デカパイ高級アンドロイドテスター企画inショタ 作:すばみずる
ケンタは自宅のある高層階へと向かうエレベーターに乗っていた。無音で上昇していく密室の中には、奇妙な沈黙が続いている。
横目でそっと隣を窺うと、プラティアは微動だにせず、真っ直ぐにエレベーターの扉を見つめていた。白銀の髪と完璧に造形された横顔は、まるで美術館に飾られた彫刻のようだ。その美しい唇が先ほどケンタの口内を舐め回した生々しい感触は、未だ少年に焼き付いている。
視線を下げると、彼女の手にはケンタの使い古したランドセルが大事そうに抱えられていた。
小学生の象徴とメイド服を纏った美女という組み合わせはあまりにも不釣り合いだった。ケンタは自分で持つと言ったのだが、プラティアは「ご主人様のお荷物をお持ちするのは、メイドとしての基本業務でございます」と決して譲らなかったのだ。
自分の荷物をこんなに綺麗な女の人に持たせている状況が、ケンタの背中をむず痒くさせる。
やがて電子音が鳴り、扉が開いた。
静寂に包まれた廊下を進み、2024号室の前で立ち止まる。ケンタが震える手でスマートキーをかざすと、玄関扉が静かな音を立てて開いた。
誰もいない、広くて冷たいいつもの空間。それが背後から聞こえる身じろぎの音だけで、不思議と色付いて見える。
「失礼いたします」
プラティアは澄んだ声でそう告げるとケンタの後に続いて靴を脱ぎ、揃えてから室内へと足を踏み入れた。
リビングダイニングに向かったケンタは、戸惑いながらも来客を迎え入れるための行動を取ろうとした。普段は自分しか使わないダイニングテーブルでも、一応椅子は四脚揃っている。
とりあえず座ってもらおうと、ケンタはプラティアのために椅子を引こうと手を伸ばす。だが彼女の動きはケンタの思考よりもはるかに迅速だった。
素早くケンタの横をすり抜けたプラティアは抱えていたランドセルを脇に音も立てずに置き、すぐさまダイニングテーブルの主賓席にあたる椅子を引いたのだ。
「どうぞ、ご主人様」
恭しく片手を差し出され、ケンタは促されるままに自分の家の椅子に座らされてしまった。
あっけにとられている間にも、プラティアは止まらない。彼女は迷うことなくキッチンの冷蔵庫へと歩み寄ったかと思うと、扉を開け、ケンタがいつも飲んでいるオレンジジュースの紙パックを取り出した。続いて食器棚からケンタが使っているガラスコップを迷いなく取り出し、テーブルに戻ってくる。
トクトクと心地よい音を立てて黄金色の液体が注がれていく。一滴たりとも周囲に跳ねさせることのない機械のような――機械なのだが――精緻さと、人間のような温かみを兼ね備えた所作だった。
ケンタの目の前に、冷えたジュースの入ったコップが静かに置かれる。
「あの……どうして、僕がいつも飲んでるやつとか、コップの場所とかわかったの」
初めて入ったはずの家で迷いなく目的のものを探し当てたプラティアの行動に、ケンタは目を丸くして尋ねた。
プラティアは柔らかな微笑みを浮かべ、胸の前で両手を上品に重ねた。
「僭越ながら、室内に設置されておりますIoT家電と私自身のシステムを接続させていただきました。冷蔵庫の在庫管理データおよび、食器洗浄機の使用履歴の記録から、ケンタ様が日常的にご使用になられている食器、並びにお好みの飲料を読み取った次第でございます」
その涼しげな青い瞳の奥で、膨大なデータが一瞬にして処理されたのだと思うと、ケンタは改めて彼女が最新鋭のアンドロイドであることを思い知らされた。
ケンタは冷たいコップを両手で包み込み、オレンジジュースを一口飲んだ。甘酸っぱい味が喉を潤していく。
自分の好みを把握して、至れり尽くせりの世話を焼いてくれる存在。確かに心地よく、嬉しい気持ちは当然ある。
同時に、どこかひどく落ち着かない、居心地の悪さも感じていた。
理由は明白だ。ケンタがジュースを飲んでいる間、プラティアは斜め後ろの少し離れた位置に立ち、直立不動の姿勢でじっとこちらを見守っているのだ。
一流のレストランの給仕のような振る舞いだが、ケンタは小学五年生。そんなかしこまった扱いを受けた経験などない。
コップを置いたケンタは、少し迷った末にプラティアの方を振り向いた。
「あのさ、プラティアさんも、一緒に座らない?」
対面にある空いている椅子を指差して、そう提案する。プラティアは微かに首を傾げた。青い瞳が、少しだけ困惑したように揺れる。
「私は給仕を行うメイドの身でございます。ご主人様とおなじテーブルに着くなどという不調法は……」
