無能と蔑まれたTS転生者、実は男女比1対100の世界を終わらせる力の持ち主でした 作:さっきゅんx
「カナタ、まだ洗濯が終わらないのかい?」
「ホント無能は何をやらせてもグズねえ」
ハーレム王クダクの取り巻きの女達にそう罵倒されるボクはカナタ。実は転生者で、うっすらだけど前世の記憶あり。
そしてここは石器で狩りをして、農耕文化もない超・原始時代のサイハテ村。
世界の男女比は1:100、男が極端に生まれにくく体が弱くて成人まで生きられない子もいるので、男に生まれたら特に大切に育てられ、ぶっちゃけ部族の王になる勝ち組である。
そう、男に生まれさえすれば。
ん、なんで情報インフラもないのに男女比が1:100だって分かるかって?
単純にハーレム王の男以外の我が部族の女性が「ボクも含めて」ちょうど100人いるからだよ!
他の部族の男女比を知らないので、実際はもっと多いのかも、少ないかも分からないけど。
そしてそろそろお気づきかと思うが、前世ではボクは「男」だった。転生者なのにボーナスの勝ち組に乗れなかったこの身の上は、更に別の理由でハードモード。
というのもこの世界の女性は本来、特殊な能力を生まれながらに授かる。それは炎を出現させたり、誰かの傷を癒すものだったり。
そしてそれは体のどこかに、それを象徴する刺青が現れる事で判明するんだがボクの場合それがツゥルンツゥルン、何の印も出ずに生まれた。
それが元男のTS転生が原因なのかは分からないけど今のボクは我が部族で洗濯とか荷物運びやら掃除やら、まあ村の奴隷のような扱いをされている。
「まだ仕事は残ってるんだよ、ちゃっちゃと片付けな!」
右頬に火を模った刺青持ちの、焚き火に使う枯れ木のような体躯をしたこの女はホムラ。王の取り巻きでは古参(オバサン)の一人で炎使いだ。
「グズはグズなりに、少しは村に貢献するんだよ」
左頬に雪の結晶の刺青、まるで雪だるまのように丸いこの女はフブキ。同じ王の取り巻き古参の冷気使い。
「カナタ、大丈夫?」
そう声をかけてくるのは幼馴染のハルカ。
村では無能扱いされるボクの、ほぼ唯一の理解者だ。
「わたしも手伝う……」
「あらあら良いのよ、ハルカちゃん。あなたはそんな事しなくても」
枯れ木女が、絶対ボクには見せない態度と甘い声でそう言う。
ハルカが肩に持つ刺青の「鷹の目」は遠くの物を見る能力。時々狩りにも同行して結果を出し、王にも一目置かれてるらしい。
本人は鷹というより、小鳥みたいに可憐で可愛らしい印象だけど。
「そうそうグズの相手なんてしてたらグズが感染るわよ」
と雪だるま女。
「ホムラさん、フブキさん、忠告ありがとう」
ハルカは二人の古参にそう答えるも。
「でもカナタは大事な幼馴染です。わたしがしたくてやってる事なのでお構いなく!」
それだけ言うと二人をキッと睨みつける。
その迫力に気圧されたのか、二人はその場をいそいそと去っていった。
「ホント、みんな分かってない!
カナタは実は凄いんだから」
王の取り巻きがいなくなってから、ハルカがボクの代わりに頬を膨らませて怒る。
そう言ってくれるのはハルカだけだし、そう評価してくれるのは素直に嬉しい。
「だから仕事片付いたら、いつもの場所に、ね」
ハルカと二人で与えられたノルマを片付けて、向かったのは部族の村から少し離れた場所にある洞窟。
慣れた手つきでハルカが火を起こすと、そこからはボクの仕事。手製の土鍋に食材、キノコに野草に肉や魚を入れて、隠し味にハーブと岩塩。ついでに、ボクしか生えてる場所を知らない(というか、そもそもこの世界の人間が存在すら知らないだろう)唐辛子を隠し味に。
「うん美味しい!本当カナタは料理の天才だね」
嬉しそうにハルカが鍋料理に舌鼓を打つ。
うっすら前世の記憶で今の所唯一役に立ってるのがコレかなあ。何しろ我が部族は生で肉を食べるくらいで料理すると言う概念がない。
そもそも土器作り文化すらないからなあ。この土鍋だってボクが思考錯誤の末にようやく作った代物だし。
でもボクを認めてくれるハルカが、喜んでくれてるならこれほど嬉しい事はない。
「うん確かに、こんな美味い食い物を食べたのはアタイも初めてだぜ!」
そしてその隣で美味しそうに鍋を食べる、もう一人の女性……って誰だ!
そこにいたのは熊の毛皮を纏った大柄で筋肉質の、そしてその筋肉に不釣り合いな豊満な胸の女性。
背中には大きな石斧、首筋には斧を模った刺青があった。
「あーアタイはタケリってんだ。あんたらは?」
「えーっとハルカ……です」
か、カナタです。
いやうん、名前はわかったけど、え?この状況何?
「あー、あんたらサイハテ村の人間だろ?
アタイもあんたと同じ同郷だからさ」
ボクが首から下げた母の形見を見てタケリが言う。
確かに首飾りに彫られているのは、ボクらの村の入り口に置かれた村の紋章と同じである。
ちなみに形見と言ってもまだ存命である、産みの母は。
色々あって、今は離れて暮らしてるけど。
いや?しかし彼女、タケリを今まで村で見かけたことないんだけども。
「どこに行ってたんですがカナタさん。
いえ行き先は分かってましたけども」
村に戻ってきたボクに声をかけてきた、この女性はツゲル。
黒い羽毛で飾った毛皮に身を包んだ細身の女性で、その見た目も相まってカラスのような印象を受ける。
額には二重丸の刺青。知りたい相手の動向が少し見える「千里眼」の持ち主であるらしい。
そして王の指示を皆に伝えるのが彼女の役目なんだけど……ひょっとしてボクを探してた?
「はい、クダク王からの伝言です」
カラスのメッセンジャーはそう口を開く。
王からの伝言、間違いなく良い知らせではない。
確か前回のそれは僕の産みの母が他の部族に引き取られていく報告だったか。
近親相姦により血が濃くなるのを防ぐため、村の女性が入れ替わるのは日常茶飯事であった。
「そして重大な話です。カナタさん以外は席を外していただけますか?」
「わかったよ」
「カナタ、また後でね」
ツゲルの言葉に、タケリとハルカがその場を去る。
「何でタケリが今頃戻ってきたんです?しかも貴方達と……」
小さくツゲルがそう呟いて、さらにこう告げてきた。
「無能ですが見た目だけは良いあなたが、王の次の夜伽相手に選ばれました。感謝なさい」
多分この世界の女性にとっては王に選ばれるというのは、それこそ泣いて喜ぶほど光栄な事なのだろう。
だがボクは元男だ。
死刑宣告より重い響きのその事実を、ボクは何とかして回避できないかと必死に頭を悩ませるのだった。
それがさらなる悲劇と、運命を変える大きな出来事を引き起こすことになるとも知らずに。
⬜️ざっくりキャラ紹介
枯れ木女と雪だるま女……分かりやすい悪役で出しましたが一話のみ、多分次回以降の登場ないです。
ハルカ……幼馴染、可憐。「鷹の目」能力持ち。
タケリ……巨乳熊、大柄怪力、謎多き陽気な斧使い。
ツゲル……王の伝言役、相手の動向を知る「千里眼」能力持ち