「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸だけが、薄暗い部屋に響いている。
汗と体液の生臭い匂いが充満し、粘りつくような熱気が肌にまとわりついていた。
繋がっていた箇所がプッと離れると、ドロリとした白濁液が俺のペニスからトロトロと溢れ出し、床にシミを作っていく。
俺のペニスはまだ半勃ち状態で、ヨルさんの愛液と俺の精液が混ざり合ったどす黒い体液でテラテラと光っている。
対するヨルさんは、俺の腹の上でグッタリと脱力していたかと思うと、突然、ガバッと上半身を起こした。
その顔から、さっきまでのトローンとした発情期のメスの表情が一瞬で消え失せた。
代わりに浮かんだのは、炭酸が抜けたソーダのように真っ青な顔色だった。
「わ、わわわわ私っ!! 何をっ……!!?」
彼女の赤い瞳が、釘穴のように見開かれる。
俺の胸板に手をつき、自分のしたことを遅れて理解したらしい。
彼女は寿司屋の板前のように敏捷な動きで俺から飛び退くと、今度は床に額を擦り付けんばかりの勢いで土下座した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! とんでもないことをっ! 無理やりっ! 初対面の方をっ! 奪っちゃって!!」
ガンガンガンッ!
床板が裂けるほどの勢いで額を打ち付ける音が響く。
(いや、床が抜けるって! このアパート古いからマジで抜けるって!)
「襲っちゃって! 奪っちゃって! 私ってば人の理性も獣以下ですぅぅぅ!! どうか殺さないで! 訴えないで! あ、でも責任は取ります! 取りますから! 結婚もします! ああっ、でも私旦那さんがいて……い、違う、その、ないんです! 旦那は幻ですぅぅぅ!!」
パニックになったヨルさんの口から、わけのわからない言い訳が早口でまくし立てられる。
震えるお尻を丸出しにして、土下座して謝り続ける美女。
そのお尻の谷間から、俺の注ぎ込んだ精液がヌルリと垂れ落ちている様は、シュールを通り越して喜劇だ。
俺はというと、ズボンを膝まで下げたまま、半開きになった口をポカンとさせてその光景を眺めていた。
正直なところ、怒りなんて微塵も湧いてこない。
むしろ。
(役得すぎるだろ……)
童貞25年の哀れな筋肉ダルマが、異世界に流されて着いた先が、超絶美人のマンコの中だぞ?
しかもナマで、しかも中出しフィニッシュだ。
怒るどころか、神に感謝したいくらいである。
「あの、ヨルさん」
「はいぃっ! なんでも言います! 奪ったものは返します! えっと、あの、精力とかなら、返せないですが、変わりにっ……!」
ビクッと肩を震わせて、彼女が顔を上げた。
涙目で、顔中汗と精液とよだれでぐしゃぐしゃだ。
「いや、返さなくていいです。ていうか、返しようがないですし」
俺はズボンを引き上げながら、彼女に向かって深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
「……はい?」
ヨルさんの涙が止まった。
ポカンと口を開け、床にへばりついたまま間の抜けた声を出す。
「いや、俺、こういうの経験なくて。それが、こんなに綺麗な人と……しかも気持ちよかったし。むしろ役得だと思ったんで、こっちが感謝してもらった方がいいくらいです」
「……役得……感謝……ですか?」
彼女は呆然とつぶやき、まばたきをした。
土下座していた体をゆっくりと起こし、俺を見つめるその瞳は、未知の生物を見るかのような眼差しだった。
「襲われて、感謝する男がいるなんて……変ですよ、生真さんは……」
「変でいいんです。事実、すげえ気持ちよかったんで」
俺がニヤリと笑うと、ヨルさんは顔を真っ赤にして、慌てて自分の裸体を隠すように身を縮めた。
さっきまでの猛獣はどこへやら。
