プリキュアが生まれる街~彼女達と過ごす愛しき日々~ 作:天野蒼夜
暗い。暗い瓦礫の中に泣いている子供がいた。
<暗いよぉ……怖いよぉ……>
子供―――幼き頃の宙夢は両親とともにショッピングモールに訪れていたのだが、そこに突如モンスターが現れ、暴走。その影響で宙夢は親とはぐれ、瓦礫の中に埋もれ、身動きが取れなくなったのだ。
<誰か……誰か助けて……!>
直後、瓦礫が外からどかされ、一筋の光が差し込む。なにかと思い視線をむけた先にはこちらに手を差し伸べる少女の姿が見えた。独特な衣装をまとった彼女は両親から宙夢のことを聞いて助けに来たのだ。
<今、出してあげるからね!>
常人離れしたパワーで瓦礫をどかし、宙夢を瓦礫の山から救出。そこから彼を抱えて出口を目指すが、モンスターの群れが通せんぼするように立ちはだかってきた。これでは進めないと判断してか、少女は抱えていた宙夢を下ろし、戦闘態勢に入る。
<お姉ちゃん……?>
<大丈夫>
目の前にはモンスターの群れ。しかもさっきまで瓦礫の中にいたのだ。当然不安というのはあるだろう。少女はそれを察し、宙夢の頭を撫でた。
<あなたは必ず、私が守るから>
少女はほほ笑んでそう言うと、モンスターに視線をむける。しかし、その時の表情は宙夢にむけられたものと違って、凛々しき戦士の顔となっていた。それを合図として襲いかかってきたモンスターを少女は蹴散らし、宙夢を外もとい先に避難していた両親の元に導く。
家族との再会を見届けた少女はその場を去ろうとするが、宙夢に“待って!”と呼び止められた。
<お姉ちゃんは、誰なの?>
<……私は―――>
少女が言い終わる前に、宙夢は夢の世界から追い出された。
―――――
「……」
小鳥のさえずりが宙夢を夢の世界から引き戻す。
「……随分、懐かしい夢を見たな」
昔、宙夢はプリキュアに助けられた。それはもう10年も前になるが、今でも昨日のように覚えている。異質な存在に臆することなく、誰かを守るために立ち向かった彼女。その姿はまさにヒーローで、彼はそんな彼女に強い憧れを持った。それは彼女が姿を消し、宙夢がプリキュアになった今でも変わっていない。
「……」
カーテンを開き、窓から空を見る。雲一つない晴天。だが、宙夢が見ているのは空ではなく、あの時のプリキュアだった。
「あれから10年たって、俺もプリキュアになりました。あなたは今、どこでなにをしていますか?」
と言って答えが返ってくるわけじゃない。しかし、宙夢は信じていた。姿は見えなくても、どこかで自分のことを見守ってくれていることを。
「ランニングするか」
今日は平日。本来なら学校もとい
家に空手道場を持つ宙夢は稽古も欠かさず行っている。これは体力づくりの一環で自主的にやっているものだ。
「はぁ……なんて暑さだよ……。太陽は俺達を溶かす気か……?」
太陽にその気があるかは定かではないが、今日の最高気温は37℃。そうも言いたくなる猛暑日だ。
「まあ、何か起きるよりはいいか」
半ば無理やりポジティブ思考に切り替える。あとで水分補給しよう。そんなことを考えながら照りつける太陽の下を走っていく。
「こんな暑い日にランニングかい?精が出るねぇ」
後ろから聞こえてきた声に足を止め、振り返る。その先にはアンダーポニーテール状に結ばれた金の長髪に月と重なった太陽の下に一対のカットラスを咥えた竜の骸骨のマークが描かれた三角帽子を被り、上半身は首元が開かれた白いシャツの上に黒に金のラインが入ったコートを羽織り、下半身は黒のズボン、両足には茶色のブーツを履いた男がいた。
中世的な容姿に加え、男性にしては低めの背丈から女性と見間違えそうになるが、本人は今の季節には不相応な服装をしているにも関わらず、汗一つかいていない。服に涼しくなる魔法でもかかっているのだろうか。そんなどうでもいいことを考えてみる。
「エクリプス……」
険しい顔をしながら、宙夢が彼の名を呟く。こんな表情をする理由はただ1つ。彼が自分と敵対関係だからだ。
「何しに来た?」
「何しに来たかだって?そんなの、決まってるだろ?」
愚門だと言わんばかりに口元を吊り上げると、指をパチンッと鳴らす。するとどこからともなく海賊服にバンダナが巻かれたEの文字が描かれたマスクを被った異星人達が宙夢を囲むように現れた。
