「はぁ……はぁ……」
寝室に、二人の荒い呼吸だけが満ちていた。
シルクのシーツはぐちゃぐちゃだ。汗と体液の染みが幾重にも重なり、本来の色が分からないくらいになっている。俺はセフィの中からペニスを抜いた。ぬぽり、という粘り気のある音が、静かな部屋にやけに大きく響く。
「んっ……」
セフィが小さく身をよじった。抜けた空洞を惜しむように、太腿がわずかに擦れ合う。
白濁した液体が、彼女の秘部からゆっくりと溢れ出していた。
「……すごい」
セフィがぼんやりと天井を見上げながら呟いた。
「お腹の中が、温かい。…まるで、太陽を飲み込んだみたい」
セフィは自分の下腹部に両手を当てた。白い指が、僅かに膨らんだ下腹を優しく撫でる。そこには、俺が注ぎ込んだものが確かに存在している。
(……本当に、すごい量だったな)
俺も正直、驚いていた。生命回帰の影響なのか、この世界に来てからというもの、精液の量が異常になっている。一回の射精で、通常の数倍は出ているのではないか。
「イクマ」
セフィが俺の方を向いた。紫色の瞳が、さっきまでの快楽に溶けた焦点を取り戻し、穏やかな光を宿していた。
「ありがとう。…久しぶりに、女になれた気がする」
「セフィ……」
「嘘じゃないのよ。本当に、そう感じた」
セフィは俺の手を取った。白い指が、俺の掌を包み込む。その手は、まだ少し震えていた。絶頂の余韻が、まだ身体の中に残っているのだろう。
「ねえ、分かる?」
セフィが俺の手を、自分の下腹部へと導いた。
「ここに、あなたの生命力が溜まっているの。…温かいでしょう?」
掌から伝わる感触。確かに温かかった。セフィの下腹から、じわりとした熱が俺の手のひらに伝わってくる。生命回帰が、セフィの体内で静かに循環を始めている感覚。
「……ええ。分かります」
「この感覚、忘れたくない」
セフィは俺の手を下腹から離さないまま、上体を起こした。長いピンク色の髪がシーツの上に広がる。白い肌には、まだ事後の紅潮が残っていた。豊かな胸が呼吸に合わせてふるりと揺れる。
「イクマ。あなたは、これからもこの世界で生きていくのよね」
「……ええ。元の世界に帰る方法も分からないし、当面は」
「なら」
セフィが俺の頬に手を添えた。紫色の瞳が、真剣な光を帯びる。
「私の国だけでなく、この世界全体を見て回りなさい。あなたの力は、デビルーク王国だけのものじゃない。もっと多くの人を救えるはず」
「それは、俺が各國を回れと?」
「ええ。西方の魔導諸国、東方の六州、北部の機工連盟、南方の魔族領。…どこも生命力の枯渇に悩んでいる。あなたの生命回帰が、その鍵になる」
「大きな話ですね」
「大きいわよ。でも」
セフィは微笑んだ。ヴェールのない素顔の笑顔。それは一国の王妃のものではなく、一人の女のものだった。
「あなたならできる。私が保証する」
その言葉の重さに、俺は押し黙った。
(できるのか、俺に)
(ただの救助隊員だった俺に、この世界を救えって?)
(……いや、考えるのは後だ。今は——)
セフィが俺の頭を引き寄せた。
白い胸元に、俺の顔が埋まる。柔らかい感触。甘い香り。心臓の鼓動が、直接耳に伝わってくる。
「んっ……」
セフィの指が、俺の髪を梳くように撫でた。ゆっくりと、丁寧に。まるで子供をあやすような手つき。
(……俺、二十五歳なんですけど)
(母親みたいに撫でられても、嬉しいというか、申し訳ないというか)
だが、抗う気力はなかった。セフィの体温と匂いに包まれて、身体の中の緊張が溶けていく。救助隊時代の待機中にも、先輩に頭を撫でられて安心したことがあった。これも、あれと同じようなものか。
(……いや、全然違うな)
「イクマ」
セフィの声が、頭上から降ってくる。胸の振動と共に。
「あなたに出会えてよかった。この世界に流れ着いてくれて、ありがとう」
「それは、俺が言う台詞です。助けてもらったのは俺の方だから」
「ふふ。お互い様、ね」
セフィの腕が、俺の背中に回された。しっかりと、抱きしめられる。豊かな胸が俺の顔に押し付けられ、太腿が俺の腰に絡みつく。
「ねえ、イクマ」
「はい」
「これからのことは、ゆっくり考えましょう。今日は……もう少しこのまま」
「……はい」
俺は目を閉じた。
セフィの鼓動が、耳元でトクトクと鳴っている。下腹の温かさが、俺の掌から伝わってくる。生命回帰が、二人の間で静かに循環している感覚。
(この世界は狂っている)
(生命力が枯渇し、子供が生まれず、女を抱くことが変態と呼ばれる)
(でも)
(この腕の中の温もりは、嘘じゃない)
(この世界の女性たちが求めているものを、俺だけが与えられる)
(なら——)
俺はセフィの背中に手を回し、抱き返した。
「……ありがとう、セフィ」
「ええ。…おやすみなさい、イクマ」
二人の呼吸が、ゆっくりと重なっていく。
寝室の魔導ランプが、ふっと光度を落とした。まるで、二人の眠りを促すかのように。