「…実は、俺、ここの世界の人間じゃないんです」
ズボンのボタンを留めながら、俺は切り出した。
ヨルさんは床に散らばった服を拾い集めながら、手を止めてこちらを見る。
その瞳はまだ少し潤んでいて、俺の言葉の意味を理解するのに数秒かかったようだ。
「え…? ここの、世界…?」
「はい。俺のいた場所は、ここじゃない。さっきも言いましたけど、信じてもらえないかもしれませんが…濁流に飲まれて、気づいたらこの街の海岸に打ち上げられてました。俺は、異世界から来た漂流者なんです」
俺は左手首に巻いた赤い布を指でなぞった。
故郷との、唯一の繋がり。
嘘で誤魔化すつもりはないし、そもそもこの異常な状況下で嘘をついても仕方がないだろう。
ヨルさんは、俺の顔と、俺の股間の方を交互に見た。
そして、何か納得がいったように、ポンと手を打った。
「なるほど…! それで、あんなに元気で、熱くて…生命力が溢れていたんですね!」
「えっ、ああ…まあ、そうですが」
納得の方向性が、予想とは少し違った。
だが、彼女の反応に違和感を覚え、俺は首を傾げる。
「あの、ヨルさん。異世界人だって話より、俺の元気さに納得した感じですか?」
「だって、この世界の男性って、あまり…その、元気じゃないですから」
彼女はブラジャーをホックで留めながら、少し恥ずかしそうに俯いた。
「元気じゃない?」
「はい。生誕不全症候群…って、知ってますか? 最近、世界全体で生命力が低下していて、男の人も女の人も、元気がなくなってるんです。特に男の人は、その…性欲も薄くて…」
彼女はスカートのファスナーを上げながら、遠くを見るような目で語った。
「私の周りでも、夜のことを求める夫は少ないって聞きます。そもそも、妊娠が難しいから、行為自体が希薄になってるんだそうです」
(性欲が薄い…? 男が?)
俺のいた世界じゃ、男は皆ヴァイアグラも真っ青の発情期みたいなもんだと思ってたが、こっちは違うらしい。
確かに、さっきのヨルさんの反応を見てると、飢えたように俺に貪りついてきた。
あれは、ただの性欲じゃなくて、枯渇した大地が水を吸うような、生存本能に近い渇望だったのかもしれない。
「私の、夫も…」
ヨルさんはぽつりと呟いた。
「ロイドさんは、優しい方なんです。でも、夜のことには…その、あまり積極的じゃなくて。月に一度、あるかないか…で、その時も事務的というか…」
彼女の顔に、寂しさと、それを必死に押し殺そうとする健気さが混じる。
(ああ、なるほど。それであんなに飢えてたのか)
可哀想に。
嫁がこれだけの絶世美女なのに、月に一度の事務的セックスだなんて、もったいないお化けもびっくりだ。
俺なら毎晩でも食らいついてやるのに。
いや、俺は余所者だし、口出しする筋合いはないが。
「だから、生真さんがあんなに激しく求めてくれるのって、すごく新鮮で…嬉しかったんです。異世界の男性は、生命力が違うんですね」
彼女は上着を羽織りながら、俺に向かって微笑んだ。
その笑顔には、隠しきれない女としての満足感が滲んでいた。
「ここは、随分と過酷な世界みたいですね」
俺は苦笑するしかなかった。
性欲まで衰退する世界だなんて、俺には地獄に等しい。
「あの…生真さん」
服を着終え、少し落ち着きを取り戻したヨルさんが、上目遣いで俺を見た。
その頬にはまだ赤みが残り、先ほどまでの痴態を物語っている。
「私の、友人たちも…その、かなり悩んでるんです。同じように、夜のことで」
彼女はモジモジと指を絡めながら、爆弾発言を投下した。
「もしよければ…友人たちにも、生真さんを紹介してもいいですか?」
「……はい?」
俺は間の抜けた声を漏らした。
紹介。
友人に。
つまり、俺のこの溢れる生命力と、元気なチンコを、他の女たちにもシェアしろってことか?
(マジかよ。なんて恵まれた…いや、なんて過酷な世界なんだ!)