「さあ、君の力を……僕に見せてくれ」
彼はいつもそうだ。こうやってふらっと現れては勝負を吹っかけてくる。しかし、ここで無視をすれば周りの人達に被害が及ぶ。それは避けねばと、宙夢はスターカラーペンを取り出した。
「そうこなくちゃ」
「スターカラーペンダント!カラーチャージ!」
スターカラーペンをスターカラーペンダントに差し込み、歌を響かせる。そうしながら踊るように髪の色を変え、衣装を身にまとっていく。その末に現れたのは頭部がアンダーポニーテールにした青の長髪に流れ星を象ったアクセサリーを身に着け、上半身は青と白をメインカラーに胴体の左部分に巨大な星がデザインされた襟付きのジャケット、両手には白のフィンガーレスグローブ、下半身は白のズボン、両足は青のブーツを履いた宙夢だった。
「夜空を翔ける青色の流れ星!キュアメテオ!」
キュアメテオ。これが宙夢のプリキュアとしての姿である。
「クルー達よ!そいつに我等エクリプス海賊団の力を見せてやりな!」
『ルー!』
エクリプスの指示に応えると、クルー達はカットラスを取り出してメテオにむかっていく。四方八方から飛んでくる刃を空手で鍛えた俊敏性でいなしつつ、拳と蹴りによる打撃を与えていく。
『ルー!』
クルー達は連携を取りながらメテオに攻撃を仕掛けていく。特に打ち合わせをしたわけではない。まるで味方の動きを予測で着ているかのような動きだった。
「はぁあああっ!」
『ルー!』
クルーを殴り飛ばし、飛んだ先にいたクルー達にぶつける。
「安心したよ」
戦いを見守っていたエクリプスが呟く。
「何が?」
「夏休みにかまけて怠けてると思ってたけど、それは杞憂だったみたいだね」
クルー達は常にエクリプスの元で鍛えられている精鋭が集まっている。それに対応できているのが何よりの証明だ。
「こちとら空手の稽古もランニングも休んだことないんでね」
「……なるほど。殊勝な心掛けだね」
「メテオ!」
声がしたほうに視線をむけると、スタプリメンバーらが走ってくるのが見えた。フワが敵の気配を察知して連れてきたのだろう。
「お仲間の登場か。流石にこれをクルー達だけで相手するのは分が悪いな」
スタプリメンバーの登場からエクリプスはそう判断すると、金貨を取り出す。それを目にした瞬間、メテオ達は身構える。
「クルー達、下がっていろ」
エクリプスの指示でメテオ達を囲んでいたクルー達が一斉に下がる。エクリプスはそれを確認すると、金貨を黒いオーラで包んだ。
「ザイホーグ、サモン!」
詠唱とともに金貨を放り投げると、それを包んでいたオーラが巨大化し、金貨に三角帽子を被せたモンスターに姿を変えた。
「ザイホーグ!」
ザイホーグ。エクリプス海賊団が所有する財宝に黒いオーラもといトレナジーを注ぐことで召喚されるモンスターだ。姿や能力はベースにした財宝によって変化するので、これまで多種多様のザイホーグが毎回召喚されている。
「行け、ザイホーグ!プリキュアを倒せ!」
「ザイホーグ!」
エクリプスからの指示を受け、ザイホーグがメテオ達めがけて投入口のような口からコインを連続射出。メテオ達は散開してその攻撃を回避後、そこから流れるようにコスモとスターが飛び蹴りを放つ。しかし、金貨をベースにしているだけあって、ザイホーグの体は硬く、2人の攻撃は弾かれてしまった。
「かった……!?」
「生半可な攻撃は通用しないってわけね……」
「なら、打開策はアレしかないな」
「アレって何ルン?」
「防御しきれないくらいの大技でぶっ飛ばす。防御が高いと言っても限界はあるだろうからな」
メテオの案にコスモは“力押しすぎないかしら……?”と呆れ顔になる。だが、メテオの顔を見て何かを察したのか、“でも、悪くないわ”と小さく呟いた。相変わらず素直じゃない女である。
「うるさいニャンッ!!」
「コスモどうしたの!?」
「何でもない!それよりトゥインクルイマジネーションの準備よ!」
「わ、わかった!」
『プリキュア!スタートゥインクルイマジネーション!!』
シャイニートゥインクルペンの力によって生成された星のエネルギーが一直線に飛ぶ。スタプリメンバー最大火力の必殺技。これが当たればザイホーグは瞬く間に浄化されるだろう。……だが。
