無能と蔑まれたTS転生者、実は男女比1対100の世界を終わらせる力の持ち主でした 作:さっきゅんx
「いやあ、流石にあの魔獣はアタイには大物すぎたわ。ガハハ」
あえて明るく振る舞ってみせるタケリだが、その体に巻かれた包帯とそこから滲む血が、直前に起きた壮絶な死闘を物語っていた。
軍師ツムグの切り札である閃光弾を使用し、なんとか逃げ出す事には成功したものの、そこから動けないまでに重症を負って意識を失った彼女を見て、ボクらはタケリですら勝てない相手が存在する事を思い知ったのだった。
皆で彼女に肩を貸して、近くのここリョウエン村に保護を求められたのが不幸中の幸いか。
「ああ、どうやら元気になったようですね」
この村の代表を務める、ムスビがそう声をかける。
長く伸ばした髪を、日本の飛鳥時代によく見られる左右の結び髪ミズラで束ねている。
「おう、元気も元気!何ならすぐにでも旅立て……いてて!」
「ムリはしないでくださいよ。そもそもあの魔獣に襲われて生きてるのだけでも奇跡なんですから」
カラ元気のタケリをたしなめるように、ムスビがそう言うのだった。
この村リョウエンは女性が代表を務めている。
ただこれは、例えばハザマ村の長老ナミばあさんのケースとはちょっと違う。
そもそも村に王、いわゆる男性が一人もいないのだ。原因はあの猪の魔獣。
以前いた王は魔獣に襲われ命を落とし、あれが村の入り口に居座る事で他の村の交流も絶たれ、この村は血統を繋ぐ事が出来ずに緩やかに消滅を待っている。
「ムスビ、そっちの様子はどうだい?」
「ああユイ、あの大柄の女性の意識が回復したみたい」
「そうか、それは良かった」
新たに姿を見せたこのユイと言う女性は、代表ムスビの補佐のような立場の人物だ。髪型は頭の上で結び目を作っている。
そしてなんと言うか、二人の関係性はただの同僚以上の、もっと深い所で繋がっている感じ。
もしどちらかの性別が男であれば夫婦になっていただろうし、村も存続出来ていたのだろう。
とは言え、お世話になっている以上何かで貢献したい所だが……ああ、そうだカヤ!
「か、カヤに何か用かな?」
指名されると思わなかったのか目を丸くする彼女。
うん、実は君にしか頼めないお願いがあるんだ。
「これはまるで……」
「神の奇跡のようです」
と目を丸くするムスビとユイ。
大袈裟だなあと思う反面、確かにこれを初めて見たらそう言う感想になるかあ。
そう、植物と会話が出来るカヤに協力してもらって始めたのは農業。
それも効果がすぐに出て分かりやすいカイワレやモヤシ、芋といった作物を選んだ。
種になるものをカヤと探し、彼女の会話でちょっとだけ作物に成長も頑張ってもらって、どうやらプレゼンとしては大成功のようだ。
ちなみに収穫の秋まで待ってくれるなら、もっと沢山の種類の物が食べられるようになるけど。
「やはり神……」
「お祈りしないとダメですか?」
いや、本当やめてね?
「カナタはやっぱり凄いなあ」
村のボクの評判を聞きつけて、タケリがそう感想を漏らす。
ちなみに残りの面子は席を外している。何でも、ムスビとユイからボクの人となりを聞きたいと質問攻めにあっているらしく……いやあの二人、本気で村に石像でも立てる気じゃないだろなあ。
「あんたはアタイの知らない事を知ってて、みんなを笑顔にする。その知恵を武器にして」
そう口にするタケリの表情はうっとりするような、それでいて憂いも秘めていた。普段の彼女ならあまり見せない表情だ。
「一方アタイはどうだい。怪力でねじ伏せる事しかできないのに、その怪力さえ今じゃ使えない」
その怪力でタケリは今まで何度もボクらを救ってくれて、頑張って来たじゃないか。
今は逆に、休養するいい機会だよ。
「カナタは優しいね……でも、それじゃダメなんだ!
アタイがアタイを許せない!」
タケリ……
「そう言えばカナタに、一度も聞かれた事なかったよな。王クダクとの関係とか、アタイが村にいなかった理由とか。
そりゃ、どんな事情があろうがタケリは大事な仲間だ。
いつか自分から話してくれると思ってたし。
「じゃあ、話すよ。多分そうじゃないとあんたと対等になれない気がする」
そうしてタケリが語ってくれたのは驚き半分、納得半分の内容だった。
サイハテ村の住民、つまり100人女性のうち王の取り巻きである上位の存在はもれなく先代の王の妻か娘だと言う。
それ以外は他の村から連れてきた面々。
ああ、要するにクダク王の異母姉妹は特別扱いってか。
「そしてアタイとクダクは、母親も同じなんだ。
言うなれば正妻の子って事」
あー、実の妹で世が世ならプリンセスと。
「でも兄、クダクのやり方にどうも納得行かなくてさ、しばらく村を出て旅に出てたんだ」
それでツムジカゼと知り合いだったりしたわけか。
「村の近くまで戻ってきたのも、久々に様子を見にいこうかと思ってて、それでカナタ、あんたと出会った」
以前いつの間にか食事に加わってたアレだな。
「あの時は、ただ美味しいご飯を食べさせてくれる変わった子くらいの印象だったけど。
強くないのに幼馴染の危機に駆けつけたり。
ハザマ村では自分が犠牲になろうとしたり、
赤の他人の村を助けようとしたり、
狙撃なんて卑怯な手を使う相手から身を挺して守ったり……気づいたらカッコいいなって思ってた。
うん、今のアタイはあんたにゾッコンなんだ」
タケリ……
「でも、こんな色気のないガサツな筋肉質な女は嫌かな?」
いや、そんな事はない。
『ちなみにですがハルカには側室にする了承を既にとりつけています。ついでに他の面子も朝まで帰ってこないので遠慮なしでヤリ放題です』
……おいトーク、デリカシー!
てかみんなムスビやユイとの話は建前で、最初からそのつもりで戻って来ないのかよ!
「何なら体だけの関係でも全然かまわないぞ。
アタイの胸好きだろ?ちらちら視線を送ってたのバレバレだからな?」
い、いやそんな事は。
『普段から巨乳熊とか言っておいて今更ですか?
今まで何回そう呼んでたか公表してもいいですが』
えっボク口に出してた?てか数えてたのかよ!
と言うか、タケリ。
「……何?」
普段はカッコいいけど、今日の君は可愛いと思います。
「な、何言ってんだよアタイなんか全然可愛くないって!」
そんな事ないよ、今日のタケリは凄く女の子してる。
「か、カナタがそう言うなら……そうなのかな?」
ほらそんな照れてる仕草とか、すごく可愛い。
「だから可愛い言うなぁ!」
そんな可愛いタケリも、普段の強くてカッコいい姿も、全部ひっくるめて……好きだよ。
「……カナタぁ!」
そう言ってタケリはボクに抱きついて、そのまま押し倒してきた。ってか、傷は大丈夫?
「まだあまり力が入らないけど、痛みはおさまってる。
って言うか、アタイが本気出したらカナタを壊しかねないからな」
それは、お気遣いに感謝すべきなのか。
『それじゃ行きますか、男性化。ちゃらりーん』
トークがノリノリで、その能力を解放した。
⬜️リョウエン村
王である男性がいないため、ムスビとユイの二人の女性が統治している。
二人の区別は、髪の結び方。