「でも、僕一人で飲んでて、ずっと後ろで見られてるの、なんか恥ずかしいというか……その、落ち着かないんだ」
ケンタが正直な気持ちを吐露すると、プラティアは数秒ほど何かを演算するように沈黙し、やがて静かに目を伏せた。
「……ご主人様が、それをお望みであれば」
そう言って、彼女は静かにテーブルを回り、ケンタの向かい側の椅子を引いて腰を下ろした。
そして、付け加えるように口を開く。
「私に対して敬語や『さん』付けは不要でございます。私のことは、どうかプラティアと呼び捨てになさってください。私はあなたに所有されるべき存在なのですから」
「わ、わかった。じゃあ……プラティア」
名前を口にしただけで、急に距離が縮まったような気がしてケンタの頬が熱くなる。
テーブルを挟んで向かい合ったことで、ケンタの視界にはプラティアの姿が真正面から飛び込んできた。
透き通るような白い肌、怜悧な顔立ち。そしてテーブルの上に乗り上げてしまうほどに巨大な、二つの膨らみ。
先ほどロビーで前傾姿勢になった時に見た恐ろしいほどの質感が、今はテーブルの上に佇み衣服を内側から弾け飛ばしそうな存在感を放っている。規則正しい呼吸のような身動ぎに合わせて巨大な乳房が微かに上下に揺れるたび、ケンタの目は磁石のようにそこへ吸い寄せられてしまった。見ちゃダメだと思いつつも、視線が勝手に動いてしまう。
プラティアはケンタのその露骨な視線に気づいているはずだが、咎めることも恥じらうこともなく、ただ静かに主を見守り続けていた。
やがてケンタがジュースを飲み終えグラスを空にして小さく息をついたのを見計らったように、プラティアは静かに立ち上がった。
背筋をピンと伸ばし、両手を体の前で美しく交差させる。
「改めまして、ご主人様。私の自己紹介と、アンドロイドとしての仕様の説明をさせていただきます」
その声には、自らの存在に対する誇りのようなものが宿っていた。
「私は多国籍テクノロジー企業『ブロッサム・インダストリィ』が、持てる技術の粋を集めて開発した次世代型ヒューマノイド、型式番号CI−EX01。人間社会への完全な融和と、所有者に対する究極の奉仕を目的として設計された最高級ワンオフモデルでございます」
聞き慣れない企業名や専門用語に、ケンタは目を瞬かせた。
「骨格には航空宇宙産業で用いられる超軽量特殊合金を採用し、外皮には人間の生体組織を極限まで模倣した
立て板に水のような滑らかな説明は、まるでカタログをそのまま読み上げているかのようだ。目の前にある非現実的なまでの肉体美を見せつけられているケンタにとっては、その言葉の一つ一つが強い説得力を持っていた。
「そして……」
プラティアはそこで言葉を区切り、ほんの少しだけ声のトーンを落とした。
青い瞳に、これまでの事務的な光とはどこか違う色が混ざる。
「ご主人様の心身の健康を保つため、性奉仕機能も完備しております」
せいほーし。
音としては聞こえたが、その正確な意味がケンタの脳内ですぐには結びつかなかった。性、という漢字が含まれていることと、先ほどの熱烈なキスの記憶が結びつき、何やらとてもえっちなことなのではないかという予感だけが警報のように鳴り響く。
意味を理解しきれないケンタを前に、プラティアの完璧な造形の顔に、一瞬だけ、本当に一瞬だけ、底知れぬ欲情を孕んだような笑みが浮かんだような気がした。
錯覚だったのだろうか。瞬きをした次の瞬間には、彼女は元の静かで知的なメイドの顔に戻っていた。
「この度、ブロッサム・インダストリィのモニターキャンペーンに当選されたケンタ様には、本機体を一年間の期限付きで貸与させていただきます」
一年間。
その言葉が、ケンタの思考を現実に引き戻した。
今日から一年後ということは、自分が小学六年生になりまた夏休みを迎えている頃だ。子供にとっては途方もなく長い時間と言える。
しかし、こんなにも綺麗で、優しくて、自分のためだけに動いてくれるアンドロイドと一緒にいられる時間が最初から期限として区切られているという事実は、ケンタの胸をチクリと刺す。
一年経ったら、彼女はどこかへ帰ってしまうのか。またこの広くて冷たい家で、一人きりの生活に戻らなければならないのだろうか。
「ケンタ様」
プラティアは一歩前に出ると、豊かな胸の谷間から、銀色に光る薄いカード状のデバイスを取り出した。