「ザイッ!」
高く跳び上がり、スタートゥインクルイマジネーションを避けるザイホーグ。敵の作戦に乗ってやるバカはいない。ザイホーグはそう思っただろうが、これは罠だ。
「悪くない作戦だったけど、残念だったね」
「……メテオブルー」
声がしたほうにザイホーグのが振り返る。そこには空中で両手にエネルギーを溜めているメテオの姿があった。
「インパクト!!」
両手から放たれた青いエネルギー波がザイホーグを貫く。貫かれたザイホーグは安らかな顔で“トレジャーナ……”とつぶやいたのを最後に消滅した。
「……さっきのヤツは囮だったのか。考えたね」
スタートゥインクルイマジネーションに気を取られている隙に本命のメテオブルーインパクトをぶつける。これこそがメテオの真の狙いだったのだ。
「見事なチームワークだ。やはりキミ達は一筋縄じゃいかないね」
メテオ達がエクリプス海賊団と敵対している理由。それはエクリプスの目的がこの地球を自分達のものにすることにある。エクリプス海賊団は宇宙を股にかける海賊―――いわゆる宇宙海賊というものなのだが、彼等は惑星や同業者の海賊船を制圧し、その者達が所有する財宝を手に入れることを生業としているのだ。
エクリプス海賊団の船長であるエクリプスはある日、宇宙から見た地球の美しさに目をつけて襲来。しかし、案の定プリキュアに阻まれはしたが、“一度狙いをつけた財宝は必ず手に入れる”という心情を持つ彼が一度失敗しただけで諦めるわけなく、何度も現れてはプリキュアにクルーやザイホーグをけしかしては退く。この一連の流れを何度も繰り返して現在に至っているというわけだ。
「あなた達に地球は渡しません!」
「それでいい。簡単に手に入ったら面白くないからね」
エクリプスがそう言うと、真上にワープホールが出現させる。
「今日のところはお暇するよ。またね、プリキュア」
メテオ達に別れの言葉を告げると、エクリプスはワープホールに入っていった。直後、周囲は不思議な光に包まれ、戦いによって崩壊した場所が修復される。まるで最初からここで戦いなどなかったかのように。ちなみにベースになった財宝はザイホーグとともに消滅するので、回収は不可能である。
「本当に勝手なヤツルン……」
エクリプスに対し、ミルキーが愚痴をこぼす。それは彼女だけじゃない。彼等と関わったプリキュア全員が思っていることだ。
「あいつ、今度はいつ来る気なのかな……?」
エクリプス海賊団は連日やってくることもあれば、数ヵ月現れないこともある。別に来ない分にはありがたいのだが、こちらからしたら気まぐれすぎる組織と言うほかない。
「何にしても来たらまた追い返す。そうだろ?」
「メテオの言う通りです。他のチームの方々も協力していただいていることですし、力を合わせて頑張りましょう!」
セレーナのその言葉を締めに変身を解除したメテオ達は解散するのだった。
―――――
宇宙。その広大なる星の海を漂う海賊船にエクリプスは帰還した。
「プリキュア、やはり侮れないね」
平和ボケしているように見えて、いざ敵が来れば洗練されたチームプレイで追い返す。職業柄、これまで多くの軍隊や海賊団と戦ってきたが、ここまでてこずっているのは始めだった。だが、それは決して不快なものではない。むしろ愉快なことだった。
「地球、何度見ても美しい星だ」
甲板から青い地球を眺める。この美しさはまさに財宝と呼ぶに相応しい。故にこの手にしたい。それにはプリキュアという最大の壁を壊さなければならないが……。
「せんちょー覚悟おぉおおお!」
そんな声とともに背後から繰り出された突きをエクリプスは宙返りでかわす。彼に攻撃してきたのはヌートリアの姿をした怪物だった。
「襲うなら殺気を消せと言ったはずだよ。バテテモーダ」
バテテモーダ。エクリプス海賊団の幹部の1人だ。
「チーッスせんちょー。いや~黄昏てる今なら殺れるかな~って思ったんで」
調子のいい声で言うバテテモーダ。人を襲ったにも関わらず、彼には悪びれる様子がまるでなかった。そもそも悪びれるならこういうことも最初からしないだろうが……。
