※この作品はR-18です。

デカパイ高級アンドロイドテスター企画inショタ   作:すばみずる

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16 すぐにお呼び出しください

 電車を乗り継ぎバスに乗り、小さな停留所に降り立ったケンタとプラティアは、緑豊かな郊外の並木道を並んで歩いていた。都心では容赦なく照りつけていた日差しも、澄んだ空気と木陰のおかげで幾分か和らいで感じられる。

 

 十五分ほど歩いたところで、目的地である施設が周囲の緑を割るように姿を現した。

 

 事前に画像で見ていた通り、リゾート施設のような豪奢な造りの建物だった。滑らかな曲線を描く外壁は太陽の光を美しく反射し、入り口へと続くアプローチには手入れの行き届いた植え込みが並木の緑とは異なる秩序を見せている。

 

 ここでアンドロイドたちのメンテナンスが行われているとは、今こうして外観を見ているケンタには到底想像がつかなかった。

 

 静かに開く自動ドアから二人は施設の中へと足を踏み入れる。広々としたエントランスホールには水のせせらぎを思わせる心地よい環境音楽が微かな音量で流れており、空間全体がヒノキや柑橘系のハーブをブレンドしたような香りに包まれている。匂い消しですね、と小さくプラティアが呟いた意味はケンタには分からなかった。

 

 圧倒されるばかりのケンタだったが、ふと視線を横に向けるとそこにはどこかで見た覚えのある光景が広がっていた。

 

 エントランスの大部分を占めるようにして、壁一面に木目調の小さな扉がずらりと並んだエリアがあったのだ。

 

 それは以前、ケンタが見ていたテレビのバラエティ番組で紹介されていたスーパー銭湯にあった下駄箱そのものだ。周囲を見てみれば、受付に行く前に露骨にそこを経由するように縄の柵まで置かれている。

 

 どんなに高級感に溢れていてアンドロイドのメンテナンスという最先端の技術を扱う場所であっても、自分の靴を脱いでロッカーに預けるというシステムからは変えられないらしい。庶民的な発見に、ケンタは緊張で硬くなっていた肩の力が抜けるのを感じた。

 

「ご主人様、進みましょうか」

 

「うん」

 

 プラティアに促されるまま、ケンタはスニーカーを脱ぎロッカーへと靴をしまう。プラティアも美しい所作でヒールを脱ぎ、ケンタのすぐ隣のロッカーへと収める。

 

 鍵を抜き取った二人は靴下とタイツのまま、柵の案内の通りに受付カウンターへと向かった。

 

 カウンターの内側には白い制服を身に纏った女性が立っていた。ケンタにはすぐに分かる。彼女もまた、プラティアと同じアンドロイドだ。整いすぎた顔立ちや、制服の上からでもわかる大きな胸の膨らみがそれを物語っている。

 

 しかし電車の中で他のアンドロイドを見た時と同じように、やはり隣にいるプラティアと比べてしまうと、どこか業務用の機械という印象が拭えなかった。

 

 受付のアンドロイドは美しく微笑んでいるが、その表情にはプラティアが時折見せるような、感情が溢れ出すような人間らしい温かみがない。プラティアの肌が透き通るような白さの中に確かな血の巡りを感じさせるのに対し、受付の彼女はただ精巧に作られた人形のように見えてしまう。

 

 プラティアはカウンターの前に立つと、電車ではしゃいでいたポンコツな姿を消し去ったまま、いつもの隙のないメイドとして胸元から銀色のデバイスを取り出した。

 

「予約をしております、プラティアです。同伴者一名と、VIP専用個室の手配をお願いしております」

 

 涼しげで澄んだ声で告げると、受付のアンドロイドは手元の端末に視線を落とし、素早い動作で情報の照合を行った。

 

「はい、お待ちしておりました。モニター参加者のケンタ様、プラティア様ですね。ご予約の確認が取れました。本日はリフレリリースへようこそお越しくださいました」

 

 受付のアンドロイドはマニュアル通りと思われる完璧な角度でお辞儀をした後、にこやかな営業スマイルを浮かべて提案してきた。

 

「現在、初期スキャンルームに空きがございます。今でしたら待ち時間なしですぐにご案内が可能ですが、いかがいたしましょうか」

 

 その言葉を聞いて、プラティアのほんの僅かに間を置き答える。

 

「スキャンルームには、所有者も一緒に入室することは可能ですか?」

 

 プラティアの横顔を、ケンタは少し驚いて見上げた。メンテナンスのためのスキャンというのは、人間でいうところのレントゲン検査や健康診断のようなもののはずだ。わざわざケンタがついていく必要はないのではないか。

