セフィが教えてくれた。
「オスタニアの技術と、西方の魔導を組み合わせたの。快適でしょう?」
「ええ、まあ」
落ち着かない。隣にセフィが座っているからだ。ドレスの裾が俺の脚に触れている。ほのかに漂う花の香り。ヴェールは再び下ろされているが、それでも彼女の存在感は圧倒的だった。
「緊張しているの?」
「当然です。一国の王妃と二人きりで馬車に乗っているんですから」
「堅苦しいわね」
セフィは果実酒をグラスに注いだ。琥珀色の液体が、揺れる。
「あなた、名前は生真、だったわね。イクマと呼ばせて」
「どうぞ」
「イクマ。あなたは、この世界のことをどれだけ知っている?」
「ヨルさん——保護してくれた人から、基本的なことは。星命樹の衰弱生誕不全症候群、人口減少。それと…」
「それと?」
「この世界の男女の営みが、独特だということ」
セフィはグラスを傾けた。一口含んで、ゆっくりと喉を鳴らす。
「独特、という言葉で片付けるのね」
「他に何と言えば」
「そうね。…狂っている、とか?」
図星を突かれて俺は言葉に詰まった。セフィは俺の反応を見て、小さく笑った。
「隠さなくていいわ。私も、この世界のあり方は狂っていると思っている。生命力が減り、子供が生まれず男は男と交わることで安堵を得る。…本来の生命の形じゃない」
「ではなぜ、王妃であるあなたが」
「変えたいからよ」
セフィの声が、少し強くなった。
「この世界の生命循環を、正常に戻したい。そのためにあなたの力が必要なの」
「俺の、生命回帰が」
「そう。星命樹の枯死を食い止め、生誕不全症候群を治す鍵。…各国の上層部は、あなたの存在をすでに把握している。オスタニアも、西方も東方も、北部もそして聖樹中立領も」
「そんなに早く」
「情報は、生命力と同じくらい速く流れるのよ。特にこれほど重要な情報は」
セフィはグラスを置き俺の方へ身体を向けた。ドレスの胸元が、わずかに開く。白い肌が馬車のランプの光を受けて輝いた。
「イクマ。私は王妃としてではなく、一人の女としてあなたを求めている。…でも、それだけじゃない」
「どういう意味ですか」
「あなたの力を、私の国に引き入れたいの。デビルーク王国の、正式な客員として」
「客員?」
「ええ。表向きは、生命学研究の協力者。実際は——」
セフィは俺の手を取った。ひんやりとした、しかし柔らかな手。
「私の、パートナーとして」
「パートナー」
「そう。この世界の生命循環を正常に戻すための、協力者。そして私という女を満たす、唯一の男」
セフィの紫の瞳が、まっすぐに俺を見つめていた。ヴェール越しの視線が、熱を帯びている。
「夫はいるわ。でも、彼はもう何年も私を抱いていない。生命力が枯渇して、男としての機能を果たせなくなっているから」
「それで、俺を」
「ええ。…あなたの生命力が、欲しいの」
セフィは俺の手を自分の胸元へと導いた。ドレスの上から、豊かな胸の感触が伝わる。心臓の鼓動が手のひらに響いた。
「触れて。もっと、私を感じて」
「セフィさん——」
「王妃、なんて呼ばないで。今はただの女よ」
俺の理性が、音を立てて崩れていく。
(この人は、王妃だ。手を出せば国際問題になる)
(でも——)
(この世界で、唯一俺を必要としている女)
美智代さんの時と同じだ。この世界の女性たちは、生命力に飢えている。そして俺はその飢えを満たせる唯一の存在。
セフィの唇が、俺の耳元に近づいた。
「イクマ。私を、あなたで満たして」
その言葉が、最後の理性を吹き飛ばした。
俺はセフィの肩を掴み引き寄せた。ヴェールを押し上げ、その下の唇に自分の唇を重ねた。
「んっ——」
セフィの小さな悲鳴が口内に消える。柔らかな唇。果実酒の味。そして、彼女自身の甘い味。
舌を差し入れると、セフィの舌が絡んできた。最初は戸惑うように、次第に激しく。まるで何年も忘れていた感覚を思い出すかのように。
「ふ…ぁ…」
唇を離すと、セフィの口元から銀色の糸が引いた。紫色の瞳が、潤んでいる。
「すごい…。たったキスで、こんなに」
セフィは自分の胸に手を当てた。ドレスの下で、心臓が激しく脈打っているのが分かる。
「イクマの生命力が、流れ込んでくる。温かい。…体中が、満たされていく」
「まだキスだけですよ」
「ええ。…だから、もっと欲しい」
セフィは自分からドレスのファスナーに手をかけた。金属の歯が、音を立てて開いていく。
「セフィさん、ここは馬車の中です。外に騎士が」
「ザスティンは気を利かせるわ。それに——」
ドレスが肩から滑り落ちた。
「この馬車の中は、防音の魔導具で守られているの。外には何も聞こえない」
白い肌が、ランプの光の下に露わになった。豊かな胸を包むのは、繊細なレースの下着。細い腰。そして——
「イクマも、脱いで」
セフィの手が、俺のシャツのボタンに伸びた。一つずつ丁寧に外していく。その手つきは、まるで儀式のように神聖だった。
「あなたの体、見せて」