「もう何度も言ってるッスけど、自分上昇志向バリバリなんで。せんちょーになりたいんスよ。せんちょー言ったじゃないッスか。自分がせんちょーをぶっ殺せたらこの海賊団丸ごと自分のものにしていいって」
勧誘した際、バテテモーダとはたしかにその約束をした。しかもエクリプスはバテテモーダが裏切らない(襲うのはノーカン)限り、エクリプスは攻撃しないというルールつきで。
「ああ。僕はキミのそういうところを好んでスカウトしたからね」
「マジッスか!?あざーす!」
陽気な声で喜びを表現するバテテモーダ。本来こういうヤツは追放して然るべきなのだが、エクリプスは変わった選定基準を持っているので、バテテモーダを追放するという考えは存在しないのだ。
「相変わらず忠義の欠片もないな。貴様は」
そう言って、柱の陰から現れたのはミノトン。着崩した着物を着用した牛型の怪物で、彼も同じくエクリプス海賊団の幹部だ。
「ひどいッスよミノトン先輩~!こんないたいけなヌートリアを捕まえて~!」
「いたいけ……貴様に最も不相応な言葉だな」
「あははぁ……手厳しいッスねぇ……」
“この堅物殺してやろうか”と内心思いつつも、空笑いで返す。同じ海賊団に所属する2人だが、ご覧の通りまったくそりが合っていないのだ。
「ミノトンの言っていることが正しい。あなたにいたいけという言葉は似合わない」
手すりに座りながらアイスを頬張っている少女が口を挟む。森亜るるか。エクリプス海賊団の紅一点にして幹部最後の1人。横にいるのはマシュタンで彼女のパートナー妖精だ。
ちなみにるるか以外の2人は並行世界からスカウトした人材である。これを可能にしているのは海賊船に搭載されている並行世界を繋ぐワープゲート発生装置。エクリプスはこれを利用して多くの並行世界を渡って財宝を集めたり、人材をスカウトしているのだ。
「船長、また1人で地球に行った」
「ああ。今地球は夏休みの真っ最中だろ?そのせいでプリキュア達が怠けていないか心配になってね」
「いなかったのはそういうことだったッスか!ズルいッスよせんちょ~!自分もプリキュアと戦いたいのに!」
バテテモーダは戦闘狂だ。強敵と戦うためにここへ入団したほどに。ちなみにミノトンも同じ理由で入団している。
「自分、ちょっと気になってるヤツいるんスよ!ほら……め、めて……」
「キュアメテオ」
「そう!そいつッス!」
るるかからの助け舟でようやく名前を思い出す。プリキュアは年々増えているので、名前をいちいち覚えていられないらしい。
「聞いた話によると、そいつめっちゃ強いらしいじゃないッスか!だから、一度戦ってみたいんスよ~」
「彼は確かに強い。でも、それはまた次の機会だ」
「ええっ!?何でなんスか!?」
「財宝がもう残り少なくてね。そろそろ補給する必要がある」
「財宝はザイホーグを生み出すのに必要不可欠。つまり、財宝の不足はこちらの戦力の低下に繋がる。そういうことか?」
「察しが良くて助かるよ」
資金挑発のために財宝を売却して金にすることもあるが、ここでの主な用途はザイホーグの召喚。そういう意味でも財宝の補給は必須というわけだ。
「はぁ……わかったッスよ。楽しみは後にとっておくってことで。で?次行くところは決まってるんスか?」
「それは…………マシュタン、パス」
「いきなり無茶ぶり!?」
いきなり振られて驚きつつも、マシュタンは水晶玉を取り出し、念じ始める。どこに進めばいいかを占っているのだ。
「……ここから南西、南西に進めば吉……と出たわ」
「じゃあ、次の行き先は南西だ。南西に舵を切れ!」
「ルー!」
操縦士のクルーがエクリプスの指示で操縦桿を回すと、海賊船は今日も星の海を渡るのだった。
本話に関する補足。
冒頭で登場したモンスターの群れですが、エクリプス海賊団とは一切関係ありません(その当時の時系列はまだエクリプス海賊団が襲来する前のため)。
宙夢を助けたプリキュアについて詳しいことはまだ言えませんが、少なくともオリキュアではありません。テレビ本編でレギュラーだった誰かです。
エクリプス海賊団が襲ってくるタイミングが不定期なことについてはもう察している方もいるかもしれませんが、海賊稼業(各惑星が所持する軍隊、他宇宙海賊の制圧、財宝集め、スカウト等)が原因です。