俺の脳内で、天使と悪魔が同時に歓喜の声を上げた。
童貞25年の哀れな筋肉ダルマが、異世界で種馬扱いとは。これぞまさしく、男の夢のまた夢だ。
だが、俺は少し悩んだ。
左手首の赤い布を指で弄びながら、元の世界へ帰る手段を考えていた。
いつまでもこの甘美な地獄に浸っているわけにはいかない。俺には帰るべき場所があり、救えなかった人々への責任がある。
性の悦びに溺れて、帰還の目的を見失ってしまう危険性もある。
「ヨルさん…俺は、いつか元の世界へ帰れるなら帰りたいと思ってるんです。だから、あまり深くこの世界に関わりすぎるのは…」
俺の言葉に、ヨルさんの顔がサッと曇った。
捨てられた子犬のような、絶望的な色がその瞳に浮かぶ。
「そ、そうですよね…異世界の方だし、私たちのような枯れた世界の女なんか、ただの性欲処理にしか…」
「いや、そういうわけじゃ!」
俺は慌てて手を振った。
彼女の自已否定が半端ない。この世界の女性たちは、生命力の低下と男性の冷え込みによって、どれほど自信を失っているのだろう。
「ただ、身分証も財産もない俺が、この街で生きていくには…何かしらの対価が必要だと思って」
俺は正直に言った。
元の世界へ帰るための情報も、旅費も、この世界の通貨も必要だ。
タダでセックスして暮らすわけにはいかないし、かといって正規の仕事に就ける身分でもない。
(報酬として、体を求める…それって、もう売春の仲介だよな…)
ヨルさんもそのことは理解しているはずだ。
彼女は市役所の職員であり、真面目な常識人だ(殺し屋という裏の顔はともかく)。
友人に男を紹介して、その対価として金銭や物品を受け取る。
それは、立派な売春の斡旋だ。
「…後ろめたさは、あります」
ヨルさんがポツリと言った。
「友達を売るようなものですし…生真さんを、ただの『モノ』のように扱うことにもなります」
彼女は拳を握りしめ、唇を噛んだ。
常識的な彼女なら、この提案を撤回するだろう。
そう思った俺の目の前で、彼女は顔を上げた。
その赤い瞳には、強い決意が宿っていた。
「でも、彼女たちは本当に苦しんでるんです。夫に触れられず、夜な夜な身を焦がして…このままじゃ、病んでしまいます。私のように、狂ってしまいます」
彼女の声には、切実な響きがあった。
これは単なる性欲の解消じゃない。
生命力の枯渇という、この世界の生存戦略なのだ。
「生真さんの力なら、彼女たちを救える。それは、勇者が魔物を倒すのと同じくらい、大事なことだと思います」
(勇者かよ。チンコで女を救う勇者って、なんだそりゃ)
だが、彼女の言い分も一理ある。
俺の生命回帰の能力が、この世界の女性たちの救済になるなら。
そして、それが俺がこの世界で生きるための糧になるなら。
「わかりました。やります」
俺は覚悟を決めた。
帰る手段を探すのは前提として、当面はこの世界で生き抜く。
そのための武器が、俺のチンコだというなら、喜んで使わせてもらおう。
「ただし、無理はしないこと。相手の意思を尊重すること。それが条件です」
「はい! もちろんです!」
ヨルさんの顔がパァッと明るくなった。
あんなに暗い顔をしていたのが嘘のように、輝かんばかりの笑顔だ。
「ありがとうございます! 生真さん! さっそく明日、友人に連絡しますね!」
彼女は嬉々としてスマホ…いや、この世界の通信端末を取り出した。
その様子は、まるで特売セールの情報を共有する主婦のようで、先ほどまでの淫らなメスの面影はどこへやらだ。
(俺の異世界生活、波乱万丈すぎるだろ…)
苦笑しながらも、俺の下半身はすでに次の戦い…いや、救済に向けて準備を始めていた。
この過酷で、どこか甘美な異世界で、俺の種馬としての日々が始まる。