シャツが脱がされ、素肌が露わになる。救助隊員として鍛えた体。無駄のない筋肉。そして、セフィの視線が俺の下半身へと向かった。
「——大きい」
セフィが息を呑んだ。ズボンの上からでも分かる、俺の勃起。
「これが、この世界の男たちに欠けているもの…」
「セフィさん」
「触っていい?」
セフィの白い手がズボンの上から俺のペニスに触れた。指先が、硬い隆起をなぞる。
「熱い。…生命力が、ここに集まっている」
「っ——」
セフィの手が、ゆっくりと動き始めた。ズボンの上からペニスの形を確かめるように。優しく、それでいて確かな刺激。
「気持ちいい?」
「ええ…でも」
「でも?」
「セフィさんの方が、もっと気持ちよくさせたい」
俺はセフィの手を止め、彼女の身体を座面に押し倒した。ドレスの下から覗く、白い脚。その奥のレースのショーツ。
「イクマ——」
「王妃を、こんな格好にさせて。すみません」
「謝らないで。…私が望んだことよ」
セフィの脚がゆっくりと開かれた。ショーツの中心に、小さな染み。すでに濡れている。
「見ないで。…こんなに濡らして」
「見ます」
俺はショーツに手をかけ、ゆっくりと下ろした。現れたのは薄く整えられたピンク色の茂み。そして、その奥の花弁。
「——綺麗だ」
「や、やめて。そんなにじっと見ないで」
セフィが顔を赤らめた。だが脚は閉じない。むしろ、もっと開こうとしている。
「イクマ。…早く」
「焦らなくても」
俺はセフィの秘部に顔を近づけた。花の香りの中に、女性特有の甘い匂いが混じる。舌を伸ばし花弁をそっと舐めた。
「あっ——!」
セフィの腰が跳ねた。両手が、俺の頭を掴む。
「そこ、だめ…感じすぎる…」
「まだ始まったばかりですよ」
舌で花弁をなぞりクリトリスを探り当てる。小さな芽を、優しく転がす。
「ひぁっ、あ、あ——」
セフィの声が、抑えきれずに漏れる。脚が震え腰が浮く。それでも、俺は舐めるのを止めない。
「イクマ、イクマ——」
セフィの手が、俺の髪を掴んだ。強く引き寄せるように。
「もう、無理。…入れて。早く」
「本当にいいんですか」
「いいから。…私の中に、あなたの生命力を」
俺は顔を上げセフィの上に覆いかぶさった。ペニスの先端を、濡れた花弁に当てる。熱い。セフィの体温が、直接伝わってくる。
「セフィさん」
「セフィでいい」
「——セフィ」
腰を進めた。狭い。だが、潤いが十分でゆっくりと俺を受け入れていく。
「あぁ——」
セフィの背中が反った。紫色の瞳が、大きく見開かれる。
「入ってくる…。イクマのが、私の中に」
「痛くないですか」
「痛くない。…すごく、いい」
セフィの内壁が俺のペニスを締め付ける。まるで、離すまいとするかのように。
「動いて。…私を、めちゃくちゃにして」
その言葉に、俺は腰を動かし始めた。ゆっくりと確実に。セフィの奥を、突くように。
「あ、あ、あ——」
セフィの声がリズムを刻む。俺の動きに合わせて、彼女の腰も揺れる。
「イクマ、イクマ、イクマ——」
「セフィ——」
互いの名前を呼び合う。馬車の中に、肌と肌がぶつかる音が響く。パンパン、パン——。
セフィの胸が揺れる。豊かな乳房が俺の動きに合わせて波打つ。その先端の乳首は、硬く尖っている。
「触って。…胸も」
俺は片手でセフィの胸を揉みしだいた。柔らかな感触。それでいて、張りのある弾力。
「あっ、それ、好き——」
セフィの内壁が、さらに締まった。俺のペニスを奥へ奥へと誘う。
(この人、本当に生命力に飢えているんだ)
(俺の力が、セフィを満たしている)
その事実が、俺の興奮をさらに高めた。
「セフィ。…そろそろ」
「いいわ。中に、ちょうだい」
「でも」
「王妃の許可よ。…あなたの生命力、全部私に」
セフィの脚が俺の腰に絡みついた。逃がさない、というように。
「イクマ。…愛してる」
その言葉で、限界が来た。
「——っ!」
俺はセフィの最奥に、精を放った。熱い奔流が彼女の中に注がれる。ビクビクと脈打つペニス。それに合わせて、セフィの内壁も収縮を繰り返す。
「あぁ——」
セフィの全身が、大きく震えた。背中が弓なりに反り爪先までピンと伸びる。そして——
「——っ!」
セフィが達した。内壁が激しく痙攣し、俺のペニスを搾り取る。
「はぁ…はぁ…」
馬車の中に、二人の荒い呼吸だけが響く。俺はセフィの中にペニスを埋めたまま、彼女の上に覆いかぶさっていた。
「すごい…」
セフィが、消え入りそうな声で言った。
「こんなの、初めて。…体中が、温かい。あなたの生命力が私の全部を満たしている」
「セフィ」
「イクマ」
セフィの手が俺の頬に触れた。紫色の瞳が、涙で潤んでいる。
「ありがとう。…私、もう一度、女になれた」
その言葉に、俺の胸が熱くなった。この世界の歪み。生命力の枯渇。そして、それに苦しむ女性たち。俺は——俺だけが彼女たちを救える。
「セフィ。…俺でよければ、何度でも」
「ええ。…これからも、よろしくね」
セフィは微笑んだ。ヴェールのない素顔の笑顔。それは、一国の王妃ではなく一人の女の、心からの笑みだった。