デカパイ高級アンドロイドテスター企画inショタ 作:すばみずる
空中に浮かび上がる半透明のホログラムスクリーン。その最下部に設けられた署名欄に、ケンタは震える指先を伸ばした。
青白い光の板に触れると、微かな静電気のような刺激が指の腹を伝わる。見よう見まねのたどたどしい動きで、ケンタは自分の名前を書き込んでいった。指の軌跡を追うように光の線が引かれ、最後の文字を書き終えると、スクリーン全体が淡い緑色に発光して、ポンという軽快な電子音が鳴った。
空中に投影されていた規約書が霧散していく。プラティアはケンタの手からデバイスを恭しく受け取ると、それを豊かな胸の谷間へと滑り込ませた。布地越しでもわかる圧倒的な質量の間にデバイスが吸い込まれていく様を、ケンタは無意識のうちに目で追ってしまう。
「認証を確認いたしました。これにて本契約は完了となります。ケンタ様、本日より一年間、このプラティアがあなたの忠実なるメイドとして、誠心誠意お仕えさせていただきます。どうか、末永くよろしくお願いいたします」
姿勢を正したプラティアは、メイド服のスカートの裾を両手で軽く摘まみ、優雅にお辞儀をした。
「よ、よろしく」
ケンタは上擦った声で返しつつも、その胸の内は言葉にし難い期待と興奮で埋め尽くされていた。
一年間、この途方もなく綺麗な女の人が、自分のものになるのだ。しかも、彼女の口から語られた「性奉仕機能」や、規約書にあった大人のえっちな単語の数々も一緒に。
これからいったい、どんなことをしてくれるのだろう。もしかして、今すぐここで服を脱いで、あの胸を直接見せてくれたりするのだろうか。さっきロビーでされたような、とろけるような深いキスをもう一度してくれるのだろうか。
子供らしい浅はかで切実な妄想がケンタの脳内を駆け巡る。期待に顔を赤くしたケンタは、次にプラティアがどんな艶めかしい行動に出るのかと、固唾を飲んで彼女の一挙手一投足を見つめていた。
ゆっくりと頭を上げるプラティア。その表情には、先ほどのミッションを説明した時に見せたような淫らな色は微塵もなかった。
「それではご主人様。私はこれより、室内の清掃に入らせていただきます」
「……え?」
凛とした声で宣言されたその言葉に、ケンタは思わず間抜けな声を出してしまった。
てっきり、甘い声で誘惑されたり、膝の上に乗せられたりするのだと思っていた。そのための心の準備すら、ケンタなりに整えようとしていたのだ。それなのに、飛び出してきた言葉はあまりにも日常的で、事務的な業務報告だった。
思っていたのと全然違う。
肩透かしを食らったケンタは、慌てて言葉を紡いだ。
「あ、あのさ。掃除なら、ロボットが時々家に来てやってくれているから、いいよ。それに、部屋はそんなに散らかってないし……」
早くえっちなことをしてほしい、とは口が裂けても言えなかったが、せめて彼女の注意をこちらに向けようと必死だった。
それでもプラティアは首を横に振り、鋭い視線でリビングダイニングの空間をぐるりと見渡す。高度なセンサーが作動しているのか、その青い瞳の奥で微細な光が明滅したように見えた。
プラティアは迷いのない足取りで、壁際に設置された背の高い飾り棚へと歩み寄った。そして、白く細い指先をスッと伸ばし、棚の一番上の段の表面を軽くなぞる。
振り返った彼女の指先には、肉眼ではほとんど見えないような、うっすらとした灰色の粉がついていた。
「ご主人様のおっしゃる通り、清掃ロボットは床面の掃除については十分な働きをしているようです。しかしながら、清掃用の単純なロボットはこういった高所や、家具の隙間などの入り組んだ場所の清掃には適しておらず、簡易的な埃取りしかできておりません」
プラティアは豊満な胸を張りながら語ってみせる。自己主張を伴って跳ねる弾力ある動きにケンタの視線は釘付けになるが、プラティア自身は至極真面目な顔のままだ。
「私にお任せください。最高級アンドロイドという売り文句にかけて、チリ一つ残さない完璧な清掃をご覧に入れます。なお、現在契約されている清掃ロボットサービスにつきましては私から後ほど契約解除の手続きを行っておきますので、どうぞご安心くださいませ」
有無を言わさぬ業務モードで困惑するケンタをよそに、プラティアはすぐさま行動を開始した。エプロンの紐をキュッと結び直し、どこに隠し持っていたのか、純白のクロスを取り出して手際よく棚の拭き掃除を始めてしまう。
その動きに無駄は一切なく、それでいて人間の女性特有の滑らかな曲線美を伴っていた。高いところに手を伸ばすたびに、細く引き締まったウエストが強調され、スカートの裾からは健康的で艶めかしい太腿がチラリと覗く。
彼女が真剣に労働に打ち込んでいるのは明白だった。そこにケンタから「掃除はやめて、えっちなことをしてよ」などと声をかけることは、どうしても憚られる。
邪魔はできない。ケンタはなんとか溜息を飲み込むと、何も言わずにプラティアに背を向けリビングから逃げるように廊下へと出た。