 

 受付のアンドロイドも、少しだけ困惑したように首を傾げた。

 

「規定上、ご同伴者様の入室を禁止してはおりません。しかしながら、スキャンルーム内部は人間の方におくつろぎいただけるようなスペースはございません。お連れ様にはただお待たせするだけになってしまいますので、私どもといたしましては、ご同伴者様はラウンジへご案内し、そちらでお待ちいただくことを推奨しております」

 

 受付の言葉にケンタも小さく頷く。ケンタとしてもよく分からない機械が並ぶ部屋で所在なくしているよりは休んでいる方がよっぽどありがたい。

 

 しかしプラティアはすぐに頷くことはせず、数秒間、深刻な表情で沈黙していた。

 

 そしてゆっくりとケンタの方へ向き直ると、まるで戦地へ赴く兵士が家族に別れを告げるかのような、ひどく切羽詰まった声で尋ねてきた。

 

「ご主人様。ここからほんの少しの間だけ、別行動になってしまいますが……よろしいでしょうか」

 

 その声には、明らかな不安と未練が混じっていた。つい先ほどまで電車の中で横乳を押し付けてきたり得意げに隠蔽工作を誇ったりしていた姿はどこへ行ってしまったのか。

 

 まだはしゃいでしまっているところなのかもしれない。ケンタは苦笑いしながら頷きで返す。

 

「大丈夫だよ。ちょっとの間、待ってるだけなんでしょ」

 

 ケンタが軽く請け負うと、プラティアはすがるような視線を受付のアンドロイドへと向けた。

 

「……スキャン自体には、それほど時間は掛かりませんね」

 

 念を押すような強い口調に、受付のアンドロイドはたじろぐことなく頷いた。

 

「はい。本日のメンテナンス計画を構築するために、まずは現在の機体データとバイタルを取らせていただく必要がございますが、スキャンそのものは最長でも二十分程度で完了いたします」

 

 受付のアンドロイドは、安心させるように言葉を付け加えた。

 

「実際にメンテナンス作業が必要な場合は、後ほどスパエリアにてそれぞれ行わせていただきます。そちらではもちろんご一緒にいられますので、どうかご安心くださいませ」

 

 それを聞いて、ケンタはなるほどと納得した。スパエリアに一緒に入ったかと思ったらまたメンテナンスに呼び出され、という忙しい形にはならず安心する。

 

 だが、プラティアはそれでも納得しきれない様子だった。彼女は服の袖口を少しだけぎゅっと握りしめ、どこか落ち着かない様子でケンタの周りをそわそわと見回している。

 

 やがてプラティアは、意を決したように自らの胸元から先ほどの銀色のデバイスを取り出してケンタの手へと固く握らせた。

 

「ご主人様。この端末は私のシステムと直接リンクしております。もしラウンジで何かトラブルに巻き込まれたり、少しでも不安を感じたり、あるいは私に会いたくなったりした場合は迷わず、すぐにお呼び出しください。プラティアが、スキャンの途中であっても必ず、すぐに駆けつけますので」

 

「う……うん……」

 

 ものすごい剣幕で言い含められてしまい、勢いのままケンタは頷いてしまう。

 

 ただ待合室のような場所で二十分待つだけなのに、一体どんなトラブルが起きるというのか。誰かに誘拐でもされると思っているのだろうか。ケンタは少しだけ呆れながら、押し付けられたデバイスをズボンのポケットにしっかりとしまった。

 

「大丈夫だってば。過保護すぎだよ、プラティア。ちゃんとおとなしく待ってるからさ」

 

 ケンタがそう言って、あえて突き放すように背伸びをしてプラティアの肩を押してやる。プラティアはしゅんとした顔になりながらも、ようやく諦めたように小さく頷いた。

 

「……かしこまりました。それでは、また後ほど」

 

 受付のアンドロイドの案内に従い、プラティアはスキャンルームがあるという奥の廊下へと歩みを進めた。しかしその足取りはやけに重く、彼女は数歩進んでは立ち止まり、チラチラと振り返ってケンタの方を心配そうに見つめてくる。その後ろ髪を引かれるような態度があまりにも人間らしくて、ケンタは思わず小さく吹き出してしまった。

 

 スキャンルームの扉の向こうへと消えていくプラティアの背中を見送りながら、ケンタはなんだか、自分の方が彼女の保護者になったような不思議な気分を味わっていた。

 

 心配性すぎるメイドの無事をむしろこちらが祈りつつ、ケンタは館内の案内板に従い待機場所のラウンジへと一人で歩き出した。

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