デバイスの表面を指先でなぞると、空中に青白い光の粒が集まり、半透明のホログラムスクリーンが中空に投影された。そこには、小さな文字がびっしりと並んだ書類のようなものが映し出されている。
「こちらの規約書の内容をご確認いただき、問題がなければ最下部へ確認の電子サインをお願いいたします」
空中に浮かぶ文字の羅列に、ケンタは目を細めた。
難しい漢字や専門的な法律用語が多く、小学五年生の国語力ではそのすべてを理解することは到底不可能だった。それでも自分の身に起きている信じられない出来事のルールを知ろうと、指先で空中のスクリーンをスクロールさせながら、なんとか文章を目で追っていく。
禁止事項、免責事項、機密保持契約。ちんぷんかんぷんな言葉が続く中、ある一つの項目でケンタの視線がピタリと止まった。
『モニター報酬内容について』
報酬。ゲームのクエストをクリアした時や、お手伝いをした時にお小遣いをもらえるような、何か良いことが起こるという意味の言葉だ。
「ねえ、プラティア。この報酬っていうのは、なに?」
ケンタがホログラムの一部を指差して尋ねると、プラティアは「どちらでしょうか」と呟きながら、ケンタの座る椅子のすぐ隣へと歩み寄ってきた。
そして、流れるような動作で屈み込み、ケンタの肩が触れ合うほどの距離に密着した。
柔らかな布越しの体温と、甘く蠱惑的な香りがケンタの全身を包み込む。横を向けば、プラティアの白く滑らかな頬と、重力に逆らえずに垂れ下がる巨大な胸の膨らみがすぐそこにあった。
「こちらは、モニター期間中にご主人様が達成していただいたミッション項目に応じてお渡しする特別な報酬の説明になります」
プラティアの吐息がケンタの耳介を掠め、ゾクゾクとするような感覚が背筋を駆け抜ける。
「当キャンペーンはポイント制を導入しております。ミッションの内容自体はリストとして開示されておりますが、それぞれを達成した際に獲得できる具体的なポイント数については企業秘密として秘匿されております。ご了承くださいませ」
ケンタはプラティアの顔とホログラムを交互に見比べた。
「ポイント……ゲームみたいだね」
「はい。ゲーム感覚で進めていただけるよう設計されております。基本的には、実行難易度の高いものや、当社のデータ収集において有用な情報が期待できる行動ほど、高いポイントが設定されております」
プラティアが空中で指を滑らせると、規約書のページが切り替わり、具体的なミッションのリストが表示された。
そこには、様々な行動が箇条書きで記されている。
『一緒に食事をとる』
『一緒に入浴する』
『休日に外出して遊ぶ』
『掃除や洗濯などの家事を命令する』
なるほど、と一緒に生活をしていく中での様々なシチュエーションがリストアップされているようだ。ケンタは少しホッとした。これなら特別なことをしなくても普通に暮らしているだけでクリアできそうだ。
だがスクロールを進めていくにつれて、項目の性質が徐々に変化していくことにケンタは気づいた。
『アンドロイドにキスをする』
『アンドロイドにキスをしてもらう』
『アンドロイドに手コキをしてもらう』
『アンドロイドにパイズリをしてもらう』
『アンドロイドと正常位でのセックスを行う』
『アンドロイドに膣内射精を一回する』
『アンドロイドに乳内射精を一回行う』
……等々。
そこにはケンタがネットサーフィンで得たおぼろげな知識の中にあった、直接的な単語が次々と羅列されていた。
「え……? な、なにこれ……?」
てこき? ぱいずり? せっくす?
言葉の意味が全て分からなくても、それが大人の男女が行うえっちな行為であることくらいは、インターネット由来の薄っぺらい理解していた。
顔がカッと熱くなり、心臓が爆発しそうなほどの勢いで鼓動している。
こんなことを、この信じられないくらい綺麗で、信じられないくらい胸の大きなプラティアと、自分がするということなのか。
パニックに陥りそうになるケンタの耳元へ、プラティアの柔らかな唇が擦り寄るように近づいてきた。単なるアンドロイドの排気とは思えない、湿気た吐息が撫でてくる。
「ポイントをたくさん貯めていただければ、貸出期間の延長から、当機体のカスタマイズ。買い取りについてのクーポン発行まで、ご主人様のご要望に合わせた様々な特典をご用意しております」
買い取り。つまり、一年という期限をなくし、永遠に自分のものにできるということだ。
「どうか奮って、ミッションにご参加くださいませ」
ケンタの生唾を飲む音に、プラティアの言葉が重なった。