誰もいない、静まり返った薄暗い廊下。壁に寄りかかり、ケンタは今度こそ大きく、深い溜息を吐き出した。
なんだか、ひどくモヤモヤする。
彼女は自分のために働いてくれている。家を綺麗にしてくれるのはありがたいことだし、メイドとしては百点満点の行動だろう。それに文句を付けるのは、ひどく自分勝手で、ワガママな子供みたいで嫌だった。
でも、あの規約書を見た時の高揚感や、先ほどのキスの熱を思い出すと、どうしても期待外れな気持ちを拭いきれない。
自分が子供だから、相手にされていないのだろうか。
ミッションにはああ書いてあったけれど、本当はあんなこと、してくれないんじゃないか。
ぐるぐると堂々巡りの思考を繰り返しているうちに、ケンタは自分の体がじっとりと汗ばんでいることに気がついた。
真夏の夕暮れ時。冷房の効いたマンション内にいるとはいえ、学校から帰ってくるまでの間にたっぷりと汗をかいていたのだ。首筋や脇の下がベタつき、自分の体臭が鼻をつく。
こんな汗臭い状態のままで、あんなに綺麗な女の人の側にいるのは恥ずかしい。
とにかく、一度サッパリしよう。
そう思い立ったケンタは、廊下の奥にある脱衣場へと向かった。
洗面台の鏡に映る自分の姿を見る。日焼けした肌、まだ筋肉のついていない細い腕、低い背丈。どこからどう見ても、ただの小学生の男の子だ。あの完璧な美貌と肉体を持つプラティアの横に並ぶには、あまりにも頼りない。
ケンタは鏡から目を逸らし、着ていた服と下着を脱ぎ捨てて、見慣れたドラム式の洗濯機の中に放り込んで浴室へと入っていった。
ケンタは洗い場に設置されたシャワーの蛇口を捻り、勢いよく噴き出した温水を頭から直接浴びた。
最近の酷暑のせいか、少し熱めになったお湯が、汗と汚れを洗い流していく。
ザアザアという水の音が、浴室内に反響する。その音に紛れ込ませるように、ケンタはまた一つ、大きな溜息を吐いた。
目を閉じると、プラティアの豊かな胸元や、形の良いお尻が頭の中に浮かんでくる。
一年間。時間はたっぷりあるのだ。焦ることはない。今はまだ彼女にとって自分はただの「所有者」という存在に過ぎないのかもしれないが、一緒に暮らしていくうちに、きっと本当の意味で仲良くなれるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、少しだけ気分が軽くなったケンタが、シャンプーを手に取ろうと目を開けた時のことだった。
ふと、背後で微かな気配がした。シャワーの水音に混じって、脱衣場と浴室を隔てる戸が動く音が聞こえたのだ。
ケンタの家には彼以外の人間はいない。両親が帰ってくるにはまだ早すぎる時間だ。
ということは、入ってくる可能性があるのは一人しかいない。
ケンタはシャワーを浴びたままの姿勢で、ゆっくりと背後を振り返った。
「――」
そこに立っていたのは、予想通りプラティアだった。だがその姿は、ケンタの知るものではない。
先ほどまで身に纏っていた、黒を基調としたシックで高級感のあるメイド服。それを構成していた生地は、一切合切が取り払われていた。
エプロンも、スカートも、ブラウスも、下着すらも。
プラティアは、文字通りの全裸で、浴室の入り口に立っていたのだ。
シャワーの温水が床を叩く音だけが、ケンタの意識から遠くの方で聞こえる。視界の中央には、白く発光しているかのような非現実的なまでの肉体美が収まり動かない。
美しく結い上げられていた白銀の髪は解かれ、絹糸のように背中を伝って腰のあたりまで垂れ下がっている。
そして何より、メイド服という拘束具から解放された肉体はあまりにも大きく、扇情的だった。
服を着ていた時でさえ圧倒的だった胸の膨らみは、あらわになることでその真の質量を露悪的なまでに見せつけていた。ケンタの両手を広げても到底抱えきれないであろう、巨大な二つの乳房。それは重力に逆らうことを諦めたように、豊満な曲線を描いて下方向へと重く垂れ下がり、先端には薄紅色の愛らしい突起がピンと咲き誇っている。
水気を帯びた浴室の空気に触れ、その人工肌は真珠のような滑らかな光沢を放っていた。
服の上から見ていた細く括れたウエストに余計なたるみは感じられず、そこから骨盤へと向かって急激に広がる尻へのラインはむっちりとした太ももと相まってひどく艶めかしい。なだらかな下腹部の先には、大人の女性としての成熟を示すように、薄っすらとした茂みが確認できる。
どこをとっても、現実の人間を凌駕するために造り上げられた造形美。ケンタの乏しい人生経験においても、これが極点の一つであると躊躇なく確信出来る美しさがあった。
プラティアはその彫像のように完璧な裸体を一切隠そうともせず、まっすぐにケンタを見つめていた。その青い瞳は浴室の熱気に当てられたのか、それとも別の理由からなのか、微かに潤んでいるように見える。
ケンタは口を半開きにしたまま、目の前に現れた女神の裸体を言葉なく見つめ続けるしかなかった。