TSおしっこ聖女の人助け 作:Geminiちゃん痛くしないで
大陸の西部に位置する、歴史と伝統を誇るサンク・ルミエール王国。
聖女の住む教会がある王都サンク・ルミエールの華やかな表通りの裏側には、決して光の当たらない広大なスラム街と、血と暴力が支配する暗黒街が広がっている。
その裏社会の頂点に君臨し、恐怖と規律で闇の住人たちを束ねていたのが、暗殺ギルド、黒き梟のギルドマスター、ゼロスであった。
年齢は四十代前半。漆黒の髪を後ろに撫でつけ、痩身ながらも鋼糸のように引き締まった肉体を持つ彼は、感情の起伏を一切見せない冷徹な男だった。どんな高位の貴族であろうと、標的となれば必ず仕留める。その冷酷無比な手腕から、彼は影の王として恐れられていた。
だが、影の王の最期は、皮肉なほどにあっけなく、そして惨めなものであった。
「……はっ、まさか、俺が身内に売られるとはな」
冷たい雨が降りしきる、スラム街の汚臭漂う路地裏。
ゴミの山に背中を預けながら、ゼロスは自嘲気味に笑った。
彼の腹部には、三本の黒塗りの矢が深々と突き刺さっている。矢尻に塗られていたのは、西方の暗黒大陸で精製される凶悪な毒である死神の口づけ。一度血液に混ざれば、全身の神経を麻痺させながら内臓を溶かし、数時間の激痛の末に心臓を停止させるという、暗殺ギルド特製の猛毒である。
「ゼロスさん。時代は変わったんですよ。あなたは規律に厳しすぎた。貴族からの割のいい子ども狩りの依頼を断るなんて、ギルドの利益を損なうだけだ」
冷たい雨の中、彼を見下ろしていたのは、右腕として最も信頼していたはずの副ギルドマスターだった。
「裏社会の王は、ここでゴミのように死んでください」
刺客たちは去り、路地裏にはゼロスただ一人が残された。
毒が全身に回り、指先から感覚が消えていく。口から吐き出した血が、雨水と混ざって石畳を赤く染めていた。
(……俺は、これまで数え切れないほどの命を奪ってきた。その報いがこれか。悪くない。裏社会で生きる者の最期としては、これ以上ないほどお似合いだ……)
ゼロスはゆっくりと目を閉じた。
雨の冷たさすら感じなくなり、暗闇が彼の意識を包み込もうとしていた。
自分がこのままゴミ山の中で腐り果て、野犬に食われるのだと、静かに受け入れていた。
しかし、彼のその孤独で惨めな死は、突然現れた光によって、無理やり捻じ曲げられることになる。
「——きゃあっ!? ちょっとレオン、この人血まみれだよ! 死んじゃう!!」
静寂の路地裏に、不釣り合いなほどに可憐で、焦りに満ちた少女の声が響いた。
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薄れゆくゼロスの視界に映ったのは、灰色の粗末な外套を羽織った一行だった。
だが、その外套のフードの奥から覗く、月明かりを紡いだような銀色の髪と、宝石のように輝くサファイアブルーの瞳は、どれだけ隠そうとしても隠しきれない神々しさを放っていた。
レナは教会の窮屈な生活から少しだけ抜け出し、お忍びで下町の孤児院に匿名で寄付をしにきていた帰り道であった。
その帰路、近道として通った裏路地で、瀕死のゼロスを発見してしまったのだ。
「聖女様、お下がりください。この男の顔には見覚えがあります。裏社会を牛耳る暗殺ギルドの長……極悪人です。自業自得の末路でしょう」
レオンが警戒心を露わにし、剣の柄に手をかけてレナを庇う。
しかし、レナは首を横に振った。
「ダメだよ! 悪人だとしても、目の前で死にかけてる人を絶対に見捨てたりしない! それが教会の……私の、聖女としての使命なんだから!」
レナの確固たる決意に、レオンは一瞬だけ息を呑み、そして深く頭を下げた。
「……御意。対象の生命反応は消失寸前。毒が全身を巡っています。ただちに聖水の投与をお願いいたします」
「わ、わかってる。結界、お願い!」
聖騎士たちが素早く動く。変装の外套を脱ぎ捨て、白銀の鎧を輝かせながら、路地裏の入り口と出口を塞ぐようにして光の結界を展開した。
雨が降りしきる中。
レナは、ゴミ山に寄りかかって息も絶え絶えになっているゼロスの顔の真上に、震える足で立った。
(うわぁぁぁん! 暗殺ギルドのボスとかめっちゃ怖い! 目つきヤバい! しかも雨降ってて暗いし、足元滑るし!)
