とある日。
リビングにて、メサニアは紅茶の入ったティーカップを手に恋愛映画を観ていた。
主と出会うまで恋愛など欠片も興味は無かったが、この感情を知った今であれば中々楽しんで鑑賞できる。
平日の昼間なので白斗は学校だ。
「あら」
ふいにテレビではない方向を向く。
この家から少し離れたところに、天使が顕現した気配を感じたからだ。
数は三体。
「そろそろいらっしゃる頃だと思っていましたわ。こちらから出向いて差し上げましょう」
彼女は家を出ると、いつもの日傘を開いて差す。
そして、天使たちの顕現した場所に一瞬で移動した。
「うわ!?」
「なんだ!?」
「悪魔だー!」
公園に立っていた三人の天使たち。
いずれも、二枚の翼が生えた幼い少年の姿だ。
「うふふ、ごきげんよう。貴方がたは
「どういうことー?」
「バカ! このおばさん悪魔が浄化対象ってことだよ!」
「てか、こいつもしかして……メサニア……?」
「は? それって……」
「死の女王だよ……! 過去に高位の神様を何柱も殺してる、やべーやつ……」
目の前にいる悪魔の正体を知った天使たちが、冷や汗を流し始める。
魔界最強の一角を相手に天使如きが戦えるはずがない。
「
「……って、言ってるけど。どーするー?」
「悪魔から逃げる天使なんて天使じゃない! 戦うぞ!」
「ぶっ倒す!」
間抜けそうな雰囲気の一体は乗り気ではないが、他の二体は戦意があるようだ。
これではメサニアが望む流れにはならない。
「仕方がありませんわね」
なので。
天使たちのうち二体を一瞬で葬った。
「は?」
残ったのは戦意の薄かった一体。
彼の目には、他の二体がなぜか突然崩れ落ちたように見えた。
女悪魔はフリルが付いたゴスロリ風の黒い日傘を優雅に差して佇んだままで、何もしていないのに。
実際には、光を遥かに超えた速度で動いて、日傘に仕込んでいた剣に即死の呪いを纏わせて斬ったのだが。
メサニアは余裕ある微笑みを変えずに告げる。
「さて、これでもまだ戦うおつもりかしら? 残っているのは貴方だけで——」
あることに気づいて言葉を止める。
ミニスカートの中が妙に涼しい。
それに、倒した天使の近くに落ちている黒い布切れ。
いや、布切れではない。
「っ…………!!」
メサニアが穿いていたはずの
おそらく紐の結び目が緩んでおり、先ほどの攻撃の際にほどけてしまったのだろう。
誤解がないよう言うと、いつもは紐パンではなく普通のショーツを穿いている。
愛する契約者との来たる日に備えて用意したものを、試しに着用していただけだ。
動揺する彼女を見て、チャンスだと思った天使が動く。
「えーい」
純白の翼を羽ばたかせる。
すると巻き起こる、強めの風。
子供の悪戯めいた下らない狙いによる行動だが、完全に意識が逸れていた女悪魔には有効だった。
「きゃあああっ!?」
メサニアは羞恥の悲鳴を上げた。
ゴスロリドレスのミニスカートが、風で大きく捲れ上がったからだ。
太くムッチリとした太ももが付け根まで露わになり———股間に濃く生い茂った濃紺の陰毛も露出してしまった。
差していた日傘を手放し、バッと両手でミニスカートを押さえる。
それは大きすぎる隙だった。
「今だー!」
「くあっ!?」
虚空から出現した一本の光の鎖により、メサニアは胴体を両腕ごと縛られた。
さらに追加で一本出現した鎖に、次は両足首を縛られた。
そのまま、二本の鎖は彼女の体を少しだけ宙に浮き上がらせる。
「気を、抜きすぎたかもっ……しれませんわね……! ううっ!」
メサニアは鎖に胴体を締め付けられて呻いている。
全てを超越する速度と即死の呪いという恐ろしい力を有する彼女だが、単純な膂力は悪魔の平均程度しかない。
この鎖をどうにかできる手段は無かった。
「よーし、とどめー!」
「いやああああああぁっ!?」
鎖から強烈な電撃が発生した。
感電したメサニアは気絶寸前の状態になり、体がダラリと弛緩する。
「勝ったー……? 大悪魔に俺が勝っちゃった! あっはっはー!」
天使は、メサニアの胴体を縛っていた鎖を消滅させる。
そして、両足首を縛っている鎖を操り、上下逆に吊るした状態にした。
「無様だねー」
「あうう…………」
メサニアは逆さまに吊るされてプラプラと僅かに揺れている。
黒いゴスロリドレスのミニスカートは重力によって捲れていた。
重量感のある大きな尻も、股間に濃く生い茂ったサラサラな陰毛も丸出しだ。
「さっき見た時も思ったけど、毛、濃いんだねー。まあいいや」
宙吊りになっているメサニアに天使が近づく。
「俺を怖がらせたよねー? だから仕返しするよー。サンドバッグになってねー。そりゃっ」
「んぐっ」
「それそれっ、それそれそれっ」
殴られたメサニアが振り子のように揺れ、戻ってきたところをまた殴る。
それを繰り返す天使は、三分ほど経ってから手を止めた。
「ふー、満足。スッキリしたよー。次はどうしよっかなー」
「……生憎ですが」
「んー?」
「ご主人様の契約悪魔として、これ以上、格好悪い姿を晒すつもりはございませんわ」
メサニアは捲れたミニスカートの前を左手で押さえて股間を隠し、右手で手刀を作った。
即死の呪いを纏った手刀を一閃。
肩を浅く斬られた天使は命の灯火が消え、崩れ落ちた。
それにより、光の鎖は消滅する。
メサニアは浮遊しながら逆さまの状態からフワリと上下反転すると、地面に降り立つ。
最後に、日傘を拾い上げて優雅な所作で差した。
「うふふ。
実のところ、彼女への攻撃で有効だったのは電撃のみ。
幼い見た目通りの貧弱な威力の殴打はあまり効いていなかった。
ゆえに、殴られていた三分間で、動けるようになるまで回復していたのだ。
「たかが天使に随分と手間取ってしまいましたわ。では、良いところで中断していた映画の続きを観るといたしましょう」
大悪魔の姿が消える。
戦いの後の公園には、倒された天使たちと、回収を忘れた紐パンが残されていた。