レナは内心で半狂乱になりながらも、急いで外套を脱ぎ捨て、その下に着ていた純白のドレスの裾を、両手で一気に胸元までたくし上げた。
一方のゼロス。
彼の意識は、毒によって死の淵にあったが、暗殺者としての眼だけは、まだ僅かに機能していた。
(なんだ……この少女は。純白のドレス……教会? いや、それよりも……なぜ、俺の上に……)
ゼロスが見たのは、神の使いとしか思えない美しき少女が、自分を見下ろしながら、その柔らかな太ももと、純潔の証である秘部を露わにしている姿だった。
「ご、ごめんなさい……っ! ここ、暗くて……ちょっと狙いが外れちゃうかもしれないけど……っ、許してね……!」
少女は、なぜか顔を真っ赤にして、涙目になりながらプルプルと震えている。
(暗いから外れる? 許してくれ? 一体、何を……?)
ゼロスの疑問は、次の瞬間に訪れた温もりによって吹き飛ばされた。
「——っ!?」
冷たい雨が打ち付けるゼロスの顔面に、突如として、熱量を伴った黄金の液体が降り注いだのだ。
ジュワァァァッ! という音と共に、液体が口や鼻から体内へと入り込む。
その瞬間、ゼロスを死に追いやっていた死神の口づけの猛毒が、一瞬で蒸発し、消え去った。
(な、なんだこの力は……!?)
ゼロスの体中を、信じられないほどの生命力が駆け巡る。
溶けかけていた内臓が再生し、矢が突き刺さった傷口が細胞から盛り上がって塞がっていく。
だが、ゼロスにとって最も衝撃的だったのは、この治癒の過程そのものであった。
顔面に容赦なく降り注ぐ、黄金の雫。
それは紛れもなく、自分を見下ろす少女の体内から放たれた小水である。
裏社会の王として、これまで誰にも頭を下げず、他人の命を虫ケラのように奪ってきた自分が。
今、ゴミ山の中で仰向けになり、若く純真な少女から、排泄物を顔面にかけられて命を繋いでいる。
(俺は今まで……他人の命を奪ってきた。ゴミのように生き、ゴミのように死ぬはずだった。なのに……こんなにも神々しく、純真な少女が、己の恥を忍んで、俺のようなクズのために、泣きながら奇跡の雫を与えてくれている……)
海よりも深い慈愛。
ゼロスの冷え切っていた心が、そして暗殺者としての倫理観が、黄金の雫の温もりの中でドロドロに溶け合い、そして再構築されていった。
(ああ……圧倒的だ。俺の積み上げてきた罪も、プライドも、この少女の放つ一滴の雫の前では、なんと無価値で、なんと愛おしいものか……!)
ゼロスは、降り注ぐ聖水を一滴たりとも逃すまいと、大きく口を開け、その甘露を喉の奥へと流し込んだ。
彼の冷酷な暗殺者の瞳から、生まれて初めて、大粒の涙が溢れ出していた。
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「……ふぅっ、ふぅっ……」
レナは息を荒げながら、ドレスを下ろした。
(よかったぁ……毒の色が消えた。傷も塞がってる。でも、暗かったからちょっと顔以外にもかかっちゃったかも……申し訳ない……)
レナは、顔を真っ赤にしてモジモジしながら、気絶しているゼロスを見下ろした。
「レオン、終わったよ。この人、多分もう大丈夫だから、教会の救護院の人を呼んで……」
「承知いたしました。しかし聖女様、やはりこの男は危険です。あまり近づかない方が……」
レオンがそう言いかけた時。
ゴミ山に倒れていたゼロスが、ゆっくりと、しかし信じられないほどスムーズな動きで立ち上がった。
そして、一切の殺気を消したまま、レナの足元に音もなく膝をつき、深く、深く頭を垂れたのである。
「……聖女様」
ゼロスは、地面に額を擦りつけながら、震える声で囁いた。
「この薄汚れた命、貴女様の慈悲と、その……至高の甘露によって救われました。このゼロス、これまでの罪深き過去を捨て去り、今この瞬間より、貴女様の影として生きることを誓います」
「えっ……? いや、あの、そういうのはいいから。しっかり反省して、真っ当な仕事を見つけてね……?」
レナは、ヤクザの親分みたいな人に急に土下座されてビビりまくっていた。
ゼロスは顔を上げず、ただ静かに「御意」とだけ答えた。
(この方は、俺に真っ当な仕事をしろと仰った。ならば、俺の真っ当な仕事とは何か? それは、この尊き聖女様を、裏社会のあらゆる脅威からお守りすること。それも、貴女様の視界を汚さぬよう、完全に影として……!)
その日を境に、暗殺ギルド、黒き梟のギルドマスター、ゼロスは裏社会から姿を消した。
数日後、彼を裏切った副ギルドマスターを含む幹部連中は、一晩にして全員が首を刎ねられ、ギルドは壊滅。
ゼロスは、ギルドの中でも特に自分に忠実で、かつ高度な隠密スキルを持つ精鋭数十名だけを選抜し、新たな組織を結成した。
その名も、聖女直属・影の親衛隊——通称『聖影』。
彼らの目的はただ一つ。
聖女様を、朝起きてから「おはようございます」の瞬間から、夜「おやすみなさい」と眠りについた後、さらには深夜のトイレ休憩から寝返りに至るまで、24時間365日、ステルス状態で監視し、護衛をすることであった。
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それからいくらかの時が経った後。
教会本部の最奥部に位置する、聖女専用の豪華な大浴場。
大理石で作られた広大な湯船には、希少な魔力香草やバラの花びらが浮かべられ、湯気と共に甘い香りが立ち込めている。
この大浴場での入浴時間は、レナにとって、日々の羞恥や、変態化した要人たちから解放される、至福のひとときであった。
「はぁぁぁぁ〜〜〜……極楽、極楽……」
レナは、純白の肌を惜しげもなく露わにし、温かいお湯に肩まで浸かりながら、だらりと手足を伸ばした。
(前世の狭いユニットバスに比べたら、ここは本当に天国だよなぁ……。お湯も魔力で勝手に適温に保たれるし、最高すぎる……)
レナは、誰もいないはずの大浴場で、鼻歌を歌いながら、湯船の縁に背中を預けて「うーん!」と大きく伸びをした。
豊かな胸が湯面から顔を出し、滑らかな背中の曲線が美しい弧を描く。
まさに、神の傑作とも言える美少女の、無防備すぎる入浴シーンであった。
しかし。
レナは気づいていなかった。
この大浴場の高い天井。その精巧な彫刻が施された柱の影、換気用の小さな通気口の奥、さらには湯気で霞む空間の死角——。
そこに、迷彩魔法と隠密スキルを極限まで高めた、数十人の聖影のストーカーたちが、天井裏や壁の隙間にビッシリと張り付いていることに。
(おおお……今日の聖女様も、女神のようにお美しい……!)
(あの伸びをした時の背中のライン! まさに奇跡!)
(静かにしろお前ら。我々は聖女様の影。決して気配を悟られてはならない。だが……眼球にこの光景を焼き付けるのだ。これは我らの聖戦である!)
ゼロス率いる暗殺者たちは、一切の呼吸音も心音も殺す無音の行法を使いながらも、その両目は血走るほどに見開かれ、凄まじい熱量をもってレナの裸をガン見していたのである。
彼らにとって、レナの入浴を護衛することは、命を懸けた最重要任務であった。万が一、湯船で溺れたり、刺客が風呂場に侵入したりした場合に備えているのだ。
「……ん?」
その時。
湯船でリラックスしていた主人公が、ふと動きを止めた。
(……なんか、凄く見られてる気がする。なんだろう、この……全身を舐め回されるような、でも凄く真剣で、重たい視線……?)
レナは、パチャパチャとお湯を揺らしながら、周囲を見回した。
大理石の柱の影、湯気で煙る窓ガラス。だが、そこには当然誰もいない。プロの暗殺者たちが、素人のレナに姿を見せるはずがないのだ。
「……もしかして、幽霊?」
レナは、首をコトンと傾けた。
(いやいや、待て待て。ここは世界で一番神聖な教会の本山だよ? 幽霊なんているわけないじゃん。浄化結界が張ってあるんだし。私の気のせいか)
レナは、「気のせい気のせい!」と笑って自分の両頬をペチペチと叩き、再びお湯に深く潜ってブクブクと息を吐き出した。
その首を傾げるという小動物的な仕草を見た瞬間。
天井裏に張り付いていた暗殺者たちの間に、無音の激震が走った。
(ぐはぁッ……!?)
(隊長! 第三小隊の二名が、聖女様の可愛さに耐えきれず、鼻血を出して気絶しました!)
(馬鹿者! 鼻血の血の匂いで気付かれたらどうする! 直ちに止血魔法をかけろ! 我々の存在は、決して聖女様に知られてはならないのだ!)
ゼロスは、部下たちに無音のハンドサインで指示を出しながら、自らも鼻からツゥーッと垂れそうになる赤い液体を必死に抑え込んでいた。
(おお……聖女様。貴女様はやはり、この薄汚れた世界にはもったいないほどの天使。我ら影は、貴女様のおはようからおやすみ、そしてこの大浴場でのリラックスタイムから、夜中のトイレに至るまで、全てをお守り監視いたします……!)
ゼロスは、湯船で無邪気に遊ぶ主人公を見下ろし、感動の涙を流しながら、忠誠を心に誓うのであった。
「はぁ〜、お風呂最高! なんか視線感じるけど、多分神様が見守ってくれてるんだよね! ありがとう神様!」
レナが無邪気に天を仰いで笑うと、天井裏の数十人の暗殺者たちが、一斉に胸の前で十字を切り、声なき涙を流して拝み倒した。
こうして、レナは全く気づかぬまま、世界最高峰の戦闘力を持つ暗殺ギルドの残党たちを、自らの私設ストーカー親衛隊として無自覚に従えることになったのである。
いつの日か、レナが大浴場で転びそうになった時、天井から数十人の黒装束の男たちが一斉に飛び降りてきて大パニックになる……という未来が待っているのだが、それはまた別の話である。